これまでの旅路を記録に残しますか?   作:サンドピット

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おつかいしたよ。


第九話 依頼を達成しよう。下

 

 

 あの後は特に何事も無く進み、道中の景色にちょくちょく目を奪われつつも目的地付近まで辿り着いた。

 時間は夕方、二度三度休憩を挟みつつ移動時にもグラシャラボラスの背に乗って進んできたと考えれば早い方だろう。十中八九森の中で夜を越す事になるだろうと高を括っていた訳だし。

 

「まぁ帰りはどうしたって夜になるだろうけども。向こうで泊めてくれないかねぇ」

 

「周辺に集落や街は無く、山で自給自足の生活をしているのであれば人二人を泊める事は厳しいのでは? 正直な所望み薄かと」

 

 ここまで俺を乗せて頑張ってくれたグラシャラボラスに感謝の意を示し、背から降りる。

 そんな俺の呟きにエイラは冷静に返してくる。まぁそうよなぁ……、一応ここから近い所に小国はあるがそれにしたって山を越えねば辿り着けない。エイラの言うとおり山中で自給自足の暮らしをしている可能性は高いだろう、これは帰りは野宿だな。

 

「そうなったら仕方無いか。さて、テルモからの預かり物を渡す相手はどこだ?」

 

 目を凝らして周囲を見るが見て分かる様な所に家は建っていなかった。

 テルモピュライから貰った荷物の中に地図でも入ってないかと、アイテムボックスの口を開け中を軽く見渡すもそれらしい物は何も――

 

(……これは)

 

 テルモピュライから貰ったアイテムボックスに放り込んでいたガルシアからの手紙が光を放っていた。

 慌ててその手紙を取り出すと、その手紙に何らかの魔法陣が独りでに浮き上がり一匹のコウモリが現れる。

 

「コウモリを召喚した?」

 

「この子は……当主の飼っている【ファミリア・バット】ですね、主人に従順で大抵は手紙の運搬に使われる子です。その手紙はガルシアから?」

 

「あぁ、持ってたら良い事があるだろうって言われたからカバンに放り込んでいたんだが、まさかコウモリが案内人になるとは」

 

 思わずそう呟いた俺の目の前ではその【ファミリア・バット】がきょろきょろと辺りを見回し、ガルシアから貰った手紙を見つけるとその手紙を咥えて飛び上がった。

 エイラが言うにはガルシアが育てた【ファミリア・バット】は手紙を渡す相手を特殊な反響定位でどこにいようと必ず見つけ出すことが出来るらしい。この手の探索方法を持つ手合いには透明化程度では容易に居場所を看破されてしまうだろう、まだまだ先になるだろうがジャミング出来る様になればますますグラシャラボラスは強くなるだろう。その手段を手に入れるのが俺かグラシャラボラスはさて置いて。

 

 あのコウモリの後を追いましょうと走り出すエイラの後に続き、俺とグラシャラボラスは足を速める。

 ゆったりとした速度で手紙を運ぶ【ファミリア・バット】が俺達に配慮しているのかは不明だが高度を上げる事無く木々生い茂る山中を飛んでくれているおかげで容易に追従する事が出来た。

 

「ルゥア?」

 

「どうし――ッ!?」

 

 何かを感じ取ったグラシャラボラスが足を緩める。何事かとグラシャラボラスに聞いた瞬間、俺の背筋に怖気が走る。

 弾かれたように前を見て、警戒レベルを引き上げる。

 

『……六芒星ん所のガキと得体の知れない<マスター>か、俺に何の用だ?』

 

 それは――流暢な人語を話す巨大なムカデは、木にぶら下がったまま【ファミリア・バット】の手紙を受け取っていた。

 

(……テルモが言ってたのはコレか?)

 

 すわ敵襲かと危うく切り掛かりかけたが、敵対すべきか否か逡巡するグラシャラボラスを見て槍を仕舞った。エイラが全く敵意を見せず、【ファミリア・バット】が大人しく手紙を渡した事も鑑みれば、この巨大なムカデがテルモピュライの言う貴重な素材を渡す相手である事は疑いようもないだろう。

 困惑しているグラシャラボラスを宥め、俺は一歩下がる。ファーストコンタクトに関しては一瞬でも敵対意思を見せた謎の男よりもエイラに任せた方が上手く回るだろう。

 俺の思考を汲み取ってくれたのだろう、エイラが一歩前に足を踏み出し巨大ムカデに話しかける。

 

「お久しぶりです、今回はこちらの<マスター>の付き添いでここまで来ました。依頼で渡したい物があるらしく……」

 

『依頼? ……【剣聖】の小僧か? おい、そこのお前。名は何と言う?』

 

「その辺りの話は貴方の家で致しませんか? 私も話したい事がありますし、何より分体で会話をし続けるのはつらいと仰いましたよね?」

 

『ム、確かに以前六芒星とそんな事を言った気がするが……まぁいい、ついて来い。お前らもだ』

 

 そう言って山奥へと巨躯を引き摺りながら引き返していくムカデに俺は是を返すことしか出来なかった。というか今分体って言ったか?

 前を歩く巨大ムカデについて考えながら、俺は隣のエイラに感謝の意を示す。

 

「悪いな、矢面に立たせて。俺が最初に話すと拗れる未来しか見えなかったから助かった」

 

「いえ、何となくネビロスが助けを求めているというのは分かったので構いませんよ。むしろ武器を持って完全に敵対しなかった事に驚きました、何かあれば私が止める予定ではありましたが」

 

「グラシャラボラスが速攻飛び掛らなかったからな、それでもテルモに注意されたのに思わず槍を構えちまった……後で謝らないとな」

 

「謝罪はアレにではなく本人にしてくださいね」

 

 そう言ってエイラは段々と速度を上げていく巨大ムカデに足早に着いて行った。

 あれはやはり本人ではないのか、であれば一体何なのだろうか。

 

(着いて行けば分かるか)

 

 

 

 

 

 巨大なムカデが足を止めた先にあったのは切り立った山肌に掘られた洞窟。

 しかし見た限り洞窟の入口に巨大ムカデの体躯は入りきらない様にも見える、どうするのかと見ていると巨大ムカデがこちらを見る。

 

『まぁ入れ、俺は今から寝る』

 

 そう言い残し、巨大ムカデは穴を掘り地中に潜り込む。後に残されたのは俺とエイラとグラシャラボラス、そして俺達を誘う暗い洞窟だけとなった。

 意を決し洞窟内部へ足を踏み入れた俺は、想定以上に居住スペースが整っている事に驚いた。

 

「俺が楽して快適に過ごせるように手を加えてった結果だ。一から家を作るのは面倒だったもんでな」

 

 洞窟の奥から金属音の入り混じる若い男の声が聞こえてきた。暗闇より這いずるように出てきたのは、白い髪に紅い眼を持つ、一見してアルビノの少年の様な姿。

 外見年齢だけを見るならば、丁度戦闘職総合ギルドで出会った受付の妖精種のティアンとどっこいどっこいだろうか。違うのは、目の前の少年には羽が無い事、そしてあるものが腰から生えている事か。

 

「さっきぶりだな、初めまして。我が家に驚いてくれたようで何よりだがまぁ、レジェンダリアの諸々に比べればレベルは低い訳だし信じられないって訳でも無いだろう」

 

「……いやまぁこの家にも驚きましたが」

 

 遠慮がちに少年の背後へと目を向ける俺にフフ、と笑い返したその少年は再び口を開く。

 

「最初は皆そういう目で俺を見る、色素が無いというのは常人にとって理解しがたい物であるらしい。さて、改めて君の名を聞こうか。誰とも知れぬマスターよ」

 

 そういって少年は己の尾に腰掛けた。

 少年の腰から生えた真白いムカデの尾を座りやすい形に動かし、そこに手馴れた様子で座り込んだ彼は俺達を見やり自らの尾をキチキチと音を鳴らしたのだった。

 

 

◇――◇――◇

 

 

 などとイベント戦でも始まりそうな雰囲気を醸し出してはいたものの、負けイベ臭漂うバトルが始まる気配は微塵も無く。

 

「お前さんネビロスというのか。で、そっちの……なんだっけ、えんぶりお? はグラシャラボラス、と。うん、よろしくね」

 

 という風に、自己紹介をした後は思った以上に好意的に受け入れられた。そりゃそうか、一回エイラが「依頼で来た」と明言しているのだから俺がそれ関係であるというのは容易に想像出来る。「テルモピュライ関係か?」と思い当たる節があるのであれば尚の事。

 と、ここまで思考を巡らせて目の前の少年――自己紹介の後トリカブトと名乗った――に渡す筈だったガルシアからの手紙をあの巨大ムカデに渡したままだった事を思い出す。

 その旨をトリカブトに伝えると彼はあぁと思い出したように手を叩く。

 

「そういや分体に受け取らせたままにしてたな、忘れてた。――起きろ」

 

 起きろとは? と俺がトリカブトに聞こうとするよりも前に洞窟内部に強い振動が走る。床に敷かれた石畳を粉砕して件の巨大ムカデが手紙を咥えて顔を出してきた。

 トリカブトはムカデから手紙を受け取り再び地中に潜らせ手紙を読み始める。

 

「【従魔師】なのか?」

 

「んー? 別に使役してる訳じゃあない。言ったろう分体だと、俺は感覚と意識を共有出来るムカデを作り出せる。今お前が見た奴もその内の一体だな、【ドラグワーム】って知ってるか? カルディナにわらわらいるモンスターなんだが」

 

「一応知識だけなら……」

 

「ネビロス達が見たのはそいつをモチーフに作られた威嚇用のムカデだ。俺自身太陽の光が毒だから偶に体を借りて外の様子を見てたりする。そういう意味で言えば、どちらかというとゴーレムに近いかな」

 

 手紙を読み進めるトリカブトがそう説明してくれる。

 ムカデの尾も含めて透き通るような白を持つトリカブトだったが、太陽の光が毒と言った所で忌々しそうに目を細めていた。やはりアルビノの体とはつらいものであるらしい、……いや、あれはむしろ自分の体質以外の何かを憎々しげに思っているような――

 

「人のことを無闇に観察するのは頂けんなぁ?」

 

「あ、あぁ悪い、どんなジョブならあんな強そうな虫を作れるのか考えてた」

 

 ニタリとこちらに笑みを向けるトリカブトに思わずそう誤魔化してしまったが別に嘘ではない。エンブリオを持たないティアンがマスターに対しアドバンテージを取る方法は経験かジョブ、後は噂の特典武具くらいしか思いつかない。

 なので余程強力なジョブに就いているか特典武具を手に入れているかだと思い口に出したのだが、トリカブトはハハハと笑っており、詮索に対して余り気にしてない様に思えた。

 

「強いジョブだけでここまでは出来んよ、強いて言えば俺の体質の様なもだ。さて、手紙の件確かに承った。古き友の六芒星からの頼みだからな、……しかしガルシアの奴、面白い事を考えよる」

 

 くつくつと悪辣な笑みを浮かべるトリカブト。一体あの手紙に何が書かれていたのか非常に気になる所だが何となく聞くべきでないと直感が囁いたので口を噤む。

 あとやるべき事は何かあっただろうかと思考を巡らせ、エイラが袖を引く。

 

「? どうした?」

 

「テルモピュライからの預かり物を渡しに来たのではないのですか?」

 

「あ」

 

 そうだった、トリカブトと合い見えた事で完全に記憶の彼方へと吹き飛んでいた。

 俺は腰から提げている頑丈な方の収納カバンの中の荷物を確認し何かが入った大きな木製の箱を取り出し、読み終えた手紙を折り畳むトリカブトへと渡す。ガルシアからの手紙を取り出す時に一瞬見えたがこの箱以外の荷物は無かった。

 

「これ、テルモピュライから貴方に渡してくれと頼まれた物です」

 

「あいよ確かに。テルモに頼んだ奴ってぇと……やっぱりか、ありがたいな」

 

 俺から受け取った木箱を嬉々として開けるトリカブトは見た目通りの少年の様な笑顔を浮かべていた。

 木箱の中身は壺、よく梅干しを漬け込むのに使用するような常滑焼に非常に良く似た壺だった。その壺の中にも何か入っているのだろうかと考えてるとグラシャラボラスが「キャイン!」と怯えたように数歩後ずさる。

 どうした――と聞く前に毒々しい臭気が俺の鼻を刺激する。

 

「え、何だこの匂い」

 

「ん? あぁネビロスは嗅ぎ慣れてないか、グラシャラボラスも犬っぽいし流石に軽率だったな。コレは蠱毒だよ」

 

「蠱毒……」

 

 成る程、合点がいった。毒を持つ生き物達を一つの容器で飼育し意図的に共食いを行わせそれら生物の持つ毒を濃くしていくというものだ。恐らくあの壺の中には毒虫や毒蛇といった生き物達が犇めき合い、すでに幾度か共食いが行われている所なのだろう。

 ちなみに起源としては古代中国において広く用いられていた呪術の一種だという。互いに共食いさせ、勝ち残ったものが神霊となるためこれを祀り、その神霊の毒を採取して様々な事に用いるらしいが……まぁ平和な使い道ではあるまい。

 

 グラシャラボラスに影響が出るのも嫌なので左手の紋章に引っ込める。

 

「とりあえず貴方向けに預かったものはそれで最後です。ガルシアさんやテルモに渡す物があるなら預かりますが」

 

「ん、そうだな……じゃあテルモピュライにコレを渡してくれ」

 

 そう言ってトリカブトが奥から引っ張り出してきたのは何らかの鉱石の塊が十数個、金らしい輝きが随所に見受けられるが余りよく分からなかった。

 ガルシア宅の書斎で得た情報の中には鉱石関係のものもあったが思い出せなかった。

 

「……コルタイト鉱石ですね、主に貴金属系統に加工されます」

 

 ありがとうエイラ。「頼むぜ」と乱雑に置かれたコルタイト鉱石を余さずアイテムボックスに放り込む。

 

「ガルシアには……別にいいか、エイラに伝言を任せるわ。“受諾した。てめぇの矛に垂らす一滴の毒になってやる”、頼むぜ嬢ちゃん」

 

「承りました」

 

 それぞれがトリカブトから貰ったものを抱え、俺達はこの洞窟を去る事にした。トリカブトに背を向け、出口へ向かうと俺達を呼び止める声。

 振り返るとムカデの尾を用い音も無く忍び寄ってきたトリカブトが手を差し出してきた。反射的に握ってしまったが、ただの挨拶だったようだ。

 

 ……? 何か今痛みが――

 

「ネビロス、帰り道には気を付ける事だ。テルモピュライの友人が、たとえ数日で蘇るとしても死ぬのは悲しいものだからな」

 

「え? あ、はい。気をつけます」

 

 ではな、と手を離すトリカブトに別れの挨拶を返した俺達は、洞窟を後にした。

 依頼達成である。

 

 

◆――◆――◆

 

 

 ……行ったか。振っていた手を戻し洞窟の奥深くへと蠱毒の壺を携えて閉じこもる。

 出来る事なら彼らに付き添って霊都付近まで送りたかったが、この体がそれを許さない。つくづく厄介な体にしてくれたものだと思う。

 

(まぁ、だからこその分体との意識の共有な訳だが)

 

 ガルシアからの手紙にはとある要望が書かれていた。一つは近い内に起こる霊都での戦いに力を貸してくれと言うもの、これにはエイラに承諾の旨を聞かせたので早ければ明日にでも伝わるだろう。

 そして二つ目はエイラとネビロスにムカデを付けてやってくれというもの。必要以上に迂遠で歪曲した貴族らしい表現で書き記されてはいたが、要は監視役なのだろう。

 

(相も変わらず生きづらそうな性格して……)

 

 エイラがろくでもない事に首を突っ込んで死なないか心配だから、ネビロスが心変わりして自分達に敵対しないか不安だから。だから俺に頼むのだろう、俺を信頼しているから。

 素直にあいつは馬鹿なんだろう、エイラは唯でさえ死にくい吸血鬼の中でも生存能力が高い奴だしネビロスに至ってはマスターだ。テルモピュライとは似て非なる手合いだが、あいつの様なマスターは義理と利益があれば当分裏切ることは無い。

 手紙で知ったが【行商人】として生きる道も考えているようだし適度に依頼でも出してれば突拍子も無い行動はしないだろう。

 

 だがそれはガルシアが懸念している事は起こりえないだろうという愚痴にも似た推測だ。

 ネビロスがこの洞窟から去っていく間際、別れの挨拶として彼の手を握り、その際作り上げた小さな白いムカデをバレない様にネビロスの体に這わせた。監視ではなく護衛として、彼らの帰り道に同行させたのだ。

 

(何となくどんな会話をしてるのか気になるし、霊都に帰ったらガルシアん所で話し合いも出来るしな)

 

 先程護衛役と述べたが、あの分体がその役目を全うする事が起きなければいいが。

 そう考えながら俺は、根城にしている洞窟の奥深くでネビロスに這わせたムカデの意識を共有する為に深い眠りに着いた。

 

 




一人喋らせると他の奴らの影が薄くなる悲しみ。単純に文章力が足りない。

【ファミリア・バット】
・基本的にエサをくれるのであれば誰にでも友好的に接するモンスター。
・何故か魔女や吸血鬼に比較的良く懐く。懐いたら主人の命令は絶対。
・気配を薄くするスキル、長大な飛行距離、特定の相手を追跡可能なエコーロケーション、異常な帰巣本能を持っている為に斥候や伝書鳩として活用される。
・正に伝書バット(言いたかっただけ)

トリカブト
・本来はムカデの尾ではなく人の胴が連なった不完全なムカデ人間を尾にするつもりだった。
・正確には頸髄から胸髄までの人間の胴体上部が連なり足の代わりに何十対もの人の腕で移動させる予定だったが描写が面倒だったので全部ムカデに。
・尾の外見は現実的なウゾウゾしてるようなムカデではなくファンタジックな「お前鎧でも着てんの?」みたいな物凄い鋭利なムカデ。
・ガルシアより年上だが見た目は見目麗しいショタ。
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