アストぺルラの時間遡行~失われた未来を求めて~   作:三連符P/tripletP

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試験的な投稿を兼ねています。速度重視(当社比)で書こうと考えてるので字の間違いとか些細なことは飛ばしてるかも。

とりあえず第一章「アストぺルラと黄金郷(仮)」前半のプロットは一万字あるので、それに沿ってちょろちょろと投稿できればいいなと思っています。

前書きは作品の世界観を損なうのでこれ以降は節目以外は書きません。

では、お楽しみください。


1「アストぺルラと行商人」

 厳しい冬も終わり、春の訪れを自然の全てが喜んでいるかのようなのどかな日。

 

 テンポスの村。近くに国境があるわけでもなく、魔獣が潜んでいるわけでもない。暴虐邪知の王がいるわけでもないし、悪辣な税務官が年貢を法外にむしり取るわけでもない。周囲一帯の数十に及ぶであろう村と何ら変わりのない、平和な村は春の香りに包まれていた。

 

 そんなテンポスの村では、老人が子供に読み書きを教えるという一風変わった伝統があった。

 

「さて、では今日も始めようかのう」

「ちょうろーう」

「なんじゃ?」

「毎回思うんですけどなんで読み書きなんかやらなくちゃなんないんですか? うちは農家だし、何の役にもたちゃしませんよ」

 

 一人の子供がいかにもやる気がなさそうにそう吐露する。

 

 確かに、図書館はおろか本すら数冊程度しかあらず、外からの来客は年に数回行商人が来るか来ないか程度。税務官ですら行くのを面倒くさがる程の辺境に位置しているこの村において、読み書きほど無駄な勉強は無いだろうし、事実大人に聞いても同じことを言うに違いなかった。

 

 では、なぜそんな無駄なことをしているのか。それは、ひとえに長老の指示があってのことだった。しかし、

 

「カッカッカ、そんなこというでない。確かに読み書きは他の村ではあまり教えんかもしれんが、何故習っていたのかお前さんにもいずれわかる時が来るじゃろうて」

 

 いずれ、わかる時が来る――。長老はその言葉ばかりで、一つも具体的な話をすることはなかった。

 

「要するに、役に立つ立たないの問題じゃない。この村ではやることと決まってる、それだけじゃよ。〝伝統〟とはそういうものじゃ」

「え~なにそれ」

「不満がありそうじゃな。でも、これはどうしてもやらなきゃいけないことなのじゃからしようがない。それじゃあ始めよう。一先ず前回教えたことからおさらいしようかのう。この村の名前は〝テンポス〟。意味は時をつかさど――」

 

 長老がそう締めくくり授業を始めようとする、その時。

 

「長老、アストぺルラがいません!」

「む……」

 

 長老はひい、ふう、みいとゆっくりと子供の数を数え、確かに一つ数が足りないことを確認する。

 

「確かにおらん! あやつ、今日もさぼりおったか!」

「あたしが見てきますか?」

「必要ない、あやつのような怠惰な者に時間など掛けられるか! 授業を始めるっ!」

 

 えー、とか、なんであいつだけとかそこら中で不満の声が上がるが、長老は全てを無視して強引に読み書きの指導を始めた。多くの子供は、これまでの経験から少し内容が厳しくなることを何となく察していた。テンポスの村は今日も平和だ。

 

 ◇

 

「はぁ~あ、やってられっかよ、あんな授業。意味もねーし、なんも面白くない」

 

 所変わって、ここは村から少し離れた丘にある原っぱ。冬も終わり穏やかな日差しが降り注ぐ日、草木は青々とした新芽を力強く大地に芽生えさせ、野原には一面花が咲き誇っていた。

 

 そしてその中に、先程話に挙がった現在絶賛授業をおさぼり中の少年、アストぺルラの姿があった。猟師である父親が家で読み書きを使ったためしがないアストぺルラは、子供たちの中でも特に懐疑的な目を向けていた。

 

 栗色の髪に母親譲りの透き通った蒼の目。それでいて目鼻立ちがきりっとしている様は、将来村の中でもなかなかの美形になることを約束されている。もっとも、現在の彼は千年の恋も冷める様なだらしない顔で寝そべっていたのだが。

 

「……思えば今日は、朝から災難続きだ」

 

 アストぺルラはふと、今朝の出来事を思い出す。

 

「リリィも毎日無理矢理たたき起こしてまで誘ってくるし……今朝の起こし方なんか、俺を家畜か何かだと思っていやがる」

 

 リリィとは、アストぺルラ少年の幼馴染の女の子のことだ。何かにつけて減らず口を叩いてくる様子は辟易するが、そこにいるのだからどうしようもない。幼馴染という名の腐れ縁だ。

 

 今朝も、夢で未踏の大地を冒険している最中にアストぺルラは起こされた。それも、眠っているアストぺルラの鼻と口を塞ぐという最低最悪の方法で、だ。お陰でアストぺルラは夢の大地で滝から滑り落ち、妙にリアルに溺れ死ぬこととなってしまった。

 

 夢の世界は実に魅力的だった。未知の植物、未知の動物、そして未知の世界――そのまま探検が続いてくれればどんなに良かったことか!

 

 思い出すだけでアストぺルラは胸がむかむかして、嫌な気分になっていった。

 

「あー……もういいや。今日はこうして寝そべっとくか」

 

 春の陽気と花の醸し出す甘い匂いは幸いにも、アストぺルラの嫌な気分を忘れさせてくれた。どうせなら、このままずっとここにいられたらいいのに――

 

 そんな願いを抱いたアストぺルラの耳に、不思議な音が聞こえてくる。

 

「?」

 

 ガタガタ、ゴトゴト。遠くに景色からから浮いた、小さな茶色いものが見える。あれは、動物ではないだろう。多分、人が動かしているものだ。徐々に近づくそれは、白い荷物を載せた馬車だと分かる。今は収穫期でもないし、あのだらしない顔の税務官は訪れない。最後に馬に乗る御者を確認するとアストぺルラは喜色満面の笑みを浮かべた。

 

「……行商人だ! いやっほう!」

 

 行商人。変化の少ないこの村で税務官を除けば唯一外部から訪れる客であると同時に、アストぺルラら子供たちに村の長老が知らないような面白い話を聞かせてくれる存在だ。

 

 年寄りの〝ためになる〟話とは大違い。無駄に長い髭と話の長さの分だけでも見習ってほしいものだ。

 

 声に気付いたのだろう、馬車は進路を変えてこちらに進んでくる。

 

「おーい、おーい! こっちこっち!」

 

 馬車はアストぺルラの存在を認めると、目の前で立ち止まった。

 

 物音を立てて馬から降りて来たのは、いつもに比べて随分と若い青年だった。

 

「きみは、テンポスの子供かい?」

「そうだ! 俺はテンポスの村のアストぺルラ! 皆にはアストラってよばっれてる! おっちゃんは行商人だろ?」

「ああ、そうだとも。僕の名前は――プラ―ディタ。君は何をしてるんだい?」

「見ての通りさ、ご老人の話が退屈で逃げだして、野原で寝てたんだ」

「へぇ……要するに、授業をさぼって逃げてきた、てわけか」

「そういう事だ! なあ、あんた行商人なら冒険話の一つや二つ、知ってるだろ? 聞かせてくれよ!」

 

 アストぺルラは冒険話を聞きたくてうずうずしていた。大きくなったら村を出ることを心の内で決めているアストぺルラにとって、行商人たちの話は未知の世界を垣間見せてくれるとても心惹かれるものだった。

 

「そうだね……いいけど、一つ条件があるんだ」

「なんだ?」

「僕は見ての通りの年齢。この辺りの村を回るのは初めてで、今回来たのは何も物を売るわけじゃなく、偵察みたいなものなんだ。だから、アストラ君、君の村について、知っていることでいいから教えてくれないかな?」

「そんなのお安い御用だよ! 俺の知ってる範囲なら何でも答える! だから、早く物語を聞かせてくれよ!」

「ありがとう! それじゃあ――まずは、〝暗黒王国と勇者〟の話をしよう。

 

 ――昔々、あるところに一人の王様がいたんだ。王様はとても欲張りで、遂には近くの国を攻め立てて、財宝から王女に至るまで根こそぎ奪っちまった」

 

 ◇

 

 しかし、王の底なしの欲はそれだけで満たされることはなかった。王は周囲一帯のあらゆる国に戦いを挑んでいった。その全てを我が物にせんとする為に。

 

 不幸にも、王の軍隊はそれを完遂するだけの大いなる拳であった。王は力を我が物の様に振るい、周囲一帯の国を全て滅ぼし、やがて悪魔に見初められた。

 

 悪魔は言った。

 

「我は〝強欲の悪魔〟。貴様らの戦いぶり、しかと見させてもらった。願いを言え。我の出来る範囲で力を貸してやろう」

 

 すると、王は数瞬の憂慮も見せずに即答した。

 

「ならば、この世界を手に入れる為に力を貸せ」

 

 悪魔はケタケタ笑ってこう返した。

 

「我に命令だと? 貴様程強欲で傲慢な人間は初めてだ! 気に入った、我を利用するがよい!」

 

 こうして悪魔と手を組んだ王は、悪魔の生み出した魔物と人間の兵を呪法により融合させた〝魔物兵〟を使役し、世界の国々を次々と滅ぼし、征服した人々に死にも勝る様な残忍な仕打ちをした。そうして何時しか国中に魔物が蔓延るようになった。この惨状を見た人々は、何時しか王国を〝暗黒王国〟と呼び、悪魔と手を組んだ王を〝魔王〟と呼ぶようになっていった。

 

 そして、遂に残る国は〝ウェアルエラ王国〟のみとなってしまった。もう、わが国が滅ぼされるのも時間の問題。そう人々は嘆いた。

 

 そこに、勇者は現れた。

 

 勇者が初めてその姿を見せたのは、山がちなウェアルエラ国境の関にして最後の砦である〝エスタング国境関〟だ。勇者はそこで圧倒的な魔法を放って暗黒王国の飛竜兵を全滅させ、大地をも割る斬撃で魔物兵を切り払ったという。

 

 この局所的な勝利によって、徐々に形勢は逆転していった。人々は魔王から土地を取り返していき、勇者は遂に暗黒王国軍の虎の子、〝黒龍〟と対峙することとなる。

 

「我は黒龍。我が力に勝るものあらず、相対するは愚か也。汝、何を以て我を誅せんと欲す――」

 

「……我は勇者、全てを救うのみ」

 

 それだけ言うと、勇者は黒龍に向かっていった。

 

 苦戦する勇者だったが、黒龍の強大な魔法を逆に利用して倒すことに成功し、黒龍を降した勇者はその後も順調に暗黒王国軍を押し返していく。

 

 そしてとうとう魔王を一刀の下切り伏せ、悪魔を強大な魔法によって封印すると、どこかへ消えていった。

 

 勇者の行方は、誰も知らない。

 

 ◇

 

「――で、結局勇者は見つかったのか?」

「誰にも分からない。今までのが幻だったかのようにいなくなっちゃったからね」

「え~勇者とか暗黒王国って本当にあったのか?」

「多分……というか、確かめようにも昔のことだから手段がないんだ。でも、今でもあちらこちらに勇者の痕跡は残ってる。ウェアルエラ王国では今でもこの勇者を称えるため、暗黒王国が滅んだ日を祝日として盛大に〝名無しの勇者祭〟を催しているよ」

「マジ? もしかしていったことあるの?」

「勿論! ウェアルエラの勇者祭は行商人なら一度は訪れるよ!」

「すげえ! どんなだった? なにかかわったものとかなかった?」

「そうだね、僕が見たものだと勇者と黒龍を象った大きな山車があってね――」

 

 こうして、その後もしばらくプラ―ディタ青年の話を前のめりに聞くアストぺルラだった。そのうち、いつしか日は少し傾き始める。

 

「――で、怪物リヴァイアサンは正義の神々に封印され、混沌の入り混じる闇の一番深いところに――おっと、もうこんな時間じゃないか!」

「え~もっと話してくれよ、あんたの話めっちゃくちゃ面白かったから!」

「光栄だけど生憎僕はまだ若輩でね、今は金よりも信頼が大事なのさ。時間の約束を破るのはご法度なんだよ」

「しょうがねえなぁ。じゃあ、最初に言った通り俺の村、テンポスについても話してやるよ! とは言ってもつまらねえ老人たちの受け売りだから、面白さは推して知るべきだけどさ。でもまあ、お礼にとっておきの話を聞かせてやるよ!」

 

 アストぺルラはそういうと、いつだったか、話と顎髭の長い長老に〝絶対に村の外の者に告げてはならない〟と念を押された話をプラ―ディタに聞かせた。

 

「下調べしたのなら、うちの村の名、テンポスが〝時を司る〟って意味なことは分かるだろう? 不思議だよな、ただのこんなド田舎の村に〝時を司る〟なんてさ! だけど、この村には秘密があるんだ」

「秘密?」

「――結界が貼ってあるのさ。誰が、何のためにかけたかは知らねえけどな。そのせいで、俺らはあらゆる魔法が使えない。農耕にしても、鍛冶にしても、生活のありとあらゆること全部手作業だ。ちゃんとやるためにはいったん村を出なくちゃなんねえ」

「……道理で水魔法の水筒が空になるわけだ」

「まあ、俺らにとっちゃそれが普通だからさして不便なわけじゃないんだけどな。

 けど、俺が一度村の外、つまり魔法の使える場所に出た時、おかしな感覚があったんだ。周囲の物がめちゃくちゃゆっくり見えるのさ。当然俺は焦ったが、どれだけ早く動こうとしても、まるで水中みたいに体が動かない。結局どうすることも出来ず、そのまま失神しちまった」

 それを聞くと、プラ―ディタは少し考えこんでから話始める。

 

「時に関する由来に、アストぺルラ君の周囲がゆっくりする感覚――この村は〝時魔法〟に何か関係があるってことかな」

「時魔法?」

「読んで字の如く時間をいじる魔法だよ。過去に戻ったり、未来に行ったり、はたまた時間を遅くしたり、早くしたり――」

 

 未来とか過去とかは分かるけど、そこに行く? 〝今この瞬間流れているもの〟を遅くする? アストぺルラは、そんなこと考えたことがなかった。

 

「うーん、なんか難しいな。まず、時間ってそんな簡単に触れるもんなのか?」

「いいや、勿論簡単には無理だよ。魔法使いの最終目標さ。

 でも、時魔法はロマンがあるんだ。もし、あの頃に戻れたら――。百年後、この世界がどうなっているのか――。そんなことを思うのは、悪くはないだろう?」

 

 それを聞いたアストぺルラは過去に戻れれば何をしたいか考えたが、生憎この村では後悔する様な大きな出来事なんて一切起こっていない。祖父祖母だってアストぺルラがあんよをしていた時に亡くなったし、気の赴くまま生きてきたアストぺルラは〝羞恥心〟とは無縁だった。

 

「わかんねえ。今までの人生、後悔するようなことはしてないし起こってもないからな。でも、百年後ってのはちょっと心惹かれるな」

「そうだろう? その、惹かれるって感覚を頼りに魔法使いは一生をかけて時魔法を研究してるのさ」

「ふーん……惹かれる、か。随分曖昧な感覚に頼ってるんだな」

 

 惹かれる。ただそれだけで、人生を時魔法という出来るかもわからない夢物語に捧げている。アストぺルラは、その心持が分からなかった。

 

「まあ、そうかもね。魔法使いは、夢想家と似たような物さ。でも他の職業も案外似たようなもんだよ。

 君は、冒険が好きなんだろ? それってつまり、未知の世界に〝惹かれてる〟ってことに他ならないじゃないか!」

「あー……確かに。そう言われてみれば、俺って惹かれてるのか。そうか、こういうのが〝惹かれる〟ってことなのか!」

 

 理解すれば、それは簡単でとても魅力的な物に思えた。そして、それを追い求める魔術師の気持ちもわかる気がした。

 

「じゃあ、そろそろ僕は行くよ。興味深い話をありがとう!」

「あ、いうの忘れてたが、この話は他言無用な! 特に結界に関しては、長老から絶対に部外者に告げてはならないって耳にタコが出来るくらい聞かされてんだよ」

「え、そんな大切な話、大丈夫だったのかい?」

「大丈夫だ! 俺はちょっと大きめの独り言をしただけだ! もしかすると聞いてるやつがいたかもしれないけど、口外したり、告げたりしたわけじゃないから大丈夫さ!」

 

 その時、遠くから声が聞こえてくる。

 

「アストラ―! どこよー!」

 

 声の主が分かるやアストぺルラは思わず顔をしかめた。

 

「ゲッ、リリィじゃねーか! こうしちゃいられねえ、すまんな、おっちゃん!」

「あ、ああ。僕もそろそろ行かなくちゃならないからね。しかし、ずいぶんと可愛らしい声だけどそんなに怖いのかい?」

「ったりめーだ! じゃあな、行商人のおっちゃん!」

 

 そういうとアストぺルラはプラーディタの返事も聞かず声の方向へかけていった。その直後。

 

〝あいたぁぁぁっ! ちょ、引きずるな、頼むから! いや、ぶつのもやめて! 嫌だぁぁぁ!〟

 

「……随分と可愛らしいお嬢さんだ。君も苦労してるってっ訳か。

 しかし、時魔法。これは……〝使える〟かもしれない」

 

 プラ―ディタはそう独り言を言うと、馬車に乗り込みその場から立ち去って行った。

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