アストぺルラの時間遡行~失われた未来を求めて~ 作:三連符P/tripletP
まず最初にアストぺルラの目に入ってきたのは、荒らされた畑だった。来る前まで、大人たちが手入れをしており、まだ青々とした稲穂を付けていた小麦は、見るも無残に踏みつくされて枯れ果てていた。
それだけではない。畑仕事をしていたであろう、村の見知った大人たちが変わり果てた姿で倒れていた。表情は、もう注視することが出来なかった。
村に近づくにつれ、段々と死臭が密度を増してくる。幸い昼食をとっていないので吐くものは胃液ぐらいだが、アストぺルラはもう何度も耐えきれないほどの吐き気をすんでのところでこらえていた。
空が、ゴロゴロと不気味な音を立てる。
「な、何なんだよ……」
アストぺルラは、今になっても状況が読み込めなかった。これは、つまり……どういうことなのだろうか。
いや、頭では理解していた。ある考えが、頭の片隅に生じていたのだ。しかし、アストぺルラは頑としてそれを認めようとはしなかった。
「そ、そうだ。ここはまだ村の外れの畑だし、家に行けばもうちょっと違うかもしれねぇ……そうだ、そのはずだ!」
アストぺルラは急いで家の集合しているところへ向かう。
しかし、そんな甘い考えは、家が見えてきた時点で砕かれた。
見えている家は、例外なくすべて倒壊していた。いや、壊れた様子を見ると、破壊と言った方が正しいだろうか。辺りにはペンキをぶちまけた様な赤黒い色のシミが所々に散乱しており、動かなくなって半ば白骨化した〝モノ〟がそこら中に転がっていた。
アストぺルラは、そんな光景を見ないようにして無心に自分の家へと向かった。
アストぺルラの家は、その他数十と同じく、破壊されていた。
生まれ育った二階建ての家は、一階部分が倒壊しており、二階の窓の木枠も壊れて直接入れるようになっていた。
軽く周囲を見たが、両親の痕跡はない。父は猟師で山の中、母は畑仕事をやっていたはずだ。さっき見た畑は、アストぺルラに嫌でも〝死〟という可能性を思い起こさせる。今は二人について考えたくはなかった。
自分の部屋だ。いつも惰眠をむさぼり、リリィに平手打ちかそれ以上にひどい手段でこっぴどく起こされていた、ベッド。そして、いつか冒険に出ることを夢見て自分の宝物を詰め込んだ、大きな箱。多少古びてはいるものの、それだけは奇跡的に破壊された痕跡もなく、日常を置き忘れたかのような光景が部屋には広がっていた。
アストぺルラはそれだけ見ると、他の二人の家へ向かっていった。
しかし、現実は変わらなかった。リリィとタイムの家も他の家と同様、破壊されていた。
なかはどうなっているのだろう。嫌な予感が脳をかすめた。二人も、他の人と同じ様に――。
いや、そんなはずはない。そんなこと、あってはならない。絶対ありえないはずだ。あり得てしまえば、俺はどうしようもなくなってしまう。
いつの間にか降ってきた雨が、一滴、首筋にあたる。地響きのような音を立てる雨雲は、死神がケタ笑いした様な不気味さがあった。
アストぺルラは、リリィの家の中を見ることにした。
心のどこかが、警告している。これ以上言ってはならないと。この線を越えたら、お前は戻ってこれないと。
しかし、アストぺルラは僅かな可能性に持たれかからざるを得なかった。
慎重に瓦礫をどけ、恐る恐る中を確認していく。
食器が散乱し、テーブルや椅子は全て瓦礫で壊れている。調理用の鍋は中身をぶちまけており、腐乱臭をあたりに漂わせる。
そして、アストぺルラはたどり着く。一番見たくなかったモノに。
不都合な現実に。
〝ソレ〟は、すでに腐るどころか
「あああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!」
雨の中に一つ、悲痛な号哭が響いた。
4~5話の流れが不自然なので修正します