ーー愛を永遠にーー
ある丘の上…地面は綺麗な艶を放つ青緑色の草が隙間のないほどに敷き詰められた草原。
昼間は青のキャンバスに鮮やかに彩られてい空だが、夕暮れ時に近づいて来たのか、空は薄オレンジ色のキャンバスに変えられ白い雲がゆっくりと去って行く。
そんな丘の上に見られる影が2つあった。
その影は2人の少年、少女のようだ。
少年の容姿は一言で言うと‘‘美男子”。
いや、かなり幼いので美男子というよりもかなり可愛らしい少年と言った方が合うかもしれない。
ただ少年は将来かなりのイケメンになると断言できるほどのものだった。
そんな少年の手には金色と銀色で仕上げられた少し形が変わった「錠」が握られている。
そして少年の両の目にはうっすらと涙が滲んでいた。
そして一方、少女はというと…西日が強いせいか顔は分からない。
しかし頬には涙が伝っていることは分かった。
そして少年と同じ様に両手で大切なものを抱える様に「鍵」が握られている。
ある時少女の方から徐に口を開いた。
『あなたは「錠」を
私は「鍵」を
肌身離さず、ずっと大切に持っていよう。
…いつか私たちが大きくなって再会したら、この「鍵」でその中の物を取り出すから…そしたらーー』
少女が一度口を閉じる。
そこで少年が少女の言葉に相槌を打つかのようにしっかりと言葉を紡ぐ。
『ーーうん!』
たった一言の返事…だがその返事の中には力強さがあり、少女も満足気に微笑むと…
『『結婚しよう…!』』
両者一片のズレもない程に揃い言葉を紡いだ…。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「ん、ふぁ、ふぁぁあー…!」
俺は
ある夢とは何処かの丘の上で俺と少女が約束をする夢だ。
しかしこの夢は1年に1度しか見ない。
その日も決まっている。
その日とは、この約束を果たした日…つまり何年か前の今日の日付である。
この夢を見たということは…
「あの約束から10年、か。」
俺は誰に言うでもなく、ボソッと1人呟く。
そう、約束をしてから10年…。
10年経った今でも、未だに「錠」は閉ざされたままだ。
別に10年経った今でもこの約束を果たそうとは思わない。
少女の顔、声、髪の色、名前の何もかもを覚えていないし、恐らく少女の方ももうこんな約束を果たそうなんて思っていないだろう。
覚えてすらいないかもしれない。
ただ…ただどうしてもこの「錠」だけは捨てる気にはなれない。
この約束を守れなくてもいい、ただもう一度だけあの少女に会いたい…それだけは切に願っている。
だからかもしれない…俺と少女を今唯一繋ぐこの「錠」を俺が捨てられないのは…。
俺は自分の布団を畳んで、押入れにしまった。。
俺は布団を押入れにしまってから一度自分の部屋を見渡す。
俺の部屋は20畳の和室である。
しかし…いつ見ても寂しい部屋だ。
俺の部屋にあるのは勉強用にと勝ったかなりでかい机と本棚と箪笥それぞれ1つだけだ。
殺風景にもほどがある。
いつもどこに布団を敷くか悩むくらいに無駄に広い。
俺は箪笥からスポーツ用のアンダーウェアと短パンを取り出し、自身用に用意したトレーニングルームに向かった。
ーーーーーーーー
オレの名は一条 楽。
この春から高校に通う、どこにでもいる普通の高校生だ。
オレは煮込んだ味噌汁をおたまで少しだけ掬い、味を確かめる。
「よし!」
うん、我ながらにいい味をだしている。
あぁ、先程‘‘どこにでもいる普通の高校生だ’’と言ったが訂正がある。
訂正する…
ある一点というのは
「おーい、メシ出来たぞてめぇ
ら〜。」
…オレの家族が少しだけ
「あっ‼︎おはようごぜぇやす‼︎
楽坊っちゃん‼︎」
オレの返事を返して来たのは朝からは決して見たくない様な顔ぶればかり。
刺青、傷跡、グラサン、ちょびひげ、ハゲ、ハゲ、はげ…が当たり前のような連中。
朝からテンションが下がる。
‘‘集英組”と言えばここらじゃ有名なヤクザの元締めである。
オレはそこの組長の息子である。
「うんっめぇーー!
さすが坊っちゃんだー‼︎」などなどと親父の部下達がオレが作った朝飯を頬張りながら褒め上げてくる。
嬉しくない訳がない、が…面子が面子なものだから大した喜びが湧いてこない。
「いや〜、いつもすいやせん。」
皆が口々に褒めてくる中、集英組の幹部にあたる竜が申し訳なさそうに頭を下げてくる。
「いーよ、お前らに任せたらロクなもん食えねーし…。」
一度皆がオレにいつも作らせてばかり悪いと言うものだから任せてみたら…あぁ、思い出したら気分が悪くなってきた。
まぁ、だからオレが作る訳だ。
それに…
「いずれする一人暮らしの予行演習と思えば…。」
そう、オレはいつかこの家を飛び出して一人暮らしをするんだ。
「えぇーー⁉︎
坊っちゃんどっか行っちゃうんスか⁉︎」
「そんなの嫌っス‼︎
行かねぇで下せぇ、二代目候補‼︎」
オレの一人暮らし発言に皆が制止の声を上げる。
その制止の声の中にオレの気に入らない言葉があった。
「誰が二代目候補か‼︎」
「…いつも言ってるだろ。
オレはヤクザになんてならねぇ!
オレは一流大学を卒業して堅実な公務員になって、お天道さんに顔向けてまっとうに生きていきてぇんだよ‼︎」
オレは拳を握りしめて熱く熱く演説する。
そんなオレに対して皆は…
「おおーーーー‼︎
なんかよく分かんねぇけど、かっこいいぜ楽坊っちゃん!
さすが俺達の二代目候補だぜ‼︎」
口々に褒め称えるがオレの思いは通じない。
「…だいたい二代目候補、二代目候補って、二代目はサクがなるに決まってるだろう。
まずオレにヤクザになる気はねぇ。
それに対してサクは組の力になりたいと言ってる…ここでもう決まってるだろう!
意思の問題でもないとしても、成績学年1位、スポーツ何やらせても万能、喧嘩も強い、容姿も良い、全てサクは持ってるだろう!
家事くらいしかできねぇオレに勝ち目はねぇ…というより、勝ちたくねぇ。」
オレはこの組を継ぐ気はねぇよ‼︎
ちなみにサクとは、オレの兄貴である一条 佐久間のことである。
文武両道、才色兼備…弟であるオレが贔屓目で見てもこの言葉がこれほど似合う奴はいないだろうとおもうほどに。
ちなみに兄貴と言っても双子だ。
二卵性のためか全然似てない…。
まず国籍が違うのでは?と思うほどに似ていない。
そしてオレの言葉に皆は黙り込む、が…
「組長はサク坊っちゃんと楽坊ちゃんの2人で組を継ぐことを望んでいやす。
その気持ちはあっしらも組長と同じ思いです。」
竜が真剣な顔をして話してくる。
「分かった…一応お前らの思いは受け取っておく。」
はぁ…。こんだけ言われたらお手上げだな。
オレは竜の言葉に少しはヤクザに対して向き合う気持ちになった。
オレの言葉を聞いて皆が竜を胴上げし始めた。
ヤクザになるなんて一言も言ってないんだが…?
ん?そう言えば…。
「今日はまだサクを見てないな…。
竜、サクを起こしてきてくれ。」
「サク坊っちゃんですねっ‼︎
了解です、任せてくだせい!」
胴上げが終わり、少し興奮気味の竜にまだ起きてこないサクを起こして来てくれるように頼んだ。
竜はオレの頼みにビシッと敬礼した後、いい笑顔でサムズアップしながらサクの部屋に走って行った。
サクの部屋は今いるリビングからでも確認できるので、走って行く竜の背をなんとなくずっと俺は眺める。
竜はサクの部屋の襖の前に立つと両の手を口に添えてスゥ〜っと息を吸うと…
「サク坊っちゃぁぁああ〜〜〜ん‼︎
朝でごぜぇぇえや〜〜『ドンッ‼︎』っbは⁉︎」
信じられないくらいの大声で、さらに爽やかな声で声をかけるが襖が横にスライドされることはなく、竜がいる側に飛び出して来た。
竜は勿論反応することなく、巻き込まれる形で襖と共に吹っ飛んだ。
恐らく8mは飛んだ。
「朝からうるせーよ!」
そんな声が部屋の中から聞こえたため吹っ飛んで気絶している竜から目線をずらし再び部屋の中に目を向けると、右足を前に蹴り上げた状態で不機嫌そうな顔をした少年がいた。
少年の容姿は肌の色は薄い褐色で、髪の色は美しい白とも取れそうな銀色で髪型はソフトモヒカンである。
スッと違和感のないほどに高い鼻。
細筆で書いたかのような左右絶妙なバランス、絶妙な太さの眉。
闇の中でも輝くのではないかと思わせる鋭い眼光の紅い瞳。
彼が優し気に微笑むだけで世の女性を魅力するであろう黒の学ランに身を包んだ絶世の美男子である。
身長は182cm、体重78kgのスタイルもモデル並みのイケメン。
皆お気付きだろうが…彼がオレの双子の兄にあたる一条 佐久間こと、サクである。
オレが国籍が違うのでは?と思う理由は理解していただけただろう…。
容姿に日本人らしさが何一つないのだ。
「サク、おはよう。
メシ出来てんぞ〜!」
オレはテーブルに並べている食事を指差しながらサクに報告する。
サクは了解の意味でか、欠伸をしながら俺に右手を挙げ、食事の席に着く。
「サク坊っちゃん、おはようごぜぇや〜す‼︎」
皆が席に着いて味噌汁をズズズ…っと啜っているサクに頭を下げる。
それに対してサクは味噌汁を一度啜るのをやめて、皆の方に手を上げて「あぁ、おはよう」と返していた。
そんなこんなで俺はメシを食い終わり、食器をシンクに置いたあとリビングに戻る。
すると丁度同じタイミングに親父がリビングに顔を出した。
「組長‼︎おはよーごぜーやす!」
「おはよう親父。」
組の皆とサクが親父に挨拶する。
それに対して親父は「おう!」と返した後、サクとオレに目を向けた。
「そうだサク、楽。
近ぇうちにてめーらに
「はいよ。」
「……?
大事な話…?」
サクは素直に返事をするものの、オレは大事な話とやらが気になって聞き返してみるが返ってこなかった。
「…っと、いけねぇ。
これじゃ遅刻しちまう…。」
ふと腕時計を見ると普段家を出る時間より大幅にずれていた。
内心諦め気味にその言葉を口にしたのだが、竜が目を輝かせて食らいついてきた。
「なにィ⁈
そいつぁいけねぇ‼︎
すぐにリムジンを御用意しろ‼︎」
竜が部下に指示を飛ばす。
すると部下が8m級のリムジンを用意しようとしたが竜がまたもやくらいついた。
「バカヤロウ、15m級のをだ‼︎」
竜は額に青筋を浮かべて部下を怒鳴りつける。
オイオイオイ⁉︎
学校にリムジンはダメだろう⁉︎
車自体が目立つのに15m級のリムジンはダメだろう‼︎
そんな時オレに救世主が現れた。
「バカヤロウはお前だ、バカヤロウ‼︎」
そう、それは兄貴であるサクだった。
サクは竜の額に右手を翳しデコピンをする。
そうだそうだ‼︎
サクもっと言ってやれ!
いやー本当に持つべきものは頼れる兄貴だな。
竜は額を抑えながらサクに反論する。
「止めねぇでくだせェ、サク坊ちゃん‼︎
儂等は坊ちゃんたちを遅刻させたくなく「小さい」…え?」
竜の反論にサクがボソッと何かを呟いた!
「15m級じゃ小さいって言ってるんだよ、もっとでっかいの持ってこい!」
サクの言葉に一瞬竜の思考は止まったが、すぐに理解したのか部下にまた指示を出す。
そしてサクは呆然としているオレに気がつくと、サムズアップしながら「な?」と同意を求めてきたがオレはただ呆然としているのだった。