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磨き上げられた車体は黒く美しい光沢を放ちながら、20mはあろうかという長い胴体を持つ車体を4輪のタイヤが支えている。
その車の車名はリムジンである。
高級車で知られる大型乗用車。
そのリムジンが高層ビルなどが建ち並ぶわけでもない、普通の民家が並ぶ街中を走り抜けて行く。
リムジンと街中ですれ違う人々は珍しさからか、恍惚とした視線や興味の視線を向ける。
そのリムジンはというと、そんな様々な感情の込められた視線の中を進んで行く。
が、リムジンはある建物の前で停車する。
建物は学校…高校である。
学校の名前は凡矢理高校。
凡矢理高校はどこぞの貴族、名家のご子息、ご令嬢がリムジンやベンツといった高級車で送り迎えがある超お金持ち学校である。…はずもなく、ごく一般的な公立の高校だ。
リムジンが停車すると校門を潜り抜けようとしていた生徒達が何事かと足を止め、リムジンに視線を向ける。
そして皆が視線を向けるのを待っていたかのようなタイミングでリムジンの運転席や助手席、並走していた車などからたくさんの人が飛び出して来た。
その者達の格好は皆が皆、スーツでビッシリと決めたり、顔に生々しい傷跡があったり、刺青を入れてあったりとかなり厳つい連中だ。
先ほど足を止めてリムジンに視線を向けていた生徒達は視線を慌てて逸らし、絡まれないようにと足早に校舎へと足を進める。
スーツ集団は車から飛び出すとすぐに校門へと列をつくり整列する。
助手席から降りて来た集英組の龍がリムジンの後部座席の扉を開いた。
するとリムジンの中からニコニコと爽やかな笑みを浮かべて降りてくる超絶美男子である佐久間と重たい足取りで降りてくるごく普通な容姿の楽が降りて来た。
「…では坊っちゃん方!!
今日も元気に行ってらっしゃいやせ!」
…「「「「行ってらっしゃいやせ!」」」」…
龍が声を張り上げて佐久間と楽に送迎の挨拶を送ると、整列をした組の者達が後ろで手を組み、龍に続くように声を張り上げて佐久間と楽に挨拶をした。
「おう、行ってくる!」
そんな龍達に対して佐久間は爽やかな笑顔で返した。
一方楽はというとヒソヒソとこちらをチラチラ見ながら話し合っている周囲の目を気にしてか、大きな溜息を吐いてテンションが下がっている様子だ。
「あん?何見とんじゃわりゃ。
坊っちゃん方に文句でもあるんかい、おお?」
楽が大きな溜息を吐いた直後だった。
角刈り頭の組の者がこちらを見ながらヒソヒソと話していた生徒に額に青筋を浮かべて絡み出したのだ。
絡まれた生徒はというと声にならない悲鳴を上げて白くなっていた。
それを見た楽は何の迷いもない動作で左足の靴を脱ぐとプロ野球選手も驚くであろうほどの華麗なフォームで靴を投げつけようと試みる、が…それをするのには至らなかった。
いつの間にか角刈り男のすぐ隣にまで寄って来ていた佐久間が角刈り男の頭を右手だけでガシッと掴むと、そのまま吊るし上げたのだ。
身長が182cmある佐久間が角刈り男の頭を吊るし上げる様はさほど違和感を感じさせなかった。
が、それは高さの意味での話である見た目がモデルのような佐久間がガタイのいい体を持つ角刈り男を吊るし上げる筋肉がどこにあるのか…疑問だ…。
「ぐぅあっ!…あっ…。」
あまりの痛みに苦痛の表情を浮かべ呻く角刈り男。
実際、頭がミシミシと軋むような音を上げているので痛いのであろう。
角刈り男はこめかみの辺りをガシッとホールドされていることによる激痛から佐久間の腕を掴み、振り払おうとするが佐久間の腕は鉄のように硬くそれは叶わなかった。
佐久間の腕から手の甲にかけてミミズの様な血管が多数浮き上がっている。
「人様に迷惑をかけるな…いいか?」
佐久間は車を降りた時と変わらず、爽やかな笑みを浮かべてはいるものの目が寒気を与えるほどの殺気を放っている。
角刈りは激痛のせいか声を出せずに首だけで2、3回コクコクっと重々しく頷いた。
それを見た佐久間は満足そうに頷くとパッと手を放す。
「っ……サク坊っちゃん申し訳ありませんでした。」
角刈りさんは手を放されたことにより地面に崩れ落ちたが、激痛を堪えた表情で慌てて四肢と頭を地に付け佐久間に謝罪した。
「あぁ、次は気をつけろよ。」
佐久間は部下の謝罪を受け止めると、絡まれていた生徒に向き直った。
「怖がらせてすまなかったな。
…ただ…言いたい事があるならはっきり言えよ?
俺もこいつみたいに間違える可能性があるから、な?」
佐久間が笑顔を浮かべたまま絡まれていた生徒に謝罪&忠告をした。
佐久間が忠告をしたのは絡まれていた生徒が佐久間と楽の陰口を言っているのをたまたま聞いていたからだ。
佐久間は角刈り男が陰口を聞いて佐久間達のために絡んだのなら許すどころか礼を述べていただろう。
しかし角刈りはただただこちらを見ていたことに対してキレたのだ。
それ自体も佐久間と楽のことを思ってのことだったとしても見てくる程度で一々絡んでいるとキリがないし、それこそ陰口を言われる原因になりかねない。
「は、はは、はひぃぃい!」
絡まれていた生徒は佐久間の忠告を受けて顔面を一瞬で蒼白させて、返事をすると足早に校舎の方へと逃げて行った。
佐久間は一仕事終えたような爽やかな笑顔を浮かべて改めて辺りで今のやり取りを見ていたであろう者たちへと視線を走らせる。
佐久間が顔を上げて辺りを見渡すと、こちらを見ていた生徒が慌てた様子で目を逸らし、蜘蛛の子を散らすかのように足早に校舎の中へと消えていく。
集英組の者たちは自分たちも同僚のようになっていた可能性があったことにへの恐怖心からか冷や汗を流している。
幹部である龍は自分の部下への教育がなっていなかったことへの悔しさと佐久間と楽への申し訳の無さが顔に若干見て取れた。
そして楽はというと先ほどのやり取りでさらに周りから目立ってしまうと考えてか、テンションが更にダウンしている様子だった。
「おい楽!行くぞ。」
そんな楽の様子を気に留めることなく、佐久間は校舎に向かって歩き始めた。
「あ、そうだ…坊っちゃん方、ちょっと待ってくだせぇ。」
「ぅん?」
「なんだ?」
校舎に向かって歩き始めた佐久間と楽に龍が背後から制止の声をかける。
そんな龍に2人は足を止め、龍に向き直った。
「実ぁ最近、見慣れねぇギャング共がうちの島ぁ荒らし始めてやしてねぇ…。
サク坊っちゃんは兎も角、楽坊っちゃんは気ぃつけてくだせぇ。」
「は?ギャング⁈」
「ほぅ…ギャング、か。」
楽は龍が話した内容に素っ頓狂な声をあげて驚いた。
それに対して佐久間は顎に手を当て興味深気に呟いた。
「実ぁ昨日もドンパチやったばっかりで…。」
「ちょいと右耳を飛ばされやしたが、なーにへいきでさぁ。」
龍と右耳にガーゼを充てたスキンヘッドの組の者が何故か照れ気味に普通じゃありえないようなことをカミングアウトし出した。
「ブーーー!!」
右耳を飛ばされたと聞いて楽が噴き出し、クラクラとしながら「もう嫌だ…。」と呟いた。
「そういうことですんで坊っちゃん方くれぐれも気をつけてくだせぇ。」
「あぁ。
龍、ヤられたぶんは殺り返せよ?
集英組を嘗めさせるな。」
「了解でさぁ、サク坊ちゃん!」
佐久間は龍の言葉に返事をすると再び校舎に足を向けた。
そしてその後ろに楽が続く…が、その足取りは誰から見ても重かった。