陽だまりに抱かれて   作:苺ノ恵

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1.朝日

氷の結晶が降り注ぐ。

空も森も山も田んぼも、そして村も。

全ての景色が冬の息吹に中てられて、大地は春まで深い眠りにつく。

春から秋にかけて精を出してきた農夫たちは、嫌が応にも束の間の休息を強いられる。

カーン、カーンと鉄が木を叩く音が山の斜面を撫でる。

倒された樹木は、その逞しい幹を雪原に打ちつけて、キラキラと幻想的な光霞を映し出す。

「___よし、このくらいでいいかな?」

額に浮かんだ汗は、冬の冷気にさらされスゥと引いていく。

木炭の材料となる木を伐採していた、額に火傷痕のある少年の名は竈門炭治郎。

竈門家の長男にして、一家の資金源を支える若干12歳の少年である。

彼の家では木炭作りを代々営んでおり、早くに父親を亡くした人一倍家族思いの炭治郎は、家族を少しでも楽させようと、こうして厳しい季節にも関わらず日々の仕事に生真面目に取り組んでいた。

「…いや、去年よりも炭の消費量が増えてる。もう少しだけ頑張らないと」

血豆のできた手のひらに、フゥと息を吹きかける。

かじかんだ指先に僅かばかりの熱を送り、斧の柄を握り直す。

そして今日も少年は斧を振るい、御山にその綺麗な音を響かせ続ける___はずだった。

 

◇◇◇

 

「___炭治郎。ちょっと、足見せて」

ギクッ!?

薪を家の前に降ろし、道具の後片付けをしようと歩いていると、突然姉さんに呼び止められた。

「な、何?姉さん?俺これから炭を売ってこないといけないから…話なら帰ってからで…」

ジリジリと後ずさり、踵を返す。

「グエッ!?」

「こら、逃げないの」

襟を掴まれ首元が締まる。

そのまま成す術もなく、家の中に引きずり込まれる。

「っつ…!?」

上がり框に座らされ姉さんに足首を掴まれた時、鋭い痛みが右足を突き抜け思わず声を漏らす。

足袋を外して見ると、俺の右足首は腫れあがり皮膚は青く変色していた。

「やっぱり、怪我してるじゃないの。いつもより戻るのが遅いから可笑しいと思ったら…」

観念した俺は、俯いて姉さんの小言をひたすら浴び続ける。

でも、俺が痛がらないよう優しく布を巻いてくれる姉さんは、そんな俺に諭すような声音で問い掛ける。

「炭治郎?私たち家族のために頑張ってくれるのは嬉しい。でも、それで炭治郎が痛い思いをすると、姉さんも痛いんだよ?」

「?姉さんはどこも怪我してないじゃないか」

俺の返しが予想外だったのか。

姉さんはため息を吐きながら患部を固定するため、布を少し強めに結ぶ。

ちょっと凄く痛いからやめて欲しい。

「…あんた、そんなこと言ってると将来付き合う女の子に愛想つかされるよ?」

どうしてそんな話になるのか皆目見当もつかないが、とりあえずこれでは山を下りるのに支障がでるため心ばかりの反論を返す。

姉さんが怖いから目線は外して。

「ええ…。…というか姉さん?こんなに固く結ばれると歩きづらいんだけど…」

「あんたは今日はお留守番。炭は私が売ってくるから」

既に防寒具を着込んだ姉さんが玄関を出ようとしている。

それに気づいた俺は必死で止める。

「ええっ!?ダメだって姉さん!今から行ったら帰りが夜になるしなにより危ないよ!それに、あんなに重たいもの姉さんに持たせるなんて___」

「ん?なんか言った?」

そこには、俺以上に大量の炭を入れた籠を背負う姉の姿があった。

【挿絵表示】

 

「ええ…」

俺の自尊心はいつも姉さんの何気ない行動によってズタズタにされる。

「大丈夫。何かあってもお父さんがきっと守ってくれるから」

姉さんは両耳にある日輪の描かれた花札風の耳飾りに触れながら微笑む。

「それより、あんたは六太の面倒を見ててあげて。あの子、そろそろ起きる頃だと思うから」

そう言うと居間のほうから元気な泣き声が聞こえてくる。

「おー六太~、兄ちゃんだぞー?ほーらよしよし」

俺が四つ這いで移動し、ぐずる六太をあやし始めると安心したのか、また目がうつらうつらとしている。

「それじゃ、後はよろしくね?炭治郎」

「あ、姉さん!ちょっと待って…。あーもー!気を付けて!絶対に暗くなるまでに帰るんだぞ!」

「はーい」

間延びした姉さんの返事。

何故かこの時、不思議と安堵した。

何に対してかは分からない。

そんなことを思った時にはもう姉さんの姿はそこになかった。

 

◇◇◇

 

母さんに炭治郎の容態を伝え、自分が炭を売りに山の麓まで出向く旨を送ると、心配しながらも送り出してくれた。

帰りにお土産買って帰らないとね。

炭の売れ行きは上々で、家族に美味しいものをお腹いっぱい食べさせてあげられると喜んでいると旅館の女将さんから声を掛けられた。

なんでも、従業員の一人が体調不良で厨房がてんてこ舞いとのことだ。

炭治郎に早く帰るよう言われてるけど、人助けのためならきっとあの心優しい弟は許してくれると、女将さんからの要望に少し迷いながらも首肯する。

戦場のような厨房の喧騒を潜り抜け、大きなお風呂で疲労を癒す。

女将さんが今日のお礼にお給金と、椿油を渡してくれた。

一応手入れはしているつもりだったが、お洒落のために使うお金もない私の髪は少しばかり傷んでいるようで、女将さんのご厚意を嬉しく思いつつも、ちょっと悲しいような気分になった。

御夕飯も久しぶりにお腹いっぱいになるまで頂いた。

私は、私だけが贅沢していることに罪悪感を感じ、家族の皆に心の中で謝りながら眠りについた。

日は昇って朝になり、身支度を整えて旅館を後にする。

「女将さん、この度はありがとうございました。色々とご馳走になってしまってすみません」

「いいのいいの。本当に助かったわ。お給金も少ししかあげられなくてごめんなさいね。___あとこれ、炭治郎君に」

女将さんは懐から貼り薬を取り出し、私に差し出す。

「あんたがいないとウチの調理場の火が絶えることになるから、早く治しなさいって伝えといてね?」

「分かりました。きちんと言い聞かせておきます。___本当にいろいろとありがとうございます。では、私はこれで」

「今度は炭治郎君と二人でいらっしゃいな」

「はーい!」

「またね!____」

 

 

 

 

「___禰豆子ちゃん!」

私は女将さんに手を振り、お土産を入れた籠の重さに心躍らせつつ我が家へ歩き出す。

早くみんなにお土産あげないとね。

炭治郎が約束を破ったことに対して可愛らしい小言を言ってくる様子を思い浮かべつつ私は駆けだした。

 

 

 

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