陽だまりに抱かれて   作:苺ノ恵

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10.質問

 

 

 

 

夜の巡回を終え、宿の戸をくぐって数刻。

雪山の山頂から青白い光と共に朝陽が昇る。

胡蝶が引きつれた隠の隊員による周辺情報の収集結果をまとめつつ、今回のことについて少しばかり頭を回す。

竈門一家は鬼に襲撃され、山の麓に降りていた長女は無事。

長男である竈門炭治郎なる少年は鬼となる。

残された遺体の損傷具合。

そこから見える鬼の痕跡の無さ。

鬼になった人間がいるのにも関わらず鬼の痕跡がないという矛盾。

何よりも引っかかるのは、人を喰わない鬼の存在という事実。

禰豆子は鬼の襲撃を受ける前日の正午より麓に降り、翌日の明け方に家路に着いたと言っている。

鬼の襲撃であるからには、家族の死亡推定時刻は日没から夜明けまでの間。

いや、布団などの寝具が準備されておらず、遺体が寝間着のような身なりであったことから察するに、夕食後から身を清めるまでのおよそ三の刻。

その時間帯に家族は息を引き取った。

しかし、遺体に裂傷等の傷はあるが欠損はなく、なにより歯形がどこにもなかった。

食事が目的でないのだとしたら、鬼が竈門家を襲撃する理由は何だ?

禰豆子の持つ、特殊な呼吸が関係している?

そもそも、襲撃者は鬼なのか?

いや、それを肯定すると炭治郎が鬼になった説明がつかない。

ならば考えられることは二つ。

一つ、鬼に与する人間が鬼を増やすために何らかの方法で人の傷口に鬼の血をかけた。

二つ、十二鬼月である上弦の月、または鬼の祖である鬼舞辻無惨の襲撃を受けた。

一つ目は考えたくもない事態だ。

もし、鬼に与する人間がいるのであれば、俺は人の頸まで斬らなくてはならなくなる。

二つ目だった場合は好都合だ。

数少ない十二鬼月と鬼舞辻無惨の情報。

奴らの息の根を止めるための手がかりが、僅かばかりでもみつかったことになるのだから。

「さて…」

そろそろ、胡蝶があの姉弟の情報を聴取し終えている頃だろう。

俺は羽織を纏うと山頂を目指し歩き始めた。

 

◇◇◇

 

事は半日ばかり巻き戻る。

鬼となった禰豆子ちゃんの弟、炭治郎くんに襲撃した鬼の情報について聴取しようと試みたのだが、思わぬ事態に陥っていた。

「ムームー!」

「えっと…ごめんなさいね?ちょっと分からないかなぁ?」

「ムー!!」

細心の注意を払いつつ、炭治郎くんの口枷を外し、いくつか質問してみたが先ほどからこの調子である。

ただ、こちらの言っていることは理解できているようで、禰豆子ちゃんの指示に従ってお茶の用意なども行っていた。

そのため、少し質問の仕方を変えて訊ねることにする。

「じゃあ、炭治郎くん。私の言ってることが合ってる・肯定できることなら一回ムー。間違ってる・否定することならムームーでお願いできる?」

「ムー!」

「うん、いい子ね。じゃあ、第一問は…禰豆子ちゃん、お姉ちゃんのことは好き?」

「ム………」

どうしよう。

場を和ましたくて少し揶揄っただけなのに、炭治郎くん凄く照れてる。

顔を真っ赤にしてて可愛い。

思わず抱きしめそうになった。

私の弟にならないかしら?

「ふふふ…ごめんなさい?お姉ちゃんの前じゃ恥ずかしいわよね?」

「ムー…」

ジト―っとした目を向けられて謎の悦びが胸を打つ。

私が新たな世界に目覚めかけていると、座敷に現れた禰豆子ちゃんがお茶の入った湯飲みを私の前に置く。

「?どうかしたんですか、胡蝶さん?炭治郎も何かあった?」

「ムームー!!」

「ム?」

「禰豆子ちゃん、炭治郎くんはね?」

「ムームームームー!!!」

「…ホントにどうしたの炭治郎?」

必死に私の羽織の裾を掴んで、先ほどのことを話さないよう懇願してくる炭治郎くん。

この時、鼻血を出さなかった私を褒めて欲しい。

「___では、改めて。炭治郎くん、正直に答えてね?貴方は今、自分が鬼になっているという自覚はある?」

「ムー」

「私や禰豆子ちゃんのことを美味しそうって思う?」

「………ムー…」

「食べたいって思う?」

「ムームー!!」

「禰豆子ちゃんの血を舐めて、人を食べたいという気持ちは落ち着いた?」

「ムー!」

「今はどうかしら?また人を食べたいって気持ちが強くなってる?」

「ムー…ムー…」

「少しずつお腹が空いてる感じかな?」

「ムー」

「あと、どれくらい持ちそうかな?例えば明日までは?」

「ムー!」

「もっと長くても大丈夫?」

「ムー」

「じゃあ、二日は?」

「ムー!」

炭治郎くんが指を折って私に示してくる。

「五日?そんなに?」

私が少し判断に困っていると、禰豆子ちゃんが少し強い口調で炭治郎くんを窘める。

「嘘。炭治郎、正直にって言われたでしょ?本当は何日?」

「………」

炭治郎くんは少し目を逸らしながら恐る恐る禰豆子ちゃんの顔をみて諦めたように目を瞑った。

そして、指を一本戻して四にした。

しかし、禰豆子ちゃんの追及はこれで終わらなかった。

「それってまだ相当無理してだよね?炭治郎、これが最後だよ?何日?」

「………ムー」

三日。

「すみません、胡蝶さん。見ての通りです。炭治郎は昔から人のためだったら自分が損をすると分かっていても、平気で自分の気持ちに嘘を吐く子なので。細かいところは私に任せて下さい」

「………」

炭治郎くん…。

禰豆子ちゃんの圧に押されて縮こまっちゃった…。

何なの?この可愛い生き物。

それと、禰豆子ちゃんって凄くしっかりしてるのね。

私とは大違い…。

姉としての気構えで完敗して、多少落ち込む。

「そ、そう。じゃあ、お願いするわね?」

やめて炭治郎くん。

そんな捨てられた子犬のような眼で私を見ないで。

今夜も、いつもとは違う意味で長い夜になりそうね…。

私は炭治郎くんの救済の眼差しを有耶無耶にするかのように、湯飲みのお茶を傾けた。




中々鱗滝さんが登場しない…。

おじいちゃん、もうちょっとだけ待っててね?
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