陽だまりに抱かれて   作:苺ノ恵

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12.初陣

 

 

 

 

 

 

「____遅い」

 

 義勇の鎹鴉から、鬼を連れた娘、竈門禰豆子を儂に預けたいという旨の手紙が届いて数日。

 

 女子の身体能力からして、もうそろそろこの狭霧山に到着してもおかしくない頃合いだ。

 

 真菰の時もそうだったが、女子に対して儂は少しばかり過剰な心配性を持つようだ。

 

 こればかりは、墓に入るまで治ることはないと思っている。

 

 本来、ここにたどり着くことすらできないような者に指導をするつもりなど毛頭ないのだが、他ならぬ義勇からの頼みだ。

 

 聞き入れぬわけにはゆくまい。

 

 儂は重い腰を上げ、様子見がてら山の麓を散策することにした。

 

 空には夕陽が、山の陰に飲み込まれようとしていた。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

「あぁ…?なんだ、テメェらは?」

 

 噎せ返るような血臭。

 

 神社の床に飛び散る肉片。

 

 肉を削ぎ落とされ、白い骨が覗く、人であったものの残骸。

 

 鬼だ。

 

 人を喰う鬼だ。

 

 私はすぐさま短刀の柄に右手を掛けて、大きく呼吸をする。

 

 そんな私を頭のてっぺんから爪先まで、舐めまわすような視線を向けた鬼は、口元に付いた血を舌で舐め取ると嬉しそうに頬を横に引く。

 

「妙な匂いだ…。おい、小僧?お前鬼だろ?」

 

 目の前の鬼は、今しがた喰らっていた女性の腕を、無造作に放り捨てると私を指さして言った。

 

「一口目はくれてやるから、俺にも少し分けろよ。ソレ、こんなのよりよっぽど美味そうだっ…!」

 

 気持ち悪かった。

 

 女性として生理的になんて話じゃない。

 

 人としてこの鬼に対して嫌悪感以外の感情が湧かなかった。

 

 呼吸が浅くなる。

 

 私は気がつかない内に、鬼の言に惑わされて呼吸を乱してしまっていた。

 

「何だ?喰わねえのか?なら俺が貰うぜ____」

 

 鬼が私に近づくため、一歩目を踏み出した瞬間。

 

 グシャリッ…。

 

 鬼の頭部が弾け飛んだ。

 

「え?」

 

 突然の現象に混乱していると、数瞬後に突風が起こる。

 

 その風を受け市松模様の羽織が棚引く。

 

 鬼の頭部を消し飛ばしたのは、炭治郎の容赦ない頭突きだった。

 

 板間を粉砕するほどの途轍もない瞬発力で加速した炭治郎が、勢いそのまま頭突きを喰らわせたらしい。

 

 元々石頭だった炭治郎のおでこが、鬼の身体能力が加わって最早凶器と化していた。

 

「うそぉ…?」

 

 炭治郎はこちらを振り向き謎のドヤ顔をしている。

 

 自分はくらっていないのに思わずおでこに手を置いてしまった。

 

 私が今後、炭治郎のおでこには注意しようと考えていると、頭部を失った鬼の身体が急に動き出し、炭次郎の頸を後ろから締め上げる。

 

「ゥゥゥウ!!」

 

「炭治郎!?」

 

 鬼って頭が無くても動けるんだった。

 

 胡蝶さんの話を今しがた思い出し猛省した私は炭治郎を助けるため、すぐさま行動に移す。

 

 私は腰を落とし大きく息を吸い込んで、短刀を引き抜く。

 

「【水の呼吸 壱ノ型 水面ぎ___」

 

 しかし、私はそこで型を放つことを躊躇ってしまった。

 

 あの鬼、見た目よりも頭が回るようで(今は頭がないけど)、私との間に炭治郎の身体が入るような位置取りをやり続けている。

 

 鬼にしてみれば、炭治郎は自分を守るための肉壁、盾のような役割でしかない。

 

 しかし、私にしてみればそれは私の命より大切なもの。

 

 皮肉にも鬼を殺しうる力を自分が持っていると知ってしまったが故に、鬼である炭治

郎を盾にされては万が一を考えて思い切った踏み込みこみができない。

 

 今のまま踏み込んで技を放っても、炭治郎の胴を真っ二つにしてようやく鬼に届くかどうかといったところだ。

 

 勿論、私は炭治郎を傷つけることなんてできない。

 

 だが、このままでは鬼が頭部を再生する時間を与えてしまうばかりか、炭治郎が苦しい思いをし続けることになる。

 

 胡蝶さんが言うには、鍛錬の出来ていない現在私の身体で可能な型の行使は二回が限度らしい。

 

 確かに、冨岡さんに無我夢中で放った一撃だって、それだけで吐血して倒れるくらい身体は摩耗していた。

 

 時間が経てば経つほど、体力の無い私は不利になる。

 

 だからと言って、焦って不用意に飛び込み技を外せば私は動けなくなり、それこそ死は免れない。

 

 どうする…!

 

 私が決断できずに迷っていると、炭治郎が必死に下を指さしていることに気がつく。

 

 そして、中に浮いている足を見て私は炭治郎の意図を理解した。

 

 もう鬼の顎が再生しかかっている。

 

 攻撃の機会はここしかない。

 

 両足に力を込めて一気に距離を潰す。

 

 私は盾にされた炭治郎の目の前まで接近すると、左膝が床に付くほど姿勢を低くし、その勢いを刃に乗せて振り抜いた。

 

「【水の呼吸 壱ノ型 水面斬り】!!」

 

 鬼の両膝の位置に、一筋の斬撃が迸る。

 

 両足を断たれた鬼は膝をつくようにして平衡を崩す。

 

「ムン!!」

 

 それによって、両足を床に付けて踏ん張ることが可能になった炭治郎が、自身の頸を締め付けている両手を掴み、拘束から逃れると腕を捻って逆に鬼の動きを封じる。

 

「ムー!!」

 

 炭治郎が作ってくれた隙を無駄にしないため私は再び全集中の呼吸を行う。

 

 しかし___

 

「___ゲホッ…!」

 

 初めての鬼との戦闘に私の身体は想像以上に疲弊していたようで、両足に力が入らず全集中の呼吸を行う余裕すらなくなっていた。

 

 しかし、相手は両膝から下を無くし、炭治郎の拘束によって頸の位置が下がっている。

 

 これなら、片膝立ちしている今の私の体勢でも、刃は届く。

 

「【水の…呼吸 壱ノ…型 水面…斬り】!!」

 

 私は力を振り絞って刀を振り抜く。

 

 鬼の固い皮膚を破って骨に刃が食い込む感触が両手に伝わる。

 

 しかし、その感触が手に残るということは、鬼の首を断てていない証明に他ならない。

 

 諦めるな。

 

 力を込めて!

 

 最後の最後まで!

 

「ぁぁぁあああ!!!」

 

 でも、いくら大きな声を出して自らを鼓舞しようと、力を籠める刃はピクリとも動かない。

 

 もう、両手から短刀が離れそうになった時___

 

「ムーン!!」

 

 炭治郎が驚きの行動に出た。

 

 炭治郎の拘束に拮抗していた鬼の力を、腕を捻った拘束をワザと緩めることでその勢いを利用し、空中で回転しながら鬼の頸に回し蹴りを叩きこんだのだ。

 

 その狙いは、鬼の背後から切り込んだ私の短刀の切っ先。

 

 私の握った短刀の柄を支点に高速で加速した切っ先は、何不自由なく鬼の首を刎ねた。

 

 ついでに私もそのあまりの加速に負けて吹っ飛ばされた。

 

「ムー―――!!!?」

 

 やってしまった。

 

 そんな表情を浮かべながら、焦ったような、心配したような声をあげながら倒れた私にしがみついてくる炭治郎。

 

「だい…じょうぶ。大丈夫だよ、炭治郎。私と炭治郎の勝ち。悪い鬼はやっつけた」

 

 日輪刀で頸を断たれた鬼は灰になって消える。

 

 冨岡さんに聞いた通り、もう目の前の鬼の身体は殆ど崩れていた。

 

 鬼の消滅を確認していると急激に瞼が重くなる。

 

 私は奥底に沈んでいく意識の中、寝言のように呟く。

 

「あー、でも、失敗したなぁ…。炭治郎を人間に戻す方法…聞きそびれちゃった…」

 

「ムー!ムー!!」

 

「ごめん…たんじろう…ちょっとだけ…ねかせて…」

 

「ムー―!!!」

 

 そしてまた、私は眠った。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「鬼を人に戻す…か」

 

 そのような夢を抱く者など、儂は聞いたことすらない。

 

 鬼とは殺すか殺されるか。

 

 その二択を迫る生き物でしかない。

 

 共存など夢のまた夢。

 

 だが、儂は見てしまった。

 

 鬼と共に悪しき鬼を討ち滅する。

 

 気高き少女の姿を。

 

 それでも儂は、問わずにはいられない。

 

「禰豆子…お前は___」

 

 

 

 

 

 

 

 

___弟が人を喰った時、果たしてお前はどうするのだ?と___

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




おじいちゃん登場だけど全然禰豆子と絡まなかった…。

やはり水の呼吸の一門はちょっとアレなの…?

修行になってなくてごめんなさい。

実践は修行の10倍の経験値が得られるって某恋する柱が言ってたので
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