陽だまりに抱かれて   作:苺ノ恵

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BOXイベお疲れさまです。




14.日常

 

 

 

 

 

 水滴が落下するような静けさで木刀の切っ先が肩口を抉る。

 

 仰け反った勢いを利用され、宙を一回転させられては地面に転がされる。

 

 此方の攻撃は一切当たらず、相手の攻撃のみが一方的に通る。

 

 何の妖術だと私は嘆いた。

 

「禰豆子。お前には確かに才がある」

 

 鼻先から落ちた汗が地面に落ち、そこに人影が滲む。

 

「剣道としてなら、お前の才は遺憾なくその本領を発揮できるだろう」

 

 私は急いでその場から退く。

 

 しかし、私の浅はかな考えなどお見通しだったのだろう。

 

 地面に着いた手の甲を、木刀の柄で抑えられて動きを封じられる。

 

「だが、お前の求める…鬼殺の技術とは、こういうことを言うんだぞ?」

 

「っっ!?」

 

 ミシミシと手の甲が嫌な音を立てる。

 

「敵から目を逸らすな。痛みに気を取られるな。すぐさま決断しろ。このまま腕を潰されたいのか?」

 

 私は利き腕ではない左手を引き、相手の木刀を握る指を目がけて木刀を振る。

 

「いい判断だ」

 

 しかし、初動の段階で木刀の持ち手近くを足で押さえ込まれてしまう。

 

「故に惜しいな」

 

 そこまで言うと、私の相手をしていた天狗のお面を付けたご老人。

 

 鱗滝左近寺先生は私の拘束を解くと、私が起き上がりやすいよう手を差し伸べて下さる。

 

「…ありがとうございます」

 

 存外、私は負けず嫌いだったらしい。

 

 子供が大人に敵う筈も無いのだが、それでも一太刀も届かなかったことはすごく悔しい。

 

 そんな、子供っぽい態度でお礼の言葉を返す私を見て微笑むような雰囲気を出した鱗滝先生は先ほど言いかけた続きの言葉を溢す。

 

「やはり、お前は女子なのだな」

 

「先生には私が男子に見えるんですか?確かに女の子にしては、ちょっとばかり髪が短いかもしれませんけど…。それでも私ちょっと傷つきました」

 

 遠回しに心の中で義勇さんに舌を出す。

 

 今度会う時までに髪を伸ばして、お洒落な簪を強請るとしよう、そうしよう。

 

 私が本当は気にしてないことを先生は匂いで理解してる。

 

 そのくらいのことが分かるくらいには、私は先生を信頼できていた。

 

「いや、容姿のことを言っているのではない。お前の戦い方のことだ」

 

「私の水の呼吸の型、何処かおかしいですか?」

 

「型自体は実に綺麗なものだ。___不自然なほどに」

 

「…私には過ぎた技術だということは重々承知してます。でも、私は__」

 

 私を助けてくれたこの呼吸で、今度は私が誰かを助けたい。

 

 そんな思いが喉元までせりあがるが、先生の言葉に私は詰まる。

 

「そもそもお前の水の呼吸はあの子の模倣だ」

 

「………やっぱり、分かるものなんですね」

 

「柱を手本とすることは間違っていない。だが、それはあの子が…義勇が弛まぬ修練と研

鑽の先に磨き上げたものだ。当然、今のお前には手に余るものであることは自覚できているだろう」

 

「…はい」

 

「水は定まった形を持たない。どんな形にでもなれる。禰豆子、お前はお前だけの、自分の呼吸を見つけろ。結果、それが水の呼吸以外でも儂は一向に構わん。呼吸に操られるのではなく、お前が呼吸を操るんだ。いいな?」

 

「はい!」

 

 そして先生は言った。

 

「よし、では今日の素振りは1000回追加だ」

 

「えッ…?」

 

 私が何かを言う前に先生の姿が消える。

 

 私は稽古の鬱憤も相まって、遂に感情を抑えきることができなかった。

 

「先生の鬼~っ!!?」

 

 私の声が狭霧山に木霊する。

 

 ここに来て既にひと月の時間が流れようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「今戻った」

 

「ムー!」

 

 母屋に着くと炭治郎が茶の入った湯飲みを渡してくる。

 

「おお、すまない」

 

「ムー」

 

 すぐさま窯の様子を見に戻る。

 

 どうやら夕餉の支度をしているらしい。

 

 どういうわけか炭治郎は人と同じ食事をする。

 

 太陽には当たれず、3日に一度、禰豆子の血を摂取する必要があるが、それ以外は至って普通の子供だ。

 

 一度試しに儂の血を与えてみたが炭治郎は口にしようとすらしなかった。

 

 昼は母屋で睡眠をとり、夜はひたすらに鍛錬をしている。

 

 ここを訊ねて一週間の間は、隠の協力を得て炭治郎が人里に降り、人を襲わないか監視していたが、全くそのような素振りもなく、逆に炭治郎は禰豆子から離れようとはしなかった。

 

 不思議なものだ。

 

 何百体と鬼の頸を落としてきたが、その鬼とこのように生活を共に送ることになるなど考えもしなかった。

 

「ムムー?」

 

 いつの間にか湯飲みは空になっていた。

 

 炭治郎は急須を持って追加の茶を注ぎにきている。

 

「いただこう」

 

 人の厚意…いや、この場合は鬼の厚意か?

 

 ともかく厚意を無駄にするものではない。

 

 儂は注がれた湯飲みの中に茶柱が立つのを見つつ、何とも言えない穏やかな時間を過ごした。

 

 

 

 

 

 

 

 




二週間ぶりの投稿です。

今回はまったりとした気分で書きました。

おじいちゃんとの団欒は書いててすごく心が和みます。

次回は細かい修行の様子やおじいちゃんの指導を受けられるようになるまでの流れを書けたらなと思ってます。

できる限り早く投稿したい。

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