鬼滅ロスからようやく立ち直れてきた。
劇場版公開までに無限列車編まで進めたい(絶望的観測)
炭治郎は思考する。
鬼とは本来、本能に従う生き物だ。
腹が空けば人を襲い、その血肉を喰らって腹を満たす。
血の呪いには滅法従順であり、鬼としての生き方に何処までも伏する。時としてそれは思考の放棄という、人として与えられた特権の忘却さえ些末なこととして捉えてしまう。人を辞めるとはそういうことだ。
炭治郎は思考し続ける。
鬼を滅する。
それは当然のことだ。
鬼は人を喰らう。
人を殺す。
大切なものを奪っていく。
だから人は奪われる前に、大切なものを守るために鬼を討つ。
きっと、自分が今ここで目の前の老人に首を撥ねられたとしても、世間一般から見れば至極当然のことで、情状酌量の余地なんて皆無で、何故と問うても返答は皆同じ。
お前は鬼だから。
憎い。
俺は、鬼が憎い。
母さんを、家族を奪った奴らが、どうしようもないほど憎い。
何より、自分もその同族だという事実が耐えられない。
俺はあの時、姉さんの静止を振り切ってでも、己の頸を落とすべきだったのではないか?そうすれば、姉さんが俺を人間に戻そうと考えることも、鬼と闘う道を選ぶこともなかったんじゃないのか?
怖い。
姉さんが傷つくのも、命を危険に晒すのも。
でも、一番怖いのは、姉さんの側にいられなくなること。
俺は最低だ。
姉さんを守ると言っておきながら、本当は自分が姉さんと離れることが怖いから、だから俺は自分の頸を切れなかった。
俺にはきっと、鬼は殺せない。
だから、俺は強さが欲しい。
だから、俺は死ねない。
姉さんを守れないのなら、せめて、隣で一緒に闘うために。
俺は今を生き抜かなくてはいけない。
炭治郎は思考した。
そして、応えを得た。
「俺は俺【鬼】を___」
◇◇◇
風に乗って届いた、血の臭いとともに、炭治郎の纏う空気が変わったことを察知した鱗滝は日輪刀を構える手を下ろし、炭治郎の行った行為をただただ見つめる。
炭治郎はまず、蹲ったままの姿勢をやめ、地面の上に正座をした。そして、顔に突き刺さったままの小刀を引き抜くと、着ていた服の袖口を引きちぎり、小刀の刀身に着いた血を綺麗に拭き取っていく。柄を一切握ることなく、炭治郎は広げた掌の上に乗せた小刀をゆっくりと地面に置く。そのまま数秒、何かに謝罪するかのように頭を下げる。
鱗滝は困惑していた。目の前の鬼は一体、何をしているのだと。
左腕を切られ、両目を潰され、命の危機に瀕しているこの状況で、どうして闘わないのだと。自分の身を守るために儂を殺さないのだと。何故、そんな反省する子供の匂いを纏っているのだと。
炭治郎が頭を上げる。
両目は既に再生し、その目には光が戻っていた。
それでも鱗滝は刀を構えなかった。
否。
構える必要がなかった。
炭治郎はゆっくりと立ち上がると、再度、頭を下げて納屋の方向にトボトボと歩みを進めた。血が足りないのか若干ふらつきながら、それでも方角は違えず、一歩一歩確実に。
炭治郎は納屋に入ると、再び地面の上で正座の形を取った。そして、目を瞑って微動だにしなくなった。
鱗滝は頬が緩むのを。笑いがこみ上げるのを抑え切れなかった。
そう、炭治郎はただ、素直に鱗滝の言いつけを守ったのだと。
鱗滝は自分が戻るまでここ(納屋)にいろ、と炭治郎に伝えた。
だから、言いつけを破って外に出たことを謝罪し、言いつけ通りに納屋に戻ったのだと。
義勇が言っていたのはこういうことだったのかと、弟子の言葉を信じきれなかった鱗滝は自身の度量の浅はかさを恥じる。
(さて、お前の弟は予想以上の生き甲斐を見せたが…果してお前はどうする?禰豆子?)
吹き荒ぶ雪の結晶が月を覆う。
今夜は荒れそうだ。