雪は滑る。
これは雪山で育った者ならば誰もが持っている共通認識のはず。
氷の結晶が集合して象られたその冷たい雲のような物体は、蹴り出す足の力を逃がし、同時に熱を奪う。
摩擦係数という現代では証明された公式に当て嵌めても、雪の有無によって地面からの抵抗は大きく異なる。
禰豆子は考えた。
足が雪に取られるのであれば、取られない足にするのはどうかと。
それにはお誂え向きな素材がそこら中にあった。
鹿威しの竹を刀を振るって倒し、破竹の勢いそのままに竹を縦に割っていく。
割った竹を横一列に並べ、罠用に縛ってあった縄を拝借し、結びつなげていく。
禰豆子は図らずして現代のスノーボードを作成していた。
見た目も形もイカダそのものだが、表面の滑らかな竹は雪を押し固めつつ進むのに最適な形状をしている。
「これなら…お願い!進んで!」
藁にもすがる思いで禰豆子は竹の上に飛び乗る。
「っとと…!わっ、速い!!」
加速し続ける自身の身体に比例して、高速で過ぎ去っていく木々の風景。
細かな体重移動によって木々の間をすり抜けるように移動していく。
先ほどまで嵌りまくっていた罠の数々も発動前に移動してしまえば怖くはない。
この調子で行けば、夜明けを待たずして、出発位置の母屋にたどり着ける。
しかし、一つだけ問題があった。
「待って…ちょっと待って……これ、どうやって止まるのーーー!???」
結果だけ言えば禰豆子は定刻までに母屋へ戻ることができた。
決死の滑走を終えた禰豆子を見た鱗滝は、一言だけ言った。
「お前は竹を担いできたのか?」
と______
◇◇◇
時は現在に戻る。
追加の素振りを千回終えた私は母屋に戻り、湯あみをしてから炭治郎お手製の夕飯を摂りながら、鱗滝先生と試験のことについて話していた。
「まさか、あのような手段で試験を合格してくるなど思いもせんかった」
「先生がおっしゃっていたのは制限時間内にここまで戻ってくることであって、手段までは制限されていなかったので」
「二日目から同じことを毎朝、自分の足で降りてこいと言った時には死にそうな顔をしていたがな」
「あの時ばかりは先生のお顔が鬼に見えて仕方ありませんでした」
「ほう?まだ修行の量が足らんと見えるな?」
「先生は素敵な方です!そのお面も大変かっこいいです!」
「お前は儂を何だと思っている?」
「とっても厳しいけど、とっても優しい。本当のおじいちゃんような人だと思ってます」
「………素振り千回で許してやる」
「譲歩して千回!?しなかったらいくらだったんですか?」
「一万は軽いな」
「やっぱり先生は鬼です!!」
「さらに千追加!!」
「や〜〜〜!!!」
「____そう言えば禰豆子。お前宛に文が届いていたぞ」
「手紙?どなたからですか?」
「現・柱の一角。花柱・胡蝶カナエ嬢からだ」