第六感という言葉がある。
視覚、嗅覚、聴覚、触覚、味覚。
いずれの感覚器官にも該当しない私のこの感覚は一体なんと表現すればよいのだろうか。
私の右手の親指は幼いころから不吉の前触れには必ず強い疼きのような反応を見せる。
そのような時は決まって心臓がキュウっと小さくなるような感覚に襲われる。
お父さんが息を引き取る前にも親指がジクジクと鈍い疼きを訴えていた。
「…どうして今なの?」
まるで、生爪を剥がされたかのような強い痛みが指先から右手を駆け抜ける。
逸る鼓動に比例して、進める歩の数も徐々に増え、積雪に浮かぶ足跡の間隔が広がる。
「大丈夫…大丈夫だから」
どうしようもない不安感が胸中に渦巻き、吐き出す白い呼吸に独り言染みた焦燥感が滲む。
駆ける、駆ける、駆ける。
私はお父さんの形見である短刀を懐越しに握りしめ、家族が待つ家を目指し、雪原を強く踏みしめた。
◇◇◇
そこは地獄だった。
返り血の飛び散った室内に横たわる、私の大切な家族。
噎せ返るような血臭の中、私はフラフラと歩を進め、壁際に身を預けて眠っているお母さんに抱き着いた。
「ただいま…お母さん。もう、お昼だよ?早く起きてご飯作らないと皆が怒っちゃうよ?」
お母さんは、何も言ってくれなかった。
「あ、そうだ。お土産たくさん買ってきたんだ。佐倉印の最中だよ?みんな食べたいって言ってたもんね?ほら、早く起きないと私が全部食べちゃうよ?」
弟妹は何も言ってくれなかった。
「あれ?これじゃなかった?ごめん。お姉ちゃんちょっと疲れてたみたい。また買い直してくるからさ……」
何も、言ってはくれない。
ピクリとも、動かない。
「……六助?炭治郎?そんなところで寝てたら風邪ひくよ?今、囲炉裏の火を起こすから………」
冷たい。
皆の身体、すごく冷たい。
早く温めなきゃ…。
「…ん……可笑しいな…上手く持てないよ…」
血まみれの手で必死に火打石を持とうとするけど、手は小刻みに震えるばかりで力が入らない。
全身の力が抜け、私は魂が抜かれたように天井を見上げた。
そして、目を逸らし続けていた現実を受け止めた。
「………そっか…」
みんな、死んじゃったんだ。
涙は出なかった。
変わりに確かな意思が私に芽生えた。
震えが止まる。
「お父さん…ごめんなさい…いっぱい、いっぱい謝るから…」
私は懐から短刀を取り出した。
「私もすぐそっちに行くから…みんな待ってて」
短刀の柄を握り絞める。
そして、鞘から刀を引き抜こうとした時___
「ゥゥゥ……」
「?炭治郎…?炭治郎ッ!?」
炭治郎が起き上がった瞬間、私は弟に駆け寄った。
「ゥゥゥゥ…!」
「駄目!炭治郎!!動かないで!今、治療箱持ってくるからジッとしてて___」
「ガアアアアッッッ!!」
「え、きゃあああ!?」
突然襲い掛かってきた弟に驚いた私は、地面に組み敷かれるように倒れ込む。
首筋に噛みつこうとした炭治郎の口に、咄嗟に短刀を横にして差し込む。
「やめて!炭治郎!どうしたの…っ!?」
縦長の虹彩に鋭い牙。
肩口に食い込む鋭い爪。
そして、私のことを喰おうとする明確な殺意。
そこから導き出される事柄に私は気付いて、そして絶望した。
弟は、人を喰らう鬼になっていた。
早く来て!!KYな水柱さん!!禰豆子ちゃんが危ない!!