陽だまりに抱かれて   作:苺ノ恵

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最終選別前にオリジナル展開挟みます。




20.夜風

「___では、私は姉と、その件の稀血の少女に接触すれば良いと?」

 

 産屋敷家は鬼殺隊の核となる場所。その正確な所在はお館様のご家族と一部の使用人、隠、そして柱の方々にのみ知らされている。

 

 柱の家族。それも、鬼殺隊員の一員である私ですら、その正確な場所までは知らない。

 

 情報の隠蔽としては完璧。しかし、私は今まで鬼殺隊を統括しているお館様にお会いしたことはなく。また、その御心も存じ上げないままだ。

 

 疑問はいつしか不信に変わる。鬼殺隊が組織である以上、上司の命令には従わなければならない。疑念があろうと、その命令に納得していようといなかろうと。私たちはただ、鬼殺に殉ずるのみ。

 

 しかして、私のような一般隊士にくる指令は鎹鴉か隠の持ってくるお館様からの指示書のみ。

 

 故に、今回のような一見鬼殺と何ら関係ないような指令にも慣れていた。

 

 私は鬼の首を切れない。

 

 精神的な理由ではなく、身体的な問題。

 

 単純に力がない。

 

 呼吸を修めた。

 

 鍛錬だって欠かしていない。

 

 それでも、生まれ持ったこの身体が急に大きくなるわけでもなく。

 

 鬼を殺せない私に来るのは、精々現地の調査や資金援助して下さる財閥令嬢護衛の依頼のみ。

 

 身軽さだけが取り柄なのに、身体を纏う剣呑としたこの不快さは、私の剣線をより鈍らせてくる。

 

 私の質問に、隠の女性は既に現地へ向かっている姉に詳細を聞くよう応え、蝶屋敷を後にする。

 

 刀を振る。

 

 重い。

 

 柄を握る手も、思考する頭も。

 

 言い現し様のない倦怠感が私を覆う。

 

「明日は、私が殺せる鬼に、会えるかな?」

 

 刀を振る。

 

 袈裟斬りにされた丸太が地面に転がる。

 

 その木材に鬼の首を幻視して。

 

 私は出立の準備に取り掛かった。

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

「カナエさん。もう着いてるかな?…炭治郎がいないとやっぱり落ち着かないや…」

 

 身体が軽い。その軽さに、意味もなく寂しさを感じてしまう。

 

 冨岡さんに編んでもらった籠は、炭治郎と一緒に鱗滝先生に預かってもらっている。私はてっきり、炭治郎も一緒に行くものだとばかり思っていたから。

 

 でも、鬼を一緒に連れて、鬼殺隊の人に会いにいくのは、対外的にもよろしくない。

 

 手紙にあったのはカナエさんから、私の血に関することで話があるということ。今回は任務で近くの町まで訪れるため、専門の方と同伴するという。この場所に一人で来ることを指定されたのはその専門の人に配慮した結果だろう。

 

 私は手紙を貰った日の翌朝には、狭霧山を発った。

 

 鱗滝先生が言うには、現在の私が一日走って丁度到着する程度の距離だということ。炭治郎を置いていく以上、私は三日以内に狭霧山に戻らなければならない。炭治郎が人を襲わないのは私の血を摂取しているからだとカナエさんが言っていた。

 

 修行を中断することになるのは忍びないが、鱗滝先生は移動の鍛錬になるとして嬉々として見送ってくれた。

 

 私には力があっても、その力を扱えるだけの身体も体力もない。

 

 鬼殺隊とは一年のほとんどを、全国を渡り歩くことに費やす。鬼の出没範囲は広い。一か所に隊士を常駐させて置くことは、被害拡大に追い風を送ることに他ならない。

 

 ある意味、鬼殺隊士に必要な能力とは一刻も早く現地に辿り着くための移動能力なのかもしれない。

 

 私は走った。

 

 そして、私は驚いた。

 

 半日走り続けて、ほとんど息が上がらないことに。身体が異様なほど疲れていないことに。

 

 私はこの半年間の鍛錬が間違っていなかったと実感した。

 

 毎日、山下りをして、素振りをして、先生にボコボコにされて。

 

 何度も心をへし折られては、歯を食いしばって、刀を振った。

 

 まだまだ、私は弱い。それでも、半年前の私に比べれば、確実に強くなれているはずだ。慢心せずに、これからもっと頑張らないといけない。

 

 夕日が町の外観を彩る。

 

 伍ノ刻には到着できた。約束の時間まではしばらくある。宿を見つけて、日課の素振りをしなければならない。

 

 私は、久しぶりの人々の往来を噛みしめながら、町を歩く。

 

 この景色を炭治郎と見られなかったことが唯一の不満だった。

 

 炭治郎を人間に戻して、今度は一緒に来よう。

 

 夕日が引き伸ばす私の影が夜の訪れを報せる。

 

 今日もまた、夜が来る____

 

  

   

    

     

      

       

        

         

 ◆◆◆         

 

 

 

「あああああぁぁぁぁ………!!!」

 

 取り込まれていく。

 

 飲まれていく。

 

 女性の身体が侵食されていく。

 

 もはや、頭蓋の半分まで飲まれた女性の身体だったそれは、嬌声を奏でるだけの肉塊と化していた。

 

「はいはい。静かにしようね?噛んでるわけじゃないんだから痛くないでしょ?」

 

 女性はもう応えない。

 

 既に死んでる。

 

 女性の身体が完全に取り込まれる。 

 

「ん〜…ちょっと脂が乗り過ぎてて味がくどかったかな?まあこれも、この娘の味ということで♪御馳走様でした」

 

 夜が来た。

 

 そして______

 

 

 

 鬼が来る。

 

 夜の風が肌を撫でる。

 

 風に乗ってやってきた、美味しいものの香りに、鬼は喜色の良い貌を浮かべる。

 

「いい匂い♪それも三人か…。ありがとう。それじゃあ、いただきます♪」

 

 

 

 

 

 鬼が、来る______ 

 

 

 

 

 




デジタルイラスト難しい…。

でも、消しゴム掛けなくていいのは画期的。

挿絵描けたら楽しいだろうなぁ…(絶望的画力)


【挿絵表示】
←一話の前書きにも貼ってます。

今後も気が向いたら挿絵も描きます。
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