陽だまりに抱かれて   作:苺ノ恵

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21.解析

 

 

 

 

 夜の町を彩るのはランプの柔らかい燈色の光。時代は明治。人々の生活様式が少しずつ洋風のものに変わって行く中。日本古来の変わらないものだってある。

 

 囲炉裏。

 

 炭を継ぎ足し、燃え切った灰の積み重ねが生み出す独特の香りは、今しがた仕上がった味噌田楽の旨味をより一層引き立てる。

 

 未だ寒さの残る夜風も、囲炉裏の奏でる暖かさには敵わないのか。外の戸口を撫でるだけに、息を潜めている。

 

「美味しい〜!」

 

 一日走り続けた体に、味噌の辛味と旨味が染み渡る。食事の用意をして下さった初老の女性の仲居さんは、私の反応に気を良くしたのか。おかわりのご飯を大盛りにして渡してくる。

 

「嬉しいねぇ。ほら。たんとお食べなさい」

 

「ありがとうございます。…あの、大丈夫でしょうか?」

 

「?何か気になったかい?」

 

「いえ。こんなに豪勢なお食事。お支払いした料金に釣り合わないんじゃ?」

 

「鬼狩り様には礼を尽くせっていうのが、死んだ爺様の願いだからね。あんたが気にすることじゃないさね。あんな糞爺でも、私の旦那だ。無碍にはできないよ」

 

「…素敵な方だったんですね」

 

 仲居さんは照れた表情を隠すかの様に顔を背け腰を浮かせると、お茶を入れるためと言って退室する。

 

「老いぼれのしょうもない話さね。忘れてくれまい」

 

 私は仲居さんが去った後に目についた、藤の花の紋に注視する。

 

(…私、まだ鬼殺隊に入隊できてないんだけど…今更言えないね)

 

 いつかは気遅れすることなく、心からこの場で寛げるよう、全力で鍛錬を頑張ろうと思った。

 

 その後も美味しいご飯に舌鼓を打ち、食後のお茶を嗜む。しばらくして、仲居さんから連れの方が私を呼んでいると連絡が来た。

 

 私は羽織りを着直し身支度を整える。

 

 不思議な痒さを訴える親指に首を傾げる。

 

 しかし、先方を待たせてはいけないと、その違和感を私は無視する。

 

 時刻は玖ノ刻を廻っていた。

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

「夜分遅くに申し訳ありません。鬼殺隊の者です。竈門禰豆子さんでお間違いありませんでしょうか?」

 

「はい。私が竈門です。…貴女が胡蝶さんのお連れの方ですか?」

 

「申し遅れました。私は胡蝶しのぶ。姉のカナエがご迷惑をお掛けしております」

 

「あ、貴女がしのぶさんだったんですね」

 

「…失礼ですが、以前、姉は妙なことを言ってませんでしたか?」

 

「?いえ、そんなことは…。あ、最近、しのぶさんが怒りっぽくなってて心配とは言われていましたね」

 

「……忘れていただけると幸いです。それと、姉の話はどうか真に受けないように」

 

「あはは…善処します…」

 

「姉は別任務が終わり次第合流するとのことです。それまで、貴女の血の解析結果をお伝えできたらと思ったのですが…。場所を変えた方がよろしいでしょうか?」

 

「いえ。仲居さんに三人部屋のお部屋を用意していただいているので、こちらにどうぞ」

 

「お気遣い下さりありがとうございます。…それでは、お言葉に甘えさせて頂きます」

 

「はい。どうぞどうぞ。って、私の家じゃないんですけどね?」

 

「…禰豆子さんも、何れは鬼殺隊に?」

 

「ええ…。と言ってもまだ呼吸に振り回されっ放しで、まともに戦えないんですけど」

 

「そのお年で呼吸が使えるのは素晴らしいことです」

 

「しのぶさんはいつから鬼殺隊に?」

 

「申し訳ありません。隊則に触れるので、お応えしかねます」

 

「あ、すみません…。あの、しのぶさん?私は貴女より年下なので敬語は必要ありませんよ?」

 

「気にしないでください。家族以外に敬語を使うのは癖のようなものなので」

 

「は、はあ…分かりました」

 

「___さて、単刀直入に。禰豆子さん。貴女の血は稀血と呼ばれるものです」

 

「稀血?」

 

「稀血とは読んで字の如く、非常に稀な血を持つ人間のことを指します。鬼にとって栄養価が高く、稀血の人間一人で百人分の人を食らったのと同じ効果があります」

 

「えっ…それって…私って鬼に狙われ易いってことじゃ…?」

 

「身も蓋もない言い方をするとそうなりますね」

 

「うーん…まあ、どうせ鬼は倒さなきゃいけないから、向こうから寄ってきてくれるなら好都合?」

 

「随分と楽観的ですね?怖いとは思わないんですか?」

 

「もちろん、鬼たちが複数で襲って来たらって考えるとゾッとしますけど…。それでも、私の中に流れている血は亡くなった両親にもらったものですし。嫌だといって血を変えられるわけでもありません。なら、有効活用した方が効果的じゃないですか?」

 

「………」

 

「しのぶさん?」

 

「…そうですね。では、話の続きを。稀血が珍しいものであるということは先ほど申し上げた通りですが、その稀血の中にも様々な種類が存在します」

 

「え?栄養がたくさんあるだけじゃないんですか?」

 

「何分、確認されている稀血の方の絶対数が少ないもので把握できているものは限られているのですが一例として。現役の鬼殺隊士の中で有名なのは『鬼を酩酊させる』稀血です」

 

「めい…?酔っぱらうってことですか?」

 

「その認識で相違ありません。ですが、効果が出るのは出血があった時。つまりは傷を負った時ということなので、それを当てにするのは自殺行為だとは思いますけど」

 

「えっと…その話をするってことは、私の血にも何か特別な効果が?」 

 

「禰豆子さんの血は『鬼を鎮静化させる』稀血。もしかしたら、鬼を弱体化させる。または、『鬼を人間に近づける』効果があるのかもしれません」

 

  

 

   

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