陽だまりに抱かれて   作:苺ノ恵

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カナエさんとの回想→しのぶさんとの話し合い続き の構成になっています。


22.優嘘

 

『いい?禰豆子ちゃん。今後は無闇に炭治郎君のことを人に話しては駄目よ?』

 

 カナエさんに剣の稽古をつけてもらっていた時のこと。彼女はそれまで浮かべていた微笑みを消して、真剣な表情で私に語りかけた。

 

『…それは、鬼殺隊以外の人にもということですか?』

 

 私の確認するかのような疑問に、カナエさんも答えになっていないような。敢えて遠回りになるような物言いをする。

 

『幸か不幸か。隊員が鬼の情報を得るのは、被害に遭った一般人の方々からのものが殆どなの。…幾ら炭治郎君が人を食べることも、人を傷つけることもない鬼だとしても、一度鬼の被害に遭った人達には、きっと分かってしまうものだから』

 

『私が炭治郎を人間に戻す方法を大手を振って聞き漁るのは、自分の首を締める。若しくは炭治郎の頸を堕とすことになりかねない訳ですね…』

 

 情報を集める手段が限られるのは正直辛い。それは、炭治郎を人間に戻すための可能性が狭まることと同義だからだ。カナエさんもそれは理解しているのか。私に共通認識を確認させるように、形の良い頤を動かす。

 

『現状を理解しているのは、私と義勇君。それにこれから紹介する育手の鱗滝左近次さん。そして、私たち鬼殺隊を纏めている、さる方のみよ。それ以外の鬼殺隊関係者からは、まず炭治郎君を攻撃することに何の躊躇もないと思っていいわ』

 

 炭治郎を殺す。そう表現しないことにカナエさんの優しさが滲み出ている。私は自嘲めいた表情を溢しつつ素振りを再開する。

 

『無理もありませんよ…。いきなり、人を食べない鬼がいる。だからその鬼は殺さなくていい。そんな幼稚じみた主張が通じるなら、私は冨岡さんに刃を向けることもなかったんですから』

 

 カナエさんが私の前に立つ。

 

 剣は抜いていない。

 

 代わりに鋭い剣士の視線が私の眼を穿った。

 

『うん。だからね。もしも、炭治郎君を人間に戻しうる可能性を見つけたとしても、それを大っぴらに喜んだり、期待したりしては駄目。絶対に疑われることになるから』

 

『…もし、私が間違えた時。その時は、カナエさんは容赦なく鬼殺隊の役目を果たして下さい。私はカナエさんや冨岡さんの立場を危うくしてまで助かりたいとは思わないので』

 

 私がそう言うと、眦を下げたカナエさんは納刀したままの刀を鞘ごと引き抜くと、中段に構える。そして、私に打ち込んでくるよう促す。私は木刀を引き絞り、カナエさんの鞘を目掛けて切り込んだ。私の剣線から何かを感じ取ったのだろうか。優しい笑みを深めたカナエさんの動きが段々と早くなっていく。

 

『それなら安心ね。禰豆子ちゃんはきっと間違えない。炭治郎君がいる限り。貴女は進むべき方向と手段を見誤ることは決してない』

 

 カナエさんの動きに呼応して。私の動きも磨かれていく。

 

『何故、そう言い切れるんですか?』

 

 花弁が舞う。

 

 そんな錯覚を覚えて。

 

 つい、足を止めてしまった私の喉元には、カナエさんが寸止めした鞘の先端が置かれていた。

 

 カナエさんは妙に様になっているハイカラな片目閉じをして言った。

 

『女の勘。とでも言えば通じるかしら?』

 

 思わず笑いそうになった。でも、下手な理由を言い連ねられるよりは、よっぽど納得できた。

 

『___ああ、なるほど。確かに。それほど信頼できるものはありませんね』

 

 私の悪い笑みに、カナエさんも笑みで応える。

 

『信頼、とも違うかもしれないけど。私は貴女と、貴女が大切にしている炭治郎くんを守りたい。この気持ちだけは、違わないから』

 

 最後は照れてしまった私の一本負け。

 

 いつか絶対に恩返ししてやる。

 

 そんな、清々しいほどに打ち負かされた。

 

 けれど、どこか温かい。

 

 嬉しさを覚えた思い出。

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

「鬼を人に近づける…って、以前私が鬼に襲われて。腕を噛まれた後に鬼の様子が変わったことと、何か関係があるのでしょうか?」

 

 私は、以前カナエさんに言われていた通り、炭治郎の存在を伏せ。予め口裏を合わせていた優しい嘘を口にする。

 

 しのぶさんは、私の発言に頷くと血の検証結果を話し始める。

 

「これは、あくまでも仮説ですが。鬼は強い飢餓状態になると倫理観や体裁など。人間の頃に持ち合わせていた人らしさ。性善説の放棄。つまりは人の心を失うのではないかと考えられています。これは私たち人が食事という行為に対して、食材となった命たちに罪悪感を感じないことと同義です。逆説的には、鬼は人を喰らうことになんの抵抗感も抱くことはない。価値観が一変したことで、自己決定権に則した思考回路の機能が消失していると言えます」

 

「えっと…つまり、私の血はその鬼になった人の理性や人だった頃の価値観を思い出させるもの。っていうことですか?」 

 

「事実。今回、姉と検証した結果。以下のような報告内容となっています」

 

 

 

 




柱になっていないしのぶさんはちょっと言葉の端々に不器用さが目立つかもという作者の勝手な妄想が影響してるごめん。

次回から3、4話かけてしのぶさん、カナエさん、ちょこっとだけ参加する義勇さんの回想話を書く予定です。

みんな大好き糞教祖の登場は暫くお預けです。(誰も待っていない)

それではまた。
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