陽だまりに抱かれて   作:苺ノ恵

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書きたかったから書きました。

後悔はありません。


25.カし

 

 

 【悪鬼滅殺】

 

 日輪刀に刻まれた鬼殺隊の礎は、今日も柱の鞘から鬼の血を寄越せと静かな闘争を秘めている。

 

 鞘からその文字が覗いた時。それは鬼にとって最期を迎えるほんの僅かな時間。走馬灯を巡る旅の合図となる。

 

 首が落ちる。

 

 斬られたと理解するには、あまりにも残された時間が少ない。鬼舞辻に植え付けられた血の呪いは、遺体すらも残すことを許さない。鬼となって悠久の時を生きる彼らには、歴史の遺物となる事すら叶わない。

 

 灰となり。塵に崩れ。風へと攫われる。

 

 鞘の音が鳴る。

 

 戦闘の終わりには必ずその音がなる。

 

 それが柱。

 

 鬼を狩る。

 

 最強の剣士。

 

 水の柱は黙祷する。

 

 嘗て守れなかったものを確かめるかのように。

 

 半々羽織を身に纏い、彼は刃を振るう。

 

 その表情に、迷いなど無かった。

 

 

 

 

 

 

 今のところは____

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 俺は今、猛烈に困惑している。

 

「___ちょっと面貸せぇ。冨岡ぁ」

 

「…不死川か」

 

 俺を呼び止めた、目の前に立つ傷だらけの男の名は不死川。数ヶ月前、下弦の鬼を打ち取ったことで、空席となっていた風柱の席をお館様から賜った、未来有望な鬼殺隊士である。柱となってからも、驚異的な早さで鬼の首を狩り。その討伐数もかなりのものとなっている。そんな有能な剣士が俺のような人間になんの用なのか。俺は少しばり喉を強張らせながら言った。

 

「何か用か?」

 

 不死川は俺の目をしばらく見ると、実に嫌そうな顔をしながら舌を打つ。

 

「チッ!お前に聞いておくことがある。お前と花柱ついてだがぁ…お前ら、何を隠してやがる?」

 

(隠す?……まさか、勘づかれたのか?)

 

 脳裏に浮かぶ竈門姉弟の顔。お館様からその話については箝口令が敷かれ、俺と胡蝶しかその全容は知らない筈。ならば、不死川はどこでその話を耳にしたのだろうか。

 

 俺が内心焦っていると、不死川は畳み掛けるように口を開く。

 

「冨岡ァ。お前も漢ならなァ。いい加減、覚悟決めろやァ?」

 

 不死川からの最後通牒。俺は知っているぞと、そういうことなのだろう。鬼を匿うなど明らかな隊律違反。仕方がない。斯くなる上は、例え腹を切ることになろうと。俺は禰豆子を守らなければならない。未来の柱に俺たちの意思を繋ぐ。それが、錆兎を殺してしまった俺にできる唯一の贖罪。

 

 今回の件を告発されることはもはや明白だが、その前に確かめておかなければならない。

 

「…どこでその話を聞いた?」

 

 情報漏洩の可能性を疑っているわけではない。単に不死川という男の能力を測り切れていないが故の疑問だった。

 

「ああァ?聞かねえでも分かるだろうがァ?殺すぞぉ?」

 

 ならば…不死川は相手の心の内を読むことができるのか…!。風の呼吸の使い手は、その苛烈な剣技を使用するために視野を広く持つ者が多いと聞く。ならば、俺と胡蝶。もしくは、お館様の心中を覗くことも可能ということか。なんという男だ。

 

「お前は、それでいいのか?」

 

 敬愛するお館様の心を読む。それは歴とした背信行為だ。そこまでして鬼を滅することに心中する目の前の男に、俺は一抹の恐怖を覚えずにはいられなかった。

 

「本気でぶった斬るぞ?冨岡ァ。俺は俺のやり方で殺るだけだァ。てめえが…てめえだけは、その言葉を口にすんじゃねえよぉ」

 

 鬼舞辻を倒す。俺が鬼を匿うという行為もまた、お館様への背信行為。志向や判断基準、過程がどうであれ、俺は一匹の鬼を見逃した愚か者。…分かったよ。不死川。俺はやはり、柱として相応しくないのだな。

 

「俺は、お前とは違うからな」

 

「てめえぇぇ…!!」

 

 不死川の額に血管が浮き上がる。押し寄せる、殺意と怒気に思わず膝を屈しそうになる。何故だ?お前はすごいやつだと褒めたのに…。何がダメだったんだ?

 

 混乱に次ぐ混乱。

 

 混沌と化してきた俺たちの間に、割り込んだ陰。それは、俺に背を向けると不死川に笑いかけた。

 

「こんにちは。義勇くん。実弥くん。今日も二人は仲良しね」

 

 揺れる蝶の髪飾りと、甘く柔らかな香り。柔和な空気を纏うその女の名前は胡蝶カナエ。件の花柱だ。

 

 不死川は途端に跋の悪そうな顔をすると、身体の向きを無理やり変えて俺たちから離れていく。

 

「胡蝶…!…ちっ…。邪魔したなァ」

 

「あれ?もうお話はいいの?」

 

「あァ。いい」

 

 興が削がれた。とでも言いたそうに、気怠げな足取りでヤツは去っていく。

 

「不死川。あの件は__」

 

 我ながら女々しい縋り。内密にしておいて欲しいという俺の願いが通じたのか否か。不死川は了解とも認識できる応えを返す。

 

「今回は見逃しといてやる」

 

「!?」

 

「だがなァ…」

 

「?」

 

「てめえがいつまでも覚悟を決めねえっていうのならァ…俺はもう気を遣うつもりはねぇ。覚えておけ」

 

 その言葉を最後に、奴は去っていく。その姿が完全に見えなくなると胡蝶が口を開く。

 

「えっと…何の話?」

 

 こちらを見上げ、眉を下げる彼女の疑問に、どう答えるかと悩んだ末。俺は胡蝶の顔を真っ直ぐに見て答えた。

 

 

 

「俺は、守るよ」

 

 

 守りたいものを守れなかった、こんな俺だけど。今度は、守ってみせる。

 

 そうして、俺たちの意思は繋がっていく。きっと禰豆子たちが、繋いでくれる。

 

 そんな風に思うと少しだけ、気持ちが軽くなった。頬が緩んだのが自分でも分かるくらいに。清々しい気持ちになれた。不死川はもしかしたら、俺の迷いを断ち切るために、あのような話をしてくれたのかもしれないな。そんな今の俺にもう迷いは無かった。

 

 そして____更なる混乱が俺に訪れた。

 

「え…?……えっ!?」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 頬を染め、両手で胸を押さえ、俺から距離を取ろうとする胡蝶の姿が。ここで俺は、先日夕餉を共にした際に近寄るなと言われたことを思い出す。

 

「失礼する…」

 

 俺は会釈もそこそこに、立ち去る。

 

 傷ついた心が火傷のような熱を持つ。

 

 冷めるまではもう暫くかかりそうだ…。

 

 今日も、人知れず傷ついている俺たっだ。

 

 俺は、嫌われていない___ 

 

 

 

 




勘違い系の話ってキャラの心情を並列思考で書くことになるから、消費するチョコレートの量がエグい…。

無限列車編、二回目観に行きたいけどコロナ増えてきてるしどうしようか悩み中。

次回は胡蝶姉妹回です。

しのぶさんメインで書く予定です。

挿絵も頑張ります。

それではまた。
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