陽だまりに抱かれて   作:苺ノ恵

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気まぐれの投稿。

どうでもいい話だけど『千歳くんはラムネ瓶のなか』ってライトノベルが最高でした。

新しい青春ラブコメを見た気がする。

それではどうぞ。


26.ナの

 

 確信を得たのは雪解けの季節の頃。

 

 道端に固まった雪が緩やかに地面に吸われていくように、私の調合した藤の花の毒は着実に鬼の細胞を侵食・破壊していく。

 

 楕円形の細胞に藤の花の鮮やかな藍色が浸透した時、初めて鬼の細胞が動きを止めた。

 

 そう、死んだのだ。

 

「…できた」

 

 私は隈の浮かぶ顔に喜びの笑みを浮かべながら独り小さな歓声を上げた。

 

 高性能な顕微鏡が先日届き、夜通し調整と試行を繰り返した後。肉眼では視えないものの動きまで確認することができた。

 

「盲点ね。毒に対する抗体の作成速度を上回るように悪戯に毒性を強めていたけど…。あえて鬼の栄養素となる人間の血液を混ぜることで、細胞の活性化に伴う栄養素の分解亢進。結果、抗体の働きを抑えて毒の吸収率が上がるなんて。それにこの血…鬼の細胞がもの凄く活性化して早期に細胞が限界を迎えてる。稀血なのだから当然だけど毒の回る速さが私の血とは段違い…。でも、これがどうして鬼を人間に戻すなんて発想になるのかしら?」

 

 半年前。姉が持ち帰った稀血の少女の血液。様々な方法で有意性を証明しようとしたが、結果はあまり芳しくは無かった。人間に対する医学では限界があると感じた私は、姉に協力してもらい鬼の血と肉を採取してもらった。生き物の中身を知るのなら解剖するのが手っ取り早いのだが相手は鬼だ。黙って解体させてくれるとも思えない。まずは鬼の身体情報である血液と筋組織の解析から始めた。予想通り、その機能は人間のものとは一線を画すものだった。藤の花以外の毒には直ぐに抗体ができ、熱そうと凍らせようと血液は液体の状態を保ち。筋繊維に至っては解体用の刃が欠けるくらいの硬度だった。

 

 唯一の突破口である藤の花の毒。私は一縷の望みにかけて研究を続けた。そんな中、ふと思いついたのが食事に毒を盛るという毒殺の常套手段のような着想だった。鬼が元人間だったというのなら、食事という行為において鬼と人間に差異は殆どないと考えた。結果はご覧の通り。藤の花と人の血には鬼を滅するための大きな有意性が確認できた。

 

 だからこそ、私は疑問に思った。姉は何をもってこの血が鬼を人に戻すなどという発想に至ったのかと。私は姉に対する疑心を頭を振って追い払うと、書状を認める。それを隠の一人に渡すと、要件を伝える。

 

「こちらを至急、お館様まで」

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 お館様に研究結果を報告した数日後。

 

 私宛にお館様からの勅命である書状が送られた。

 

 内容は今回作成した毒の性能調査。所謂、実践への投入が現実的かの判断材料を集めるための体のいい実験だ。尚、私が鬼の首を斬れないことはお館様も重々承知のため、手隙の隊士が一名同行するとのことだったのだが…。

 

 

 

 

 

「………どうして貴方なんですか?」

 

「?俺は冨岡義勇だ」

 

 現地で待っていたのは水柱様でした。

 

 頭痛がしてきました。

 

 何の答えにもなっていない。

 

 お館様…なんでよりにもよってこの人なんですか?私のこと嫌いなんですか?お館様でもやってはいけないことだってあるんですよ?

 

 私はお館様へ心の中で恨言を吐きながら、無表情な顔をしてズレたことを宣う水柱様に苛立ちを抑えきれず、ついつい悪態を吐いてしまう。

 

「知ってますよ。水柱様は私の疑問をどう解釈したんですか…」

 

「…さっさと行くぞ。もうじき日が沈む。鬼は山頂の祠に住み着いていると聞く」

 

 水柱様とは姉を通して何度かお会いしている。なので改めて自己紹介などは必要もなく、彼はすぐ様任務の優先を宣言する。私としても、この人と居る時間が長引くのは勘弁してもらいたいところなのでその提案はまさに渡りに船だった。

 

「了解しました。道中はよろしくお願い致します」

 

 こんな人でも柱であることに違いはない。私は階級が下であることの義務として彼の指揮下にあることを再認識し、礼を返す。

 

 目的地を目指して駆ける。

 

 一面に広がる田園風景が後方に過ぎ去っていく中。風に乗って前方を走る彼の声が耳に届いた。

 

「…時に胡蝶妹」

 

「なんですか?」

 

「俺はお前の姉に嫌われているのだろうか?」

 

 私は胸に湧き上がった感情をそのまま口にした。

 

 

 

 

 

「__嫌われてしまえばいいのに」

 

 

 

 

「?どういう意味だ?」

 

「さあ?自分の胸に手を置いて考えてみれば如何でしょう」

 

 私はそう言い残し。

 

 走る速度を上げて彼の前に出る。

 

 耳が赤くならないよう無意識に唇を噛んだ。

 

 今の私の顔を、彼にだけは見られたくなかったから。

 

 馬鹿正直に胸に手をおいて考え始めるこの人にだけは。

 

 

 

   

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

「___居ました。どうやら女性の鬼のようです」

 

 不健康なほどに白い肌に均整の取れた豊かな身体つき。

 

 その相貌は長く伸びた髪に隠され、スラリと伸びた両腕には古びた布が巻き付けられていた。

 

 祠の前に膝を着き、祈りを捧げるように両手を組んだ女の鬼はこちらに気づいた様子もなく。只管に呪文のような言葉を呟いていた。

 

 私は持参した器材を用いてその場で毒を調合する。一応、蝶屋敷にて調合した毒も持参しているが、毒性が時間経過により劣化していることは十分に考えられる仮定だ。作業を進める私に、鬼の姿を目で追いながら水柱様が声を掛ける。

 

「分かった。俺がやろう。手足を落として動けなくしてからその針で刺せばいいのか?」

 

 お館様様から今回の任務の詳細は彼も聞いている。私が鬼を斬る力がないことも承知している。だからこそ、その提案をしてきたのだろう。しかし、私は論理的にその提案を拒否する。

 

「水柱様は私が危なくなったら助太刀をお願いします。今回は鬼に毒が効くのかという実験が主の任務です。注射器の扱いに慣れてる私の方が適任でしょう」

 

 私の提案が理に叶っていると判断したのか。

 

 案外簡単に彼は折れてくれた。

 

「…了解した。無茶はするなよ?」

 

「分かってますよ。私、無茶できるほど強くはないので」

 

「お前は___」

 

「準備ができました。行きますよ」

 

「…ああ」

 

 私は他に何か言われる前に行動を開始する。

 

 左手に日輪刀。右手に毒を入れた注射器を。

 

 いきなり、注射針を通そうとしても、鬼の表皮を貫くことは叶わない。まずは日輪刀で皮膚を裂いてから注射針を差し込み、毒を注入する。

 

 抜き足のように歩を進め、着実に鬼との距離を潰す。

 

 鬼に私の存在を気取られないよう細心の注意を払いつつ、移動速度を上げていく。

 

 地面を蹴るのではなく、体軸を前方に傾けることで重心移動を滑らかに行い、最小限の動きで最短距離を進んでいく。

 

 あと少し。

 

 私は呼吸を深め、水の呼吸 漆ノ型を選択する。

 

 花の呼吸は本来、水の呼吸の派生である。その中でも私は突き技を得意としていた。

 

 最速の突きで鬼の表皮を削る。

 

 間合いに入った瞬間、左後方に引き絞った腕を一気に解放する。

 

 私の全身の勢いをのせた刀身は鬼の肩を抉り去る。

 

 しかし___

 

「くっ!?」

 

 鬼は突然、祈りの際に組んでいた両手を解くと、こちらを振り向くことなく、刃を躱し私の腕を掴もうとする。私は咄嗟に地面を蹴り、左側方に躱す。左の手首に鬼の手が触れたが、間一髪拘束されずに済んだ。

 

 背後からの強襲になぜ対処できたのかと疑問に思ったが、その答えは目の前の情景が教えてくれた。

 

「…なんだ。後ろも見てるなら初めに言っておいて下さいよ」

 

 髪の隙間から、巨大な眼球が私を見つめている。鬼のうなじ部分に取り憑いているそれは、私を視界の中に収めて離さない。

 

 鬼は酷く苛立った声で私を威圧する。

 

『邪魔しないでよ』

 

「邪魔?ああ、お祈りの途中でしたか?それは失礼しました。でも大丈夫ですよ?もうすぐ貴女もその神様の身元とやらに連れて行ってあげますから」

 

 私は鬼の死角に移動するように地面をかける。眼球は上下左右の動きに強いが斜めの動きには弱い。今度こそ、私は鬼の懐に潜り込み、型を放つ。

 

 

 

『傷みを知りなさい』

 

 

 

 鬼がその言葉を言った瞬間、私の左手が千切れ落ちた。

 

 その証拠に日輪刀が地面に落ちる音がした。

 

「〜〜〜〜〜っっっ!!!?」

 

 私は激痛を訴える左腕を胸に引き寄せて、鬼から距離をとり止血のため包帯を取り出すがここであることに気づく。

 

「え…なんで?」

 

 私の左手は無傷だった。しかし、左手首から先の感覚はなく、今も尚激痛を訴えている。混乱する私に鬼は再びあの言葉を放つ。

 

『傷みを知りなさい』

 

「っ…ああああああぁぁぁぁぁ!!?」

 

 痛い、痛い、痛い!

 

 全身から脂汗が噴き出て、痛みに耐え切れず涙と叫び声が溢れる。

 

 今までの人生で体験したことのない、地獄のような痛みが左手を襲う。

 

「な、なにを、したの?」

 

 鬼は痛みで動けない私に近づきながら片腕の布を外す。

 

 

【挿絵表示】

 

 

『少しは分かった?私の傷みが』

 

 細く綺麗な肌の上には、墨をぶち撒けたような黒い斑模様が身体を這うように蠢いていた。

 

 私は袖がなるべく左手に当たらないよう注意しながら、肘まで服を引き上げる。すると私の手首には目の前の鬼と同じような呪印の如き黒い斑模様があった。

 

「これが、貴女の、血鬼術…!?」

 

『血鬼術 傷ノ腕(イタミノカイナ)。私の手が触れた箇所の痛覚を共感させる』

 

「共、感?」

 

『言ったでしょ?私の傷みだって』

 

「!??」

 

 私は痛みを一瞬忘れるほど驚愕した。今の話が本当なら、目の前の鬼は常に私が今左手に感じている傷みを感じ続けていることになる。果たして私はそれで正気が保てるのだろうか。答えは否だ。その前に身体が痛みに耐え切れなくなって死ぬ。

 

 鬼は驚愕の色に染まる私の表情を興味なさげに見ながら話し始める。

 

『人間は痛みを知らなさすぎる』

 

『痛みを知らないから、人は隣人を害するの』

 

『人は人に無自覚な暴力と傷を与えるの』

 

『人間は愚かな生き物なのよ』

 

『愚かな生き物には痛みを与えましょう』 

 

『痛みを知れば、もっと人に優しくなれるから』

 

『だから私は貴女にもっと、痛みを与えてあげたい』

 

『そうすれば貴女も、人の痛みが分かるようになるから』

 

 

 

 

 

 

 

 

『貴女も、優しく終われるから』

 

 

 

  




書いてて思った。

冨岡さん見てないで早く助けてよ!って。

次回で回想は一旦終了です。

そろそろ糞教祖出さないとこの物語の主人公も寝ちゃいそうなので。

それではまた。
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