陽だまりに抱かれて   作:苺ノ恵

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28.姉妹

 

 

 

 

 

 胡蝶と夕餉を共にしたあの日、酒が入りいつもの陽気さに拍車が掛かった胡蝶は、胡乱な表情を浮かべながら徳利の淵を撫でつつ俺に尋ねた。

 

 『義勇くんは、しのぶのこと、どう思ってる?』

 

 『唐突に何だ?』

 

 『ちょっとした姉心からくる好奇心よ。二人は仲良しだから』

 

 『…お前、目は良かったはずだが?』

 

 『捉え方の問題よ。喧嘩する程なんとやらって言うじゃない?』

 

 『あれは喧嘩というのだろうか…。俺たちは致命的に反りが合わないのだと思うが』

 

 『本当に何もなかったら、しのぶも噛み付いたりしないから』

 

 『お前の妹は犬か?』

 

 『言葉の綾よ。でも、怒ってる顔も子犬みたいに可愛いのには同意ね』

 

 『…お前の考えることはよく分からん』

 

 『いいのよ。それで』

 

 『?』

 

 『無理に相手のことを解ろうとしなくたって。その人と同じ時間を過ごしていれば、いつの間にか解っちゃうものだろうから』

 

 『なら、俺はきっと、死ぬまで解らず終いだろうな』

 

 『どうして?』

 

 『鬼狩りという職務に殉ずる以上、犠牲は避けられん。もし、そのような場面が訪れるのだとすれば、俺のような者が相応しい。そんな俺が時を共有できる者などそう現れるはずもない』

 

 『…はぁ〜…』

 

 『何だ?』

 

 『義勇くんはまず、人のことより、自分のことをきちんと見れるようにならなきゃね?』

 

 『?鏡なら持ち合わせているが…』

 

 『そういう意味じゃないんだけど…義勇くんらしいね』

 

 『お前は…どう思っている?』

 

 『私?私はしのぶのこと大好きよ?』

 

 『………そうか。なら尚のこと俺はいない方が良いのでは?』

 

 『義勇くんだから。義勇くんがいつもの義勇くんでいてくれるから、私はこうして貴方の話が聞きたいってお願いしてるの』

 

 『…やはりよく分からん。お前の話は時に迂遠すぎる』

 

 『そうかもね。…人って隠したいことがあると、大切なことを誤魔化しちゃうから』

 

 『人に言えんことくらい誰にでもある』

 

 『そうね。義勇くんには特に言えないかも』

 

 『…やはり俺は人に嫌われる定めなのだろうか…』

 

 『うん。やっぱり義勇くんには言えないわ』

 

 『………』

 

 『ちゃんと気付いてくれるまで、私は言わないから』

 

 あの時、胡蝶が浮かべた悲しそうな笑みの理由が、俺にはどうしても分からない。彼女から妹のことを聞かれた時、何故か妙な胸騒ぎがした。しかし、俺はその理由を探ろうとはしない。俺は鬼殺隊の一員。鬼狩りこそが俺の責務。悪鬼を滅殺することで同胞を守る。俺には、それしかできないのだから。

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 血塗れの少女がいた。

 

 鬼の術をくらい、痛みに犯される少女がいた。

 

 少女は非力ではあったが、類い稀なる才気と執念で鬼を倒した。

 

 少女は笑っていた。

 

 少女は両手を血で濡らした。

 

 皮を裂き、肉を断ち、骨を削った。

 

 鬼は願った。

 

 死なせてくれと。

 

 もう、終わらせてくれと。

 

 しかし、少女の耳には届かない。

 

 だから、俺が鬼の首を落とした。

 

 最早、死による救済しか、与えられる慈悲はなかった。

 

 少女は怒りに震えた。

 

 何をしているのだと。

 

 血化粧の施された綺麗な顔が迫る。

 

 しかし、どうしようもなく見ていられなかった。

 

 だから、俺は言った。

 

「命令だ。先に戻れ」

 

  

   

 

 

 ◇◇◇

 

      

 

 

 

 あれから、気がつけば私は宿舎にいた。どうやって戻ったのか、あまり覚えていない。水柱様が今回の調査を引き継ぎ、現在も任務を継続していると隠の方から一報をもらった。いつもの私なら、すぐさま支度を整え調査に復帰しているはずだ。でも、驚くくらい身体は重たくて、動こうとする気力すら湧いてこない。

 

「私は…功を焦ってたのかな…?」

 

 身を清めるため、宿の湯を借りる。

 

 こびり付いた血糊を布で擦って落とす。

 

「ううん。私は胡蝶カナエの妹、胡蝶しのぶ。柱である姉さんに迷惑だけは掛けたくない」

 

 麻酔の効果が抜けてきて、感覚が戻り始めてきた両手が嫌な感触を想起させる。

 

 それは人の体温だった。

 

 暑いくらいの熱が両手にこびり付いて離れない。

 

 皮を裂いた刃の鋭さも。肉を断った手応えも。骨を削った振動も。この手から離れようとはしない。

 

「大丈夫。鬼に私の毒は効く。もっと研究して、もっと色々調べて。私も姉さんと一緒に鬼を倒せるくらいに…強く…なって…」

 

 相手は鬼だ。

 

 同情なんて必要ない。

 

 殺すべき存在なんだ。

 

 だから、どうせ殺すなら実験に使ったっていいはずだ。

 

 私は間違っていない。

 

 私は正しいことをしたんだ。

 

 人のためになることをしたんだ。

 

「なら…どうして…」

 

 布を握る手が止まり、身体が震える。

 

「どうして私は…泣いてるの…?」

 

 離れない。

 

 私の痛みは消えてくれない。

 

 火傷のような痛みを感じる胸に両手が抱くのは。

 

 一抹の後悔だけだった。

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 任務終了後 産屋敷邸

 

 

 

「____以上が調査結果となります」

 

「うん。予想以上の成果だね。しのぶにも私からの感謝を伝えておいて欲しい」

 

「御意」

 

「カナエから、最近しのぶの元気がないと聞いてね。これを手土産に見舞いをお願いしたい。頼めるかい?」

 

「異存ありません」

 

 お館様に稀血と胡蝶の開発した毒の調査結果を報告した俺は、その足で蝶屋敷へ向かう。しかし、見舞いの品をお館様がご用意して下さったのはありがたい。俺では気の利いたものを用意する自信もする気もないからだ。

 

 しばらく歩くと蝶屋敷の門が目に入る。

 

 庭では、胡蝶が継子の少女に稽古をつけているようだった。

 

「胡蝶」

 

「あれ?義勇くん?どうしたの?私何か今日約束でもしてたっけ?」

 

「いや。用があるのはお前の妹の方だ。胡蝶しのぶはどこだ?」

 

 お館様からの指示だ。最優先で遂行しなければならない。手土産を見せて胡蝶妹の居場所を尋ねると、何故か胡蝶が挙動不審になり始めた。どうしたんだ?

 

「エ…そ、それって…」

 

「?」

 

 胡蝶は口にしかけた言葉を飲み込むと、いつもと異なる微妙な笑顔を浮かべつつ妹の居場所を伝えてくる。

 

「い、いえ。なんでもないわよ。…しのぶなら研究室に籠ってるはずだから、調剤部屋の鐘を鳴らしてみて」

 

「了承した」

 

「…そんな…しのぶ、いつの間に義勇くんと…」

 

「師範…?」

 

 背後で何やら胡蝶とその継子が言っているが俺には関係ないことだろう。

 

 言われた通り、調剤部屋に向かう。

 

 蝶屋敷には何度も任務で大怪我した際に世話になっている。

 

 特に胡蝶には機能回復訓練を称して色々と連れ回された。

 

 ある程度、力がついてからは安静が必要なほどの傷は負っていないため、最近の蝶屋敷の内装は分からんが。増築でもしなければ早々、役割のある部屋が移動することもないだろう。      

 

 過去の記憶に従い俺は、調剤部屋前に着いた。

 

 俺は仕切りである扉の取っ手に指を掛けて、そこで思い止まった。

 

 以前、同じように薬を貰いに来た際、傷薬を塗られている胡蝶の肌を見てしまうという失態があり、あわや切腹する寸前まで行ったものだ。

 

 俺は過去の経験に学び扉を手の甲で叩くことで自身の来訪を知らせた。

 

『___誰?アオイ?』

 

 室内から聞こえて来た胡蝶しのぶの声を確認し、俺は口を開く。

 

「冨岡義勇だ。少し、話がある」

 

 

 

 

 




雪が降って寒いのか…寒いから雪が降るのか…どうでもいいからこの寒さをどうにかして…(凍)

お陰で映画観に行けないから続話投下。(宮野守さん…観たかった…)

もうサブタイトルは適当。

劇場版 鬼滅の刃 無限列車編 興行収入300億突破おめでとうございます!

それではまた
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