鬼の身体能力は人のそれとは大きく異なる。
そのため、鬼が人を喰らった痕にはそれらしい痕跡が残る。
(しかし、これではな…)
雪上に突き刺さる木々の隙間を走り抜ける。
それは、鬼と大差ない動きで、彼の残す足跡は人間を辞めた距離で等間隔に並んでいた。
(あれは…小屋?…いや、製炭所か?)
伐採された木々の方向に従って駆けてきたがどうやら正解だったようだ。
左右で異なる柄の羽織を纏った青年、冨岡義勇は、その奥にある母屋の惨状に思わず目を細めた。
「…すまない」
俺が、あと半日早くここに来ていれば…。
そんな、後悔に似た懺悔を胸の内に溢し、富岡は辺りを散策する。
(雪で隠れかけてはいるが、まだ新しい足跡が一つ…稀血の子か?それとも何か別の目的で死体を運んでいるのか?)
ほんの僅かな手がかりを見逃すことなく、富岡は雪面を滑空するように駆け抜けていく。
『____きゃああああ!!_』
「…!!」
富岡は叫び声のした方角を目で捉え、いつでも抜刀できるよう臨戦態勢を取る。
そして、富岡の眼に一人の少女が鬼と思われる風貌の男に襲われている光景が映る。
血まみれの衣類を纏い、人間に喰らいつくその醜い姿を幾度となく目にしてきた富岡は、確固たる意志を持って鬼を屠ろうと、全集中の呼吸のまま袈裟切りに刀を振り抜いた。
しかし___
「…うっ!!」
「………なぜ庇う?」
鬼と身を入れ替えた少女の長い髪が半ばから断ち切られ、剣風によって吹き飛ばされた鬼と少女は近くにあった木にぶつかり小さく呻き声をあげる。
そんな少女に富岡は理解できないといった様子で疑問をぶつけた。
「おとうと…です、私の、弟なんです…!」
「それが?」
切れ長の虹彩も。
人の血に濡れた肌も。
その、人を喰いたいという飢餓感も。
全てが鬼の証明に違わない。
富岡は一足で鬼との距離を潰し、鬼を捉える。
筈だった____
◇◇◇
(身体中が痛い…!肺が凍りそう…!…でも、私が倒れたら…炭治郎が殺されちゃう…)
私は意識を取り戻しつつある炭治郎を背に隠すように、刀を持った青年に相対する。
日輪刀を携え、漆黒の隊服に身を包んだ鬼を殺す組織【鬼殺隊】。
知識としては知っていたが初めて見るその姿に、私は恐れを成していた。
(親指が痺れてる…。この人、その気になったら私も炭治郎もすぐに殺せるんだ…!)
私は疲労と死への恐怖から震え出す両の手を、短刀を握り絞めることで打ち消す。
「………なぜ庇う?」
それは鬼だぞ?
不意の強襲。
言外にぶつけられた現実に心が折れそうになるが、私は傷みを訴える肺と心臓の拍動を無視して応える。
「おとうと…です、私の、弟なんです…!」
青年は感情を消した瞳で私に再び問うた。
「それが?」
(っ!!?来る!!)
親指の疼きが最大限まで高まる。
(どうするの?どうしたらいいの?私じゃあの人に敵わない…勝てない…)
刹那の呼吸。
青年の呼吸が変わったものであることに気がついた私は、その息使いに父に似たものを感じた。
(息…?呼吸…。あれって…!)
青年が距離を詰めてくる。
人間とは思えない速さで私の横を通り過ぎる青年に、私は遂に短刀を引き抜く。
(お父さん…お願い!炭治郎を、守って!)
その一瞬、私は確かに見た。
私の背中に寄り添って、一緒に刀を振ってくれる、お父さんの姿が。
_【
朱き一線が宙に走る。
その一撃は______