陽だまりに抱かれて   作:苺ノ恵

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6.キス

 

 

 彼女の攻撃は歪だった。

 

 居合切りの要領で、鞘から加速させた刀身を放つ一撃。

 

 その一撃はあまりにもその少女に不釣り合いなものだった。

 

 華奢な手足に心もとない足腰。

 

 刀など振ることは疎か、抜いたことすらないような手付き。

 

 どこまでも拙いその予備動作からは考えられないほどの一撃が俺の肩口を切り裂いた。

 

(…斬られたのか?)

 

 答えは右肩に滲む血の跡と肌の裂けた痛みが教えてくれた。

 

(今の一撃…確実に俺の動きを読んでいた。速さで敵わないと知っていて。だからこそ、斬撃をここに置いた。俺の意識が鬼に向かっている、その一瞬の意識の死角をついて…)

 

 間違いなく、この少女は俺を殺す気だった。

 

 刃は頸動脈の位置に置かれていた。

 

 並の隊士なら、今の一撃で確実にお陀仏だ。

 

 俺は追撃を往なすため、刀を少女の方に向ける。

 

 しかし____

 

「__ゲホッ!!」

 

 吐血し、前方に倒れ込む少女。

 

(!?無理やり全集中の呼吸を使ったのか?)

 

 全集中の呼吸は血の滲むような鍛錬を行って漸く身に付くかどうかといった代物だ。

 

 それを剣士でもない。

 

 ましてや、まだ身体の出来ていない少女が使用したのなら、その負荷に身体が耐え切れなくとも不思議はない。

 

 俺は少女を抱きかかえようと近づく。

 

 だが___

 

「ガアアア!!」

 

「くっ!?しまった…!」

 

 少女の状態に気をとられて、鬼の蹴りに弾き飛ばされてしまった。

 

 受け身を取り、視界に移った鬼の目的を察知して、俺は回避ではなく防御を選んだことを後悔する。

 

 この距離では間に合わない。

 

 少女が喰われると思った時、俺は驚きの光景を目にする。

 

「ネエサンニ…サワルナ!!」

 

 鬼が人間を庇う。

 

 そのようなことがあって良いのだろうか?

 

 鬼は腹が減っているのだろう。

 

 大量の涎を垂らしながら、掌から血が噴き出すほど拳を握りしめ、それでも必死に俺から少女を守ろうとしている。

 

「…鬼よ。何故人を庇う?それはお前たちにとって餌だろ?」

 

「ネエサンヲ、モノミタイ二イウナ!!」

 

「それで人間の仲間だとでも思っているのか?笑わせるな。今は辛うじて理性が保てているようだが、そう長くは持たないだろう」

 

 俺は少女の落とした短刀を指さし、鬼に提案する。

 

「それでも、お前に少しでも人としての心が残っているのだというのなら。今ここで自分の頸を落とせ。人で在るというのなら、鬼を殺せ。人の命を奪ってしまう前に」

 

「………ソレデ、ネエサンハドウナル?」

 

「お前の姉には才能がある。鍛錬を積めば鬼殺隊上位の役職に就くことも可能だろう」

 

「ソレハ、ネエサンガ、オニトタタカウッテコトカ?」

 

「弟のお前が鬼にされて死んだとする。その時、お前の姉はどう思う?必ずお前を鬼にした者を見つけ出して復讐を果たそうとするだろう。もしくは、お前を殺した。お前の家族を助けられなかった。間に合わなかった俺に対しての憎悪でも構わない。怒りや憎しみは闘うための大きな原動力となる。家族を失ったその子には生きるための目的が、心を持たせるための強い感情が必要だ。___さあ、早く頸を落とせ。できないなら俺が頸を落としてやる」

 

「………オレガシネバ、ネエサンハ、キットシヌ」

 

 その鬼は涙を流しながら、短刀を手にする。

 

「カアサンヤ、ミンナノナキガラヲミテ…ネエサン…シノウトシテタ…」

 

 短刀を首にあてがい、尚も涙を流しながら鬼は言い続ける。

 

「デモ…コノママジャオレガ…ネエサンヲ…シナセテシマウ…!」

 

 短刀に刻まれた滅の文字に血の朱い雫が零れ込む。

 

「ネエサンヲ…オネガイシマス。…オレノ、オレタチノブンマデ、セイイッパイ、イキテ、シアワセ二、ナッテッテ…」

 

「…伝えておこう」

 

「アリガトウ」

 

 鬼の腕に血管が浮き出る。

 

 そして、血を噴き出しながら、鬼は自分の頸に短刀を斬り込んでいく。

 

 そして_____

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんなの、許さないから」

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 これは私の記憶。

 

 温かい家族との記憶。

 

 炭治郎が庭を駆けまわっている。

 

 蝶々を追いかけて楽しそうにはしゃいでる。

 

 でも、そんなに上ばかり見上げてると、足元の石に気がつけないんじゃ…あ、転んじゃった。

 

 擦りむいた膝から血が滲み、徐々に痛みを感じてきた炭治郎は泣き出してしまう。

 

「うわーーん!おねえちゃん!痛いよー…!」

 

 炭治郎は泣きながら私の懐に飛び込んでくる。

 

「ほら、泣かないの。炭治郎、もうお兄ちゃんでしょ?」

 

「でも、おれ、おねえちゃんのおとうとだもん」

 

「それはそうだけど…あ、そうだ」

 

 至極当然なことをいう弟に呆れながらも、私は寺子屋で借りた本で読んだ、ある一説の物語を思いだした。

 

「炭治郎、しゃがんで」

 

「んー?こう?」

 

「ん」

 

「………え?」

 

 炭治郎の額に唇を、チュっと触れさせる。

 

 顔を離してみてみると、炭治郎は口を半開きのまま呆けていた。

 

「おまじない。こうすると、痛いこととか苦しいこととかが和らぐんだって。どう?まだ痛い?」

 

「う、ううん。痛くない」

 

「じゃあ、おまじない成功ね!良かった~」

 

「うん…」

 

「なーに?炭治郎?ひょっとして照れてる?」

 

「だって!おねえちゃんが変なことするから!」

 

「嫌だった?」

 

「………おねえちゃんはいじわるだ」

 

「しょうがないよ。だって___」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 女の子だって、好きな子には意地悪したくなるんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 腹が空いた。

 

 喉が渇いた。

 

 食べたい。

 

 喰いたい。

 

 飲みたい。

 

 血を。

 

 肉を。

 

 人を。

 

(黙れ!!違う!!俺は!!鬼なんかじゃない!!)

 

 何も違わない。

 

 お前は鬼だ。

 

 私の仲間だよ。

 

(出ていけ!俺の中から!!出ていけ!!)

 

 たくさん人を喰って、強くなれ。

 

 そいていつか___

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 頭がボーとする。

 

 何も分からない。

 

 でも、自然と身体が動いた。

 

 そっと、短刀を握った炭治郎の手の甲に手を置いて。

 

 彼の髪を梳くように、優しく抱き寄せて。

 

 啄むような、キスを落とす。

 

 コクン、コクンと私の血を飲む炭治郎の瞳が、真っ赤な色からいつもの優しい色に

戻っていく。

 

 そうして私は、暗い意識の中へ落ちていく。

 

 愛しい家族をこの胸に抱きながら___

 

 

【挿絵表示】

 

 




時系列前後。

気の向いたままに書くので脳内修正はセルフサービスでよろしくです。

感想欄のレベルが高すぎて玉露吹きました。

みんな冨岡さん好きすぎる…!
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