「___みつけた!」
親方様から預かった指示書にある義勇君からの報告によると、母親を含めた5人の家族が鬼の襲撃により殺害されていたらしい。
遺体はどれも裂傷や刺突の跡だけで、肉を食い破ったような痕跡がない。
長女と長男が生き残り、長男が鬼となってしまう。
しかし、その鬼は飢餓状態であるにも関わらず、倒れた姉を庇い、鬼を殺すため自らの頸を日輪刀で断とうとした。
意識を失っていた姉が突然起き上がり、鬼になった弟に自身の血を飲ませることで、弟は完全に理性を取り戻した。
その現場検証と、姉弟の状態確認が今回の私の任務である。
「やっぱり!人と鬼は仲良くできる…できるのよ!」
左右の髪に蝶の髪飾りを付けた、見目麗しい女性。
花柱・胡蝶カナエは頬を赤らめ、心の底から湧き上がる喜びを噛み締めながら、大切な友人と自らが探し求めていた件の姉弟に逢うため、地面を蹴り駆けだした。
◇◇◇
綺麗な人…。
私が最初に抱いた感想はそれだった。
艶のある手入れの行き届いた絹のような黒髪。
男の人の視線を絡めとるようなしなやかな肢体。
そしてなにより、その女性から溢れ出る母性のような、優しい香り。
私は目の前に立つそんな女神様のような人から目が離せずにいた。
その人は私の視線に気がつくと、ニコっと優しい笑みを浮かべ、冨岡さんに話しかけた。
「久しぶり、義勇君。また逢えて嬉しいわ。その子が貴方の継子ちゃん?」
「違う」
「義勇君が私以外の人とちゃんとお話できてて嬉しいわ」
「俺は嫌われてない」
取り敢えず冨岡さんがちょっとズレてることは置いといて、視線を向けられた私は失礼のないように居住いを正す。
「誰もそんなこと言ってないんだけど…。それより、自己紹介が先ね?初めまして、私は胡蝶カナエ。義勇くんと同じ鬼殺隊の一員です。貴女が竈門禰豆子さんね?」
「は、はい!私が竈門禰豆子です。冨岡さんには本当にお世話になって__」
「義勇君は口下手だから勘違いされることも多いけど、ホントは凄く優しくて強い素敵な男性なのよ?ねー?義勇君」
「………うるさい」
それだけ言うと、義勇さんは一瞬で姿を消す。
そして、遠くを見ると、既に豆粒台の大きさになった冨岡さんの背中が見えた。
「えっ!?ちょっと!?冨岡さーん!?私の訓練はっ!?」
「あらら、ごめんなさい。拗ねちゃったみたいね?大丈夫。本部に報告するために一旦山を降りただけだから。多分、明日の朝までには戻ってくるわよ」
「そうなんですか?良かった…まだ、技の名前覚えきれてなくて____」
私が安心していると、急にカナエさんが私をギュッと抱きしめてきた。
「え!?胡、胡蝶さん?」
私にはない胸の弾力に女として嫉妬してると、胡蝶さんは更に私の頭を撫でてくる。
「あの?胡蝶さん?」
胡蝶さんは何も言わずに、ただ優しい笑みを浮かべながら、私を抱きしめ続ける。
「や、やめて下さい。大丈夫ですから、私、大丈夫ですから」
「何が大丈夫なの?」
胡蝶さんの言葉に抵抗していた身体がピタリと治まる。
「怪我もそんなに深くないし、ちゃんとお布団で身体を休めましたし…」
「その隈で?」
「………」
「泣いていいのよ?禰豆子ちゃん」
「…………」
「哀しさを誤魔化さないで。泣くことを我慢しないで。自分に、嘘を憑いちゃダメ」
「……………ぅぅ」
「炭治郎君なら今は眠ってる。だから心配しないで。誰にも言わないから」
「…………ぁぁあ」
「頑張った。禰豆子ちゃん。頑張ったわね」
「ぅぅぅぁぁぁあああああああああ!!」
「ごめんね。みんなを助けられなくてごめんね。そして…生きていてくれて、ありがとう」
もう、ダメだった。
堪えきれなかった。
悲しい。
苦しい。
辛い。
逢いたい。
触れたい。
もう一度、名前を呼んで欲しい。
過ぎ去った時の歯車を巻いて戻す術はない。
失ったものの大きさに押し潰されそうになる心を守るには頑張るしかなくって。
泣いたら、私はもうダメになっちゃうって思って。
本当は怖かった。
夜は一睡もできなかった。
起きたら、炭治郎がいなくなってるって思うと。
食べた物もすぐに吐き出してしまった。
私だけが生き残ってしまったことにどうしようもない罪悪感を感じて。
本当は鬼となんて戦いたくなかった。
死にたくない。
痛いのなんて嫌だ。
苦しみたくない。
苦しませたくない。
もう、辛いんだよ…。
…でも、炭治郎を守れるのはもう私だけなんだと。
私がやるんだと。
そのためには、泣いてる暇なんてない。
泣いちゃいけないと思った。
なのに。
なのに、この人は____
私は泣いた。
家族の死を悼んで。
私は泣いた。
自らの弱さを恨んで。
私は泣いた。
また、必ず、前を向くために。
私は泣き続けた。
もう二度と、誰にも哀しみの涙を流さなせないと、この刃に誓って。
本日の投稿は終了。
カナエさん…貴女は凄い人だよ…。
そして冨岡さん…そういうとこだぞ?