陽だまりに抱かれて   作:苺ノ恵

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9.胡蝶

 

 

「___落ち着いたかしら?」

 

「はい…、ありがとうございます」

 

 私は禰豆子ちゃんの眦に指を這わせると、そっと涙を拭きとる。

 

 泣いて赤くなった目が、彼女の哀しみの深さを物語っていたが、先ほどの表情よりも柔らかくなった彼女の顔を診て、私もホッと胸を撫でおろす。

 

「うん、顔色が良くなったわ。悲しいことはその時に吐き出しちゃわないと、心の病気になる人もいるから。…ごめんなさいね?辛かったでしょ?」

 

 禰豆子ちゃんは鼻を啜ると、少し恥ずかしそうに笑う。

 

「ええ。でも…ちょっとだけスッキリしました」

 

「辛かったらいつでも言ってね?すぐに抱きしめてあげるから」

 

「えっと、それはちょっと…」

 

 何故か私から離れようとする禰豆子ちゃん。

 

 反抗期かしら?

 

「?貴女もそんな反応するのね?しのぶも嫌がるし…何故かしら?」

 

「しのぶさん?胡蝶さんの妹さんですか?」

 

「ええ、背も低くて女の子らしくてとっても可愛いの!でも最近怒りっぽくなってて、眉間に皺が残らないか心配なんだけど…」

 

 私が妹のことで惚気ようとしてると、禰豆子さんが真剣な顔で訊ねてくる。

 

「妹さんも鬼殺隊なんですか?」

 

「…ええ、そうね。そろそろ行きましょうか?ここは冷えるでしょ?」

 

 私は彼女を離すと手を引いて彼女の母屋の方に歩き出す。

 

 その道すがら、私たちのことについて簡単に話すことにした。

 

「私たち姉妹は両親を鬼に殺された。目の前でね」

 

「……っ!?」

 

「生きながらに喰われる両親の叫び声を、私は今でも夢に見るわ」

 

 禰豆子さんは聞いてはならないことを聞いたという表情で、私の話を遮ろうとしたが、その前に私が話す。

 

「私には何の力も無かった。それでも、せめて妹だけは、しのぶだけは助けなきゃって思って…。その時、鬼殺隊の…現在の岩柱様に命を救われたの。親類からの皆から言われたわ。そんなに恐ろしい目にあって自ら鬼と闘おうなんて、どうかしてるって」

 

「………」

 

「でも、私たちは知ってしまったから。鬼の存在を」

 

「…………」

 

 徐々に暗くなっていく彼女の雰囲気に気付いた私は、少し話過ぎたと反省する。

 

 少なくとも、家族を失った今の彼女に話すべきことではない。

 

「それでも、私は鬼を恨みたくない。だって、鬼だって元は人なんだから」

 

「え…?」

 

「私はね?鬼だから人を殺すんじゃないと思うの。人を殺すから、人は鬼になる…私はそう思ってる」

 

 玄関をくぐると、障子の隙間から此方を窺う、小さな男の子がいた。

 

「だから、私は貴方と人としてお話したいと思ってる。そのために来たの。私と仲良くしてくれたら嬉しいな?ね?竈門炭治郎くん?」

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「____以上がお館様からの指令になります。鱗滝様へのお申し出も伝達済みです」

 

「そうか」

 

 麓の村に降り、胡蝶の部下である隠の女性から報告を受ける。

 

「それでは、私はこれで」

 

「さて…」

 

 女性が去り、俺は懐に手を入れる。

 

 胡蝶とすれ違い際、渡された小さな紙には日用品の調達と明日の夜明けまで帰って来るなという旨の文を書き連ねたものがあった。

 

「…どうしたものか」

 

 今回の任務は、鬼殺ではなく調査の名目が大きい。

 

 そうなれば、俺にできることなど精々雑用程度のことになるだろう。

 

 目下の案件は、一晩夜を明かすための宿探しと女性ものの日用品をどう調達するかだ。

 

「しまった…」

 

 先ほどの隠の女性に物品の調達を頼めば良かったのでは?

 

 そもそも、男の俺にこんな買い物をさせるとは、胡蝶は何を考えているんだ?

 

 女ものの髪留めなぞ知らんぞ?

 

 そこらにある紐ではダメなのか?

 

「………よし」

 

 取り敢えず、鮭大根を食べにいこう。

 

 

 

 

 

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