IS‐護るべきモノ-   作:たつな

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変わらない想い、変わりゆくこれから

「寒くないか?」

 

「大丈夫だよ。ありがとう、心配してくれて」

 

 

俺の前には一糸纏わぬ姿のナギが布団をかぶったまま、にこやかに、だがどこか恥ずかしそうにしながら俺の顔を見つめてくる。夏の暑さもピークは過ぎて夜はどこか秋の訪れを感じさせるかのように涼しくなってきていた。

 

今の状況を説明すると俺は下のパンツだけを履いた全裸に近い状態で、ナギに関しては本当に何も着ていないし履いていない状態。風邪をひいてしまう可能性を危惧して上着を取ってこようとするも、大丈夫だと言うナギの一言を信じて布団の中に留まる。

 

 

「それに……」

 

「ん?」

 

「こうしてれば、寒くないでしょ?」

 

 

ニコッと微笑むとナギは少し照れ臭そうに身体を密着させて来た。服越しでは無く、直に伝わる人肌の感触が何ともたまらない。一線を超えてしまったすぐ後だからだろうか、不思議と恥じらいというものは無くなっていた。

 

公衆の面前で恥じらいがないのはまずいが、二人きりとこの部屋の中でのことなら問題ないだろう。くっついてくるナギを優しく抱きしめながら頭を撫でる。

 

 

「えへへ……♪」

 

 

気持ちよさそうに目を細めるナギ。

 

もし犬のように尻尾が付いていたらずっとブンブンと降っていそうな雰囲気だった。

 

と、いつまでも幸せオーラ満載の状態で今日一日を終えられたら平和であることこの上無かったのだが、徐々に冷静になりつつある俺の脳内に一つの懸念点が浮かび上がってくる。

 

とりあえずいじめ問題はひと段落付いたからよしとしよう。個人的にはもっと徹底的にやってやろうと思ったが、そんなことをしたところで何かを得られるわけでもなければ、ナギが喜ぶわけでもない。自分の憂さ晴らしのために暴れたところで、後に残るのは虚しさ……虚無感だけだ。

 

散々釘は刺しておいたし、今頃懲罰房にでも入れられて自分たちの処分がどうなるのかどうか待っていることだろう。後は学園側の処分に任せておこう。

 

俺が出来ることはやり切った。

 

 

さて、そこは良いとして問題は明日だ。

 

 

「……完全に忘れてた、明日どうしようか」

 

 

何を今更って話にはなるが、俺もナギも学校に行く分には問題はない。ただ今のナギの髪型、俺としては特段何も思わなかったが強引に切られてしまったせいで後髪の長さは不釣り合いな状態になっていた。

 

俺の視線が無意識に髪の毛へと向く。

 

何とか誤魔化そうと思えば誤魔化せるかもしれないが、イメージチェンジしたと言ったところで、髪の毛先を見たら美容師が切ったものではないことくらいクラスメートたちは瞬時に見抜くだろう。

 

後はナギの気持ち的なところの問題になってくる。それで良いと言うのであればもう何もないが、もし思うところがあるのであれば多少配慮してもらうように伝えた方が良さそうにも思える。

 

最も伝える相手は担任、千冬さんにだが。

 

俺の骨、誰か拾ってくれるかな……。

 

 

「え、明日?」

 

 

何の話と言わんばかりにナギは首を傾げる。あぁ、可愛いな……と、今はそうじゃなくて。

 

 

「そう、明日。俺は気にしないけど、今の髪で登校するのは気が引けるだろ?」

 

「あ、うん。それなんだけど……明日朝一で私から織斑先生に相談しようと思ってて」

 

 

と、俺の考えていたことを先回りで想定していたようだ。流石に今の状態では学園には行きづらく、せめて髪を整える時間くらいは欲しい。

 

近くの美容院に行ってから登校すると考えると午後からの登校には間に合うはず。となると午前中だけ時間を貰えればナギとしては十分なため、そこを千冬さんに交渉するつもりなのかもしれない。

 

 

「そっか。俺も手伝おうと思ったけど大丈夫そうか?」

 

「うん。それくらいなら全然大丈夫。私から直接伝えるから大和くんはしっかりと登校してね」

 

「ははは……そこは心配しなくても大丈夫だ。ちゃーんと登校するよ」

 

 

くすりと笑うナギの心中は如何に。

 

俺のことだから心配に思ってついてくるんじゃないかと思われたらしい。もちろんそれが出来るのであれば率先してついて行きたいところだが、そこは我らがボスの判断次第になる。

 

十中八九断られるだろう。勝手に抜け出そうものなら後々とんでもないことになるくらい分かる。

 

だから俺はやらない。

 

 

「もう一回……」

 

「もう一回? するのか?」

 

「ち、違うよっ! もう、エッチ!」

 

 

何かを言い掛けた瞬間に被せるように冗談を言うと、顔を赤らめながらポカポカと俺の胸元を叩く。

 

 

「大和くんのせいで何を言おうとしたか忘れちゃったよ」

 

「ご、ごめんごめん。そんなつもりはなかったんだが……」

 

「大和くんが盛ったお猿さんだっていうことはよーく分かりました」

 

「グハッ!?」

 

 

そ、そんなジト目で俺のことを見ないでくれ!

 

俺の良心が痛んで爆発してしまう。

 

一人で頭を抱えながら悶絶しているといつまでやってるのと言いたげに苦笑いを浮かべながらナギは話を続ける。

 

 

「ねぇ、大和くん。一つわがまま言っていいかな?」

 

「あぁ、何かして欲しいことでもあるのか」

 

「うん。その……大和くんが嫌じゃなかったら……今日はこのまま泊めて欲しいの」

 

「……へ?」

 

 

何とも可愛らしい内容のわがままだった。遠慮しがちなナギらしいといえばそれまでなのかもしれないが、このまま朝までいるものだと思っていた俺は思わず間の抜けた声が溢れる。

 

 

「ダメ……かな?」

 

 

ギュッと俺の手を握ってくる。

 

不安そうに上目遣いで見つめてくる健気な姿に『いいえ』と言えるはずがなかった。空いている方の手でポンポンと頭を触りながら、ハッキリと伝える。

 

 

「ダメなわけないだろ。良いに決まってる」

 

「あ……っ♪」

 

 

幸せそうな声と共にナギの表情がみるみるうちに明るく染まって行く。嬉しいという感情がはっきりと伝わってきた。

 

 

「ありがとう! ……大和くん」

 

「ん?」

 

「……大好きだよ♪」

 

 

どこからとも無く唇を重ねる。

 

幸せの形に説明なんかいらない。

 

二人だけの時しか知らない彼女の姿。尽くしてくれる姿が堪らなく愛おしくなってくる。目の前にいる大切な人をギュッと抱きしめる。伝わってくる温もりは体温以上の暖かさを感じることが出来た。

 

少しでも力を込めれば潰れてしまいそうなほどか弱い体付き。そのか弱い体つきでナギは耐えてきたのだ。

 

今だけはナギだけの俺になろう。

 

安らぎを与えてくれるこの空間はそっと目を閉じると即座に眠気を誘発する。二人揃って深い眠りにつくのにそう長い時間は掛からなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ大和。今日朝から鏡さんの姿が見えないけど、体調でも崩したのか? ここ最近浮かない表情していたし」

 

「いや、体調を崩してる訳じゃないぞ。予定が済んだら登校するって朝連絡があったから昼前には来るんじゃないか?」

 

 

三限目の授業が終わったところで、前列の一夏から質問を投げ掛けられた。

一夏もここ数日間のナギの異変には気付いていたようで、いつも以上に心配した顔付きで俺に聞いてくる。

 

あの状態じゃ心配するなって方が無理だし、心配して当然だろう。

 

 

 

昨日の夜から先の展開を説明すると、朝早く起きた俺とナギはまず真っ先に千冬さんに電話をかけて事情を説明。ルームメイトに要らぬ心配を掛けないように一度俺の部屋に泊めたことも伝えた数分後、俺の部屋に千冬さんが来訪。

 

数日間に渡る嫌がらせの数々は千冬さんも把握していなかったようで、改めて事の顛末を説明。始まりは脅迫文だけだったが、どんどん内容がエスカレートして最終的にはトイレで水を掛けられたり、髪の毛を切れられたりしたと。

 

内容が内容なだけに言えなくなる気持ちはよく分かるが、ここまで事が大きくなってしまうと取り返しが付かなくなる可能性もあるから、必ず相談をしろと軽く注意は受けるも、それ以外のお咎めは特に無し。またナギが午前中に髪の毛を整えるために美容院へ行くこと、加えてメンタル的に問題に無いかどうかを確認するために病院へ行く許可も貰った。普段はめちゃめちゃ厳しいけど、物分かりが良くて本当に助かる。

 

……昨日の夜何をしたかは言ってないものの、何となく千冬さんは把握しており、俺に投げかけた言葉は『くれぐれも誤爆してくれるなよ』だった。

 

その言葉を聞いた瞬間にナギは耳まで顔を赤くさせ、俺はひたすらに明後日の方向を見ることしか出来なかった。

 

確かにあの夜互いの『初めて』を交わしたわけだが……行為中は気分が高まり過ぎて全く意識をしないけど、いざ時間が空いて別の人に突っ込まれると中々に恥ずかしいものがある。

 

と、後はナギが戻ってくるのを待つのみ。

 

 

「そうか。大和がそう言うんならそうなんだろうな。そう言えば朝の話覚えてるか? 上級生で停学者が出たって話。数日にわたって聴取するらしいけど下手したら退学させるって何をしたんだか」

 

「もちろん。理由は学内の風紀を著しく乱したってことだけど中々に定義が曖昧だよな」

 

 

俺の返しに一夏は確かに、と相槌を打つ。

 

あえて何も知らない風を装って答えるが、全容を知っているため驚きでもなんでもなく当然の結果にしか思えない。

 

本音を零すのなら停学期間何か作らずにさっさと退学処分にしてしまえば良いのに思うものの、流石に色々と調べる事があるのだろう。

 

同学年の楯無の話によると、リーダーに関しては元々素行自体も良くなく、たびたび授業をサボることもあれば、無断欠席の常習犯でもあったらしい。

 

入学当初から誰かをいじめて辞めさせたり、人の私物を勝手に盗んだりと兎に角悪評が絶えず続いていたが、決定的な証拠を押さえられずに証拠不十分で今まで在籍させることになってしまったようだ。

 

今回に関してはあらゆる証拠を差し押さえていて言い逃れは出来ないし、準備が整い次第退学をさせる方向で話を持っていく上で、法的措置も検討しているとのこと。多少時間は掛かるが一つ頭を悩ませる問題が無くなると考えればいいかもしれない。

 

そして彼女の取り巻きの連中に関してもリーダーほどの罪にはならなくとも、やっていた事が悪質であり、愉快犯として悪行を繰り返していたことから、退学か良くても停学処分が下ることになるそうだ。

 

学内に残れたとしてもナギへの接近は原則禁止、もし接近したり他の生徒に対して嫌がらせをしたりする事が確認されたらその時点で退学させるようにさせるらしいが、そもそも今回の問題で多くの生徒や教師から後ろ指を刺されて白い目で見られることは間違い無い。

 

それに村八分に近い環境で学園に残りたいと思うのか甚だ疑問だ。

 

仮に耐えて卒業出来たところで経歴に大きな傷がついた事実は変わらないし、進学や就職にも大きく影響するに違いない。

 

 

……ただ、俺にとってはもう至極どうでも良いことだ。前に言ったかと思うが、興味も無ければ同じ人間と思いたくもない。同系列にされたら他の人間が可哀想だ。

 

 

「まぁ、退学が検討されるのもそうだけど、学内に周知がいくってことは余程のことなんだろう」

 

「なるほどな。普通なら他学年の停学って他の学年やクラスには出回らないし、それが朝礼で共有されたってことは相応のことをしたってことになるのか」

 

「そういうことだ」

 

 

結論、それだけのことをしたから停学や退学になる。理不尽なものではない、自分の積み重ねが結果となって跳ね返ってきただけに過ぎない。誰も悪くない、悪いのは行為を働いた自分自身だ。

 

 

「そうだ、明日の学園祭に関して話があるんだった。分担なんだけど、俺と大和はフロアと厨房を両方担当することになるだろ?」

 

 

話題は明日に迫った学園祭へと推移する。

 

ほとんど触れることは無かったが明日はもう学園祭本番になる。クラスのホームルームでも話し合いを重ねに重ねた結果、俺と一夏はフロアでの接客をメインに、厨房にも入って調理作業を手伝うことに。どうやら一学期のクラス代表戦の後に開催した食事会から口コミが広がり、折角の腕を振るわないのは勿体ないとなった。

 

あの一回きりとはいえ、俺の料理の腕を評価してくれたことは素直に嬉しい。ここ最近バタバタと忙しいこともあってあまり自室で料理を作ることもなかったから、個人的に料理に携われるところも楽しみだ。メニュー自体は普通の生徒でも美味しく作れるようにマニュアル化してくれているそうだが、そこに対するスパイスや一工夫は担当した人物の腕次第。

 

腕がなる。

 

 

「おう。そこのシフトは流動的なんだよな。俺と一夏のどちらかが厨房に入る時はダブらないようにしないといけないんだっけか。最悪休憩も取れない可能性も覚悟しないとなー」

 

 

両方のポジションを担当するとなるとシフトは流動的になる。当然混み方次第では休憩時間も限られてくるはずだ。最悪休憩無しで働けば良いかと、比較的短絡なことを考えていたわけだが。

 

 

「そうそう。ただそうは言っても休憩は取らないとマズイからどこに休憩を入れようかって相談なんだけど……大和は鏡さんと合わせたほうが良いよな」

 

「はい?」

 

 

まさかの一夏の発言に思わず言葉が詰まる。

 

 

「ん、折角の学園祭なんだし時間を合わせて楽しんできた方が大和も良いだろ?」

 

 

何と気が利いた言葉だろうか。本当に人のことに関しては人一倍敏感で気遣いも驚くほどに出来ている。

自分のことになるととんだ唐変木に早変わりしてしまうのが難点だが……まぁそこも含めて一夏らしいのかもしれない。

 

 

「そう言ってくれると助かる。ナギのシフトは……あぁ、いや。登校したら俺から聞いておくよ、シフト聞いたら一夏に連携「誰のシフトを連携するの?」……え?」

 

 

聞き覚えのある声が俺の斜め前から聞こえた。俺の方に向いて座っていた一夏の視線が斜め上を向いたところで固まる。それだけじゃ無い、クラス中の視線がその一点に集中していた。休み時間の喧騒が水を打ったように静かになる。

 

釣られるように俺も視線を上げて声が聞こえてきた場所を見つめる。視界に映ったのはどことなく以前の雰囲気を残しつつも、見覚えのない風貌の女生徒だった。

 

いや、見覚えが無いわけない。

 

ガラリと変わった雰囲気がそうさせているだけで、俺はこの人物のことをクラスにいる誰よりも知っていた。

 

 

ぱっちりと開いた大きな瞳に、みずみずしくもどこか色気を含んだ口元を含めて全てが整った顔のパーツ。

すらっとしたスタイルの中でも存在感を放つ胸元の装甲。それとは反比例するようにきゅっと引き締まったくびれに、ハリのあって形の整ったヒップライン。

地面に向かって伸びる健康的でしなやかな脚。

 

どれを取っても美少女である要素を兼ね備えていた。

 

そして……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはよう大和くん。ごめんね、少し遅くなっちゃった」

 

 

人懐っこく、道行く男性を一瞬の内に虜にしそうな満面の笑み。

 

以前は腰まで伸びていたロングヘアは肩の少し上くらいまで伸びるミディアムスタイルに変貌していた。

 

 

「あ、あぁ。おはようナギ……」

 

 

俺に挨拶をする生徒の名前を呼ぶ。

 

出てくる言葉は何ともぎこちないカタコトのロボットのような言い回しになってしまった。しっかりと切りそろえてもらったようで、全体的にバランスの取れたミディアムスタイルの髪型がナギの魅力を一層際立てている。

 

一言で言えばすごく似合っている。逆に似合い過ぎて思わず言葉を失ってしまっていた。

 

 

「お姉ちゃん!」

 

 

俺に続くように反応したラウラが真っ先に駆け付け、勢いそのままにナギに向かって抱きついた。そんなラウラを驚きつつも優しく受け止めてナギは抱きしめる。事情を知らない生徒……もとい大半のクラスメートたちはポカンとしながら二人の様子を見つめていた。

 

ラウラも同様に心配していたのだろう。昨日は俺やナギに気を遣ってくれたようで、俺が部屋に戻ってからというもの一度たりとも部屋を訪れることはなかった。

 

当然電話やメールでの着信も一切ない。

 

朝登校した際に登校してこないことに対して大丈夫かどうかの確認はされたが、そこまで深く言及はされなかった。

 

が、本当は心配で心配で堪らなかったに違いない。

 

寂しくて寂しくて堪らなかったに違いない。

 

 

「ラウラさんも色々ありがとう。ここ最近は冷たくしたり迷惑ばかり掛けてごめんね?」

 

「そんなことはない! 私はこうしてお姉ちゃんが元気に登校してくれるだけで嬉しい! 本当に無事で良かった……」

 

 

ナギの元気な顔を見てようやくラウラの心も晴れたのだろう。やっといつものナギに出会えた嬉しさから人目も憚らずにギュッと力を込めてナギへと抱きつく。

 

本意ではないとは言っても一度はナギもラウラを突き放してしまった。多少なりともラウラの心に残る蟠りもあったに違いない。それでもこうしてまたいつものナギに会うことが出来た、それだけでラウラの心が晴れていくのを側から見ても感じることが出来る。

 

 

「あ、あの霧夜くん。お取り込み中申し訳無いんだけど……昨日今日で一体何かあったの?」

 

「そうそう! 急にナギが髪をバッサリ切るなんて……」

 

「凄く似合っているけど、髪を切るだけのために遅刻したなんて考えられないし。そもそも織斑先生が許さないような気がするんだけど……」

 

 

ナギの変化に気になっていたクラスメートたちがわらわらと俺の周囲を取り囲む。遅れてきた生徒がトレードマークの長髪をバッサリと切り落として別人のように変わっていたら何かあったと勘繰っても無理はない。

 

周囲の声もごもっともだ。

 

もちろんクラスメートたちが興味本位で聞いてきてるわけでは無いのはよく分かる。ここ最近のナギの様子を見て、本気で心配して聞きに来ていることは明白だった。

 

他愛もない無いようであれば俺の方からでも伝えてあげられるが、今回に関しては内容があまりにもセンシティブ過ぎるため、正直俺の口からとやかく言うことが出来ないのも事実。

 

事件の被害者は俺ではなく、ナギなのだから。

 

 

「ナギ」

 

「……うん、私は大丈夫。皆にも心配掛けちゃったし、何があったかくらいは知る権利があると思うから」

 

「そうか。なら俺からざっとしたことだけ伝えるよ」

 

 

俺が何を言おうとしているのかすぐに分かったようで、大丈夫だと念を押してくれた。

 

ここまで来てしまったのだから、隠していたところでどうせいつかバレる。それにクラスメートたちにもいらぬ心配を掛けてしまったことも間違いない。

 

今後のことを考えると何が起きていたのか、彼女たちにも知る権利はある。

 

 

「今から話すのは作り話でも何でもない全部事実の内容だ。ただこの内容に関しては絶対に他言無用で通して欲しい。彼女の……ナギのためにも」

 

 

だから俺は話す。

 

これまで起きた全てを。


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