IS‐護るべきモノ-   作:たつな

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二人(楯無とナギ)とのアフター・スクール

 

 

 

『大和、準備はいい?』

 

「あぁ、いつでもオーケーだ」

 

 

大和と楯無はそれぞれISスーツに着替えてIS学園の第三アリーナに来ていた。生徒会の仕事も特に無く、周囲の人間も全員部活や私用でいない中、何処かに散歩にでも行くかという大和に対してそれならとISの教官を申し出た楯無。

 

楯無に連れられてアリーナに来た大和は一人ピットに来て、地上にいる楯無と個人間秘匿通信(プライベート・チャネル)で連携を取り合っていた。

 

今回の訓練は模擬戦ではなく、大和が専用機を使った操縦に慣れることが目的となる。臨海学校以降専用機をほとんど使うことが無かった大和は、他の専用機持ちたちに比べて稼働時間があまり多く取れていない。

とはいえ彼の持っている格闘や操縦を含めた戦闘センスについてはずば抜けたものがあり、慢心があったとはいえ打鉄でもセシリアに打ち勝つなど十分な実力を兼ね備えていた。

 

 

 (さて、いつでもオーケーとはいったものの、まずは問題なく展開出来るかだな)

 

 

ISを実際に操縦するのはかなり久しぶりとなる。展開ができないなんてことはあり得ないが、問題なのは時間が空いた分一番稼働していた時と同様のスピードで展開出来るかだ。

 

目を閉じながら展開イメージを脳裏に浮かべると、光の粒子が身体を纏い装甲を組み立てていく。次に目を開いた時には既に装甲が展開された後だった。スピードは如何ほどだっただろう、少なくとも最後に展開した時に比べるとそこまで大きな違いがあったようには見えない。

 

全身を黒で埋め尽くした装甲、久しぶりに見る不死鳥そのものだった。使用頻度が少ないとは言ってもやっぱり自分の機体は安心する。

 

 

『展開は無事に出来たみたいね。身体の状態はどう? 特に変わらない?』

 

「これで展開出来なかったらどうしようかと思った。特に身体にも異常は無さそうだ」

 

 

無事に展開できたことに安堵しながら、身体にも特に問題がないことを確認する。

まぁ問題があったらだいぶ困るんだが、如何せん癖のある機体故に一抹の懸念がある。

 

とりあえず今は問題ない。

 

 

『そう、なら良かった。とりあえず手始めに固定目標と移動目標の中心を正確に破壊すること、いい?』

 

「ただの破壊じゃなくて中心部の破壊ね、いきなりレベルが高いところを要求するなぁ」

 

『そうかしら? 大和なら問題無く対応出来るかと思うけど、それに遠距離スナイプをしろと言っている訳じゃないしね。如何に素早く接近して中心を貫けるか……女の子のハートを射止める時のようにやってみなさい』

 

「ハートを射止める時って、これまた随分と抽象的な例え方だ……なっ!」

 

 

スラスターをふかしながら一気に加速して行くと勢いそのままに上空へと飛び立つ。スピードを上げながら空高くまで上昇する。身体に感覚が染み付いていて動作自体にも違和感はない。

 

何より自分の身体としっかり連動してくれているため、自身の肉体では再現が出来ない動きまで出来る。動かした所感だが、久しぶりの感覚としては悪くない気がした。

 

ある程度の高度上昇し、周囲をハイパーセンサーで確認する。確認していると同時に楯無から個人間秘匿通信(プライベート・チャネル)で指示が飛んでくる。

 

 

『じゃあ早速腕慣らしね。大和これから目標をあらゆる場所に配置するから急降下しながら全て中心目掛けて破壊しなさい』

 

「了解」

 

『あっ、言っておくけどゆっくりと降下してしっかりも狙いを定めて……はナシだからね? 大和はそんなことしないと思うけど、あくまで全力の急降下で目標を破壊すること、いい?』

 

 

楯無からの課題は目標の中心部を急降下しながら破壊しろというもの。近接武器ならばゆっくりと降下すれば的の中心部を射抜くことは難しくない。

 

今回の訓練はそこを求めているのではなく、全速力で降下しながらいかに正確に目標を破壊出来るかが重要になってくる。超高速下での動きはあらゆる場面で活用出来る動きになる。

 

難易度としては決して低いものではないが、それを楯無に求められているのだから期待にはしっかりと応えたいところだと大和は意気込む。

 

 

「そこはもちろん。それじゃただのヌルゲーになっちまうし、ゆっくりと急降下してたら楯無に教えてもらう意味がない。こんな機会滅多にないんだから、全力で楯無の想いに応えるようにする」

 

 

教えてもらえる機会は決して多くない。

 

教えてもらえるその僅かな時間を貴重にしていかなければならない。成長速度は人それぞれだが時間の猶予があるわけでもなく、いつ何処で誰に命を狙われるか分からないこの現状。

 

ここ最近IS絡みで何回戦っていることか。生身で立ち向かえるとは言っても相手にする数が多すぎればこちらが圧倒的に分が悪く、多数を相手にする場合はISを使った戦い方に慣れる必要があった。

 

 

『……』

 

 

電波が悪いのか楯無の声が聞こえなくなった。地上で何かあったのか、ハイパーセンサーで確認する前に大和はプライベート・チャネル越しに声を掛ける。

 

 

「楯無? どうした?」

 

『な、何でもない! 何でもないわよ! じゃあ早速配置するわ』

 

「へ? お、おう?」

 

 

地上で何か問題が発生したわけではなく、大和が何気なく発した『全力で楯無の想いに応える』という一言に赤面して反応が遅れてしまっていただけだった。

 

急に話し始めたかと思うとだいぶテンパりながらまくし立てるように目標を設置し始める。こんなところで悶々としているわけにはいかないと、雑念を振り払うかのように設定を行っていった。地上を見下ろす大和の視界に複数の的が出現していく。

上空に点在する的の大きさや動きは様々でそれぞれの距離感もバラバラだ。少なくとも広範囲型の攻撃手段を持ち合わせていない不死鳥にとっては一つずつ確実に壊していく正確性と俊敏性が求められるところだ。

 

急降下するとなると如何に効率のいい動きで的の中心を射抜いていくかが重要になってくる。地上までに点在している目標は合計二十個、中心部分は赤く染まっていて的としては狙いやすく差別化されているが、その的自体は決して大きなものでは無い。

 

的を大きく外すのは当たり前のこと、加速するあまり壊しそこねてしまったともなればその分手戻りのラグが発生する。

 

大和は今の地点から出発し、的を破壊して地面に着陸するまでの一連の動きを脳内でイメージした。誰でも出来るような簡単な動きではないが出来ない動きではない。全神経を集中させながら、すぅっと目を閉じる。

 

 

(無駄な動きはせずに中心を全て撃ち抜く……か。これが難しいかどうかなんて知ったこっちゃないけど、出来ないならやれ何て言わないしやれないことはないはずだ)

 

『大和、準備はいいかしら?』

 

「あぁ、いつでもいいぞ」

 

 

全神経を集中させたまま今度は目を開く。

 

どう動いて目標を沈めていくか、ある程度の想定は出来た。後はこの機体をイメージ通りに動かす、それだけだ。

 

 

『分かった、じゃあ行くわよ。レディ……ゴーッ!』

 

「っ! ハァッ!!」

 

 

宙に浮かせた機体を反転させると、ほぼ直下の状態で地上に向けて急降下していく。両手に刀を展開すると最初に見える的目掛けて速度を上げた。片方の刀を突き出しながら一つ目の的へと接近し、速度を利用して中心部を無事に撃ち抜く。

 

続けざまに二つ目、三つ目と刀をピンポイントで振り下ろして的を次々と破壊していく。当然スピードが上がっていくに連れて的に接近するまでの時間は短縮される。つまり攻撃した後の切り返しも素早く、かつ的確に行う必要がある。

 

 

「このっ!」

 

 

そうこうしている間にも順調に的を破壊していく大和。その表情に焦りというものを感じることはなく、淡々と目の前の目標を確実に仕留めていた。落下する前に的の位置や大きさや動きをしっかりと把握していたことで、規則的に動く、もしくは静止している目標を壊すこと大和にとって決して難しいものではない。

 

 

「はっ!」

 

 

機体の出力とそれによって生み出される落下速度。それさえしっかりと計算出来れば、正確性さえ失わなければ仕留め損なう理由は無かった。

 

一つ一つを確実に破壊していく大和だが、ちょうど半分を折り返したところで厄介な位置に設定されている的を発見する。

 

的の大きさとしても小さく、かつ二つの距離はそこまで離れている訳でもないが、刀のリーチではどう足掻いても届きそうにない。更に高低がほとんどないとなると同時に設置されているため急降下状態では非常に狙いにくい場所にあった。的同士の間に入ったとしてもリーチが足りない。

 

 

(さっ、大和。あなたはどう対応してみせる?)

 

 

地上にいる楯無は上空を飛行する不死鳥を見ながら、扇子で口元を隠す。楯無があえて変なところに設置したのは大和がどう対応するかを見てみたかったからだ。

 

実際の戦闘でも的が人に変わるだけで、似たような状況が発生することだって考えられる。今回のはいわばシミュレーション、予行演習みたいなものだ。予行演習ですら実践できないことが本番で出来るわけがない。

 

命の駆け引きがない純粋な訓練だからこそより力が入るし、真剣味も増す。一時たりとも気を抜くことはなかった。

 

 

「ふん、変なところに的を設置してくれる。このタイミングだと瞬時加速(イグニッション・ブースト)は使いづらい、か。それなら……おらっ!」

 

 

両手に握ったうちの片方、左手の刀を的の中心に向かって投げ付ける。ただ投げ付けるわけではない、それぞれの的が重なった瞬間を見計らい、落下する重力を計算した上で刀が回転しないように矛先を真っ直ぐに固定して投げ付けた。

 

勢いよく投げ付けられた刀は手前の的を簡単に破壊すると、その勢いそのままに後ろにある的の中心部を簡単に射抜く。

 

 

『!』

 

 

まさか投げ付けるとは思わなかったのか、地上にいる楯無はその光景に少し目を見開いて驚きの表情を浮かべた。斜線がある程度安定するセシリアのレーザーライフルや鈴の衝撃砲ならまだしも、大和が投げたのは近接用の刀だ。

 

いくら固定目標とはいえ、近接用の武器を投げ付けるなんて発想は湧かない。というよりも狙い通り投げられる保証もない上に、投げる武器ではないことから投げるという選択は最初から除外される。

 

 

(普通なら投げるという選択はしない、でも……)

 

 

驚きはその正確性だった。

 

重力に従うように高速での落下中での攻撃、斬撃であれば大きくブレるということは少ないものの、投擲や銃撃などは目標に到達するまでに大きなブレが生じる。

 

それが自分の力で投げ飛ばす刀なら尚更だ。大和は偶然ではなく、全てを計算に入れた上で自分の刀を投げた。楯無の専用機である霧纒の淑女(ミステリアス・レイディ)にも近接の武器は存在するが、高速落下の状態で投げて的を正確に射抜くだけの自信があるかと言われたら、首を縦に振ることは出来ない。

 

投げるなんて発想など無い上に、目標に的確に当てる自信は無いからだ。

 

 

(大和はそれが出来る、しかも自信を持って。紛れで当てたわけじゃない、しっかりと全てを計算した上で投げた。それが出来る圧倒的なセンス……本当に末恐ろしいわ)

 

 

楯無すらも脱帽するしかない片鱗を見せる大和の動き、そうこうしている間にも的を次々と破壊していく。彼の視界に入った目標を逃すことは無かった。

 

 

「ふっ! ハアッ!」

 

 

楯無の与えた課題どおりに的の中心を射抜いていく。

 

ブレることのない剣捌き、自然なまでの落下が組み合わさり、無駄のない精錬された動きはまるで一つの演舞を踊っているようで見るものを虜にする。

 

このアリーナにいるのは楯無だけではない、他の区画で練習に励む生徒たちも大和の繰り出す舞に釘付けとなっていた。

 

 

「あれ、もしかして霧夜くん?」

 

「えっ! うそうそ、どこどこ!!?」

 

「えーほんとだ! 凄いっ!」

 

「キレー……まるで舞を踊っているみたい」

 

 

生徒たちの反応は様々だ。

 

今の大和を見て訓練をしているように見える人間ばかりではない。

 

刀を持ちながら出現する的を破壊しているため実戦訓練の一つであることは間違い無いのだが、舞を踊っていると錯覚させるほどの美しい剣技。

 

それほどに精錬された動き、まさに美しいという一言が相応しいものだった。自分たちの手を完全に止めて、うっとりとした眼差しのまま空を見つめる生徒たち。

 

 

(ただ大和が他の女の子にもモテちゃうっていうのは……やっぱり妬いちゃうなぁ)

 

 

女子生徒たちに対して何処となく複雑そうな苦笑いを楯無は浮かべる。大和とアリーナに来たのは彼の訓練をサポートすることが大前提ではあるものの、折角の機会だから大和と一緒に居たいという下心も存在した。

 

それは純粋に彼に対する想い……つまり好意からくるものであって、彼女自身がどうこう出来るようなものでは無い。自分以外の知らない女子生徒たちに専用機を操縦する姿を見られている。

 

大和とて狙ってカッコよく見せているわけではない。無駄のない動きを追求した結果、このような動きとなっているだけで、それは彼の天性の才能によるものとなる。彼としても場にいる生徒たちに綺麗な舞を踊っているように見られているとは思ってはいなかった。

 

 

(う〜……もう、私こんなに嫉妬深い女だったかしら?)

 

 

ISの訓練をしている以上、見られるのは仕方ない。これからISに関連する様々な行事が行われるし、専用機持ちの彼は不特定多数の観衆の前にその姿を披露するだろう。仕方ないことは分かっている。

 

ナギが大和と一緒にいても何とも思わないのに自分の知らない女の子と話していたり、大和に集中していると取られてしまうんじゃないかと変な気持ちになる。本人にそのつもりは無いため、こんなつもりはないのにと変に自己嫌悪してしまう。

 

頭では分かっていてもこのモヤモヤは晴れそうには無かった。

 

 

「これで……最後だっ!」

 

 

そうこうしている間にも順調に的を破壊し続けた大和は、パリンという音共に最後の的も中心部分を綺麗に射抜く。

上空から地上付近まで猛スピードで落下しているため、このままではいつぞやの一夏のように地面にクレーターを作ってしまう。

 

地面との距離は残り僅か。

 

地面と自身との距離を瞬時に把握して体勢を反転させると、スラスターを逆噴射させて落下速度を一気に落とした。スピードが落ちたことで機体の制御が容易になり、地面に優しく大和は着陸する。

 

 

「ふぅ……」

 

 

一度上空を見上げて的が残っていないことを確認すると一つ息を吐いて展開したISを解除した。ミッションコンプリート、楯無が設置した的は全て破壊。それに全てきっちりと中心部を射抜くというおまけ付き、一つたりともズレることはない。

 

ISを解除した大和に地上から様子を見守っていた楯無がタッタッタと駆け寄っていく。そんな楯無の姿に気付いた大和は、楯無が駆け寄ってくる方向に向き直った。

 

 

「あぁ、楯無。どうだった? 久しぶりの稼働だったけど個人的には割と動けたと思っているんだけど、楯無から見て……おっと?」

 

 

彼に駆け寄ったかと思うと地面を蹴って飛び付いていく。突然のことに驚きながら、飛び込んで来る楯無を大和は優しく受け止めた。二人の一部始終を見守っている他の生徒からは甲高い声援が上がる。

 

上半身に顔を埋めながら、背中に手を回して力を込めてホールドする。

 

 

「あの、楯無? どうした?」

 

「……」

 

 

大和が質問するも楯無が言葉を返す素振りはない。彼女としては少しでも側にいたいという想いが先行し、飛びつくという直情的な考え方に行き着いた。

 

人前で大和に抱きつくなんて恥ずかしいに決まっている。それでも彼を想う気持ちだけは誰にも負けたくない、それが例え大和と関わりが無い生徒だったとしても今は自分だけを見て欲しい。

 

 

(う、うぅ……は、恥ずかしい。わ、私人前で何をやっているのかしら? でも……)

 

 

当の本人も勢い余って飛びついてしまったはいいものの、いざ飛び付いたら後に引けなくなってしまい赤面した顔を見られまいと胸に顔を埋める。

 

ISスーツ越しにしっかりと伝わってくる彼の温もりと独良い香り。身体のラインがハッキリと浮き出るため、鍛え上げられた存在感あるボリュームの大胸筋にパックリと割れた腹直筋。

直接触れることで分かる鍛え上げられた肉体の美しさ、強い男を象徴する逞しさ。

 

それはずっと触れていたいと思うほどのものだった。

 

 

(大和の身体、凄く逞しい。男の人の素肌なんて早々触ることなんて無いけど、触れているだけで癖になりそう)

 

 

このままずっと大和に抱き着いていたい。そう思う楯無しだったが。

 

 

「楯無。抱き着くのは良いとして、皆見てるけど大丈夫なのか? 後さっきの動きどうだったか、フィードバックを貰えるとありがたいんだが……」

 

「ふわぁいっ!?」

 

 

と、大和の声で現実へと引き戻される。

 

普段楯無が出さないような声を上げたかと思うと、脱兎の如く大和から距離を取った。

 

 

「あ、う……な、何?」

 

「何って……あの、見てたか? 俺の動きに対する指摘とか意見があったら教えて欲しいんだけど」

 

「え、あぁ! そ、そうだったわね!」

 

 

すっかり忘れていたと言わんばかりに当初の目的を楯無は思い出す。こんなところでうつつを抜かしている場合ではない、他の生徒も見ているのだからいつもの自分の調子に戻さないと。

 

軽く咳払いをして気持ちを落ち着けると、改めて大和へと話し掛ける。

 

 

「正直、予想以上だったっていうのが本音かしら。とても稼働時間が少ない人の動きには到底見えなかったもの、本当に稼働時間少ないのよね、嘘ついてない?」

 

「稼働時間はマジで少ないよ。多分専用機持ちの中だと一番少ないんじゃないか?」

 

 

一時期ずっと手元に無かったし、と大和はいう。

 

だとしたら尚更だ。今回は基本的な動きを確認する意味合いで、自分が設置した的を壊してもらったがどれもこれも百発百中。

 

無駄な動きは一切なく的は全てピンポイントでど真ん中を撃ち抜いている。わざと変な位置に設置したにも関わらずそれすらも難なく攻略してみせた適応力。

 

かつて打鉄に乗った大和と戦った時はまだ彼自身に未熟さというものを感じることが出来た。今はその雰囲気を彼から感じることはない。専用機が与えられたことで、また一段階レベルアップしたのだろう。

 

もし今、あの時のように本気で戦ったら。現在の実力を見てみたいという思いも楯無の中にはあった。

 

 

「そう……とりあえず贔屓目なしに今の訓練を総括するとほぼ問題ないっていうところね。私から出来るアドバイス出来ることなんて無かったわ」

 

「えっ、ホントか? それはそれで嬉しいな、まさか楯無にそう言って貰えるなんて」

 

 

褒められるとは思ってなかったようで、意外そうな顔を浮かべる大和。

 

 

「私だって褒める時は褒めるわよ。というかもしかして一夏くんから私が厳し過ぎるとかそんな話聞いてたりした?」

 

「まぁ……そうだな。思った以上に大変だみたいなことは聞いてるな」

 

 

意外そうな反応を浮かべる大和に対してもしかして一夏に厳しく教え過ぎているせいで、何か言っているんじゃないかと楯無は少し心配になる。

 

気持ち心配そうな顔を浮かべる彼女に対して、一夏が訓練が大変だと言っていたことを思い出してマイルドに包みながら伝える。

 

一夏の訓練後のズタボロな状態を見れば大変だと言わなくとも、相応のことをやっていると簡単に推察が立った。

 

 

「そりゃそうよね。少しでも早く一人前に……って思ってたらつい力が入っちゃって」

 

「あの特訓後の一夏の姿を見たらぬるい内容でないことくらいは分かるさ。とはいえ楯無の特訓のおかげで改めて自分の力量を知れたって本人は言ってるし、日々自分の時間を割いてまで見てくれることには凄く感謝してるみたいだぞ?」

 

「え?」

 

「それに多少スパルタでも大丈夫だ。厳しい一面こそあれど、俺は楯無が優しい女の子だってことは知ってるからさ」

 

「……っ! そ、そう。一夏くんがそう言ってくれているなら嬉しいし、大和もそう思ってくれるなら何よりだわ」

 

 

フォローに対して顔を赤らめる楯無。口から出てくる言葉とは裏腹に大和から『優しい女の子』だと褒められたことが純粋に嬉しいようだ。

 

またどちらにしても楯無に対して一夏は一切マイナスイメージを持ってないし、大和もそれは同様である。

 

 

「さて、いい感じに身体は温まって来たから続けていくか。楯無次こうした方が良いとかこれをやるとか、何か決まってたりするのか?」

 

「えっ? あ、そうね。次のフェーズに移る前にちょっと確認したいことがあるんだけど……。大和の機体ってホントに近接武器以外実装されていないのかしら?」

 

「ん? あぁ、確かそのはずだった気がするけど。前も見た時は他の機能はロックが掛かってて何も出来なかったはず……」

 

 

自身の前にモニターを展開して不死鳥に搭載されている情報を確認していく。ISには操縦者が使う武器以外にもこれまでの戦闘データーも事細かく登録されていた。

 

膨大なデータの中から自身の武器に関する情報を確認していくわけだが、改めて上から全情報を見ても普段使っている刀がアンロック状態となっているだけで、それ以外の武器については一切使える状態では無かった。

 

 

「やっぱり刀だけだな。完全に近接格闘特化側の機体だから遠距離からの戦いには不向き……というか対応できそうに無い」

 

 

遠距離タイプの機体に近づいて斬りつけることは出来ても、自分が遠距離からサポートすることは極めて難しいことを伝える。

 

楯無が何故聞いたのかと言うと、先ほどの的を射抜く実践練習で見せた大和の正確性に目をつけたからだった。近接武器を投げて対象に当てるといったライフルなどで狙うよりも遥かに難易度の高い技を披露している。

普段は近接戦闘が主な大和だが状況に応じて中距離から遠距離での戦闘も出来るのではと楯無は思っていた。

搭乗している専用機に遠距離武器が備わっているという大前提が必要になり、そこさえクリアできれば行けると踏んでいたもののやはり大和の装備に遠距離用の武装は搭載されていなかった。

 

 

(とはいえこのISの特徴がまだイマイチ掴めてないし、リミットブレイクを使うことで解放される武器があるのかもしれない。ファーストギアでは特に無かったけどそれ以上だとまた変わるのか? ただそうなるとそれだけのためにギア解放を試すなんてことは出来ないし……うーん)

 

 

リミットブレイク。

 

己の限界を突破して飛躍的に身体能力を向上させるための諸刃の剣。短時間であれば限界を超えた力を手に入れることが出来る代わりにその反動が身体を襲うというもの。

 

大和がこれまで解放した経験があるギアは『ファースト』のみ。その時は病み上がりということもあって想定される以上の副作用が大和を襲ってしまったが、それでも操縦者に明確な負荷が掛かる。

 

これ以上のギアを解放しようとすると、『ファースト』を解放した時以上の負担が大和を襲うことになる。しかも絶体絶命のピンチでは無い状況下で、自分の装備が解放されるのかもしれないから確認したいと解放をする人間が何処にいるのだろうか。

 

今は与えられた装備で戦えばいい。自分の得意とするスタイルは中遠距離から戦うのではなく、近接格闘型のガンガン前線を攻めていくスタイルだ。

 

自分が普段やることのないスタンスを覚えるのではなく、自分の身の丈にあった戦い方をすればいいというのが大和の考え方でもあった。

 

 

「そう、残念だけどそれなら仕方ないわね。大和の戦い方の選択肢が増えるのならと思ったのだけど」

 

「遠距離武器も使えれば戦いの幅は広がりそうだしありがたいけど、無い以上は自分らしく近接格闘型のスタイルでコレからも戦い続けるとするさ、それにそっちの方が俺らしいだろ?」

 

「言われてみれば確かにそうね。遠距離からちまちまと攻撃しているあなたの姿は想像つかないわ」

 

 

楯無は遠距離から攻撃を続ける大和を脳内で想像したようでクスリと柔和な笑みを浮かべる。近接ブレードだけでも十分に戦うことが出来ている現在を考えれば、更なる追加の装備の要求はないものねだりというもの。行き詰ってから戦い方を見つめ直してもいいだろう。

 

 

「後は大和の装備にはなくても他の機体の武器を使うことは出来るから、タッグで戦う時なんかは試してみてもいいかもしれないわ」

 

「あぁ、それは俺も思っていた。実際にタッグトーナメントの時にシャルロットのライフルを一夏が使っていたし、状況によっては上手く使うことで戦況を好転させられるかもしれない」

 

 

大和の装備にはないが、全く使うことが出来ないかといわれるとそういう訳ではない。楯無の話を聞き、大和も思い出したように話を続けた。

ラウラと組んで参加したタッグトーナメントの時にもシャルロットのラファールに標準装備されているアサルトライフルを使って隙を作り出して大きく戦況を好転することに成功している。

 

 

「問題は相手がそんな隙を与えてくれるかだけど、こればかりはお互い連携をしっかりと取りながら、かしらね」

 

「間違いない。……射撃といえば確かIS学園にもそこそこ大きい射撃場ってあったよな?」

 

「えぇ、でもこの時間だと多分人で一杯じゃないかしら……どうする? 練習する? 大和が行きたいなら行ってもいいわよ」

 

「ん~……いや、やめておこう。今日は楯無に教えてもらうためにここに来たわけで射撃訓練が目的じゃない。俺の動きとかを見てほんの些細でも気付いた点があったら教えて欲しい」

 

 

一瞬射撃場に行くかどうかを考え込む大和だったが直にやめると決断する。射撃の腕が上がるのは結構だが、今回の目的は射撃の腕を強化することではない。

 

 

「ふふっ♪ そう言ってくれると私も教え甲斐があるわ。じゃあさっきの動きで気付いたところがあるからちょっと細かい部分だけどそこだけ伝えるわね」

 

「あぁ、助かる」

 

 

嬉しそうに楯無は微笑むとこっちよと言いながら大和の手を引き、再び二人は特訓へと戻って行く。

 

二人だけの時間はあっという間に過ぎ去っていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「楯無に見てもらって正解だったな。マジで実りのある時間だった」

 

 

日が暮れる中、シャワーを浴びて汗を流した大和は一人寮への帰路へと着く。

 

楯無はちょっとやることがあるということで、大和だけ先に帰ることに。それでも楯無は久しぶりに二人で行動出来て嬉しかったようで、満足そうな笑みを浮かべて大和を見送っていた。

 

長い時間では無かったものの、有意義な時間を過ごすことができて大和も満足そうな顔を浮かべる。専用機持ちは各々に実力を持っている人間ばかりだが、教えるという部分になるとやはり個性が出てしまう部分は否めない。

 

自分の周りの専用機持ちだと、一番教え方が分かりやすいのはシャルロットで次点がラウラ、ここに関しては相性も影響するため大きな差は無い。

 

ただ箒は擬音の例えが多く、鈴は完全感覚派、セシリアは細かく説明をしてくれるのだが細かすぎて具体的な角度とかを説明に使用してしまうため、かえって混乱を招いてしまう。

 

全員の良い部分を吸い上げた教え方が楯無だと言えば良いか。やはり伊達に学園生徒会長を名乗ってはいない。クセや特徴を瞬時に見抜き、人にあったアドバイスを行うことが出来る。

 

また楯無の別の肩書きはロシアの国家代表。

 

つまりあらゆるケースでの実戦経験も豊富だ。そのため実戦を想定したアドバイスを受けることが出来る。ISの稼働時間が少ないだけでなく専用機での実戦経験が少ない大和からすればためになる話ばかりだった。

 

また機会があれば色々と教えてもらいたいところ。今日教えてもらったことをどう活かそうか頭の中で考えながら歩いていると、ふと視界の先に見覚えのある後ろ姿が目に入る。

 

 

「ん、あれ。ナギ?」

 

「え……大和くん?」

 

 

大和の声掛けにその場で足を止めてくるりと後ろを振り向く。顔と名前が一致すると、どこか嬉しそうに大和の元へと歩み寄ってきた。

 

 

「どうしたの? 寮に帰ったとばかり思ってたんだけど」

 

「一回寮に帰ったんだけど、その後またアリーナに戻って楯無に色々と教えてもらってたんだよ。今日やっと専用機が戻ってきたからさ」

 

 

教室から出た時は寮に帰るとナギに伝えていたため、自分の背後から声を掛けられたことに疑問を感じたようだ。

 

ナギの疑問に対して率直に理由を伝える。決してやましいことはしていないため、隠す必要もなければごまかす必要もない。

 

 

「そうなんだ。じゃあもう終わったってことなんだね、でも楯無さんが居ないみたいだけど……」

 

「楯無は別途用事があるってことで学園で別れた。ナギも随分と遅くまで残って頑張ってたんだな」

 

「そう、なるのかな? ちょっと自分の走りに納得が行かなくて何回も確認していたらつい……ね?」

 

 

ナギは陸上部に所属している。

 

普段自分が走っている姿をお披露目する機会は無いが、やはり継続して続けていたことに関してはプライドがあるのだろう。

自分の走りに納得が行かずに繰り返し練習を行っていたらいつの間にか日が暮れてしまっていたということらしい。

 

一生懸命な彼女らしいと大和は笑う。

 

 

「そっか、お疲れ様。折角だし一緒に帰らないか?」

 

「うんっ」

 

 

ニコッと笑って大和の隣へと来た。

 

彼女の手には学生鞄、肩には部活用品が入ったバッグが掛かっている。運動終わりで身体も疲れているだろうと、大和は肩に掛かっているバッグを外して自分の肩にかけ直した。

 

 

「えっ、大和くん?」

 

「大丈夫大丈夫。俺は今手ぶらだしこれくらい持つよ。ナギも部活上がりで疲れてるだろうし、こういう時くらいはカッコつけさせて欲しい」

 

「そ、そう? ありがとう。それなら大和くんに甘えちゃおうかな」

 

 

大和の厚意に甘えて部活用バッグを任せると、周囲に誰も居ないことを確認してそっと大和の手を握り、ギュッと自分の身体の方へと大和の腕を近付けると、自身の腕と上半身を使って包みこんだ。

 

手を掴まれることは予想していたが、まさか腕ごと抱き着かれるとは思っていなかったのだろう。積極的な彼女のアプローチに大和はほんのりと頬を赤らめる。服越しに伝わってくる柔らかな感触と温かいナギの体温が正常な思考を困惑させた。

 

 

「今は誰もいないから……いいよね?」

 

「っ! あ、あぁ……」

 

 

照れを隠しながら大和は答える。

 

今は近くに誰もおらず大和と二人きりの状態だ。普段は遠慮がちなナギでも、こうして自分たち二人しかいない状況ともなれば大和に甘えたくもなる。

 

それに応えるように、大和は照れながらも甘えてくるナギを優しく受け入れた。

 

手をつなぎ、身体を寄せ合いながら寮への道を二人は歩く。

 

帰宅の一時を、この幸せを噛みしめるように。

 

一歩一歩、帰路への歩みを進めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あのね大和くん」

 

「うん? どうした?」

 

「こ、今週の土曜日なんだけど……ふ、()()()()()少し遊びに行かない?」

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