IS‐護るべきモノ-   作:たつな

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誰よりも疾く

 

 

 

 

 

「はぁあああ、皆さんやっーと来てくれたんですね。無視されているのかと思って泣きそうになってました」

 

 

アナウンスに急かされるような形でトラックへと出た俺たちを待っていたのは、泣きそうな顔を浮べる山田先生だった。

一回目のアナウンスで誰も反応せずにトラックへと向かわなかったため、自分が無視されているのではないかと思い悲しみに暮れていたらしい。

 

いや、こればかりは本当に申し訳ない。

 

むしろ無視する原因を作ってしまったのは他でもない俺だ。山田先生はもちろんのこと参加者の皆にも迷惑を掛けただけでは無く、大会のスケジュールにも影響を出してしまった。

 

 

「本当のところ何かあったんですか? てっきり皆さんピットで準備をしていると思ってピット側のスピーカーにアナウンスを入れたんですけど……」

 

「あっ、いや……それは」

 

 

気持ちが落ち着いて来たところで何があったのかと山田先生は聞いてくるわけだが、聞かれた一夏はどう言おうかと口ごもる。

 

そりゃそうだ、一夏に全く非は無いのだから。山田先生の言う通り全員ピットにいた、ただ俺の到着が遅れてしまったことで結果アナウンスを無視するような形になってしまった。

 

口ごもる一夏の前に立つと、山田先生に向かって俺は勢いよく頭を下げる。

 

 

「すみません山田先生、俺が集合時間に遅刻したせいで皆待っててくれたんです。結果的に無視するような形になってしまい申し訳ございませんでした」

 

「えっ、霧夜くんがですか? め、珍しいこともあるんですね……んんっ、とはいえ遅刻はダメですよ! 周りの人に迷惑かけちゃいますから、次からは気をつけてくださいね!」

 

「はい、本当にすみませんでした」

 

 

霧夜くんが遅刻をするんですか? と言いたげな表情で目を二度、三度瞬きをするも一つ咳払いをして気持ちを切り替えるとキチンとダメなことはダメだと叱責する。

 

改めて頭を下げてもう一度謝罪の言葉を伝えた。

 

……今日テレビ中継されるなんて話あったけど、まさか今の一コマすっぱ抜かれたりしないよな。やらかしたのは俺だから何も言えないとはいえ、公衆の面前で教師に謝罪って公開処刑以外の何物でもない。

 

どちらにしても俺の姿が全世界で放映されたのならそれはもう致し方ない。自業自得、黒歴史として自分の生涯の記憶の片隅にそっとしまい込むとしよう。

 

 

「はい、分かってくれたなら大丈夫です。それでは皆さんスタート位置まで案内しますのでこちらへどうぞ」

 

 

山田先生が専用機持ちの前に立ち、マーカーに従ってコースのスタートラインまで誘導していく。場内の大型モニターに俺たちが移動する姿が映し出されると同時に場内からワッと歓声が沸き上がる。

 

熱気に包まれる声援というのはこのことを指すのだろう。圧倒的な声量で観客がアリーナを支配する。360度何処を見渡しても満員の客席、改めて自分たちは大観衆に見られていることを認識した。

 

ラウラが言う雰囲気を支配した者が最終的に勝ちを掴み取るというのはあながち間違ってはいない。この声援を活力として受け取るか、それともプレッシャーとして受け取るかで勝敗に大きく影響してくる。会場の雰囲気に飲まれてしまえば本来の力は出せないし、活力とすれば普段以上の力を発揮することも出来る。

 

そしてこのプレッシャーに打ち勝って活力へと変えた者が真の強者となる。自分のISのハイパーセンサーを使って周囲の状況を確認するが十人十色様々な観客がいる。

 

それぞれどんな思惑があるのか、中にはマイナスの思考、下手をすれば憎悪に満ちた何かを含んだ視線を向けている人間がいるかもしれない。ただそれをガラス越しに見える表情から悟ることは出来なかった。

 

どちらにしても()は問題が起きることは無いはずだ。

 

今は、な。

 

別の場所に視線を向けるとIS学園の生徒たちが集中しているエリアを発見する。各学年ごとに座席は分かれているようで身に着けているネクタイやリボンの色が違うことが確認出来た。

 

一年生のエリア、つまり赤いネクタイやリボンを纏っている座席を順々に確認していくと、そこに見知った面々が集まっている。両手を上げたり声を張ったりそれぞれに別々の反応を見せているが、ナギだけはやはり何処となく心配そうな表情を浮かべながら祈るような思いでモニターを見ていた。

 

先日の一件がやはり尾を引いているのだろう。いきなり切り替えろと言われても無理な話だ。そこに加えて多分俺に対しての心配……だろうな。

 

 

『皆様大変お待たせいたしました! これから一年生の専用機持ち組のレースを開始いたします!』

 

 

場内のアナウンスが鳴り響きどっと会場は沸く。割れんばかりの歓声は滅多に味わえるものではない。

 

 

「凄い歓声だ。この場に立ってISの大会に参加することってすごい名誉なことなんだって改めて思うわ」

 

「そりゃあな、全員が全員参加出来るものでもない。実力があっても選ばれなかった者参加しても参加できなかった者、それぞれの思いを背負って専用機持ちとして俺たちはこの場に立っている。だからこそ無様な姿だけは見せるわけには行かない」

 

 

隣のレーンにいる一夏がボソリと会場の雰囲気について率直な感想を述べる。この大会にも参加できなかった生徒は大勢いるし、生徒たちの代表としてレースに参加していることを忘れてはならない。

 

無様な姿を見せればそれだけ思いを託してくれた皆の顔に泥を塗ることになる。様子見の手加減など一切不要、最初から全力でぶつからせて貰う。

 

 

「だな。大和、いつもは負けてばっかりだけどこのレースは負けるつもりはないからな!」

 

「ふん、それはこっちのセリフだ。俺とて負けるつもりはない!」

 

 

負けるつもりはないとお互いの目に闘志が宿る。全七名での総当たりレースはスタートすれば間違いなく混戦となるだろう。

 

操縦技術はもちろんのこと相手との駆け引きといった心理戦も重要になって来る。また今回は一対一ではなく一人の操縦者に対して複数人で当たっても良いわけだ。一対一では敵わない相手でも複数人で当たれば戦況を大きく変えることが出来るともなれば活用しない手はない。

 

ただし同じことを自分にされる可能性だってある。そこの駆け引きは上手くやる必要があった。参加者の実力者、機体の特性、追加搭載されているパッケージ等の情報を思い出してどう戦況を詰めていくか考える。

 

考えてばかりでは仕方ないが状況に応じた判断、行動は戦況を大きく変化させる。極力自分が不利とならないように立ち回るように考える必要があった。

 

 

『それでは参加する選手の皆様を紹介していきます!

第一レーンはこの人! 世界で数少ない男性操縦者の一人! おりむらーーーーーいちかーーーーーーーー!!!!』

 

「ははは……」

 

 

若干の苦笑いになりつつも片手を振りながら一夏は周囲に応えて行く。そんな様子がモニターにも映し出されて会場のボルテージはどんどん高まっていった。

 

実況も魅せ方が分かっているようで、盛り上がるようなトーンで名前を読み上げる。アレだボクシングの王者を決める決勝戦の選手紹介みたいな感じだ。アリーナ全体を包み込むアナウンスに比例して歓声も大きくなる。

 

 

『そして第二レーンはもう一人の男性操縦者! 計り知れない実力を持つ男、きりやーーーーやまとーーーーーーーーー!!!!』

 

「……」

 

 

変な顔をすっぱ抜かれないように当たり障りのない微笑みを浮かべて手を上げて周囲の歓声に応える。一夏を紹介した時に比べると歓声の中にいくつかのざわめきが混じっていた。

 

これは恐らく今まで素性も分からなかった二人目の男性操縦者を初めて見て驚いているのだろう。公の場、メディアに初めて二人目の男性操縦者の顔が晒されたような形になる。入学時にはしていない眼帯を今はしているから、入学時と多少見た目は変わってしまっているけど、そもそも入学時の俺の顔を知らないのだから一般世間では眼帯をしている男として認知されていくんだろう。

 

俺の眼が潰されたという事実は公開できるようなものでもないから、変に尾ひれがついてこじらせたIS操縦者という噂が出回らないことだけを祈るのみだ。

 

というか計り知れない実力ってなんだし、これIS学園の関係者の誰かがこっちの情報伝えているような気がしてならないんだが。特に楯無……いや、広報的な意味合いで言うなら新聞部の黛先輩か?

 

一般世間に俺の操縦姿なんて見せたことはないし記憶もない。空想上の俺がそうなのだとしたらだいぶ盛られているような気がした。

 

まぁ、十中八九IS学園の誰かから実況に情報が伝わっているんだと思う。誰が伝えたのかは知らない。

 

 

次々と自己紹介をしていくわけだが、こんな時もしっかりと笑顔を作る候補生たちは流石といったところか。初めて民衆の大会に参加する箒は若干表情は固かったし、ラウラは何か恥ずかしそうにしてたけど、ビジョンに映るその表情は可憐な少女そのもの。

 

紹介のたびに観客、多分主に男性からの声援が送られる。民間人が観戦可能な貴重なISの大会だ、参加者全員が普段はお目にかかれないようなトップクラスの全員美少女ともくれば男なら反応してしまうに決まっている。それに観戦しているIS学園の学生も揃いも揃って美少女揃いだし、美少女目的の人たちにとってはまさに桃源郷に違いない。

 

女性の観戦者も多いのは分かるが、それ以上に男性観戦者の声援が大きくて女性が気圧されている感じは否めなかった。

 

 

『さぁ参加者は以上の七名となります! どんな熱戦を見せてくれるのでしょうか! まもなくスタートとなります!!』

 

 

合図とともにスタート姿勢を取る。全神経を集中させて来たるべきスタートのタイミングを待つ。同時に正面にあるシグナルランプが点灯し、いつでもスタートを切れる準備が整ったことを知らせた。

 

各自スラスターを点灯させる。スタートの雰囲気を悟り、先ほどまではあれほど喧騒に包まれていた場内が水を打ったようにしんっと静まり返った。

 

静まり返ったとともにスタートを準備するように促すアナウンスが入る。

 

 

『Set……』

 

 

さぁいよいよスタートだ、一般観衆に見られるっていう意味では俺も初めての大会になる。周囲は俺よりも遥かに稼働時間の長い先輩方がいるし胸を借りるつもりで……それだと俺らしくないな。

 

折角の参加なんだし健闘しましたじゃ物足りない。

 

―――なら、目指す場所は一つだ。

 

 

『三、ニ、一……GO!!!!』

 

 

カウントダウンの後スタートの合図が出されると同時に、スラスターをマックスまで吹かしながら急激に加速をしていく。例えるのであれば飛行機が離陸する時にターボファンエンジンを吹かすようなものであり、発生するエネルギー量は膨大。

 

一気に最高速度付近まで達するロケットスタートを決めるエネルギー量と考えると、飛行機よりも遥かに膨大なエネルギーが使われていることが分かる。急加速で身体が引っ張られて周囲の景色が吹き飛ぶ感覚はどうにも慣れないが、ハイパーセンサーのサポートと機体特有の仕様のおかげで視界はすぐに追い付いてくれる。

 

スタートは横一線……いや違う、セシリアのスタート加速が速い。第一コーナーを回った段階で既に七人の集団を置き去りにし、単独でトップに躍り出る。

 

俺が与えられた不死鳥は追加やパッケージの搭載は出来ないが、第四世代機ということでそのスペックは一夏の白式や箒の紅椿にも負けない。このISだけは特殊でパーソナライズもフィッティングも加えられておらず、IS操縦者の身体能力に応じて真の力を発揮するというものになる。

実際に訓練機の打鉄を使っていた頃とは違い、自分の身体を動かすのと同じレベルでISも動かすことが出来ているので、その通りなんだろうと思いつつも生身の時のような身体を無理やり反させたり超低空姿勢を取ったりなど、ISを纏った状態では出来ない動きも存在する。

 

当たったらアウトの生身に比べ、外からの攻撃に対しての防御力が格段に上がったと考えれば大きくプラスにはなっていた。

 

レースはコーナーを曲がり最初の直線へと差し掛かる。

トップ走り続けるセシリアを先頭に列ができると思いきや、ここで急にレースは動き始める。

 

 

「は……?」

 

 

一夏を除いた全員が一斉に俺の方へと視線を向けた。しかもほぼ同時に、嫌な予感がすると思った瞬間には遅かった。

 

砲口を向け一斉に集中砲火を浴びせて来る。これが作戦なのかどうなのか分からないけど、全員揃って狙って来るタイミングがあまりにも同じすぎる。

 

何処かで俺のことを攻撃して離脱させようと思っていたんだろうが、何で狙うのが俺なんですかねぇ。狙うなら俺なんかよりも実力者のシャルロットとかラウラとか色々選択肢はあるだろうに。

 

と、考えている内にも鈴の衝撃砲が容赦なく飛んでくる。目に見えない砲弾故に下手に先行しようとすると鈴が死角となり背後から撃たれ放題だ。砲口は真横に向けているとは言え向きを変えることは出来たはず。

 

一対一ならまだしも複数人でやられると厄介なことこの上ない。出力を落として鈴の狙いやすい距離から離れるも狙っているのは最初に言ったように鈴だけではない。

 

箒のレーザー斬撃から始まり、セシリアのレーザービーム、シャルロットのアサルトライフルの弾丸の雨にラウラのレールカノンの嵐が容赦なく俺へと向けられる。

 

 

「ちいっ! このっ! お前らさては最初から狙ってやがったな!」

 

 

展開している両手の刀を使って飛んでくる弾丸やレーザーを片っ端から処理していくが、これではいつまで経っても先行する事が出来ず防戦一方だ。

 

集団から置いてきぼりにされないようにはしているとはいえ、こうも攻撃が集中すると先に進むことすらままならない。

 

 

「そんなことないわよ! そこに大和がいたから狙っただけだから!」

 

「ええ、たまたまですわ、たまたま!」

 

「それは偶々って言わん! 確信犯って……ぐぅっ!?」

 

 

鈴にセシリアが偶々だと言い張る割には妙に連携が取れているのは何故だろう。実戦の連携でもこれくらいのコンビネーションを発揮して貰いたいところだ。

 

二人の攻撃に気を取られていたら今度はシャルロットが乱射したアサルトライフルを素早くラピッドスイッチでショットガンへと切り替えたかと思うと至近距離で不死鳥のボディ目掛けて撃ち込んできた。

 

この切替速度はもはやチートレベルだ。

 

バススロットを活用して通常であれば早くて一秒から二秒ほどかかる量子構成をほとんど一瞬で、それも照準を合わせるのと同時に行える。

 

不死鳥のスペックがいくら高いとしても、備わっている装備は刀のみで至近距離で高速切り替えされた武器での攻撃を防ぐ術はなかった。

 

攻撃力の高い一撃を至近距離で食らってシールドエネルギーが削られると同時に強烈な衝撃を機体が襲い、スピードダウンしてしまう。が、これならまだ許容範囲内で十分にリカバリーが可能なレベルだ。

 

手痛い一撃を放ったシャルロットにやりやがったなとやけくそ気味に声を掛ける。

 

 

「てめっ! シャルロット!」

 

「油断大敵だよ! このレースで一番不気味な存在なのは大和なんだから、そりゃみんな最初に脱落させようって思うよね!」

 

「この……やりやがっ「お兄ちゃん! 足元がガラ空きだぞ!」は……んげっ!」

 

 

一瞬意識がシャルロット一人に向いたのが行けなかった、発生した隙を逃さずにラウラは俺の足元にワイヤーを絡ませると俺の動きを制限した。

 

 

「大和! 隙ありだっ!」

 

 

時を同じくして箒のレーザー斬撃が飛んでくる。足にワイヤーが括り付けられているせいで動きが自由に取れない。束縛された俺は斬撃をモロに食らってしまった。

 

 

「ぐあああっ!!!?」

 

 

機体に走る衝撃とともにシールドエネルギーが一気に減少していく。

 

箒の攻撃が直撃すると共に括り付けたワイヤーをラウラが勢いよく振り上げると、引っ張られる力と遠心力により俺の身体は機体と共に上空に打ち上げられて、そのまま宙を舞った。

 

何か俺に対して仕打ちが酷すぎません? なんかやらかしたっけと日頃の行いを顧みるも心当たりがない。

 

宙に投げ出された機体を立て直しながら、地面に着地してスピードダウンした機体の出力を上げていくも、先頭集団からかなり引き離されてしまった。大きなアドバンテージになってしまったと言っても過言ではない。

 

レースはこの競技場のトラックを五周することであって、ISのスピードから逆算するとレースにかかる時間はさほどない故に多少の出遅れであっても取り返しがつかなくなる。

 

 

「……ん」

 

 

顔を見上げた先、競技場の中ではなく観客席側のとある場所に見覚えのある姿が見えた。

 

何でそこにいる。もしかして何かあったのか?

 

が、今はレース中だ。

 

残念ながら観客席の動向を探っている余裕など一切ない。再びスラスターを吹かせながら再加速して前方の集団を追いかけて行く。

 

 

「やろう……どいつもこいつも人を集中攻撃しやがって。全く、やってくれる……!」

 

 

俺を集団から追い落とすことに成功した一同は自分が少しでも先の順位を取ろうとお互いに妨害をし合っていた。機体のスペックから踏まえても狙われやすいのは一夏になる。

 

そんな一夏も先ほど俺がやられた集中攻撃を目の当たりにしているせいか、攻撃ではなく回避に重点を置いているようで迫りくる攻撃の数々を躱し続けていた。

 

これまでの一夏なら無理矢理にでも突破口を切り開こうとして猪突猛進し、結果返り討ちになる悪い癖も目立っていたが楯無や専用機持ちたちとの日々の訓練で徐々に実戦勘が備わってきているらしい。

 

じっと攻撃をこらえてひたすらに防御と回避に集中している。何度も言うように機体のスペックだけで言うなら他の追随を許さない。

 

それに加えて瞬時加速(イグニッション・ブースト)を要所で使うことが出来れば集団から抜け出すことも出来るだろう。その上で使うタイミングというのはかなり重要な部分となる。

 

燃費の良くない白式の性能を考えると下手な乱発は避けたいところで、勝負どころでの使用のみに留めたいというのが一夏の考えのはずだ。

 

そうこうしている内に一周目が終了した。

 

トップは変わらずセシリアになるが、一位から六位までの差はほぼないに等しく、何かが起きればその順位は大きく変動する可能性も十分に考えられる。

 

レースとしても序盤の序盤が終わっただけでまだ四周残っている。勝負の賭け時はここではない、これ以上離されないように集団に食らいついて、隙を見つけて勝負を仕掛ける。

 

初っ端いきなり集中攻撃で出鼻を挫かれてしまったわけだがまだ勝負は終わっていない。

 

勝負は……これからだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「織斑くん頑張れ〜!!」

 

「霧夜くんまだまだ! 行けるよー!!」

 

「そこだー! いけええええ!!!」

 

 

客席から競技場にいる専用機持ちに声援を送るIS学園の生徒たち。その声援先を辿ると主に二人の男性操縦者に向けて送られるものであることが分かる。

 

民間のアリーナを使用した学園行事、白熱した戦いの数々に見ている方も自ずと力が入る。二年生のレースが終わったすぐ後、少しの時間を経て開始された一年生の専用機持ちたちによるレース。

 

今回イレギュラーの一年生のレースで専用機持ちが七人もいるともなれば、三年生のエキシビジョンマッチよりも注目度は高くなる。ある意味今回の大会のメインイベントと言っても過言ではなかった。

 

競技場内で繰り広げられるバチバチのレース展開に全員の視線が釘付けになる。そんな中、通路側の客席でレース展開を……否、一人の人間をじっと見つめる存在があった。

 

 

(……大和くん)

 

 

盛り上がるわけでもなく、ただひたすら心配そうに大和の姿を見つめる鏡ナギの姿が。ぎゅっと両手を合わせて握り締めながら、何かを祈るようにレースの動向を見守っている。

 

今朝、昨日の出来事を心配して大和の部屋へ朝早く様子を見に行ったナギだが、既に室内に大和の姿を確認することは出来ず。昨日は二人で外に出かけてから寮に戻ってくるまでの間はずっと二人きりで時間を共有した。

 

夜別れてから朝まで大和の動向を把握することが出来なかった訳だが、こんな朝から部屋を空けるなんて普通は何かが起きたのではと考えるに決まっている。

 

 

「あんなこと言われて、正常心でいられるわけ無いじゃない……」

 

 

そう、正常でいられるわけがない。

 

昨日、IS学園の最寄り駅に着いてから寮に着くまでの間に。彼女は大和とともにとある事件に巻き込まれた。

 

幸いなことにお互い怪我もなく、身体自体は五体満足な状態で今日を迎えられることが出来ているが、精神的に多少なりともダメージを受けている。

 

ただし精神的に最も大きくダメージを受けているのはナギではなく、今競技場で戦っている大和だった。彼女が心配しているのは摩耗した精神状態で大会に出場して大丈夫なのかという部分にある。

 

自分自身は大和に庇われたことで()()()()()()()()()()()を直視している訳では無い。一方で大和は現場そのものを見てしまっているだけではなく、場で衝撃の事実を伝えられていた。

 

……朝早く彼が部屋を出たのも昨日の事が尾を引いているに違いなく、今もきっと引きずっているのだろう。事情を知っているナギから見ると他の皆の前では表情に出すまいと、いつも通りに振る舞っているようにしか見えなかった。

 

他の人から見て普段通りであってもその内面はきっと……。

 

どれだけ自分の感情を押し殺しているのだろうと考えるほどに、彼の姿を見るだけで居ても立ってもいられなくなる。

 

 

「……えっ」

 

 

自分自身も平常を保てていない。

 

少し気分を落ち着かせてクールダウンしようと、購入したスポーツドリンクを飲もうと隣の収納口から取り出そうとするも手が滑って落としてしまった。コロコロとペットボトルは転がり近くの階段を落ちていく。

 

 

「もう、ついてないなぁ……あっ!」

 

 

思わず声が漏れる。

 

ついていないと転がるペットボトルを拾いに立ち上がった。コロコロと階段を転がるペットボトルだが、ふと誰かの足に当たって止まる。タイミング良く下から階段を上ってくる人がいた。

 

幸いなことに今回は足に当たるだけで事無きを得たものの、一歩間違えたらペットボトルに足を取られて転ばせてしまったかもしれない。

 

ナギは申し訳ないことをしてしまったと足早に階段下へ駆け寄ると、その人物に対して謝罪の言葉を伝えた。

 

 

「ご、ごめんなさい! お怪我ありませんでしたか?」

 

「えぇ、私なら大丈夫。気にしないで」

 

 

大人びた落ち着いた声質で大丈夫だと伝えると、落ちたペットボトルを拾い上げてナギへと手渡す。相手の女性は美しい金髪を靡かせる年上の女性で、大人としての色気を溢れんばかりに放っている。

 

年齢は二十代後半だろうか、ラフで豪華な赤色のスーツを纏っておりその強調されたボディラインが圧倒的な存在感を放っていた。

 

同性であっても目を引くほどの圧倒的なスタイル。ナギは思わず間近でイメージが付く人間を思い浮かべた。

 

 

(わぁっ、綺麗だし凄いスタイル。千尋さんみたい……)

 

 

思わず千尋のスタイルを想像する。

 

長身の圧倒的なスタイル、ただ唯一の違いとしては目の前の女性は年齢相応に大人びて見えるのに対し、千尋の場合は年齢不相応に若く見えるところだろう。

 

シャープな造形のサングラスを掛けているせいで顔の全てを把握することは出来ないが、サングラスに差し込む光でうっすらとその目元を確認することが出来る。

 

優しく微笑む様子がほんのりと確認することが出来た。

 

 

「あなたも急に立ち上がってたみたいだけど大丈夫? 怪我はない?」

 

「だ、大丈夫です! すみません!」

 

「そう、それなら安心したわ。それじゃあ気を付けてね」

 

 

金髪の女性は小さく手を振るとナギの横を通り過ぎて行く。すれ違う寸前に耳に付けたゴールドのイヤリングがキラリと光った。

 

 

(アレってもしかしてIS……? ってことはIS関係者の人なのかな?)

 

 

そう考えている内にも金髪の女性は過ぎ去ってしまう。今日はIS関連のイベント行事のため、専用機持ちの関係者が会場に来ているのは何ら不自然ではない。

 

純粋にその雰囲気に圧倒されたことで一瞬変にナギは考え込んでしまうも、別に自分がそこまで気にするものでもないと自分の座席へと戻った。

 

そんなことよりも彼女にとって一番の心配は大和だ。自分がペットボトルを取りに行っている間にも競技場内のレースは既に中盤戦を折り返そうとしている。

 

 

(どうか何も起きませんように……!)

 

 

どれだけ自分が心配しても大和の心に干渉が出来るわけではない、せめて何も起きませんようにと彼女は願うことしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……どういうことなの?」

 

 

サングラスを掛けた女性は観客席から離れて人のいない裏通路に入ると、いつまで経っても連絡が来ないことに対して首を傾げた。

 

予定では既に作戦の実行時間となっているはずにも関わらず、向こうからも連絡が入らないどころか、一向に現れない仲間に痺れを切らしていくらこちらが呼びかけても応答せず。

 

キャノンボール・ファスト、特に一年生の専用機持ちたちの戦闘データを集めるには格好のイベントだと言うのにこれでは折角の作戦が水の泡になる。

 

 

(本来ならエムやオータムを連れてくることが出来れば良かったのだけど……オータムのアラクネは修理中で出動出来ず、エムは前回のアメリカ作戦に失敗して精神的にやられている。この二人を連れてくるわけには行かないから、訓練機の操縦者を二人手配したのだけど……何故呼び掛けに応じないのかしら)

 

 

エムにオータム、どちらも亡国機業に身を寄せる構成員でありIS学園と敵対する存在だ。内容から察するに今回のイベントでも敵襲を掛けようと画策していたのだろう、だがどうも雲行きが怪しい……というより作戦そのものが失敗しているようだった。

 

戦闘データを少しでも集めるためにと呼んだはずの操縦者とは連絡が取れず、当初の目的を果たすことが出来ない状態に。

 

連絡が取れない以上作戦を開始することもできない。

 

 

(そうは言っても今回の大会から得られそうなデータはそこまで多く無さそうだから今回は退いた方が良さそうね。あくまで直感でしかないけど嫌な予感がする、連絡が取れなくなった以上何かあったということ……私たちが知らないところで何かが動いているのかもしれない)

 

 

ここ最近予想外の出来事が起きすぎている。

 

学園祭に侵入したオータムは自身の専用機が大破するまで追い込まれ、アメリカの軍事基地に侵入したエムも惨敗を喫して自信を失い精神的にもかなり応えているように見えた。

 

幸いサイレント・ゼフィルスの機体そのものは大きな損傷はしておらず、機体としてはすぐにでも出動可能の状態で今回の作戦にも参加する予定だったが、肝心の操縦者であるエムが機体に乗れるような精神状態では無かったため、作戦から外れることになった。

 

まさか実働部隊のエース格二人が出動出来ないのは想定外だっただろう。そしてその二人が口を揃えて呟いていたのが『生身の化け物にやられた』だ。実力としては決して低くない二人の操縦者を生身で窮地に追いやる存在に不気味さを感じていた。

ましてやエムの操縦技術はオータムを凌ぐ。それほどに高い実力者がトラウマを植え付けられる程に圧倒された理由はなんなのか。二人が嘘をついているとは到底思えないがにわかには信じられない話だった。

 

一回目は偶々運が悪かったと片付けられたとしても同じようなことが二回も連続で続けば狙われているのではないかと考えざるを得ない。

 

 

(私たちの動向が読まれて意図的に配置されている? とはいえ生身でISに立ち向かえる人間がそう何人もいるとは思えないのだけど……内部から情報が漏れているのかしら?)

 

 

考えられるのは内部情報を誰かが外部に持ち出しているという可能性。裏切り者がいないかどうかの管理は徹底しているとはいえ、それを掻い潜った存在があるのかもしれない。

 

もし本当にバレているとすれば自分が侵入していることも既に知られており、意図的に動かされている可能性もある。

 

 

(……どちらにしても今日は事を起こさずに退いた方が良さそうね)

 

 

バレているバレていないに関わらずこれ以上作戦を続けることは困難だった。

 

連絡が取れなくなった人間は後々調査をするとしよう、目的が無くなった以上ここに留まる理由は無い。

 

一旦撤退しようと踵を返して出口へと向かおうとする。

 

 

「あら、学園イベントに強制参加しようとしていたのにもうお帰りなのかしら?」

 

 

突然背後から聞こえる声に女性は振り向かない。

 

聞き覚えのある雰囲気と声にしばらく沈黙を貫いたかと思うと、思い当たる名前を口にした。

 

 

「その声は更識楯無、ね。あなたの機体はモスクワの深い霧(グストーイ・トウマン・モスクヴェ)だったかしら?」

 

「随分と昔の名前を出してくるのね。今は『ミステリアス・レイディ』っていうのよ」

 

「そう」

 

 

機体名を確認したかと思うと、女性は楯無に向かって振り向きざまにナイフを投げ飛ばした。

 

 

「……マナーのなっていない女は嫌われるわよ」

 

 

はぁと一つため息をついたかと思うと、投擲されたナイフに瞬間的に反応した楯無は蛇腹剣の『ラスティ・ネイル』で叩き落とす。

 

そしてそれをムチのようにしならせたと思うと、連続攻撃で女性を狙った。

 

 

「あなたこそ、初対面の相手に失礼ではなくて?」

 

 

サングラスを投げ捨てると同時に、自身の腕にISを部分展開して蛇腹剣を受け止めた。サングラスの下に隠れていたキラリとした真紅の瞳が露わになる。

 

 

「初対面もマナーも何もテロリスト集団に遠慮をする必要なんて無いわ。亡国機業(ファントム・タスク)、一体何が狙いかしら?」

 

どちらが失礼だという問題ではなく、テロリストに遠慮もへったくれもないと楯無は言う。コソコソと会場に紛れ込んだ理由は何なのか、明確な理由までをも悟ることは出来ないが相手はテロリストである。

 

何か企んでいることくらいは分かった。

 

 

「あら、言うわけないじゃない。テロリスト集団が目的をわざわざ口に出すと思う?」

 

 

目的など話すはずがない。

 

大方想像はされるかもしれないが今回の真意をこちらから話すわけがないと、得意げに笑みを浮かべる。真意を直接聞くことができないのであれば生徒会長としてやることはただ一つ。

 

 

「ならっ! 力ずくでも聞き出してみせるわ……土砂降り(スコール)!」

 

 

競技場外で二人のぶつかり合いが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これはその……第一歩だ」

 

「ダメよ大和!! あなたはそっちに行ってはダメッ!!!」

 

 

 

―――そして、物語は急展開を迎える。

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