「このぉ! いい加減諦めなさいよ一夏ぁっ!」
「誰が諦めるか! なら鈴! 無作為に衝撃砲を撃つことを諦めたらどうだ!」
「あんたにしては面白いこと言うじゃない! それは出来ない相談ね!」
「うわあっ!?」
砲口を正面に向けて先頭にいる一夏目掛けて衝撃砲を発射する。ハイパーセンサーで攻撃を把握した一夏はこれを寸前のところで回避した。
「一夏さん! 鈴さんだけではなくってよ!」
「うげっ! セシリア……のわっ!?」
キャノンボール・ファスト、一年生の専用機持ちの部は既に三周目を終えて四周目に突入をしている。順位にそこまで大きな変動はないものの、上位集団内での攻撃はより一層苛烈さを増していた。
上位集団は大和を除いた六人。
セシリアと鈴の標的は一夏となっており、一夏は迫りくる攻撃の数々をひたすらに躱している。攻撃をする暇さえ与えられないが、逆に防御に全比重を置いているからこそ間一髪のところで攻撃を躱して致命傷を防いでいた。
とはいえこれがいつまでも通用するかと言われればそれはまた別問題だ。レースは既に佳境であり、ここから様子を見ていた他の面々も自身が一番になろうと本気で攻めてくる。そうなればこれまで通り防御だけに比重を置いたところで状況を打開することは出来なくなる。
防御に比重を置きつつも攻撃に転じ、ライバルの数を減らしに行く必要があった。
「一夏、二人だけじゃないぞ!」
「僕たちもいるからね!」
「一夏、タッグトーナメントでは不覚を取ったが今回は勝たせてもらうぞ! そしてお兄ちゃんに褒めてもらうんだ!!」
「待て待て待て!! 何で俺一人を追い落とすことが前提になってるんだ!!? もっと周りを見ろよ!」
失礼、セシリアと鈴を含めた全員が一夏を標的にしているようだった。なんで全員俺を狙っているんだと文句を垂れる一夏だったが、文句を言ったところで標的が変わるわけではない。
迫りくる攻撃の数々を致命傷を受けないように躱していく。ただしこの時、一夏を狙う五人は一夏のことばかりを意識するあまり後方にいる大和に対する認識が薄れていた。初っ端あれだけ出鼻を挫いたのだから、そこから復帰することは容易ではない。
その思い込みが油断を生む。
「ふう……やっとここまで接近出来たな。ったくラクラのやつ思いっ切り後方に投げ飛ばしやがって」
先頭集団から少し離れたところにピッタリと張り付いたまま一定間隔を保ち続ける大和、少しずつ少しずつ追い上げてようやくこの距離まで迫ってきた。想像以上に遠くに飛ばされてしまい、戻って来るまでに時間は掛かったが、全員の標的が一夏に集中したことで少しずつ、だが確実に距離を縮める事が出来た。
不死鳥のスペックからしても先頭集団に追い付くことは十分に可能ではあったものの、一定以上近付けばターゲットが再び自分へと移って集中砲火を食らうことになる。それなら攻撃されないギリギリの距離感を保って標的を一夏にしたままジリジリと接近する。
頃合いを見計らって反撃をして一気に逆転を狙うのが理想となる。
第一コーナーを曲がりロングストレートに入る。意識はされているんだろうが、その意識は圧倒的に薄い。全員が全員先頭に立つ一夏へと視線が向いている。シールドエネルギーを消費し摩耗しつつある後半戦、攻めるなら……今だ。
「不死鳥……参る!」
スラスターの出力を最大として一気に急加速していく、推進力で一気に身体が引っ張られるもハイパーセンサーの視覚補助が働きすぐに視界が追いついた。
二、三十メートルほどあった差があっという間に縮まって行く。後方から迫りくる不死鳥の脅威、近付いてくるスラスター音にいち早く反応したのは後方で様子を伺うラウラだった。
ハイパーセンサーを使い、後方の状態を確認すると一気にスピードを上げて近付いてくる大和の姿が目に入る。
「なっ、お兄ちゃんいつの間にっ!!?」
「おいおい、俺は勝負を諦めたなんて一言も言ってないぞ? 最初に出鼻を挫いたみたいだが、あの程度では大きな差とはならない」
「くっ……んなっ!?」
「ハアッ!」
ラウラが反応するよりも早く横に並ぶと両手に展開した二本の刀を振るう。とっさに防御態勢を取ろうとするラウラだったが反応がほんの僅かに遅れた、その隙を大和は見逃さない。
縦横斜め縦横無尽に斬撃を加えてシールドエネルギーをゴリゴリと削ってく。
「くっ……このっ!」
「おっと……っ!」
「なあっ!?」
大和の反撃を止めようとワイヤーを不死鳥のボディに巻き付けようとするが、それよりも早くワイヤーを大和に掴まれた。
このまま連撃を食らったらまずい! と咄嗟にAICを展開して強制的に大和の動きを止めようとする。
AICは一対一であれば強力な武器となるが、目標を捕縛するために膨大な集中力が掛かる上に、その精度は決して高くはない。ましてや高速走行中の機体に使うのはかなりの練度を必要とする。だがこの距離ならと発動を試みるラウラだったがそれよりも早く、大和はワイヤーを掴んだ手を大きく振りかぶった。
「さっきのお返しだ! オラァッ!!」
「うわああああっ!!!?」
さっきやられたことのお返しだと言わんばかりにラウラを自身よりも後方に投げ飛ばす。
引っ張られたことでラウラのシュヴァルツェア・レーゲンは宙に浮いて集団から離脱させられてしまった。
「えっ、大和!?」
「い、いつの間に!!」
ラウラの前方に位置していたシャルロットと箒が接近する大和の存在に気付くとギョッとした表情を浮かべる。出鼻を大きく挫かれたハズの人間が気付けば自分たちのすぐ後ろにいる、つまり自分たちは大和の射程圏に入っていることと同義だった。
一夏を狙おうと前方を向いていた二人だが、大和の接近でこのまま前を狙い続けるのは危険だと判断して標的を一夏から大和へと変える。
「大和、勝負だよ!」
「あぁ、掛かってこい!」
アサルトライフルを手に持ち弾幕の嵐を大和へ浴びせるシャルロット。ある程度無造作にばら撒くのはある一種の目眩ましの意味合いもある。
大和に意識を置いているのはシャルロットと箒の二人だけ。先頭に立つ一夏、それを狙うセシリアと鈴は大和への意識は薄い。とはいっても接近には気付いているようだった。
思いも寄らない接近に驚きを隠せないでいる。
「ちょ、ちょっと! 何で大和がもうこんな近くまで来ているのよ! あんたの攻撃が甘かったんじゃないの!?」
「なっ、鈴さんこそまともに衝撃砲を当てられてなかったじゃないですか! 私だけのせいではないですわ!」
「なぁんですってぇー!!!」
どっちに原因があるのかをなすりつけ合う二人の代表候補生。今回の場合どちらに原因があるというわけではなく、初っ端大和の出鼻を挫いたことでもうこれ以上追い上げてくることはないだろうと全員が変な決めつけをしていた。
全員の意識は一夏を含めて他の操縦者に。大和に対する意識が薄れたところを付け込まれただけなのである。
「ふっ、はぁっ!!」
シャルロットから浴びせられる弾丸の軌道を読んで躱しつつ、避けきれない弾丸に関しては刀を使って直撃を弾いていく。
「……アサルトライフルの弾丸軌道を読んで正確に撃ち落とせるのなんて大和くらいだよ。普通なら当たらないように旋回するのに刀で撃ち落とすだなんてさ」
シャルロットは自身の放つ弾丸をいとも簡単に対応する大和に呆れてため息しか出なかった。
全ての弾丸が直撃するリスクを回避するために旋回して避けるかと思えば、最小限の回避行動でそれ以外の弾丸は刀で全て撃ち落とすというリスクの高い動きをとっている。
初っ端シールドエネルギーを大きく削られたというのに、大和はシールドエネルギーが減るリスクよりも集団から離れされない方を選択したようだ。
それでもその選択が出来るのは全ての弾丸を撃ち落とせるという自信があるからだろう。
「本当に大和って僕たちの中で一番稼働時間少ないんだよね。まさかとは思うけど経歴詐称してない?」
「するかっつーの……まぁ稼働は一番少ないけど、負けん気は人一倍強い「大和っ!!!」……おっと!」
隙ありとレーザー斬撃を放ってくる箒。シャルロットの死角から放ってくるあたりある程度作戦を考えていたようだ。ハイパーセンサーで背後の様子を確認し、箒のレーザー斬撃をギリギリまで接近させて飛び退く。
これにより斬撃を目視できる時間が少なくなり直撃する可能性を上げることが出来るが、大和は至って冷静だった。
「……ここだっ!!」
飛んでくるレーザー斬撃に自身の刀を振りかぶって斬撃を合わせると、半ば力任せに叩き伏せた。
「んなっ!?」
「甘いぜ箒、レーザー斬撃は確かに強力だが来ると想定できれば刀を合わせるのはそこまで難しくない。作戦としては悪くないけどなっ!」
レーザー斬撃を斬り伏せた後、目標をシャルロットに定めると一気に接近する。シャルロットは回避行動を取った後で体勢が整えられていない。
「くっ!」
「シャルロット!!」
ラピッドスイッチでアサルトライフルからショットガンに切り替えると、近距離に近づいてくる大和に銃口を向けた。大和が斬撃を切り込む前にぎりぎり間に合ったと、その引き金を引く。
が。
「……なんてな?」
「えっ……あっ!」
「なっ!? シャルロッ……うあっ!!?」
シャルロットが引き金を引く瞬間一気に速度を落とすと、大和の影に隠れていた箒の顔がシャルロットの視界に入った。二人の視界を自身が壁となることで奪い、箒が接近するタイミングとシャルロットが引き金を引くタイミングを見計らって間から離脱をしたのだ。
気付いた時には既に遅くショットガンの弾丸が箒にモロに直撃してグラリとバランスを崩す。
大和は再びショットガンを握るシャルロットに近付いてその両手を掴むと懐に潜り込み、背負投げの要領で箒に向かって投げ飛ばした。
「わああああっ!!?」
「なっ、シャルロッ……うわあっ!!」
シャルロットの機体に押し潰される形で箒は地面に叩きつけられる。最下位を走っていた大和が一気に先頭集団に追いついたこともあって、会場内はより一層の盛り上がりを見せていた。
ラウラにシャルロットに箒を無力化し、速度を一気に上げて先頭集団の一夏、セシリア、鈴へと接近していく。シャルロットと箒が無力化されたことを把握した二人の額にじわりと冷や汗が浮き出る。
スピードを競う勝負であり、いくら戦闘想定の武装をしていないとはいえ追加パッケージもなく、両手に握った刀のみで各国の代表候補生と渡り合う強さに動揺を隠せないでいた。
特にセシリアはクラス代表決定戦の時に、当時打鉄に搭乗した大和と戦っている。
序盤こそ稼働歴が長い自身が優位に戦いを進めたものの、後半はセシリア自身の立ち回りや武器の使い方機体や武器の特性を完全に見切られて、苦手とする接近戦に持ち込まれてあえなく惨敗したという苦い経験だ。
接近させられなければ良いというのがセシリアの持論ではあるが、一夏や大和といった近接格闘型の機体に懐へと飛び込まれたことは事実。
あの経験が一気にセシリアの脳裏にフラッシュバックする。
「さぁ、お前らにも追いついたぞ!!」
「あんた一体どんな戦闘力してるのよ! 折角最初に深手を負わせたのに全部の苦労が水の泡じゃないの!」
「ふ、ふふふ大和さん。あぁ、クラス代表決定戦を思い出しますわね……」
「ちょっとセシリア!? あんたはあんたで何そんな顔色悪くしてんの! 青を通り越して白いわよ!!? くっ仕方ないね!! これでもくらいなさい!!」
一夏を狙っていた砲口の向きを変えて大和に照準に捉えると、遠慮無く衝撃砲を発射してくる。
攻撃は想定内だったとはいえいきなりこっちに打ってくるとは思わず、機体を少し横にずらすとすぐ横を砲弾が通り抜けていった。
「おっと! いきなりあぶねぇなぁ!」
「避けるなぁ!!!」
「避けるに決まってるわ!」
避けない人間がどこにいると抗議をするも、そんなことはお構いなしと言わんばかりにバカスカと連射してくる。
そこまで正確な狙いは定めていないため、機体を最低限左右に移動させるだけで攻撃を避けつつ、避けきれない攻撃に関しては致命傷にならない程度に、被弾部分を最小限にしながら鈴へと近付いていった。
つまり現段階で鈴は大和を標的にしており、隣にいるセシリアはノンマークの状態。この距離で意識を向けられていないのであれば射撃を当てることなど造作もない。
「鈴さん、隙ありですわ!」
「へ? セシリアちょっとたん……いやああああああ!」
セシリアが正確な射撃で無防備な状態の甲龍の足元を狙撃するとバランスを崩す。その隙をついて鈴の足元を払うと機体は回転し、後方へとゴロゴロと転がっていった。
が。
「このぉ、セシリア!! 抜け駆けは許さないわよ!」
双天牙月を瞬時に鈴は展開するとそれをセシリアに向けて投げつける。
「軌道が分かる攻撃など笑止! 全く怖くありませんことよ!」
一直線にセシリアへと向かっていく訳だが、不意打ちならまだしも分かりやすい軌道で飛んでくる攻撃を防ぐことは造作もないこと。
飛んでくる双天牙月を撃ち落とそうとそちらに意識を向けるセシリアだったが、このレースは一対一ではなく一対複数になる。
他の人間に攻撃されることも含めて行動しなければならない。素早くセシリアの横に近付くとポンと肩を叩く。
「残念だがセシリアを狙っているのは鈴だけじゃないんだなこれが」
「ひぃっ!? や、大和さん! あっ……」
大和の接近に対して視線と意識をずらしたのが良くなかった。先の戦いで苦手意識も持っていたのだろう、大和に意識を向けて飛んでくる攻撃から目を逸らしたことで、撃ち落とすタイミングが一瞬遅れる。
その一瞬が戦いにおいては命取りだ。
ほんの僅かな時間でも時は動いている。撃ち落とすことが可能な位置にあった双天牙月は、既に自分の眼前まで迫っていた。
この距離で撃ち落とせばレーザーの爆風に自分まで巻き込まれる。そんなセシリアから大和はそっと距離を取ると同時に鈴の一撃が直撃した。
「し、しまっ……きゃああああああああっ!!?」
バランスを崩して盛大にその場に倒れ込むと、彼女の横を颯爽と大和は通り過ぎる。セシリアが倒れた位置はゴールのほんの少し手前であり、大和が追い抜いた時には最終ラップへと突入するタイミングだった。
(セシリアのやつ……そんなに俺と戦うことに苦手意識持ってるのか? 精神的に揺さぶられて反応が遅れるだなんてらしくない)
セシリアを抜き去る大和はふと率直な感想を吐露する。ここ最近の実戦の戦績は振るわないとはいえ射撃の技術は随一であり一年の中どころか全学年合わせてもトップクラスの実力を誇る。
反面接近戦を苦手としているが大和や一夏と戦ったり千冬からの指導で接近戦での対応の重要さを改めて認識してここ最近は備え付けのショートブレード、インターセプターを使った接近戦も想定して練習していた。
専用機の中では表向きは一切努力を見せず、人知れないところで人一倍練習をする努力家だ。今回は純粋に悪い意味で過去がフラッシュバックし、本来の動きが出来なくなってしまったのかもしれない。
(さて、残るは……)
四周目を終えて、いよいよレースは最終周を迎える。大和の視線の先に映るのは白、もう一人の男性操縦者である織斑一夏その人だった。
とはいえ背後にいる面々も完全に無効化した訳では無い。抜き去るために一時的に無力化することに成功はしたが、すぐに体制を立て直して追いかける姿がハイパーセンサー越しにしっかりと確認出来た。
泣いても笑っても残り一周。シールドエネルギーも残しておく必要がないともなれば全身全霊を掛けて追い込んで来る。
追随から逃げる一夏と追いかける五人組にオセロのように挟まれた状態の大和は、一夏を追い抜こうとどんどん接近していくが……。
(ちいっ、初っ端食らったダメージがデカいな。エネルギーがもうそんなに残ってない……)
初っ端出鼻を挫かれたことが今になって響いてきていた。
完全なガス欠状態ではないとはいえ、残っているエネルギーは決して多くない。奥の手の一つとして考えていた攻撃を受けながらの強行突破は使うことが出来ない状態だった。
もし強行突破しようとすればエネルギー切れのリスクを伴う、エネルギー切れになればそのタイミングで失格、順位なしとして扱われる。
ここまで来てエネルギー切れで失格は流石に恥ずかしい。
(しかし……ちょっと見ない間に一夏のやつ随分と成長したな。いくら防御に比重を置いているからって代表候補生から逃げ続けるなんて早々出来るもんじゃない)
大和が驚いたのは一夏の成長ぶりについて。
これまでは良くも悪くも勢いに任せて真っ直ぐ突撃するタイプのスタイルだったのに、今回の大会は攻撃を極力抑えて防御及び回避にのみ専念している。
もしかしたらこのスタイルは一夏のガラではないのかもしれないが、間違いなく勝てるための戦い方を出来るようになっていた。ただでさえ白式はエネルギー効率が良くなく消費量が激しい。一撃必殺の単一仕様能力を持っていても、その分自身のシールドエネルギーを削るというまさに諸刃の剣だ。
この状況下でおいそれと発動できるものではない。それでも状況に合わせた対応が出来るようになっていることを大和自身が感じていた。
(色々と考えているだろう。ただ今回のレースも易易と勝ちを譲る気はない。そろそろ仕掛けるとするか)
グンとスピードを上げて一夏の後方へとピタリとくっつく。自身の後ろに接近されたことを一夏も気付いたようで。
「くっ、大和! やっぱり来たか!」
「あぁ。そりゃお前だけに好き勝手はさせねーよ。とはいってもそう思うのは俺だけじゃないけど」
「ん、どういうことだ?」
「後ろ見てみ」
「……んげっ!」
大和の言葉に促されるように背後の様子を確認すると、大和のすぐ後ろに専用気持ち全員が武器を構えて追っかけてきていた。
「一夏! 大和! 逃さんぞ!」
「一夏さん! 大和さん! 優勝は渡しませんことよ!」
「一夏っ! 大和っ! あんたたち覚悟しなさいよ!」
「一夏! 大和! 僕たちのこと忘れてもらったら困るなぁ!」
「一夏! お兄ちゃん! 特にお兄ちゃんには絶対に勝つ!」
あまりの勢いに二人は気圧される。
もうここまで来たからには逃げるしかないのだが、継続して後方からは弾丸や斬撃が飛んでくる。ハイパーセンサー越しに攻撃を確認しながら躱しを繰り返すわけだが、このままではどうあがいても大和が一位になるビジョンはない。
一位になるためには一夏を無力化して自分が前に出る必要があった。ただし先にも言ったようにエネルギーの残量は心許なく、最後の追い込みのタイミングを間違えば追い込まれるのは自分だ。
『さぁ! これがファイナルラップです! ここまで一位を守り続ける織斑選手の後方に二位の霧夜選手が追いついてきたああああぁぁぁああ!!!! その後続にもピッタリと五人の選手が! これは最後まで目が離せません!!!』
実況の一言に俄然アリーナの観客たちは盛り上がっていく。
二年生の時と同じで終盤のデッドヒートは見ていて面白い。目の前で繰り広げられる熱い戦いに観客たちは立ち上がり、競技を続ける専用機持ちたちに向かって声援を送る。
そこに贔屓というものは一切無かった。
「一夏悪いけど今回も俺が勝たせてもらう!」
「今回は譲らねぇ! たとえ大和であったとしてもこのポジションだけは最後まで守り切る!!」
「なら力付くでも奪うまでだ! はっ!」
「どわあっ!?」
最終コーナーを曲がり、最後の直線に入った時だった。
セシリアのレーザーを、鈴の衝撃砲を躱すタイミングを見計らって一夏に持っている刀の内一つを、ブーメランの要領で投げ付ける。
攻撃がない状態であれば回避は決して難しくは無いが、回避後のバランスを崩している時に追撃を受けると回避の難易度は一気に上昇する。二連撃を受けてややバランスを崩した時に襲ってくる大和の刀をかろうじて避ける一夏だったが、機体を狙ったピンポイントの一撃に思わず出力が緩んでスピードが落ちる。
(ここだっ!)
一夏のスピードが落ちた瞬間に
「させねぇっ! 雪羅っ!!」
声を発したかと思うと大和に少し遅れるように第二形態・雪羅モードを展開させたかと思うと、そのまま
「ぐぅうう!!?」
「負けてたまるかぁあああああ!!!」
此処から先はもう意地のぶつかり合いだった。
ほぼ横一線で二人は競り合ってゴールを目指す。だがライバルは一夏だけではない、競り合う二人のすぐ横にオレンジ色の機体が不意に現れる。
「二人だけで盛り上がっている暇はないよ!」
「何ッ! シャルロット!?」
「くっ、やっぱり使えたかシャル!」
驚く大和と、やっぱりかという一夏。
最後の直線に入っているのは全員同じであり、一位になることを目指してそれぞれが追い込みをかけている。
三人がほぼ横一線に並んだ状態だが背後からも絶えず攻撃は続いている。少しでも気を抜けばすぐに抜かれることだろう。
「ならっ、これでどうだ!」
白式が再び一気に加速し始めた。
「何ッ!?
最後の最後で奥義を発動する。ゴールまで残り数十メートルの距離で更に加速した一夏は並んでいる大和とシャルロットを身体一つ分リードして置き去りにしていく。
この加速についていく能力は大和とシャルロットの機体には備わっていない。
いくらスペックが高いとはいっても限界以上の力を引き出すためにはリミットブレイクを使って、強引に出力を上げる必要がある。今の状態の一夏に追いすがるとするのであれば、それ以外の選択肢は大和に残されていなかった。
(……いや、ダメだ。このレースでリミットブレイクの使用はリスクがありすぎる)
リミットブレイクを使った場合の副作用は大和とて理解している。
故に使うことが出来なかった。つまりその選択が意味するのは。
「……俺の負けだな」
大和が競り負けたことを意味していた。
競り合いの末に抜け出したのは一夏。
勝負どころで雪羅を展開し
「へぇ、レース自体は織斑一夏くんが勝ったようね。正直かなり意外だったわ。ぽっと出の男性操縦者に一位を持っていかれるなんて、IS学園の代表候補生たちもあまり大したことはないのね」
「あら、あなたこそ何も知らないのね。織斑一夏は驕らず努力をし続ける子よ、運なんかで一位を取れるほどこのレースは甘くない。何も知らない人間に評価をされたくはないわ」
レースの結末に対して率直な評価を下すスコールに対した、実情を知らない人間が何を言っていると皮肉を込める。
楯無も一夏を指導している身として下に見られるような評価を、事情の一つも知らない第三者の人間にされるのは気分がいいものではない。
それも全世界に指名手配されているようなテロリストの人間だとしたら尚更だ。
先ほどとは雰囲気が変わり、スコールは全身金色の装甲で覆われたISを展開している。
「それにこんなところで対峙し合っているのも時間の無駄。そろそろ止めない? あなたの機体では私のISは突破出来ない、それくらいは分かっているでしょう?」
直前にガトリングを展開してスコールに向けて攻撃を仕掛けた楯無だが、それはあえなく防がれた。展開する金色の壁に。
計り知れない実力があるのも間違いない。情報が少ない中で彼女のISを突破出来る算段があるわけでもない。
だが彼女にも立場があった。
「勝てないから、倒せないから戦わない。それは賢い選択なのかもしれない……けど!」
楯無を纏う水のヴェールを刃に変えて再度攻撃態勢に入る。
「私は更識楯無。IS学園生徒会長、ならばそのように振る舞うだけ……っ!」
水のドリルを纏ったランスによる突撃攻撃を仕掛けるがこれをスコールはひらりと躱し、入れ違いざまにナイフを投げ付ける。
また同じ手かと水の刃でナイフを切り裂く。
「そんなもの! ……っ!?」
切り裂くと同時にナイフは大爆発を起こす。
それと同時にスコールは逃げようと足元に力を込めるが。
「―――残念だが、逃げてもらっては困るな」
「っ!?」
スコールの進行方向を阻害するように仁王立ちする影。大爆発に乗じて逃げようと思っていたスコールも思わずその場で立ち止まってしまった。
爆発によって発生した黒煙が徐々に晴れていく。クリアになっていく視界の先に見えた人物の名を楯無はボソリと呟く。
「や、大和……あなたがどうしてここに?」
「レース中にそこの女性を追いかけて階段を駆け上がっていくお前の姿が見えたからな。広いアリーナだけど大体の場所は見当がつくし、進入禁止のこのエリアなら人は入ってこないから探し出すのはそう難しく無かった」
レース中、ふと大和が観客席に向けた時にスコールの後を追うように階段を昇る楯無の姿が見えたため、レース後はすぐに更衣室に戻り、最低限の着替えをして現地へ向かう。
楯無も人がいるところに追い詰めることはしない。万が一が発生した時に、その被害が拡大してしまうからだ。
となると誘導する場所は人が近付けない場所になる。
限定されたエリアから場所をある程度特定し、駆けつけることは大変ではあるが出来ないことではない。楯無がスコールをある程度の時間足止めしてくれていたため、大和もギリギリ駆け付けることが出来た。
「さてと、やっと会えたな。
初対面であるはずにも関わらず大和はその名を呟いたことに対して自身の名前をどうして知っているのかと表情が険しくなる。
「何故私の名前を……」
「知っているかって? さぁ、テロリスト集団の幹部クラスにもなれば色んなとこに名前が出るだろう。名前を知られていることに特に違和感は無いはずだが」
あくまで大和の口調は淡々とした業務的なものでそこに喜怒哀楽といった感情は込められていない。恐らく楯無をフォローしようとして駆け付けてくれたことに変わりないが、大会に出場した後だと言うのに何故ここまでして駆け付けてくれたのか。
楯無に大和の意図は分からなかった。
「まずは聞いておこう。お前たちの協力者に『ティオ』という人間が居るはずだ、間違いないな?」
「……」
「沈黙は肯定と取るぞ。違うなら違うとハッキリと言え」
「……」
質問に対してじっと大和の顔を見つめたまま沈黙を貫くスコール。あくまで大和の問いかけに答えようとする素振りはない。
数秒ほどスコールを見つめると答える意志がないことを悟り、ふぅと一つため息を吐いた。
「ふぅ……では次だ。『ティオ』とお前たちは共謀している。臨海学校の時に送り込んできた『プライド』という男はお前たちの差し金だな?」
「……」
続けざま、大和は一方的に話を進めていく。スコールが回答しようが回答しまいがどうでもいい、彼には何が何でも確認しなければならないことがある。
追加の質問に対してもスコールは沈黙を貫く……が。
「っ!」
「大和っ!」
大和の視線がブレた瞬間、懐から素早くナイフを取り出すと大和目掛けて投げ付ける。不意打ち気味の攻撃に思わず楯無は名前を呼んだ。
ただしそれも想定内だ、と言わんばかりに鬱陶しそうに視線を戻すと飛んできたナイフを人差し指と中指で挟むように止める。
「……随分と突然なんだな」
飛んできたナイフを手に取り、取っ手部分を握り締めながら観察する。先ほど楯無に投げ付けられたものとは違い、爆発物が含まれた特殊なナイフではないようだ。
一通り問題が無いことを確認すると取っ手部分を刃先の部分を掴み、ぐっと力を入れると耐えきれなくなった金属部分がパキンと音を立てて真っ二つに折れた。
折れる様子を確認した大和は金属片を床に落とすと、これまでとは違い鋭い目つきを浮かべて怒気を含んだ声でスコールへと伝える。
「―――今質問しているのは俺だ、お前は黙ってそれに答えるか反応すればいい」
その表情には相手のことを威圧するのではなく、何かに対して計り知れない怒りを含んでいるように見えた。これまで見たことのない大和の怒りの表情に、楯無は思わず口を真一文字に結んだ。
「……続けるぞ。昨日『プライド』をこの学園に送り込み、奴に俺の処分することを依頼した。この事実に対して異論は?」
「……さぁね。私はそこに携わっていないわ」
ここで遂に黙りを決め込んでいたスコールが口を開く。
そこに携わってはいないという言い方はプライドを派遣した指示を直接は出していないものの、彼に纏わる何かに携わっていることは明白だった。
スコールの返事に対してもあまり表情を変えないまま、少し小さな声で追加の質問を投げ掛けていく。
「……奴のたった一人の肉親を実験台にして処分したことについては?」
「なっ……!?」
大和の口から発せられる真実に、楯無は驚きの表情を隠せなかった。聞き間違いがなければ人体実験を行って人一人を処分したと言っている。
「……知らないわ」
あくまで淡々とスコールは表情を崩さずに応答する。発せられる言葉が真実なのかそうでないのかはトーンや表情からは推測することが出来なかった。
「……最後の質問だ。今回お前たちの組織は
語気を強めて大和はスコールに最後の質問を投げ掛ける。今回起きたことに対しての罪の意識は、罪悪感はあるのかと。
大和の質問に対して少しスコールは考え込む。質問に対して何を思うか彼女からの回答を大和は表情を変えずに待つ。
やがて結論がまとまったようで口を開くが、その口から語られるのは大和にとって衝撃的なものだった。
「―――さぁ、知らないわ。だって私が直接関わっていない人間に興味など無いもの」
回答内容に場の雰囲気が一瞬にして凍りつく。
楯無は信じられないといった表情だった。人の命をなんだと思っているのか、どこまで軽視したらそんな発言が出てくるのか。
生徒会長という仮面を剥ぎ取ってでも怒鳴り散らしたい。そう思う楯無よりも先に動いたのは他でもない大和だった。
「あぁ、十分だ、十分すぎるくらいの回答だ。もうお前に聞くことは何も無い。十分すぎるくらいお前らのことは分かった。そうか、目的のためなら―――どんな命だろうが手に掛けているってことが良く分かったよ!!!!!」
「ひっ!?」
「っ!?」
大和の怒号とともにその場の雰囲気が一瞬にして変わる。
彼から発せられる黒い怒気に楯無は言葉にならない悲鳴を上げ、スコールは身体から発せられる膨大なさっきに臨戦態勢へと移る。
「良く分かった。もういい、お前たちには言葉で言ってもわからない。だったらその身を持って償わせるだけだ……二人の命を奪ってその周囲の人間をも生命の危機にさらし……あまつさえ出てくる言葉がそれかっ!!!!!」
大和は右腕に自身の機体を部分展開する。
「悪いが、手加減なんて期待するなよ? ここから俺がお前を一方的に叩きのめすためだけの戦いだ」
誰も望まぬ戦いが幕を開けるのだった。
―――…