IS‐護るべきモノ-   作:たつな

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こみ上げる怨讐、人を捨てし者たち

 

 

 

「ここに来た一番の目的はプライドを止めるためだが、私個人はもう一つ目的がある―――お前と話がしたい」

 

 

突然現れたかと思えば俺と話がしたいという千春。

 

元々はプライドを止めるために来たようだが、千春が駆け付けるよりも早く奴は自爆をしてしまったため、残念ながらその目的が達成されることはなかった。

 

ナギを守りながら千春の提案に対して反応をする。

 

 

「……特に話すことは無いんだがな。お前がどうしてもというのならさっさと話せ。こっちには俺の大切な人もいるからもし変なことをしようものなら俺は全力でお前を捉えに掛かるぞ」

 

「こちらも別に変なことを起こす気はない、あくまで情報提供だと思ってもらえればそれで良い」

 

 

相変わらず読めない奴だ。

 

とはいえ彼女の醸し出す雰囲気から敵意は微塵も感じることは出来ないため、本当にこちらを襲う気などは無いのだろう。だがこちらにはナギもいるし万が一変なことをした場合は容赦無く反撃をすることを伝えて釘を刺す。

 

それに対して千春は問題ないと了承した。

 

 

「大和くん……」

 

「大丈夫だ、ただ、もしもの時に備えて俺の影に隠れていて欲しい。会話自体は聞いてもらっても構わない」

 

「うん……分かった」

 

 

心配そうな表情を浮かべてギュッと服袖を掴んでくる。

 

そのか弱い身体は得体のしれない恐怖に包まれて小刻みに震えている。怖がりな人間がホラー映画などを見た後にある震え方ではなく、純粋にこの現状を本心から怖がっている……悪く言えばトラウマになりかねないような光景を見てしまっている。

 

こんなことが起きた後だから心配になるに決まっている、直接的には見ていないとはいえ目の前で人が死んだのだから。

 

気を遣うなという方が無理があった。

 

震えるナギの頭にポンと手を置くと優しく数回撫でて気持ちを落ち着かせる。少し気分が落ち着き、俺の指示にコクリと頷くと俺の背後に隠れた。

 

さて、準備は整った訳だし話を聞こうとしよう。

 

 

「さ、話してもらおうか? こっちも暇じゃないんでね、内容は端的に分かりやすく纏めてくれ」

 

「また無理難題を吹っ掛けてくれる。まず一言でいうなら今回の暗殺未遂はこちらの頭と亡国機業の人間が共謀して行ったものになる。こちら……とは言っても私は直接組織の配下に入っているわけじゃないから、形式上という形にはなるがな」

 

「……一つ分からないことがある。そっちの頭は誰で亡国機業側の人間が誰かというのは分かるのか?」

 

 

純粋に誰が頭で亡国機業の誰が共謀したかまでは分からない。千春に聞いたところで答えが返ってくるかどうかはいささか不明だが、情報として少しでもこちらは掴んでおきたい。

 

 

「『ティオ』だ。お前も何回かあったことがあるだろう。亡国機業側は『スコール』になる」

 

 

随分とあっさりと言ってくれる。

 

間抜けな人間が言うならまだしも、千春が自陣の情報を漏らすだなんて何か意図があるのかもしれない。

 

 

「……こんな機密情報を言っても良いのか? お前自身も組織に狙われる可能性だってあるだろう」

 

「関係ないさ、私は組織の人間ではないのだから。この程度話したところで私をどうにか出来る訳では無い」

 

「そうかい」

 

「勘違いしてもらったら困るが私は別にティオのように新世界の創造なんてものは微塵も興味が無い。ただ私は()()()()()()()()()()()()()()それだけでいい。それ以上は何一つ望まない」

 

「……」

 

 

話せば話すほどに理由が分からなくなる。立ち位置的に俺たちとは敵対する勢力であるにも関わらず、亡国機業や組織への帰属意識は皆無。

 

それどころかこちら側に進んで攻撃してくることも無ければ、敵意を見せることもない。では何故彼女は亡国機業や組織に間接的にでも力を貸すような立ち位置にいるのだろう。自分の家族と平和に暮らしたいなんて言っているけど、そこが影響しているのだろうか。

 

いくら考えたところで結論を導き出すことは出来なかった。

 

 

「それから生前にプライドが色々とお前に言ったことがあると思うが基本嘘偽りはないと思ってくれれば良い。奴にはたった一人肉親とも言える妹がいて、組織の手に掛かって最後は亡くなった」

 

「……っ!」

 

 

千春の呟く言葉に思わず唾を飲み込む。

 

プライドが言っているように組織の手に掛かって殺されたと言う事実を述べてくる。奴と彼女の二人の口から話された内容に乖離は無いし、おそらく間違いはないのだろう。

 

妹がどんな人間だったかどうかは分からないが、実際に組織の手で葬られたことを考えるといたたまれない気持ちになる。事実を受け入れると同時に沸き上がってくる怒りに思わず拳を握りしめた。

 

 

「だが、お前がそれを気に病む必要は無い。全てはプライドが蒔いた種だ。因果応報という言葉があるだろう、まさしくその意味が相応しい」

 

「……」

 

 

俺がプライドに伝えた言葉と同じような言葉を千春は伝えてくるが妹の立場に立って考えると、身内のゴタゴタに巻き込まれて命を失っている。

プライドに対しては因果応報で片付くかも知れないが、妹にとってはその一言では済まない。

 

 

「……プライドの妹はどんな人間だったんだ?」

 

 

俺は気になっていることを確認する。

 

プライドの妹と言うとイメージとしてどうしても悪いイメージが先行してしまうが、実際のところはどうだったのか。

 

 

「奴とは真逆の人間だ。とても兄妹とは思えないほどちゃんとしている人間だったと聞いている。もっとも話を聞いただけで、実際にあった時には既に実験体としての彼女で口なんてまともに聞けたものでは無かった」

 

「……実験体?」

 

 

実際のところはどうか分からないが、聞いた限りではプライドとは真逆の人間……つまりはかなりしっかりした優しい戦いなんて無縁な人間だったのだろう。そんな子が殺されたと考えるとますます奴らを野放しにしておくわけにはいかなかった。

 

千春の一言に無意識にピクリと反応する。口ぶりからただ殺されたわけではない事が分かった。

 

 

「―――簡単な話だ。奴の妹は人体実験の被験者として扱われた。それも普通では考えられないような残虐な実験にな」

 

「っ!」

 

「そんなっ! ひ、ひどいっ!」

 

 

俺は思わず言葉を失い、ナギは口を覆って悲しみを露わにする。

 

そんな理不尽で残虐なことがあってなるものかと思いたくてもプライドの両手を容赦無く切り落とすような連中だ。人の命を何とも思ってないような連中であれば、その処断を容赦無く下すに違いない。

 

非人道的な残虐な行いに人としての心など一切感じられなかった。

 

 

「千春、それは本当なんだろうな? 悪いが内容が内容だけに後々違いましたは通用しないぞ」

 

 

念の為それが事実かどうかを問う。

 

もし嘘を言っているということであればこの場で容赦無く千春を捉える。だがもし本当だとしたら手を下した人間を到底許すことは出来ない。

 

力づくでも見つけ出してその罪を償わせる。

 

 

「……あぁ、間違いない」

 

 

そう、言葉を紡ぐ。

 

事実かどうかを調べる術などは無いが、少なくとも罪もない人間が非人道的な実験体で亡くなったことは間違いと判断するしかない。

 

彼女が嘘をついているようにも見えない。それに嘘を付くためだけに捕まるリスクを犯してまでこの場に訪れるとは到底思えなかった。

 

どれほど辛い毎日を過ごしていたことだろう。その実験内容までは分からなくても、千春が言うように亡くなるほどに酷いものだったことは容易に想像出来る。

 

 

「……」

 

 

かつてのことを思い出しながら照らし合わせる。

 

俺は国家を統治するため、優れた人間を作り出すためだけに生み出された存在であり、人権と呼ばれるものなど皆無だった。命令通り動かなければ一方的に暴力を振るわれ食事なんかも最低限しか与えられない。

 

信頼関係なんてものはまるでなく、ただ『戦うため』だけに存在している。それ以外の存在価値など俺たちには無かった。愛情なく暴力だけで育てられた俺の心は完全にぶっ壊れてしまった。

 

そして挙句の果てに捨てられた。

 

 

「……っ!」

 

 

だが、自身への実害と考えればプライドの妹はもっと酷い境遇だった事がよく分かる。

自分の身体を実験体……いわばモノとして扱われ、最終的には死に追い込まれて捨てられる。

 

こんな現実があってたまるものか。

 

心の奥底でどす黒く蠢く感情が沸き上がってくる。その当事者たちを今すぐにでもこの手で葬り去りたいほどに。

 

どちらにしてもはっきりさせておきたいことがある。今回のことを引き起こした諸悪の根源、そこをこちらにしてははっきりさせたかった。

 

 

「……ティオとスコールの二人が全ての元凶ってことで間違いないんだな」

 

「あぁ。概ね合っている。ただ、奴の妹が死んだのは結局のところ行き過ぎた実験を止められず発見が遅くなった部分が大きい。スコールは直接実験に携わることはしていなかったが実験そのものが行われていることは認知をしていたし、そう考えるとどちらにも非はある。情状酌量の余地はない」

 

 

認識があっていることを確認し、自分の胸の内に湧き上がってくる怒りをぐっと抑え込んで飲み込む。ここで怒りをぶつけたところで何にもならない、それどころかナギまで巻き込んでしまうことになる。

 

それだけは絶対にあってはならない。

 

怒りから手が震えて頭に血が上る。

 

経緯や理由がどうであれ人一人を死なせてしまったのは事実であり、それが管理不十分だったとしても責任の所在は奴らにある。あまりにも無責任な考え方に腹が立った。

 

スコールと呼ばれる人物は俺自身会ったことがあるわけではない。話から察するに直接実験に関与していた訳では無いと言っても、実験が行われていることを知っていた訳だ。黙認は同罪であって免罪符にすらならない。

 

ティオの名前が含まれなかったということは実験を主導していたとも捉えられる。どちらにしてもプライドの両腕を平気で切り落とす判断が出来る男だ、ロクな人間ではない。

 

目を閉じて身体をリラックスさせるとゆっくりと血の気が引き、徐々に心身が正常な状態へと戻って来た。

自分の頭の中が冷静になったタイミングで改めて口を開く。

 

 

「……分かった」

 

 

ただそう返すことが精一杯だった。

 

他に言葉を繋げようとすると自分の中に眠るドス黒い何かを吐き出しそうで。それほどまでに胸糞悪い現実。霧夜千春に罪はないのかもしれないが、一瞬でも気を抜くと彼女に飛び掛かりそうになるくらいには自分の沸点が低い状態にある。

 

冷静になったとは言ってもあくまで何とかやり取りを出来るレベルまで落ち着いただけに過ぎず、奴らに対しての怒りは到底収まってなどいなかった。

 

今すぐにでも叩き潰したい。その思いだけが先行していく。

握りこぶしで自身の怒りを耐えてはいるが、これ以上癇に障ることを言われたら決壊してしまうかもしれない。そんな俺の異変を察知したのだろう、背後に隠れるナギが心配そうに声を掛けてきた。

 

 

「大和くん大丈夫? 顔色あまり良くないし無理しないほうがいいんじゃ……」

 

 

俺が正常状態ではないと察するや否や、クイクイと服の襟足を引っ張りながら身を案じてくれる。本当に心優しい子だ、俺にはもったいないほどに。

 

 

「……すまない。ちょっと冷静さを欠いていたみたいだ」

 

 

横目にナギへと感謝の言葉を伝える。

 

声を掛けてくれたことでかなり気を紛らわせることが出来た。ふぅと一息つくと、その上で疑問に思っていたことを千春へ質問する。

 

 

「とはいえ、だ。やっぱり俺の中では理解が出来ない。悪いが敵側の立場からすればお前の行動は謀反でしか無い。もしバレたら粛清だってあり得るんだぞ、どうしてこんな危険を冒してまでお前は俺に情報提供をしようと思ったんだ」

 

 

純粋な疑問としてはぶつけたわけだが、今回の情報提供について疑問が多すぎる。

 

千春自身はこちらと敵対する気は無いように見受けられるが、彼女の所属する組織はこちらにとっては敵以外の何物でもないし、向こうもそのつもりなのは間違いない。

 

つまり彼女の情報提供は敵側の機密情報にもなるわけだ。その機密情報を敵である俺にわざわざ密告しに来ているあたり、何らかの意図を感じることが出来る。

 

少なくとも善意としての行動には見えない。何か目的があるようにしか思えなかった。組織の人間であるならば行動範囲を制限されていたり、監視がついていそうなものだがリスクを負いながら情報を提供しに来たのは何故なのだろう。

 

俺の質問に対して何処か想定してましたと言わんばかりに少しニヤリと笑うと、その理由を話し始める。

 

 

「さっきも言ったように私が求めているのは()()()()()()()()()()()()()()だ。それ以外のことなど正味どうでもいい。逆に私たちの障害になりえるものは排除しておきたい……だからお前に話したまでだ。私は私であって他の誰でもない。それに私の心配をしているのなら無用、とだけ言っておこう。気遣いだけはありがたい限りだがな」

 

 

私たちの障害……ということはティオやスコールの存在は彼女にとって邪魔だということになる。

 

あくまで推察にしかならないが、組織に身を寄せているのも内部情報を探って組織を壊滅させるためであり、自らが組織の野望に向けて動いているようには見えない。

 

千春自身が思い描く理想の生活を脅かされることがない限り敵に回ることはないと暗に伝えているように見えた。

 

 

「お前の希望とやらを満たすためであれば、亡国機業やその組織とやらも裏切ると?」

 

「そういうことになる。それと一つだけ言わせてもらうと、私は無関係な人間を手に掛けるような真似はしない。これは誓ってでも良い。私の領域に踏み込もうとしなければお前たちの敵にはならないことだけは約束しておこう」

 

「最後の質問だ。お前の家族とは誰のことを指す?」

 

「……それはシークレットだ。残念だが身内を売るようなことは私の口からは言えないんでね。知りたければ自分で真実を突き詰めることだ」

 

 

彼女の家族とは一体誰のことを指すのか。

 

聞いても案の定秘密だと門前払いを食らってしまう。ただし千春の目的はこれでハッキリとした。こちらと敵対する意志は無く、彼女自身は自分の家族を守るために組織に所属しているのだと。

 

いずれはしっかりと話を聞かなければならないことは事実だがこの段階で彼女の身の回り……家族の話を聞く必要はない。

 

これから今後俺たちがすべきこと、それは。

 

 

「ここに来た理由はよく分かった。もう下がっていいぞ、お前を捉える理由もなくなったことだしな」

 

 

このふざけた作戦を考えて、人の命をぞんざいに扱った奴らを徹底的に叩き潰すこと。

 

それだけだった。

 

 

その後すぐに千春はその場を去り、俺たちは千冬さんと楯無を呼んで事情を説明。人が実際に亡くなったことを伝え、千冬さんは僅かに眉間にシワを寄せて楯無は険しい顔をしたまま現場を見つめていた。

 

それ以外にも俺たちに異常は起きていないかどうかを事細かく聞かれたが、俺も爆破寸前のところでISの展開に成功したことで機体のシールドエネルギーは削られたが身体には一切の傷はなく、ナギも爆発の瞬間は物陰に隠れていたことで怪我はしていない。

 

一人が爆風に巻き込まれて亡くなる事件だったというのに、周囲の人間に傷一つ無かったのはある意味奇跡に等しい。そういう意味では運を持っているのかもしれない。

 

千冬さんにはもちろんのこと、特に楯無からは徹底的に身を案じられた。怪我はしていないのかとか、身体に異常は起きていないかとか、本当にお前は俺のオカンかとツッコミたくなるレベルかつ、めちゃくちゃ距離を詰められた状態で。

俺が過去の無茶が原因で楯無も敏感になっているようで、いつもの落ち着いた生徒会長としての雰囲気は何処へやら。

 

最終的に何事も無かったことを説明して納得してもらった訳だが、納得させるまでに時間が掛かったことだけは伝えておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――さぁ、これからはこっちが奴らを追い詰める番だ。

 

 

「悪いが、手加減なんて期待するなよ? ここから俺がお前を一方的に叩きのめすためだけの戦いだ」

 

 

瞬時に右腕に装甲を展開すると同時にスコールを睨みつける。

 

コイツは今自ら『自分が関わった人間以外などどうでもいい』と言い切った。もしかしたら研究に直接携わっていないからこそ出てきた言葉なのかもしれない。

 

だがそんな研究など企てなければ死人が出ることは無かっただろうし、プライドが自分の命を引き換えに自爆をして散ることも無かっただろう。

 

知らなかった、興味が無かったでは済まされない。

 

プライドに対して俺を狙うようにけし掛けたのは他でもないティオとスコールの二人なのだ。

プライドは既に両腕を失っていて戦う術は残った両足のみ。当日は口にナイフを咥えて戦っていたが、両手が使えないというハンデはあまりにも大きすぎた。

 

つまりプライドが俺に勝てる唯一の方法があるとしたら相討ち覚悟で巻き込むしかない。正攻法では勝てない以上、自分の命を犠牲にする必要があった。

 

その結末が自爆特攻になる。

 

まさか矜持の高いプライドが自爆特攻を仕掛けてくるなんて思いもよらず、接近を許す羽目になったが幸いなことに寸前でIS展開に成功し俺自身は無傷で怪我一つ無い状態。

 

だが今回の件で二人の命が失われることになった。

 

一般的に見ればプライドは人を外れた道に行ってしまった極悪人であって、もし捕まれば極刑も免れないようなレベルだっただろう。

 

それでも人の命令で死ありきの選択を迫る理由はない。奴を裁くのは司法であってたかが組織の人間が命の行く末を決めるような判断を下すのは人道的にあり得ない。

 

それどころかプライドだけではなく、何の罪もない人間を実験体として扱い死に至らしめたこの結末を誰が許すことが出来るだろう。

 

そんな理不尽を他の誰かが許そうとも、俺が許すつもりは無い。

 

 

「しかしまぁご丁寧に中まで入ってきてくれるとはね。お陰様でこちらから探し出す手間が省けたってもんだ」

 

「まさかこちらの人間と連絡が取れないのは……っ!」

 

「あぁ、お前の仲間たちならとっくにIS学園の教員に引き渡したぞ、連絡が取れないのはその為だ。朝っぱらからバカ正直に会場近くで待機していただけじゃなくて、誰かに捉えられる心配も無いと完全に安心しきっていたんだろう。ISすら展開してなかったし捕まえるのは造作も無かった」

 

「ちっ……!」

 

 

お前の仕業だったかと忌々しげに舌打ちをするスコールだが、その表情はフルフェイスのマスクに覆われているせいで確認は出来ない。自分の知らないところでいつの間にか無力化されていたのは彼女にとっても予想外だっただろう。

 

逆にこちらとしてはあまりに想定内の動きばかりで思わず苦笑いが出るほどだった。これだけ大きな大会だ、ここ最近の傾向からして亡国機業が何もしてこないとは考えづらい。

 

オータムにエムと、おそらく主要戦力の一人としてカウントされている二人に関しては学園祭とアメリカ出張の時に追い詰めている。

オータムの専用機はコアこそ無事でも機体そのものは大破状態、エムに関しては千尋姉との一戦でマインドをポッキリと折られているだろうし、早々の復帰は考え辛い。

 

機体そのもののダメージは大きくないにしても、それを操縦する操縦者のメンタルが落ち込んでいる場合、操縦者の精神状態とISの稼働状態はリンクする。

 

乗ることは出来たとしても本来の力を出せないのは間違いなかった。

 

と、なってくるとその二人が出てくる可能性は限りなく低い。こちらが知っている人間で出てくる可能性があるのはティオやスコール……可能性は低いが千春、それからそれ以外の操縦者だ。

大掛かりの作戦ともなれば作戦を指示する人間が必ず近くに存在するはず、先述の二人が出て来ないと仮定するとティオやスコールが出てくる可能性は高かった。

 

二人が出てくるとなると少なくとも実働部隊として動くのは考えづらい。ティオに至ってはISすら持っておらず動かせるのかどうかも分からない。それにスコールに関しても全くの未知の状態なわけだ。

 

スコールは専用機を持っていたがこれも結果論に過ぎない。

 

今回の騒動は本来は配下の人間たちが実働部隊として動く予定のものだったが、事前に俺が捕まえたことで計画は頓挫。

朝早くに会場付近にまで赴いた俺は近隣をくまなく散策し、亡国機業の人間を二人発見した。当然、自分たちを発見したのが生身の人間ってことで油断をしたのだろう。見つけた後はISを展開するまでもなく二人を無効化することに成功。作戦の実働部隊を早々に潰させて貰った。

 

使われていた訓練機たちもコアナンバーから盗難された機体であることが判明し、本来あるべき所有者、もとい所有国に戻ることになる。末端の実働部隊なら大した情報は得られないだろうが、目の前にいるスコールを捉えれば話は別だ。

 

捕まえれば芋づる式に情報を聞き出すことが出来る上に、その後ろにいるメンバーたちも幹部クラスの一人が捕まったとなれば静観をするとも考え辛い。

 

全ての事象を好転させられるメリットしかなかった。

 

 

 

 

……いや、本心は違うな。

 

これだけのことをしでかしていておいそれと簡単に逃げられると思うな、人の命をモノとして扱ったお前らを五体満足で逃すわけがない。

 

そう思えば思うほどに異常なまでに残酷な気持ちになれた。目の前にいるのは人間ではなく人間の皮を被った別の何かであると。

 

だったら遠慮をする必要なんて、全くない。

 

 

「あの二人を出し抜いたというの」

 

「出し抜いたも何も()()()I()S()()()()()()()なだけだろう。別に選ばれた人間でもなければ優れた技能を持つわけでもないただの人間だ。ISが出来れば何でも出来ると思うなよ、逆を返せばISが無ければ何も出来ない……そんな出来損ないに今回の作戦を任せるだなんて笑わせてくれる!」

 

「……っ!」

 

 

表情こそ見えないが俺の一言に対して、スコールの眉間にシワが寄る様子が容易に想像できた。量産機とはいえ機体を与えるくらいなのだから、今回の作戦に参加した人間もそこそこ戦える人間なのだろう。

 

だからこそ同時に嘆かわしい気持ちになる、まがいなりにもこれくらいはやれるだろうと思って派遣された部下たちが、たかだか一人の人間に良いように鎮圧されているのだから。

 

俺だって最初からIS展開をされて全力で来られていたら捕まえるのは容易では無かった。ある程度構えて来る複数人と、相手が一人だと油断して掛かってくる複数人では対応に天と地ほどの差が出る。

 

結果は後者。

 

最後の最後まで俺が一人だから、生身の人間だからと舐めてかかった二人組はあえなく俺の前に跪いた。

 

全ては慢心、そう己の力を過信したことによる油断が任務を失敗へと導いた。もし最初から慎重に掛かっていれば事態は好転していたかもしれない。

 

そのチャンスをみすみす逃したのは彼女たちだった。

 

手に縄を掛けられた状況ではもう後の祭り、後悔したところで遅い。その実態は自分たちだけでなく所属する組織の人間の首を絞めることに直結する。

 

 

「さて、洗いざらい全て吐いてもらおうか。もし吐かないって言うのなら……」

 

 

この期に及んでも()()()が口を割ることは無いだろう。待っていたところで堂々巡りになるだけで時間の無駄だ。

 

なら、強引にでもその口を開かせるまで。

 

 

「力づくでも吐かせてやるっ!!!」

 

 

ギンッと睨みつけると、地面を蹴って弾丸のように飛び出し猛スピードで間合いを詰めていく。右腕だけにISを部分展開したまま、スコールに向けて容赦無く振り払った。

 

 

「くっ、速っ……!」

 

「はっ! 逃がすかッ!」

 

 

そのまま飛び込んでくるとは予想しなかったようで回避反応が遅れるが、元々の身体能力も高いようでその場から飛び退く。

ガンッという金属同士がぶつかり合う衝撃音と共に、それまでスコールのいた場所の床が大きく歪んだ。

 

 

「……随分と急な攻撃をするのね。不意打ちだなんて美しくないわ」

 

「美しくない……どの口がいう? 人の命を平気で奪うような奴らに言われたくなどないッ!!!」

 

「このっ!」

 

 

喋る暇を与える時間すら勿体無い。再びスコールに接近して行くが相手も黙ってはいない、両腕から両肩にかけて装備された炎の鞭のようなものを振り払い接近を妨害し俺を無力化しようとしてくる。

 

全身金色装甲に攻撃手段は赤という何とも豪華絢爛な攻撃手段だが、その攻撃に容赦の一つも感じられない。俺がISを展開しているのは()()()()()()()()()()()()()I()S()()()()()()()()()

 

言葉を変えよう。

 

展開していないのではなく()()()()()()()と言ったほうが正しい。理由は既にエネルギー切れが近いからだ。

 

 

「あなた、一体何者……うあっ!?」

 

「どこ見てんだ。余所見をしている暇は無いだろ」

 

 

攻撃を躱してスピードを緩めないまま一気に相手の懐に飛び込むと、無防備になった胴体部分に容赦無く蹴りを入れる。蹴りを入れた後、そのまま刀で振り払おうとするとそれよりも早く先ほど攻撃手段として使われた炎の鞭のようなものがガードを形成して奴の身を守った。

 

エネルギーが少ない理由は言わずもがな、キャノンボール・ファストを終えてそのまま駆け付けたことで、専用機に対するエネルギー供給をしていない。あれだけの激戦を繰り広げたのだから当然機体に残されているエネルギー量は微々たるものだった。

故に全身展開まで行いながら攻撃や防御に割くエネルギーは残されていない。

 

相手はこちらの経緯までは知らないだろうけど、生身の人間にすら容赦無く牙を剥くのだからもはや救いようがない。オータムにエムにスコール……どいつもこいつも本当に。

 

 

「虫唾が走るッ!!!」

 

 

忌々しげに刀を振るうが奴を纏う防御壁によってその一撃を防がれる。

 

容赦無く攻撃を加えたつもりだったが、その攻撃が届いている様子は見られない。炎の鞭は相手を攻撃するためだけのものではなく、己を守るための最大の防御にもなるようだ。

 

この状態で連続攻撃を加えてもこちら側の攻撃は通りそうになかった。

 

 

「初手は少し油断してしまったけど……無駄よ、その程度の攻撃力ではこの防御を突破することは出来ない」

 

「……ちっ」

 

 

これ以上の攻撃は自身の体力をただ摩耗するだけと判断して一旦間合いを取る。

 

通常の攻撃が通りにくいレベルの防御力を誇るとなると厄介だ。強引に突破口を開く方法も無いわけじゃないが、エネルギーが少ない中ではギャンブル要素があまりにも強すぎる。

 

だとしたらやることは一つ、正攻法で奴のガードをぶち抜くこと。俺の持っている力で実現することは不可能ではなかった。

 

まぁ多少、無理は必要だがな。

 

 

「……大和!」

 

 

スコールから距離を取ったことで再び楯無のいる場所に戻ると声を掛けてきた。

 

対峙してすぐ駆けつけたから特に怪我はない認識だが、念の為に大丈夫かどうかを確認する。

 

 

「楯無か、怪我は?」

 

「私は大丈夫。って! そんなことよりあなたの方が!」

 

「俺なら平気だ。向こうの攻撃が直撃したわけじゃないし、コンディションに問題があるわけでもない。さっさと終わらせてみせるさ」

 

「さっさと終わらせるって……でも今の状態じゃ大和の攻撃は」

 

 

通らない、と楯無も言いたいのだろう。

 

 

「あぁ、知っている。通らないだろうな」

 

 

現に今の一撃はスコールには届いていない。

 

多少シールドエネルギーは削ったのかもしれないが、それもまた微々たるものだ。シールドエネルギーが削り切れなくとも、その分精神的なダメージを与えられるのなら良いがそれすらも与えられていない。

 

エネルギーが十分に供給された状態だったらまだ分からなくは無いが、この状態ではガードを固められてしまうとこちらの攻撃は通らない。

 

 

「その通りよ。片腕だけの部分展開で私とやり合おうなんて随分と無謀な考えじゃないかしら。こんな所に飛び込んでくるくらいだからもう少し頭が切れると思ったんだけど……私の思い違いだったみたいね?」

 

「……」

 

 

こちらの攻撃が自分に通らないことが分かり、随分と余裕な表情を浮かべるスコール。残念ながら今の俺では火力がない分、奴のガートの隙間を狙って攻撃を与えていくしかダメージを与えていく方法が無い。

 

相手の機体特性が読めない状態で攻撃を躱し続けて、自身に攻撃が当たらないように立ち回るのは中々に骨が折れる上に時間が掛かる。

 

が、そんな非効率な選択肢を取る必要は無い。

 

 

「……くくっ、ハハッ! こりゃ傑作だ! よく考えてみろ、俺が何の策もないしこんな危険な場所に来るわけが無いだろう?」

 

「何?」

 

「お前の機体の特性は確かに俺は知らない。けどな、お前も俺の機体の特性は知らない。この機体にどんな特性が宿っているかも知らない人間が、どうして自分が優位に立っているなんてめでたい考え方を出来るか逆に教えて欲しいんだが?」

 

 

俺たちが相手の機体情報を把握し切れていないように、相手は俺の機体特性を把握していない。

 

部分展開しか出来ないからといって自分が優位に立っていると考えるのは大きな間違えだということを、これから嫌と言うほどに分からせてやる。

 

 

「もし知っている人間だったとしたら戦慄するはずだぜ? 戦いなんか挑むんじゃ無かった……ってな」

 

 

そこまで言ったところで俺は機体に備わるとあるスイッチを起動状態へと切り替えた。

 

 

《Limit Break Mode Standby....》

 

 

「っ!!?」

 

 

リミットブレイクモード、久しく解放していなかった禁忌の技のスイッチを入れると同時に自身の周囲を漂うエネルギーの流れが変わる。

 

分散していたエネルギーは俺の身体に纏わりつくように集まり始めた。

 

 

「一体何をした!? この膨大なエネルギーは一体どこから」

 

「―――だから言っただろう。戦慄するってな」

 

 

周囲のエネルギーが一旦収束したかと思うと、轟音と共に膨大なエネルギーが炎のように俺の周辺を取り囲む。エネルギーがハッキリと目視で確認できる。身体の奥底から自分の持ちうる以上の力が湧き上がってくるように感じた。

 

いや、実際に大幅に身体能力が向上しているのだろう。この状態であれば今まで以上の動きを実現出来る。

 

桁外れのシールドエネルギーが俺の機体から放出されている様子を見て、一体何処にそんなエネルギー貯蔵量があるのか、まるでそう言いたげなスコールの顔だが無理もない。

 

こんな部分展開しか出来ないような状態であっても、この機能は開放が出来る。たとえエネルギー残量が残り一桁であったとしても。

 

 

《Limit Break Mode……gear first open……》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――さぁ……やろうか」

 

 

ここからが本番だ。

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