IS‐護るべきモノ-   作:たつな

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黄金と漆黒の交差

 

 

「ここだ」

 

「はや……ぐあっ!?」

 

 

大和の容赦無い攻撃が直撃し、悲痛な叫びを上げながらスコールは反対側の壁に叩きつけられる。フルフェイスのマスクで表情は第三者から見えなくても、マスクの中の表情は酷く歪んでいた。

 

全身に走る激痛を堪えながらゆっくりと立ち上がる。先ほどまでとは大和の出力が明らかに違う、否違い過ぎる。攻撃手段は刀による攻撃のみで特に変わっていない。

 

だがその一撃一撃の威力はこれまでの比ではなかった。これまでの攻撃を金属バットで殴られるような衝撃と例えるなら、今の攻撃は大型トラックがぶつかってくるような衝撃になる。

 

火の鞭、プロミネンスによる鉄壁のガードであるプロミネンス・コートを容赦無く貫通してスコールにもダメージが入る。これまでは容易に防ぐことが出来たのにどうして。答えは簡単で大和がリミットブレイクを使い、力のリミッターを外したからだった。

 

マニュアル車のギアを上げれば上げるほど速度を上げられるのと同じように、大和の専用機もギアを上げれば上げるほど、己のリミッターを解除し、限界以上の力を引き出せる。それはISのみならずの身体能力にも繋がるため、ギアを上げることで身体能力も大きく向上する。

 

だがその反面使用時は操縦者に大きな負担が掛かるため、使用後に襲い来る副作用は想像が計り知れない。使用後にどうなるかも分からない諸刃の剣ともいえる能力を使いスコールに向かっていく。

 

 

「ほら、立てよ。まだまだ終わりじゃねぇぞ。何勝手に倒れてやがる、俺は倒れろなんて一言も言ってねぇからな」

 

「このっ……っ!」

 

 

こちらの攻撃が当たらない。ISを部分的にしか展開していないというのに、常人では考えられないほどに軽やかかつ素早い身のこなし。

そしてリミットブレイクのギアを一段階解放したことで攻撃力が大幅に向上し、スコールの強固なガードをも打ち抜ける程になっていた。

 

スコール自身の攻撃は当たらず、大和の攻撃ばかりを被弾する。自身より格下だと思っていた相手に良いようにやられていることに対し苛立ちが大きくなっていく。比較的丁寧に話しかけていたスコールの口調が少しずつ荒くなっていくのが分かった。

 

そんな彼女の姿を、まるで見下ろしながら無機質な瞳で睨む大和。こんなものでは済まさないとでも言うかのように鋭い眼差しで見つめる。

 

 

「こんなもんか、亡国機業の人間は。オータムもエムも……そしてスコール、お前も。大したことないんだな」

 

「くっ……」

 

 

こんな奴らに人の命を好き放題扱われたと考えるだけで大和自身は怒りを抑えることが出来なかった。

 

右手に掴む刀を床に振り下ろして突き刺しながら、淡々と話を続けていく。その言葉尻の節々に怒りを感じ取ることが出来た。

 

 

「そんな奴らが人の命を弄ぶ? 冗談も大概にしろよ、お前らに人の命を自由にできる権限なんてあるわけ無いだろ」

 

 

彼女たちの命令が原因でプライドは自爆をする選択をし、何の罪もない彼の妹は実験体として扱われて悲惨な最後を迎えた。

 

大和にとって、命を何とも思っていない考え方は決して許せなかった。

 

 

「大和……」

 

 

二人が戦うすぐ後ろで、楯無は大切な人の名前を呟きながら手を胸の前で握り締めて何かを祈るように、目の前の状況をただ見守るしか無かった。

 

少なくとも今の大和は自身が知っている大和ではない。ハイライトが失われた無機質な瞳のままスコールに向かって刀を振り払っていく。いつもの冷静沈着で自分をコントロールしている彼の姿はどこにもない。

 

自分の前で繰り広げられるのは激しい肉弾戦であり、ただひたすらに目の前の敵を叩きのめすための殺戮マシーンのような動き。そこに情などは一切なくスコールを捉える、もしくは無力化するまで止まる素振りも感じられなかった。

 

大和をここまで駆り立てるのは昨日知らされた事実が全てになる。プライドが大和に負けたことで見せしめとして実の妹が実験体にされて命を落とし、その報復としてプライドも相打ち覚悟の自爆で命を散らせた。

 

自身がかつて置かれていた境遇から、命の尊さ、儚さ、大切さは大和自身が身を持って知っている。それ故に抱く怒りの大きさは計り知れないだろう。

 

ある程度の冷静さを保ちながら言葉を選んでスコールに伝えてはいるものの、内心の気持ちだけを代弁するのであれば今すぐに出て同じ目に合わせたいに違いない。それでも寸前のところで我慢をしている。

 

彼女たちを裁くのは大和ではなく、決して一個人の感情だけで動いてはならないと。だが彼の中に残された良心も限界を迎えていた。

 

それ程に彼の中では許せない出来事だったのだろう。人の命を何とも思わない、ましてや自分に関係がないから興味が無いと返された時点で大和の気持ちはとっくに決まっていたのかもしれない。

 

 

「あ、あなた……本当に何者……?」

 

「さぁ、誰だろうな。さしずめ、お前たちを地獄へと導く処刑人って辺りがいい例えじゃないか」

 

「くっ……」

 

「さて、残念ながらこの状態も永遠に続けられるほど便利なものじゃないんだわ。さっさと()()()()()

 

 

そう呟くと再び大和はスコールへと接近して行く。

 

地を駆る動きはまるで獲物を見つけた猛獣そのものであり、その目は決して狙った獲物を逃がさないような鋭い眼光をしていた。

 

 

「や、大和……?」

 

 

忘れてはならないのは大和の口から何気なく溢れた一言。どれだけ激昂しようとも決して口に出すことはなかった一言がスコールに向けて発せられる。

 

明確な殺意のこもった一言に、大和の後ろ姿を見ていた楯無は信じられないといった眼差しで背中を見つめた。普段の彼ならどれだけ怒っていたとしても決してこんな野蛮な言葉を言うことは無いはず。

 

これまでどれだけ苛立つ光景を見てきたとしても、彼は決してその感情を爆発させることなく耐え忍んできた。それがどれだけ理不尽で許せないことだったとしても、決して一線を越える行動をしたり言葉を投げ掛けたりしたことはない。

 

今の一言はこれまでの前提を覆すほどのものであって、少なくとも楯無の中にある『霧夜大和』のイメージを変えてしまうほどのものであることに違いなかった。

 

言葉の意味をそのまま捉えると、彼はスコールを()()()()()()()()真打ちたちを引きずり出そうとしているように見える。

 

 

「このっ!」

 

「ふっ、遅いッ!!」

 

「くっ!!?」

 

 

プロミネンスを振り払うスコールを嘲笑うかのように攻撃をひらりひらりと躱しながら容赦無く機体に蹴りを入れる大和。

リミットブレイクのファーストギアを解放したことで身体能力も向上し、強固なガードもいとも簡単に撃ち抜いていた。攻撃の衝撃からバランスを崩しながら後退りするスコール。

 

彼女も本気を出せばもっと出力の高い攻撃を行うことが可能だが、ここはアリーナ内の通路の一角であって通路の幅も競技場内と比べて広くない故に、大規模な範囲を巻き込む攻撃は自分だけではなく周囲にいる本当の意味で無関係のない人間を巻き込む可能性がある。

 

彼女の乗りこなす機体『ゴールデン・ドーン』は様々な攻撃手段を備えているが、攻撃を発動した時の影響範囲があまりにも大きすぎて、観客が行き来する可能性がある通路では発動することが出来なかった。

 

本当の意味で無関係な人間には手を出さない、彼女なりにそこに対して一線を引いていたわけだが、逆に引いた一線が今回の戦いでは仇となった。

ISに搭載されている全ての機能を使った戦いであればもう少し柔軟な戦い方が出来ただろうが、影響範囲を懸念したために戦う手段が近接メインの戦い方に限られてしまっている。

 

それでも十分過ぎるくらいの操縦技術を持ち、鉄壁のガードを持つゴールデン・ドーンであれば問題なく対応が出来るはずだったが如何せん今回は相手が悪過ぎた。

 

圧倒的に近接戦闘に強みを持つ大和が相手であり、かつリミットブレイクで出力を上げているためにその攻撃力が大幅に上がったことで、強固な守りを誇る炎の鞭をも撃ち抜くほどの攻撃力を備えている。

 

広大なフィールド上での戦いであればここまで防戦一方になることは無かったが、あまりにも状況が良くなかった。迫りくる縦横無尽な攻撃の数々を既のところで躱して鞭を使ってガードしていく。

 

金属がこすれ合う音とともに幾多もの火花が散る。純粋なまでの力と力のぶつかり合い、これ以上の接近を許したら不味いと判断したスコールは鞭を振り払い、大和を一足一刀の間合いから遠ざける。

 

少し判断が遅れたら不味かった。大和は振り払いをバク宙で躱しながら再び距離を取る。懐に完全に飛び込み入れれば勝機を見出だせると踏み、攻撃を恐れずに飛び込んでくる。

 

もしこちらの攻撃がまともに直撃したら大怪我は免れないというのに、ISを部分展開で戦うことに対する恐怖心は微塵も感じられない。これまで相対したことのない存在、生死と隣り合わせる状態にも関わらず冷静に戦いを進める姿はまさに異常だった。

 

 

(この子……何て動きをするの。本当に人間? ただの人間がこんな動きを出来るものなの?)

 

 

戦っているスコールがそれは一番感じていたことだった。

 

ほぼ生身の状態でISに立ち向かう時点で人外レベルの存在である事が分かる。それだけではなく、いくら行動に制約があるとはいえ互角どころかこちらが押されている。

 

途中まではこちらに攻撃は通らないと高を括っていたものの、ある瞬間から彼の周囲を纏うエネルギーの流れが変わり、身体の周りを炎のように囲むエネルギーの塊が攻撃力を飛躍的に向上させていることが分かった。

 

このまま攻撃を受け続けていたら押し切られてしまう。それでもスコールの表情にはまだ焦りは見て取れず、どことなく余裕すら感じることが出来る。

 

 

(……でもあの能力はそう長くは続かないはず。限界以上の力を発揮すれば効果が切れた瞬間に必ずその反動が来る。それに部分展開しか出来ないってことはやはり残されているエネルギー量は少ないみたいね)

 

 

ただし、大和が部分展開しかできない理由をスコールにも把握されていた。

 

リミットブレイクに関してはエネルギーの残量に関わらず発動することが可能だが、限界以上の能力を引き出すことは出来てもエネルギーを増やす効果はない。

 

何より腕以外の装甲を纏っていない以上、一発でもこちらの攻撃が当たればその段階で全ての決着がつく。

 

 

(問題はどう攻撃を当てるかだけど……厄介ね。あれだけのスピードで近付いてくるとなると狙いを定めるのも一苦労。あの子、動きを見切るような先見の眼でも持っているのかしら)

 

 

とはいえ攻撃が当たらないことには何も始まらない。攻撃回数はそこまで多くないとはいえ、こちらの攻撃は全ていなされているか躱されている。

 

どう立ち回るか、そうこう考えている間にも大和は再び地面を蹴る。

 

 

「目の前に敵がいるにも関わらず呑気に考え事か、いい度胸をしている」

 

 

刀と鞭が重なり合い、ギリギリと音を立てながら押し切ろうとする大和に押し返そうとするスコール。

 

 

「お前らは自分たちが何をしたのか理解しているのか? そこに対しての罪悪感は、後悔は? 何一つない人間に掛ける容赦なんて無いがなっ!!!」

 

 

力任せに無理やり押し切ろうと大和は握る刀に全体重を乗せる。

 

 

「……ふっ、ここよっ!」

 

「っ!!?」

 

「大和っ!!」

 

 

大和の動きに対してニヤリと笑ったかと思うと、大和の押し込む動きに合わせるように、地面を勢い良く蹴ってバックステップを踏むスコール。

 

全体重を掛けていた大和の身体は急に力を抜かれたことでグラリとバランスを崩した。何も無い地面に向かって振り下ろされる斬撃、床と刃が触れ合う甲高い音と共に自身の攻撃が外れたことを察すると大和は急いで顔を上げる。

 

自身に隙が生まれたということは反撃の好機を相手に与えてしまったことになる。気付いた時には既にスコールは動いていた。

 

スコールの背後で何かが動いたかと思うと、サソリの尻尾を思わせるようなユニットが死角から襲い掛かる。バランスを崩した大和はほんの一瞬反応が遅れた。

 

大和を刺突せんと眼前に迫る一撃だが、接触する寸前で右方向へと身体の軸をずらして回避する。顔の僅か横を通り抜けていく一撃に、装着していた眼帯の紐部分が引っかかり吹き飛んだ。

 

仕留め損ねたことでスコールは素早くテールユニットを引き戻し、大和は逆に更なる追撃を避けるべくテールユニットから素早く距離を取った。

 

 

「……そんなものを隠し持っていたのか。後一瞬反応が遅れたらヤバかったかもな」

 

 

顔を俯かせたままそう言ってみせる大和だが、声質から特に焦るような素振りは見受けられない。

 

とはいえ予想外の攻撃だったのは間違いなく、この後の戦いとしては炎の鞭のプロミネンスだけではなく、テールユニットによる攻撃も意識しながら立ち回らなくてはならない。

 

これまでとは違って分が悪くなることは明らかだった。

 

 

「随分と素早い身のこなしね、ISの部分展開でここまで戦える人間を見たことが無いのだけど。あなた、本当にただの人間かしら?」

 

 

攻撃を止めてスコールは改めて大和の戦い方について言及をする。少なくともこれまでの戦い方を見るに一般人、ただの男性IS操縦者の一括りにするのは無理があった。

 

常人では考えられないような反応速度に高速で動く攻撃を躱すだけの機動力や機動力。攻撃を正確に目視する動体視力。

 

どれを見ても通常の人間と全く同じとは思えない。明らかに人間が出来る動きの範疇を遥かに超えた動きをしている。

 

彼女の質問に対して一瞬大和は考え込むと、ニヤリと口元を歪ませながら顔を上げた。

 

 

「見たことが無いのは当然だろう。フル装備でIS展開をしている人間に、わざわざこんな丸裸に近しい状態で挑む馬鹿げたことをするわけもない。だが今俺に残されている攻撃手段はこれだけだ、残念なことにこの大会(キャノンボール・ファスト)へ出場したことで大半のエネルギーを使い切ってしまってな……だからこんな危険な仕事はさっさと終わらせたいところなんだ」

 

「答えになっていないわ。私はただの人間なのかどうなのかを聞いたつもりだったのだけど」

 

「人の話は最後まで聞けと子供の頃に教えられなかったか? まだ俺が話をしている最中だ、人の話の途中で自分の話を割り込んでくるんじゃねぇ」

 

 

静かに、ただ明らかな殺意を持った鋭い眼光をスコールに向ける。

 

その圧倒的な雰囲気と決して嘘偽りのない一言に、スコールの額から冷や汗が吹き出た。彼は本気で自分を仕留めに来ている。手加減をする気など一切無いと悟るには十分過ぎるほどの迫力だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――結論だけ言うのなら俺はただの人間じゃない。冥土の土産に見せてやるよ」

 

 

同時に先ほどまで眼帯に隠れていた左眼がゆっくりと開き始める。

 

目元には誰かに切りつけられたであろう傷の跡がハッキリと残っており、それを隠すために眼帯をしていたのかとスコールは考えた。

 

だが()()()()()()()()()()()()()()()()()()、彼女の根底は全て覆されることとなる。

 

 

「その眼……っ! あなたまさかっ!!?」

 

「あぁ、そうだ。普通に生まれてきた存在ではない。()()()()()()()()()()()()()()()そのものだ」

 

 

人前で初めて明らかになるその左眼。

 

これまでこの眼を見せたことがあるのは千尋とナギの二人だけになる。右と違う異様な眼差しは、ギロリとスコールの視線を射抜く。全てを凌駕しあらゆる人類を超越したことを証明する眼。

 

遺伝子強化試験体の本来の姿。

 

ラウラを始めとした通常の試験体を遥かに超えた未知の存在。たった一人の存在で小国一つを潰すことが出来るほどの異次元離れした身体能力を持つだけではなく、それに付随する能力として()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

大和の眼を見て驚きを隠せないでいるスコール。まさか自分の目の前にいる人間が遺伝子強化試験体の一人だとは思わなかった。

 

レアではあるがあくまで貴重な男性操縦者の片割れである、そのくらいの認識しか無かった彼女の考え方は真っ二つにへし折られる。

 

 

(……待って、学園祭の時にティオが言っていた目当ての存在というのは)

 

 

そこでかつてティオが言っていた内容が脳裏を過ぎた。

 

学園祭の襲撃に失敗した時に彼は誰かに会いたいということで、極秘でIS学園へと侵入している。

 

作戦の大部分を担当したオータムは失敗したこと、そして紛い物の剥離剤を使わされたことに対して怒り狂い、エムを殺そうとしていたのに対して、ティオは目的の人物に出会えたことがよほど嬉しかったのか、普段から笑みを浮かべる顔がより一段と歪んでいたことを思い出した。

 

彼の言う目的の人物というのが、今目の前にいる大和のことだとしたら全てが合致する。

 

オータムを追い詰め、エムに一矢報いた張本人。それが今自分の目の前に相対していた。

 

 

(遺伝子強化試験体、それも()()()()()()の方ね。()()()と同じ存在、通りでティオが欲しがるわけよ)

 

 

IS学園に侵入した二人の相対した相手が大和だったとしたら、結末はなんとなく想像が出来る。人間の皮をかぶった究極兵器、機械と違って知能が備わっている分厄介になる。

 

 

(このまま戦い続けるのは得策では無い……か。いつ増援を呼ばれるかも分からない、それにあの子は私を止めるまで止まらないだろうし、隙を作って逃げるのが良さそうね)

 

 

このまま大和と戦っていても自身のメリットは一切無い。戦いが長期化すればするほど増援が駆け付けるリスクが高くなる。ここで相対している時間から算出すると、下手をすれば後数分の内に増援部隊が駆け付ける可能性も考えられた。

 

それなら一瞬でも隙を作って逃げ出すのが最も良い考え方になる。生身とは言えこんな人間を相手にしていたら身体がいくつあっても足りない。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、貴重な機会に立ち会うことが出来たと喜ぶと良い。これ以上話すこともない、さっさと墜ちろ……っ!」

 

 

再びスコールへと大和は立ち向かい、先ほどより素早く一気に懐へと飛び込む。

 

右手の刀を一振するが攻撃を予測していたスコールにガードされるも、今度はガードの上から強烈な蹴りを打ち込んだ。伝わる衝撃に表情を歪めながらも、大和に何故自分にここまで執着するのかを尋ねる。関係があるのはプライドであって大和とスコールは直接的な関係は無い。

 

だと言うのにどうして自分を躍起になって捉えようとし来るのか。

 

 

「っ! あなたにとってプライドは憎むべき敵だったはずよ。それなのに今更どういう風の吹き回しかしら? 多くの人間を犠牲にし、あなたの大切な仲間に手を掛けようとしたあの男は死んで当然……そう思っていたんじゃない?」

 

「あぁ、正直今すぐにでも死んでほしいと思ったさ! 俺の家族を傷付けたアイツを許せるはずが無いだろう!!」

 

 

彼女の一言に対して大和は激昂する。

 

そんな言い訳が今更通用するわけがない、仮に本当に携わっていないとしても最初の質問の回答で『直接関わっていない人間に興味など無い』と言い切っている時点で止めることをしなかった。

 

命令を下したのがスコールではないとしても、それは大和にとっては決して見過ごすことは出来なかった。

 

 

「プライドが直接絡んでるから関係ない? ふざけるな! 奴に指示したのはお前たちの組織だろ!! ティオが指図しようがお前がしようが関係ない! 何一つ関係ない命を奪っておいて、奴に特攻させたその罰は決して許されるものではない!!! 二人の命を奪った人間が綺麗事を言うなっ!!!」

 

「ッ! このっ!」

 

 

鞭を振り払うスコール。

 

だがその鞭を振り払った先に大和の姿は居ない。

 

消えたのか、いやそんな馬鹿なことは無い。

 

 

「どこを見ている?」

 

「なっ!? しまっ―――」

 

「遅い」

 

 

消えたと思った姿は自分の直ぐ側、懐にあった。精神的に動揺していたとはいえ、ISのハイパーセンサーを使っても追いきれないほどのスピードで懐に潜り込んだ。

 

攻撃の最中で鉄壁の防御を担っていた鞭はまだ戻しきれておらず、完全に無防備な状態を作り上げた。

 

ガードをなくした無防備な腹部に容赦無く蹴りを加えると、まるでピンポン玉のように宙を浮く機体、ゴールデン・ドーン。

 

蹴られた勢いそのままに数メートル先の壁に打ちつけられた。

 

 

「があっ!!?」

 

 

金属が破壊されような轟音が響いたかと思うと、強固な壁がひしゃげるほどの強烈な衝撃が全身を襲うと共に、身体から酸素が一気に放出されて呼吸がままならなくなる。必死に外の酸素を取り入れようと呼吸を繰り返すが、酸欠状態に陥ってしまったことで視界がぼやけ正常な判断が出来ない。

 

身体も自由が利かずに動かすことが出来なかった。そんな中ゆっくりと自身へと大和は歩み寄ってくる。

 

 

「くっ……!」

 

「大分痛かっただろう? 機体のエネルギーを局所集中させることで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なんてつくづく便利な機体だ」

 

 

ブレる視界を大和の方に向けるが、衝撃のダメージが抜け切っていない。このまま動いたところでまともな動きを出来るはずが無かった。

 

スコールへ繰り出した蹴りは生身によるものである。

 

だが大和の右足を確認すると全身に広がるエネルギーよりも多くのエネルギーが纏っていることが分かる。纏うエネルギーが増えれば増えるほど、その攻撃力が増すのはもちろんのこと、この機体は全身均等に行き交うだけではなく、ある部分にのみエネルギーを集中させて更に威力を高めることが出来る。

 

もちろん通常の人間がやればその負荷に耐えきれずにその部位は使い物にならなくなってしまう。

 

だが今回機体を扱っているのは大和だ。

 

肉体は見た目こそ一般人とそう変わらないとしても、その身体能力や身体の細かい構造は比較にならない。だからこそ外部から掛かる負荷に対して耐えることが出来ていた。

 

 

「痛いに決まってるか……でもな。実験体として扱われて死んでいった人間はこれ以上に苦しくて痛かったんだよ!!!」

 

 

ぐっと歯を食いしばりながら自身の怒りの感情をぶつける。

 

この程度の痛みは望まない実験体にされて亡くなった人間が感じた痛みに比べれば遥かにマシだと啖呵を切っていく。

 

もしプライドの妹が捕虜として捕らえられていたとしても命さえ無事な状態であれば、彼が特攻という選択をすることは無かった。

 

仮にプライドが大和に負けたことに対して並々ならぬ執着心や恨みを持っていたとしても、自分の命を捨ててまで大和を消そうとは思わなかった。

 

二人の命が失われた発端は、大和がプライドに勝ったからではない。無関係な妹に手をかけたからだ。

 

手をかけたのは他でもないスコールが所属する亡国機業と、ティオが所属する組織の研究を担当する人間たち。その計画……実験を知っていたのはスコールとティオの双方になる。

 

 

「お前たちが手を下さなければこれからどんな未来が待っていたか! もしかしたら幸せな未来が何処かで訪れていたかもしれない!! そんな罪もない一人の少女の命をお前たちは私利私欲のために奪ったんだ!!!」

 

 

その無念を代弁するかのように大和は続ける。

 

プライドの妹と面識があるわけではない。

 

だが同じ非人道的な仕打ちを受けていた身として、組織がやっている行為を許せるはずが無かった。

 

怒りに染まる大和を纏うエネルギーの流れが装甲を展開している右腕に集中し始める。

 

リミットブレイクも永続的に発動することができる訳では無い。明確な制限時間が設定されているわけではないが、大和自身が体感で効力切れが近しいことに気付いているのだろう。

 

機体に残っているエネルギーも残り僅か。

 

次の一撃が最後の攻撃になる。

 

 

「……時間の無駄だ。この一撃で終わらせる」

 

 

目に見えて分かる右腕に集まったエネルギーの塊。

 

全ての攻撃力を右腕に。

 

本来一つ目のギアを開放した状態であれば刀剣乱舞(かまいたち)を発動することが可能となる。非常に攻撃力も高い一撃となり、目に見えない空気の渦を飛ばし、相手の死角という死角から攻撃をする広範囲に影響が出る技になる。

 

施設内に大きく影響が出かねない技を使用するよりも、使えるエネルギーを一箇所に全て集中させて出力を上げた攻撃をした方が効率が良い、と大和は考えたようだ。

 

 

(これは……っ! まずい!)

 

 

その威力は目視するだけで十分に想像がすることが出来た。

 

総エネルギーを捻出した手加減なしの一撃を受けようものならひとたまりもない。すべてを込めた一撃の威力たるや、まともに喰らえば機体は大破し絶対防御をも貫き、下手をすれば自身の生命をも脅かすものとなる。

 

頭ではこの攻撃を避けなければマズいということが分かっていても、ダメージが抜け切っていない身体は言うことを聞いてくれない。

 

 

「お前ら組織の手掛かりはどんな手を使ってでも徹底的に探り出してやる。例え悪魔に身を売ることになったとしてもな、そして必ず根こそぎ潰す」

 

 

エネルギーを全て集中させた右腕を見ながら呟く大和、どんなことがあっても壊滅させる。決して楽単な道道ではない、険しい獣道。

 

否、修羅の道となるだろう。

 

その覚悟を込めると右腕を天井高く振り上げた。

 

 

「これはその……第一歩だ」

 

 

右手に握る刀を何のためらいもなく振り下ろす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ダメよ大和!! あなたはそっちに行ってはダメッ!!!」

 

 

だがその手は一人の声によって強制的に止められるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大和くん、何処に行ったの……?」

 

 

息を切らせながらアリーナの通路を駆けるナギ。

 

一年生の専用機持ちたちによるレースが終わった後、控室に向かうもののそこに大和の姿は既に無かった。

 

本来なら残ったレースを見守るかレースに共に参加した生徒たちと健闘を称え合うものだが、レースが終わった後に気付いたらいなくなってしまっていた、とのこと。

 

レースが終わって一夏が優勝したことに皆視線がとられてしまい、いつどこで居なくなったかまでも分からない様子だった一同。

 

あのラウラでさえもいつの間にかいなくなっていたと言うだけで本当に大和が何処に消えたのかを把握していないようだった。いくら何でもレースが終わって理由無くすぐに集団から居なくなることはない。周囲の仲間に何も告げずにひっそりとその場を立ち去っていたらしい。

 

念の為出入り口を警備している人にも大和が外に出ていっていないかどうかも聞いたが、レースが始まってからこれまでの時間の間に外に出ていったIS学園の生徒は居ない、とのことだった。

 

つまり大和はまだアリーナの何処かにいる、ということになる。

 

レース後に直ぐに姿を消すくらいだし、何か大きな理由があるはず。そう直感したナギはアリーナ内の通路を駆け回っていた。だがこの広大なアリーナの中から大和を見つけ出すのは至難の業になる。

 

人数が多いのはもちろんのこと、この広い敷地の中をくまなく探さなければならない。携帯で呼び出せば良いじゃないかと言われても、片手に握りしめる携帯電話をみる限り、ナギは大和に電話を掛け続けていた。

 

それでも留守番になることなく永遠と鳴り続けるコール音が、手を離せない状態にあることを証明している。

 

 

「電話も出ないし、ISの状態も潜伏(ステルス)モードで探知出来ないって事だったし……大和くんが行きそうなところってどこだろう?」

 

 

大和を探しているということでラウラもコンタクトを取ってくれたのだが、ISが潜伏(ステルス)モードにされていることで探知が出来なかった。

普段ならそんな設定にはしないはずなのに、今日に限って潜伏(ステルス)モードになっているということは、人に話せないような()()があるのだろう。

 

昨日起きたばかりの出来事を思い出し、それに関わる何か

 

結局のところ使える手段としては携帯による連絡と自分の足を使った散策の二つに限られてしまった。

 

 

(凄い嫌な予感がする。大和くんが会えない場所へと行ってしまいそうな、そんな感じが……)

 

 

彼女は不安に駆られていた。

 

昨日、千春と話をした後は一切会話が発生することなく寮へと戻ることになったわけだが、道中はずっと険しい表情を浮かべたままだった。

 

それもそのはず、背景を含めた全容を話されて穏やかでいれるわけもない。顔は強張ったまま、視線は真っすぐを見つめたまま何一つ会話を交わすことなく帰路へとつく。それでもナギは少しでも彼の気持ちを落ち着かせようと、ずっと手を握り続けていた。

 

それを拒むことなくお互いに握り返す。表情は変わらなくとも彼女の支えが、大和の様々な感情が入り混じり摩耗した心を多少なりとも解きほぐしていた。

 

 

それでも、だ。

 

彼の心は晴れ切って無かったのだろう。

 

 

(今回の発端を作った人たちのことをきっと恨んでいるんだ。もしその情報が大和くんの耳に入ったとしたら放っておくはずがないよね)

 

 

恨んでいないはずが無かった。

 

仮に恨んでいなかったとしても理由を聞いたら憤るに決まっている。話を聞いた自分も胸糞悪い内容過ぎて怒りを覚えたし、人として心底軽蔑をした。

 

 

(でも今の大和くんは……)

 

 

ちょっとどころかかなり危なっかしい。

 

本人は大丈夫だと表情を変えることは無かったものの、決して内心穏やかなものではないはずだ。レース後に何も言わずその場から立ち去る言動が全てを物語っていた。

 

今の彼を放置してはならない、彼女の第六感がそう悟っている。ただ放ってはおけないとはいっても探す手掛かりがない。

 

ここはあくまで民間の施設であっていち学生がどうこうできるような場所ではない。地道に足を使って探しながら、電話を掛けて繋がるまで待つことくらいしか出来なかった。

 

と。

 

 

「っ!? な、なに?」

 

 

突如自身の周囲が地震でも起きたかのようにグラグラと振動する。

地震にしては揺れが弱い、この近くで何かがぶつかりあって発生した揺れのようにも感じた。

 

 

「まさか!」

 

 

建物自体に振動が伝わるほどの衝撃は簡単に発生するものではない。もしかしたらこの震源地に大和がいるのかも知れない。

 

キョロキョロと周囲を見渡して何か手掛かりは無いかと探してみると、一箇所に視線が止まった。

 

 

「立ち入り禁止……」

 

 

とある通路に掲げられた立ち入り禁止の標識と、通らないように通路をつないだ鎖。だが決して入れないように封鎖されているわけではなく、潜れば誰にでも入ることが可能だ。

 

だが標識を見れば規則を破ってまで侵入しようとは思わないだろう。

 

 

「……ごめんなさい!」

 

 

だからこそそこに大和がいる可能性はある。

 

改めて周囲を見渡して誰もいないことを確認すると、意を決して鎖をくぐり先に続く通路へと足を踏み入れるのだった。

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