IS‐護るべきモノ-   作:たつな

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宴は始まる

 

「せーのっ」

 

 

シャルロットの合図に合わせてクラッカーの弾ける音が織斑邸のリビングに響き渡る。その数やどこぞの大規模なパーティを彷彿とさせるほどで、数秒間鳴り止むことは無かった。

 

 

「一夏! 誕生日おめでとー!!」

 

 

夕方の四時、ほぼ定刻通りにそのイベントはスタートとなる。本日の一大イベントの一つ、一夏の誕生日を盛大に祝う回だ。今回の主役である一夏は照れ臭そうに頭をかきながら、ありがとうと皆にお礼をしていく。

 

誕生日であることはもちろんのこと、午前から行われたキャノンボール・ファストでも見事一年生の専用機部門で優勝を飾ったわけだ、祝いをする面々のテンションも自ずと高くなっていた。

 

クラッカーが鳴り止むと同時に室内を喧騒が包み込む。イベントが終わったことで皆ハイになっているのだろう。キャノンボール・ファストで健闘しあった後は皆で誕生日会、この一連の流れが気分を上げるには十分なものだった。

そんな盛り上がる様子を、俺は少し離れた場所で壁にもたれかかりながら皆を見守っている。

 

今回の主役は紛れもなく一夏だ、俺が騒いで目立っては雰囲気ぶち壊しになる。最も俺のキャラ的にそんなことはしないし、どちらにしても大人しくしている予定ではいた。俺自身も一旦は事が落ち着いたので少し息を抜きたい。手に持ったオレンジジュースを口に運び喉を潤していく。

 

それにしても良くもまぁこれだけの人数が一室に集まったものだ。一言で言えば圧巻、それ以外に浮かんでこない。一般の誕生日会ともなれば人数がそこまで集まることは無いし、友達が多かったとしても限界はしれている訳だが、そこそこ広いはずのリビングは満員御礼。

 

どこぞのアイドルのサイン会でも開いているのかと思いたくなるレベルだ。

 

一年生の専用機持ちはもちろん全員おり、そこに俺とナギ。それから一夏の中学時代の友人が二人にその妹が一人。そして生徒会の面々……むしろ全員に何故か新聞部の黛さんまでいた。

 

黛さんとはあまり接点は無かったが、入学早々のパーティの時にインタビューを受けたことは覚えている。ちなみにあの時は一夏の話した内容がありきたり過ぎて捏造するなんて言っていたけど、結局掲載された新聞は普通にちゃんとした内容が書かれてたし、何よりレイアウトも含めてかなり読み手を引き込む内容だったことを覚えている。

 

新聞の作り手の観点から言うとかなり優秀な人なのかもしれない。

 

 

「大和、元気無いじゃないの〜! そんなあなたに私の飲み物のおかわりを命じます!」

 

「いや、元気が無いわけじゃないよ。そしてサラッと人をパシらないでもらえるか?」

 

「んーいいじゃない。だって大和が持ってきた飲み物が飲みたいんだもの」

 

「……ブラックコー「いーやっ♪」分かったよ、適当にジュース持ってくるからそこで待っててくれ」

 

「あら優しい、ありがとっ♪」

 

 

俺の元へ歩み寄ってきて、空のグラスを差し出しながらよく分からないお願いをしてくるのは楯無。飲み物は大テーブルの上に色んな種類を置いている。距離だけで言うなら壁にもたれかかっている俺よりも、楯無のほうが圧倒的に近い。

 

何故俺に頼んできたのかは分からないが、冗談半分でブラックコーヒーを持ってこようかと聞こうとしたところ、強制的に嫌だと返された。楯無自身は砂糖が入っていないコーヒーがあまり得意ではないので予想通りの反応だった訳だが。

 

今日は色々と助けられた訳だし、パシられるくらいはお安い御用だ。適当に取ってくるから待っててくれと伝えると可愛らしくウインクで反応する。いや、まぁ現実に凄く可愛いのは間違いない。既に学園外ということで制服ではなく私服を着ている。

 

……楯無の私服姿を見るの初めてかもしれない。

水色と白基調のワンピースが全体像とマッチして凄くよく似合っていた。制服姿の楯無も良いけど、こういう私服姿の楯無も可愛らしい。

 

彼女のプロポーション故に大体どの服でも着こなせるとは思ったけど、こういう少し落ち着いたサイズ感が大きめの服も悪く無い。

 

 

「……」

 

「どうしたの?」

 

「……いや、私服姿の楯無初めて見たって思って。凄い似合っているよ」

 

 

服をじっと見ていたことに気付かれたようで、首を傾げながら不思議そうな表情を浮かべてくる楯無に対して率直に思ったことを包み隠さず伝える。

 

 

「えっ?」

 

 

つまりは少し見惚れてしまった、ということだ。その一言の意味を理解したのか、楯無はかぁっと顔を赤くさせて視線を右往左往させながらパクパクと水面に出して呼吸をする魚のように口を動かす。

 

 

「ほ、ホントに? 嘘じゃない?」

 

「嘘なんか言うかよ。似合っててかわいいと思う」

 

「そ、そう……」

 

「あ……あの、あれだぞ? 特に変な意味はないからな? じゃ、じゃあそういうことで飲み物取ってくるから!」

 

 

あ、あれ。何だこの変な雰囲気は。

 

褒めたは良いけど先ほどまでの余裕綽々な表情は何処へやら。顔を赤らめたまま上目遣いでぽぉっとした表情を浮かべる姿を見ていると、こっちまで雰囲気に飲まれそうになる。顔の表面温度も普段より随分と高騰しているように感じた。

 

気持ちを切り替えて楯無から空のグラスを受け取って飲み物が置かれているテーブルに向かう。

さて、楯無は何がいいかなと並んでいる飲み物たちの中から持っていく飲み物を選別していると。

 

 

「あ、大和。ちょっと良いか?」

 

 

背後から声を掛けられる。

 

飲み物の選別を後にしてくるりと後ろを振り返ると一夏のほかに二人の男と、俺たちよりも少し年下の女の子が立っていた。

 

 

「おう、一夏。どうした?」

 

「中学時代の友達の紹介をすっかり忘れててさ! 大和が近くに来たからちょうどいいやって声を掛けたんだ」

 

「あぁ、そう言うことだったか。確かに三人とも初めましてだし、何処かで挨拶に行こうと思ってたんだ。一夏と同じIS学園に通っている霧夜大和だ。気軽に大和って呼んでもらえると嬉しい」

 

 

三人にしっかりと向き直ると改めて自分の名前を伝える。すると一夏のすぐ後ろにいた特徴的な赤い長髪の男が口を開く。

 

 

「一夏から話は聞いてるぜ。俺は五反田弾だ。で、後ろにいるのが妹の蘭だ。よろしくな、大和」

 

「は、初めまして。一夏さんの後輩の五反田蘭です。よろしくお願いします、大和さん」

 

 

弾と蘭、二人揃って赤髪とバンダナが特徴的な兄妹だった。顔立ちもそっくりだし二人が兄妹なのは誰が見ても分かることだろう。そっと差し出された右手をしっかりと握りしめると、弾はニヤリと笑ってみせた。

 

ふむ、弾の方は普段からこんな感じなんだろうけど、妹の蘭の方はちょっと猫かぶりしている感じがするな。人前だから意識して気をつけているのか、それとも……。

 

 

「ん、どうした?」

 

「いや、何でもない」

 

 

一夏が側にいるからか。

 

ちらりと一夏に目線を向けるとどうかしたかと聞いてくるが、何でもないと返事をする。まだ会ったばかりで把握はできていないものの、一夏に向ける眼差しそのものが先輩としてでは無く、男性として意識しているもののように見えた。

 

本人に聞いているわけでも無ければこれと言った証拠があるわけでもないため真意は定かでは無いが、多分ホの字なのだろう。

 

さて、後もう一人。

 

まとめて紹介されなかったということは五反田家の血筋ではないことが分かる。

 

 

「俺は御手洗数馬だ。よろしくな」

 

 

数馬も自然と手を差し出して来たため、その手を握り返す。何と言うか一夏の知り合いだからなのか、しっかりした友人が多い気がする。

 

弾を見た目で判断すると町中で声を掛けまくっているチャラ男に見えるけど、実際に話してみると気さくで話しやすい。

 

一夏が紹介したいって言っていたのも納得が行く。

 

 

「しかし改めて見てみると……一夏はもちろんだけど大和もイケメンだよなぁ」

 

 

と、お互いの自己紹介が終わったタイミングで弾が口を開く。

 

一夏はともかく俺もイケメンなのだろうか、正直自分の容姿についてあまり頓着が無いからよく分からない。

 

 

「俺が? そうなのか?」

 

 

と、率直な感想を返す。

 

 

「あぁ、誰がどう見てもイケメンだと思うぞ。高身長にその甘いマスクはズルいわ。羨ましすぎて涙が出るぜ……!」

 

「諦めよう弾、二人の容姿は生まれつきなんだ……俺たちは宿命だったと諦めるしかないっ!」

 

「お兄……」

 

どうやら二人とも揃って出会いがないことに対して嘆いているようだった。手を取り合いながら俺たちは強く生きようぜ! とでも言いたげな雰囲気だ。

 

そんな様子を何処か哀れむような、というか半ばドン引きの表情で二人から距離を取るのは弾の妹の蘭だった。二人のやり取りを見るのは一度や二度どころではないのだろう。二人の扱いも手慣れたもの。

 

ただ弾や数馬は羨望こそあれど醜い嫉妬のような感情は一切感じられない。反応から見るに純粋に羨ましがっているだけのようだ。端的に見ると二人とも決して顔が悪いようには見えないし、何なら整った顔立ちにカテゴライズされる。

 

それでも出会いがないというのは近くに女性が少ないか、もしくは二人のキャラが残念すぎる……俗に言う下手にがっつき過ぎ、のどちらかな気もする。

 

そう考えると俺がナギにしていた対応ってどうだったのか、今更ながら気になるところだ。

 

 

「あっ、大和くん。飲み物取りに来たの?」

 

 

男たちで談義を交わしているとそこにふと飲み物を取りに来たナギと鉢合わせる。

 

ナギも既に学園指定の制服から私服に着替えており、ピンク色のインナーに白い襟立てのシャツ、下はスキニーデニムと動きやすさを重視した服装に切り替わっていた。

 

もう自分の彼女だから言うけど、何を着ても可愛いのよ。ホント抱きしめたいくらいに。と、自分の頭の中の煩悩を振り払い言葉を返す。

 

 

「あぁ、何かおかわりを命じます! とか言って強制的に取りに行かされた」

 

「あはは、楯無さんらしいね。どれが飲みたいって言ってるの?」

 

「えっと特にコレと決まってはないけど、ブラックコーヒーは却下された。だから無難にオレンジとかリンゴジュース辺りが良いかなって」

 

「無糖のコーヒーは好み分かれちゃうよね。あっ、そうだ。今ちょうど私もリンゴジュース飲もうと思ってたから一緒に入れる?」

 

「おっ、助かるわ。ありがとう」

 

「いえいえ♪」

 

 

ナギはニコッと笑いながら俺が持ってきた空きグラスにリンゴジュースを注いでいく。

 

と、そんな一連の様子を見て弾と数馬が食い気味に反応する。

 

 

「お、おい大和! こちらのべっぴんさんは誰なんだっ?」

 

「つーか参加者全員揃いも揃って絶世の美少女って! 中々話しかけづらいしちょっと紹介してくれよ!」

 

 

反応から察するに少しでもIS学園の女の子と距離を縮めたいらしい。

 

 

「えーっと……二人は織斑くんの?」

 

「え? あ、あぁ。一夏の中学時代の友だちの五反田弾と御手洗数馬だ」

 

「そうなんだね。私は織斑くんと大和くんのクラスメイトで鏡ナギって言います。五反田さん、御手洗さん、よろしくお願いします」

 

 

二人が誰かを俺に確認すると持っていたグラスをテーブルの上に置き、二人に向き直るとペコリとお辞儀をして自己紹介をする。

 

 

「―――か、可愛い。天使だ……」

 

「ち、地球に生まれ良かったーーーー!!!」

 

 

顔を上げてニコリと微笑むとその笑顔に一発で悩殺されたようでまるで天使のようだと呟く弾に、地球に生まれたことに対して全力感謝する数馬。

 

何かあれだな、今のナギの挨拶ってこう結婚して旦那の知り合いが家に来て挨拶しに来る奥さん的な、表情には出さなくとも不覚にも少しドキッとしてしまった。

 

二人の反応はごくごく当然の反応だ。

 

普段中々接することが出来ないような美少女が二人の目の前にいる。ナギの容姿や顔立ちは決して代表候補生たちに負けてないほどに整っており、スタイルでは負けてないどころか追いやっているレベルになる。

 

凄まじい倍率のIS学園に入学するだけでも十分すぎるくらいのステータスになるのに、それに対して鼻に掛けることはなく、常に謙虚で分け隔てなく接することが出来、相手を思いやれる優しい性格でラウラが『お姉ちゃん』と懐くほどの母性の持ち主。

 

弾の言うように天使とも言える存在に一切の異論はない。

 

 

「……ん? あれ、『織斑』くん? 『大和』くん?」

 

 

感動する弾だったが、冷静になって俺と一夏に対する呼び名が異なっていることに気付いた。

 

二人の男性がいて呼び名を変える理由は幾つか上げられるが、今回の場合は一つに絞られる。俺とナギとの距離感や、話している時の雰囲気から察すればよほど鈍感でなければ自ずと結論は導き出せる。

 

と、そんな中少し離れてた所にいた鈴がこちらの状況に気が付き口を開いた。

 

 

「あんたたち諦めなさい。どれだけ美人でもナギは大和の『嫁』だから付け入る隙なんて一切無いわよ」

 

 

グサッ!! とはっきり聞こえてきそうな効果音とともに二人に見えない矢が突き刺さったかと思うと、その場に揃って崩れ落ちた。

 

 

「チクショー!! やっぱりイケメンが正義かーーー!!!」

 

「俺たちにも出会いがあれば、出会いがあればーーーっ!!!」

 

 

がっくりと項垂れる二人に掛けてあげる言葉って何があるだろう。

 

いや、掛ける言葉が何一つない。

 

 

「あ、あの……だ、大丈夫?」

 

 

気にかけようとするナギだが、横から現れた鈴がそれを静止する。

 

 

「大丈夫よ、いつものことだから放っておきなさい。数分とせずに立ち直るから。ねぇ蘭」

 

「はい、兄がこうなるのは割と見慣れておりますので。多分もっと早いと思いますよ」

 

「そ、そうなの?」

 

 

二人の反応に困惑するナギと見慣れた光景だと淡々とした鈴と蘭。なんか地味に響きが似ているな二人。

 

昔から知る仲だから何となくそれぞれの個性も知っているのだろう、より近くで見てきた人間が言うのだから間違いない。

 

下手な声掛けは逆に傷付ける可能性もあることを考えると、ここは二人の言う通りに放っておいたほうがいいのかもしれない。

 

 

「しかしまぁ中学の面々がこうして集まるなんて懐かしいわね〜。そういえばあんたらが誰が先にナンパに成功するかって勝負してて、後から来た一夏が一発で成功させだなんてこともあったわね、まぁ本人はナンパだって無自覚だったけど」

 

「ぐはっ!? ちょ、鈴! お前今その話はやめろぉ!!」

 

 

ニヤニヤと笑いながら過去の黒歴史、古傷ともいえる部分を鈴はつついていく。話している内容は当人たちしか知らない中学時代の思い出になるのだろう。

 

頭を抱えたように悶え苦しむ弾、この反応を見せるあたり事実であることを証明しているわけだが、割と鈴が容赦ない。

 

 

「後は数馬が可愛い後輩からラブレター受け取って舞い上がっていたら、最後に言われたのが『御手洗さん宛じゃないです。織斑さんに渡してください』って言われたこととかね」

 

「うぐぁっ!? や、やめてくれその話は過去の傷が……っ!」

 

 

続けざまに黒歴史を暴露されて数馬も頭を抱える。まさかの暴露大会に苦笑いしか出てこないが、コレがいつもの日常だったのかもしれない。

 

知らない人間が話し始めたら嫌な感じにも受け止められるものの自然と嫌な感じにはならず、何処か微笑ましい風景に見えた。

 

IS学園ではもう周知の事実だけど、やっぱり中学の時から一夏ってモテたんだな。

 

 

「あー、そんな事もあったっけな。とはいえ結局買い物に付き合っただけだし大したことはして無いんだが、何で二人はあんなことになってるんだ?」

 

「……あんたもやっぱり無自覚なのね。もはやここまでくると相手の女の子が可哀想に思えてくるわ」

 

 

一夏も鈴が話した内容を覚えているようだが絶妙にズレている、というか噛み合っていない。鈴の一言から何が起きていたのかを想像することは決して難しくない。

 

 

「え? 何でだよ?」

 

「これだもの。ま、らしいっちゃらしいけど女の敵よね」

 

 

……人のことを言えた立場ではないけど、鈴の言うことはあながち間違ってはいない。鈴の言葉に対して頭上にはてなマークを浮かべる一夏。

 

反応から察するに、本人としては一切の悪気はない。

 

前に箒から付き合って欲しいと言われたにも関わらず男女での付き合いではなく、買い物に付き合って欲しいと勘違いしていたくらいだ。

 

異性を全く意識していないわけではないが、どうやら自分が如何に女性から好意を寄せられる存在かは把握していない。

 

女性からすると女の敵と見られてもおかしくはないし、無意識に傷付けてしまっている可能性があることを考えると悪気はないにしても何とも言えないところはある。

 

 

「あんたは少しくらい大和を見習いなさいよね、もう」

 

「いや、何を言っているのか全然わからないんだが」

 

「もう良いわ、この話は終わりの終わり。真面目に考え込んでたら余計に悲しくなってくるし、今回はそんな会じゃないしね」

 

 

と、半ば強引に話を切り替える辺り仕方ないと鈴の中でも割り切っているようだった。

 

まぁ俺を見習ったところで、あまり口には出せないような関係を幾つか結んでいるわけで。俺の全てを見習われてもちょっと困る。リアルに俺後ろから刺されそうだから、全部を真似しないでくれ。

 

 

「あ、あの! 一夏さん! 私ケーキ焼いてきたので良かったらどうぞ!」

 

「おぉ! 気が利くな。おっと、そういえば今日はどうだった? 楽しめたか?」

 

「は、はい! おかげさまで! とてもかっこよかったです! 改めてですが優勝おめでとうございます!」

 

 

そう言うと蘭は作ってきたケーキを小分けにしてお皿に乗せて一夏の元へと差し出した。

ココアベースのスポンジに生クリームとチョコがトッピングが施されたオーソドックスなケーキでだが、そのクオリティはかなり高いものになる。

 

少なくとも作るためにかなりの時間を費やしたことだろう。手渡されたケーキを口に運ぶ一夏、何回か咀嚼を繰り返して飲み込むと。

 

 

「うまいな! これ、蘭一人で作ったのか?」

 

 

絶賛の言葉が一夏の口から溢れた。

 

その言葉に蘭はふうと安堵の息を漏らすと、続けて嬉しそうな笑みを浮かべる。

 

 

「は、はい!」

 

「蘭って料理上手だよな。うん、良いお嫁さんになるぞ」

 

「お、お嫁さん……っ?」

 

 

サラリと呟く何気ない一言、ただし性格の良いイケメンが言えば女性を射抜く矢にもなる。

 

蘭はぽうっと頬を赤らめて恥ずかしそうに視線を彷徨わせた。

 

一夏らしいと言えばらしいけど……この言い方で何人の女性をおとしてきたことやら。

 

そんな様子をどこか面白くなさそうにムスッとした表情を浮かべる鈴は、自分がいた机から丼を持ってくると、いい雰囲気になる二人の間に割り込むように入った。

 

 

「はい、一夏。ラーメン」

 

「うわっ!? いきなりだな鈴」

 

「ラーメン作ったことすっかり忘れてたわ。あんたも食べるでしょ? 出来立てだから美味しいわよ、何て言ったって麺から手作りだからね」

 

 

ふふん! と自慢げに胸を張る。

 

……うん、この際細かいことを突っ込むのはやめにしよう。

 

 

「むっ……鈴さんっ」

 

「あ、そういえば蘭、ちょっとは身長伸びた?」

 

「あ、あなたに言われたくありません!」

 

 

と、一夏を巡る場外乱闘勃発。

 

楯無に飲み物頼まれていたし俺たちはさっきいた場所に戻るとしよう。近くにいるナギに表情で意図を伝えると、そっとその場から離れるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一夏さん! 改めてお誕生日おめでとうございます」

 

「おぉ、セシリア。ありがとうな」

 

「い、いえ! それよりこちらを」

 

「ん? 何だこの箱」

 

 

誕生日パーティも丁度折り返しになるタイミングで、セシリアが綺麗にプレゼント用に梱包された箱を手に一夏の元へと駆け寄っていく。

 

その光景に全員、主に一夏に好意を寄せる人間の視線が一斉に集中した。

 

差し出された箱に首を傾げる一夏。

 

このタイミングで渡すってことは紛うことなき誕生日プレゼントになると思うが果たして。

 

 

「た、誕生日プレゼントですわ。開けてみてくださいな」

 

「おう!」

 

 

言われるがままに手渡された箱の梱包を解いていく。箱に入ってかつ梱包までされているということは、手料理ではないことは間違いない。

 

セシリアのことだから変なものを渡すとは思えないし、そこそこに良さげなものをチョイスしてきているような気もする。

 

 

「おお! これはティーセットか?」

 

「これはイギリス王室御用達のメーカー『エインズレイ』のティーセットでしてよ。それからわたくしが普段から愛飲している一等級茶葉もお付けしますわ」

 

「な、何と言うか色々と凄いな。サンキュー、大事に使わせてもらうぜ」

 

 

と思ったらガチガチのプレゼントを用意してきていた。

 

ティーセットには詳しくないが、その食器の作りやデザインから判断するにそこそこ値が張るものであることが分かる。

 

普通のプレゼントではないと思ってはいたけど、初っ端から中々の高級品に周囲の目は驚きに変わった。

 

 

「ちょ、ちょっと! 何でセシリアあんなガチガチのプレゼントなのよ!」

 

「わ、私に聞くな!」

 

「うぅ、僕のプレゼントが霞んじゃうよ」

 

「うん? プレゼントは想いがこもっていれば別に何でも良いのでは無いのか?」

 

 

最後にラウラがポツリと呟く通りで、本来はよほど酷いものでなければその人の想いがこもっていれば特に大きな問題はない。

 

ただそれにも限度があり、初手から中々手を出しづらい高級品、それも王室御用達ともなれば普通のプレゼントは霞む。ある意味セシリアの立場を上手く使ったプレゼントではあるし、らしいと言えばらしい。

 

セシリアの様子を見守る面々ではあるがシャルロットはハッと何かを思い出したかと思うと、自身の椅子に掛けてあるカバンから小さな箱、これまた綺麗に梱包されたものを取り出して一夏の元へと駆け寄った。

 

セシリアに続いて自分も! という思いとあまり遅くなると自分よりも凄いプレゼントを先に渡されるとより霞んでしまうことを危惧しての行動に違いない。

 

 

「あ、あの一夏! これは僕からのプレゼントだよ!」

 

「おっ、シャルも! ありがとな、箱を開けてもいいか?」

 

「う、うん! もちろん!」

 

 

セシリアから貰ったティーセットを一度机の上に置き、シャルロットから差し出された小箱を受け取る。梱包を外して蓋を取ると、中から金と白が入り混じった腕時計が現れる。

 

 

「おおっ、腕時計だ!」

 

 

便利グッズを見て一夏は目を輝かせると、同時にシャルロットの頬に赤みがさす。

 

もはやお約束の光景ではあるものの、隣にいるセシリアの表情が少しムスッとしたものへと変わった。

 

 

 

「腕時計、デザインも今流行りのものをチョイスするあたりさすがシャルロットね」

 

「むぅっ……と、時計か。そういう手もあったか」

 

「ふむ、流石シャルロット。日常生活の便利グッズ、更にはファッションとしても使える腕時計を選ぶとは。お兄ちゃんも腕時計を上げたら喜んでくれるだろうか?」

 

 

三者三様の反応だ。

 

後ラウラ、俺は基本的に貰えたら何でも嬉しいから全然大丈夫だぞ。

 

 

「喜んでくれて嬉しいな。後この腕時計なんだけどいろんな機能がついていてね」

 

 

簡単に備わっている機能の説明をするシャルロット。

 

時間を確認するだけでなく、位置情報を登録することでエリアの天気予報や気温、湿度。腕時計の横についているボタンは空中投影ディスプレイを起動させるものになる。

 

加えて電池は半永久的に使うことが出来る太陽光発電、空気発電、体温発電機能まで備わっているらしい。もはや時計のスペックを超えている。

 

セシリアもそうだがシャルロットも十分過ぎるくらい人にあげるプレゼントのレベルではない。しかも出会って初めての誕生日でこれなら二年、三年と経つごとに一夏の資産がドンドンと増えていくに違いない。

 

 

「色々あるんだな。サンキューシャル! これから使わせてもらう」

 

「う、うん! 大事にしてね……あ、あと、その……」

 

「ん? どうした?」

 

「……ううん、何でもない。誕生日と優勝、本当におめでとう」

 

「おう!」

 

 

……?

 

何だろう、シャルロットは何かを言おうとしていたみたいだけど。

 

最後まで言い切るのかと思いきや途中で少し悩んだかと思うと、やっぱりいいやと言わんばかりに話を途中で終わらせてしまう。若干含みがあるようにも見えたものの心情まで察することは出来なかった。

 

何事も無ければ良いんだけど、先日のセシリアに今回のシャルロットとほんの少し様子がおかしいような気もする。

 

ちょっと気にかけておいたほうがいいかもしれない。

 

 

「つ、次は私だ!」

 

 

と、そうこう言っている内に今度は箒が紙袋を持って一夏に歩み寄る。

 

手に持っている紙袋は他の面々の手渡したものよりも大きい。サイズ感からしてアクセサリー等の類ではないことは間違いなさそうだ。

 

いつも以上にぎこちなく歩み寄ると、握っていた紙袋を一夏の前に差し出す。

 

 

「開けてみろ」

 

「えーっと……おお? 着物だ!」

 

 

紙袋の中に入っていたのは着物だった。

 

袋の中から取り出すと両手で広げてみせる。全体的に落ち着いた色調で、少し大人っぽい雰囲気を感じる作りになっていた。

 

箒は自身のスタイルや髪色がまさしく日本美人そのもので着物姿がよく似合う。

 

自身の部屋着、もとい寝間着にも就寝用の着物を着ているくらいには着慣れているため、この手のものを調達することは決して難しくはない。

 

 

「いい布が実家にあったのでな。仕立ててもらった」

 

「おー! ありがとうな箒。今度早速着てみるよ!」

 

 

いい布があったとしても昨日今日で着物を作れるものではない。少なくとも選んだ布から仕立てたということは骨格に合わせて作成されたオーダーメイド品になる。

 

箒が作ったわけではないとはいえ、そこそこの時間も手間も掛かったはずだ。

 

箒らしいチョイスに、一夏ラバーズたちはそうきたかと感心の声を漏らした。着物に関しては圧倒的に知見を持っているし、誕生日プレゼントとしてはかなり実用的なものになる。

 

うれしいに違いない。

 

……ん? ただ一夏の着物のデザイン、どことなく箒の着ているものと似ている……というより全く同じデザインに見えるんだが。

 

 

「でもこれ高かっだろ? 何か色々と悪いな」

 

「ね、値段は気にしなくていい! ま、まぁ着物のデザインは私と同じだが……」

 

「え?」

 

「な、何でもないっ!」

 

 

箒は恥ずかしくなってしまったようで、顔を赤らめてぷいと横を向いてしまう。

 

その様子を一夏はどうしたんだと一瞬気にする素振りを見せるも、再び受け取った着物へと視線を戻した。

 

なるほど、箒は洋服のペアルックならぬ着物のペアルックにしたかったのか。

 

あまり細かく話すと周囲に何があったのか突っ込まれかねない故に強制的に会話を終わらせたが、意図としてはおそろいのものを揃えたかった、ということなのかもしれない。

 

 

「ふむ、では一夏。私からはこれをやろう」

 

 

いつの間にか一夏の側に近付いていたラウラは、右手に持つソレを一夏の眼前に差し出す。

 

 

「ん、ラウラも何か……うわあああっ!!?」

 

 

顔を上げた先に飛び込んでくるのは光り輝く鋭い矛先。一夏との距離は約数センチといったところか。いきなり刃物を突き付けられたことに驚き飛び退いた。

 

 

「な、ナイフ……?」

 

 

ラウラが取り出したのは軍事用のサバイバルナイフだった。

 

刃渡り約二十センチほどのナイフの刀身は光が当たるとキラリと反射する程に磨かれており、その鋭さはあらゆるものを容易に引き裂くほどの切れ味を感じさせる。

 

紛れもない『人殺しのための道具』だった。

 

いきなり血なまぐさい物が出てきたことでラウラを知らない面々は驚き、他の面々は思わず苦笑いを浮かべている。

 

 

「これは私が実戦で使っているナイフと同様のモデルになる。戦車のボディを貫くほど切断力に長け耐久性も高いからそう簡単に折れん。実戦はもちろんのこと己の身を守る護身用としても使える。今回は収納用のホルスターもつけておいた」

 

「お、おう。サンキューラウラ……お? 何か普通のナイフに比べて持ちやすいし、グリップカッコいいな」

 

「だろう? 私も長年愛用しているが、個人的にはこれを超えるモデルは無いと思っている。有事の時には存分に使うといい」

 

「あぁ、ありがとうなラウラ」

 

 

当初はやや引き気味だった一夏だが、いざ受け取ってみるとそのデザインや磨かれた刀身に興味を持つ。

 

元々剣道をやっていたのと、普段搭乗しているIS学園近接格闘型でメイン武器が近接ブレードということも影響しているようだ。

 

 

「ふん、日々鍛錬を積むことだ新人兵(ルーキー)

 

「お目にかかりまして大変幸甚です、少佐殿」

 

 

と、軽口を叩き合いながらお互いにニヤリと笑ってみせた。

 

 

「あっ、大和くんは渡さなくていいの?」

 

「あぁ、そうだな。折角のタイミングだし今渡しておこう」

 

 

ふと、背後にいたナギが俺の服袖を引っ張りながら尋ねてくる。

 

一夏の誕生日ということで前もってプレゼントは用意していたわけだが、中々渡すタイミングを見つけられずにいた。

 

そんな中急遽プレゼントを渡すタイミングが訪れたため、このタイミングで渡さない他はない。

 

自身の椅子の下にしまっておいた紙袋を掴み、一夏に差し出す。

 

 

「一夏、俺からもプレゼントだ」

 

「ん、おおっ! 大和もか? 何か色々としてもらって悪いな」

 

「気にするな。一年に一度きりしか無い大切なイベントだし多少盛大に祝ったところでバチは当たらないだろう」

 

「そっか、開けてみても良いか?」

 

「もちろん」

 

 

俺の言葉に続くように中身を確認し始める。

 

プレゼントに何をあげたら良いか中々決まらずにナギにも相談した訳だが、やはり形残るものであったり実用的なもので、かつその人が持っていなさそうなものが良いということになった。

 

一夏の持っていないものは何だろうと考えた時に、まずIS学園に入学前と入学後で一夏を取り巻く環境が大きく変わったことに着目した。

 

世界大会で活躍した織斑千冬の弟に加えて、ISを動かした希少な男性の一人という肩書がついている。今後学園外での行事に呼ばれたり、会食に誘われたりすることも出てくる中、IS学園の制服で行けるようなケースばかりではない。

 

それにこれからの自分の将来を考えても一着は持っておいたほうが良いものになる、決して無駄になるものじゃない。

 

そんな気持ちでコレを一夏に送る。

 

 

「こ、これは……スーツ?」

 

 

そう、スーツなら今後も使い勝手があるのではないかという結論に至った。

 

 

「おう。普通の高校生だと学校の制服くらいしか持っていないだろうし、何かあった時のドレスコードとして使えるんじゃないかって思ってな」

 

「ちょっ、ちょっと待って! コレもしかして既製品じゃないオーダーの!?」

 

「あぁ、フルオーダーのスーツになる」

 

 

ここだけの話、一夏の身体情報は持っていたから一夏の体型に合わせたオーダースーツを作るのは難しくない。

 

最初は既製品を渡すことも考えたものの、折角プレゼントとして贈るならと普段俺が着ているスーツを作ってくれている担当に頼んでイチからスーツを作ってもらうことになった。

 

当然百貨店や一般のスーツ店で買うスーツとは、使っている生地も値段も何から何まで違う。鈴は見ただけで既製品では無いことに気付いた。

 

 

「……この生地、もしかして最高級品とも言われる『ビキューナ』を使ってらっしゃいます?」

 

「さすがセシリア、詳しいな。その通りだ」

 

 

スーツの素材を触りながら使っている生地の種類を言い当てるセシリア。

 

実際にスーツの生地として使っているのは『ビキューナ』であり、生地の中でもかなりの高級品になる。

 

山羊一匹から取れる量は二百グラム前後と、非常に希少価値の高い生地だ。そんな生地でスーツを作ろうものなら相応の値段になる。

 

 

「せ、セシリアや箒のプレゼントも凄いなと思ったけど……」

 

「こ、これはちょっとレベルが違い過ぎるな」

 

「さすがお兄ちゃん! 私たちにできない事を平然とやってのけるッ! そこにシビれる! あこがれるゥ!」

 

「ラウラ……それ誰に教えて貰ったの?」

 

 

シャルロットや箒が続いて驚きの声を上げる。プレゼントに掛ける金額というカテゴライズで判断するのであれば、確かに一般のプレゼントとは比べ物にならない。

 

ラウラはいつも通りというか……その言い回しはいつも変な入れ知恵をするっていう副官に教えて貰ったパターンだな。すかさずシャルロットが誰から教えて貰ったのかと突っ込んでるけど、自分で調べて使ったとは考えられないし、十中八九ドイツ軍の副官の入れ知恵だろう。

 

 

「ま、マジか……こんな高いの貰っちゃっても良いのかよ?」

 

「折角の誕生日だしな。それにお前の立場になればこれから学外に顔を出すことだって増える。IS学園の制服で間に合う時もあれば、そうじゃない時だってある。そんな時にこのスーツを使ってくれたら嬉しい限りだ。後は袋の中に入ってる名刺の連絡先に連絡してくれれば、多少のサイズ直しは全部無料でやってくれるそうだ。店長は少し変わり者だけど、腕は確かだし融通も利かせてくれる」

 

 

誕生日だし多少の奮発はしてもいいだろう。スーツ自体はもちろんのこと、成長に合わせたサイズ直しサポートのオマケ付きになる。

 

ま、多少店長は癖があるけど気になるようなレベルではない。出張整備もやってくれるし何より確かな腕を持っている。

 

任せておけば間違いはない。

 

 

「でも……何でここまで用意してくれたんだ? 年に一回の誕生日とはいえここまで奮発しなくても」

 

「いや、逆に年に一回……そしてその誕生日は一生に一度しか訪れないものだからさ」

 

「え?」

 

 

何故ここまでやってくれたのか、もしかしたらちょっと豪勢にしすぎてしまったのかもしれない。

 

誕生日は命が続く限り、毎年必ず訪れるものになる。自身の人生だけで考えるのであれば、年に一度は訪れるのだからそこまで希少価値の高いものでは無い。

 

だが、()()()の誕生日は一度きりになる。

 

今回一夏は十六歳になる、人は年々年老いていくもので()()()()()()()()()()()()を迎えることはない。その時は何気なくてもこの一日、この一瞬は個人的に凄く大切だと思っている。

 

いつ、自身の命が散るかなんて誰も分からないからだ。

 

個人的なエゴでありワガママと認識しているが、それでも誕生日は大切にしたい。

 

 

「誕生日ってのは自分が生まれた大切な記念日だ。そして人間には寿命がある、だから何回誕生日を迎えられるかなんて分からない。中には寿命じゃなくて不慮の事故で命を絶たれる人間だっている」

 

「!」

 

「今日から五年、十年……そして数十年経った時。俺たちの周りを取り巻く環境は大きく変わる。もしかしたらいつかは同じ面々で集まれる事ができなくなるかもしれない」

 

 

人として生きている以上歳は取る。

 

そして歳月も経る。

 

年月の経過で自分だけではなく周囲の環境そのものも大きく変貌していくだろう。

 

いずれここにいる面々も一人、また一人と天寿を全うしていく。

 

永遠の命なんてものはない。

 

 

「だからこそこうして皆が集まれる、その人だけの特別な日には俺が出来る限りのお祝いをしたい。そう思ってこのスーツを贈らせてもらった。一夏が遠慮する必要なんて無い。今はまだぎこちないと思うけど、いつかそのスーツが立派に似合う男になってくれることを思ってのプレゼントだ」

 

「大和……」

 

「まぁ、なんだ。ちょっと暗い話もしてしまったけど、とにかく誕生日おめでとう、一夏。これからもよろしく頼むぜ」

 

「……っ! あぁ、こちらこそよろしく頼む!」

 

 

改めてよろしく頼むとお互い握手を交わし合う。

 

恩を着せるためにスーツを贈ったわけではない、一生に一度しか無い十六歳の誕生日をしっかりと祝ってあげようという気持ち、それ以外になかった。

 

 

「なんか、大和にぜーんぶ持ってかれちゃったわねぇ」

 

「全くだ。少しでもアピールできたと思ったら最後の最後で……」

 

「うぅ、まさか最大のライバルが大和さんの可能性が……」

 

「敵は身内にいたとは……これは完全な盲点でしたわね」

 

「はぁ、どうしてこうなるのかなぁ。ねぇ、大和ってヒロイン属性持ってないよね?」

 

「持ってるわけないだろう」

 

 

鈴、箒、蘭にセシリアにシャルロットとガックリと肩を落としながら、俺の方をジト目で見つめてくる。

 

まるで美味しいところを全部持っていきやがってと言わんばかりの視線だ。

 

ってシャルロットの言うヒロイン属性ってなんだし。そんなものは持っていないとキッパリ否定する。

 

 

「ん、大和。ネクタイや靴下とかの装飾品もつけてくれたんだな」

 

 

袋の中からネクタイや靴下、ベルトといったスーツをより引き立たせる付属品の数々を取り出しながら一夏は俺に問いかけてくる。

 

が、残念ながらそれは俺が準備したものではない。

 

 

「いや、俺はスーツだけだ。それ以外は全部の装飾品は全部ナギが用意してくれている」

 

「えっ、そうなのか?」

 

 

少し驚きの表情を浮かべながら、ナギの方を見つめる一夏にナギは照れくさそうな笑みを浮かべた。

 

何をあげるかは事前にナギに伝えている。

 

理由は購入するものが被らないようにするためなのだが、話したところそれなら大和くんのスーツに合うような装飾品も必要になるよね? ということでネクタイや靴下、ベルトといった諸々をナギが用意してくれたというわけだ。

 

 

「う、うん。ご、ごめんね? 本当は別々にした方が良かったのかもしれないけど、折角だから一式組み合わせでまとめたほうが良いかなと思って大和くんと一緒にさせてもらったんだ」

 

「そうだったのか……でもこんな一色揃えてくれる嬉しいな。ありがとう鏡さん」

 

「どういたしまして♪ 今度皆の前で着てるところを見せて欲しいな」

 

「も、もちろん!」

 

 

スーツを来た姿を皆の前で見せて欲しいとニコリと笑みを浮かべるナギに対して、ほんのりと顔に赤みがさした状態で一夏は快諾をする。

 

いや、気持ちは分かるぞ。

 

ナギが浮かべた笑顔ってホントに素敵だし、見惚れるのもよく分かる。

 

ただ、タイミングが良くなかった。顔を赤らめた一連の流れを一夏ラバーズたちが見逃すわけもない。

 

ギロリと睨みつけながら一夏の元へ歩み寄っていく。

 

 

「一夏ぁ! 何ナギに顔赤らめてるのよっ!」

 

「お前は人の彼女にデレデレしおって! その根性一度叩き直してやる!」

 

「一夏さん! 一体どういうことですの!」

 

「一夏さん! 私の作ったケーキはどうだったんですか!?」

 

「一夏! これは一体どういうことなのかなぁ?」

 

「はっ!? お、お前らちょっと待て、落ち着けって!!」

 

 

一斉に詰め寄られて何事かと一夏はたじろぐ。

 

この後リビングはしばらく喧騒に包まれるのだった。

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