IS‐護るべきモノ-   作:たつな

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1年ぶりです。
お待たせしました。


挑戦

 

 

 

「なぁ大和、あまり仲良くない相手と距離を縮めるにはどうすれば良いと思う?」

 

「……はい?」

 

 

午前中の授業を全て終え、席を立とうとした俺の元に一夏が振り向きざま質問を投げかけてくる。

 

一夏がするとは到底思えない質問内容に声は裏返り、目を丸くした状態でじっと見つめる。熱でも出たのか、それとも気になる異性の存在でも出来たのか、どちらにしてもらしからぬ質問に数秒間放心してしまった。

 

 

「……どうした、熱でも出たか? 保健室に一人で行けないのなら立ち会うぞ」

 

「体調も崩してなければ熱も出てねえよ!? それに保健室くらいは一人で行けるわ!!」

 

「わ、悪い悪い。まさか一夏の口からそんな言葉が出てくると思わなくて」

 

「ひでえ!!」

 

 

本音は言わないようにするも意外すぎる一言で思わず本心が出てしまう。

 

許してくれ。

 

でも急にどうしたのか。

 

 

「っと、話が脱線したな。あまり良くない相手との距離の縮め方か、一夏がそこで躓くなんて珍しいこともあるもんだ」

 

「俺だって出来ないことくらいは沢山あるさ。話そうとするんだけど逃げられるんだ。何かこう、当たり障りのない話題とか、アプローチとか知らないかなって思って」

 

 

どうにも上手く行かなくてと、肩を落とす。

 

話そうとすると逃げられるってことは相手が人見知りな性格か、一夏に対して相当な苦手意識を持っているかのどちらかになる。

 

容姿はもちろんのことながら、コミュニケーションが全く取れないタイプではないため学園のどの生徒ともある程度は話せる認識ではあったものの、やはりイレギュラーはあるようだ。

 

 

「とりあえず詳細を聞こうか。相手は誰なんだ?」

 

「それは……えーっと、とある女子生徒だ」

 

「……だいぶ抽象的な例えだが分かった。相手はうちの学園の生徒ってことだな」

 

 

話題、話題ね。

 

女性と話す上でとっつきやすい内容なら、俺よりも他の異性に聞けばよさそうな気もするけど。

 

 

「しかし何で俺なんだ? 女性へのコミュニケーションなら、シャルロットとか色んな話題持ってそうだけど」

 

「そ、それも考えたんだけど……多分俺が話をしたら不機嫌になるような気がしてだな」

 

「……」

 

 

一夏の説明の中で多分一番簡潔で納得出来る理由だった。

 

思わず無言になってしまったが、十中八九相談された相手は不機嫌になるか、細かいところを探ろうとしてくるはずだ。

 

前までの一夏ならいやいや何でだよ? とか理由に気付かずボコボコにされていただろうけど、何回と同じことを繰り返しているうちに何となくこの話は同性以外の誰かに話したらまずいと気付いたらしい。

 

その観点で言うのなら一夏の言っていることは間違いない。周囲の女性に話した時点でそれは詰め将棋になる。そうなると自身の周りの生徒に声を掛けるか……だが、これも一夏と話を出来たと周囲が色めき立てばたちまち噂が耳に入るだろう。

 

そこから先は言わずもがな、想像に容易い。

 

 

「なるほど、理由はよく分かった。まぁシャルロットに聞いたら間違いなくお前の言う通りになるだろう。というよりシャルロットならマイルドな方か、他の面々に聞いたら……いや、やめておこう」

 

「いやな想像させるなよ。俺だって大和に聞くのには一応理由があるんだからさ」

 

「そうかい」

 

 

一夏なりに深い深ーい理由があることはよくわかった。

 

それなら消去法で俺に聞いてくることも納得だ。

 

 

「さて、仲良くない相手との距離の縮め方だったな。現状は会話しようとすると逃げられるんだっけ?」

 

「あ、あぁ」

 

「逃げられるってことは、相手は相当な苦手意識を一夏に抱いているかよっぽどな人見知りだと思うけど、お前自身何か悪いことをした記憶はあるのか?」

 

「……ある、かもしれない」

 

 

何とも歯切れの悪い感じの返答があるあたり、自身の行いが悪なのかそうでは無いのかの判断がつかないように見える。

 

さて、どう返したもんかな。

 

一夏が相談をしてきたタイミングと楯無の話してきたタイミングを合わせると当該人物が誰かはおおよそ検討がつく訳だが。

 

一夏自身が明確に何かをした訳では無いが、専用機である白式の開発が優先されてしまったことで本来製造が進んでいた機体が開発途中で放置された、ともなれば所有者が一夏に対して良いイメージを持てないのも無理は無い。

 

一夏の質問の発端となっている人物は十中八九、更識簪のことで間違いないだろう。

 

 

「かもしれないってことは悪いことだったとしても自分ではどうしようもない理由だった……って感じに見えるがあっているか?」

 

「え? あ、あぁ」

 

 

俺の反応に少し驚いたような反応を見せる一夏、自分が悩んでいる内容と言葉に発した内容が似ているからだろう。

 

事情は知っているし、そりゃ驚くのも無理はない。

 

っと、誰から聞いたのかまでは一夏に伝える情報ではないしそこは聞かれても口外しないように気をつけるとしよう。

 

 

「一夏の話を聞く限りだと中々難しい問題じゃないか? 話を聞いてくれるならまだしも話しかけようとしても逃げられる訳で、口も聞いてくれないってことだろ?」

 

「そ、そうなんだ。やっぱりどうしようも無いのか……」

 

「無いと決まったわけじゃないぞ。これまでアプローチは何回掛けたんだ?」

 

「えっと、一回だけだ。放課後に直接教室に赴いて声を掛けたんだけど、一切取り合ってくれなくて」

 

累計のアプローチは一回だけ、それも教室に直接赴いたとのこと。

 

元々苦手なイメージを持っていた相手がわざわざ教室にまで出向いてきたんだ、話した内容が何なのかは分からないけど少なくとも平常心で話を聞けるはずはなく、普通だったら身構えるだろう。

 

 

「ふむ……あからさまに苦手意識を持っているように感じるな。生理的に受け付けないレベルまでは行ってなさそうだから関係修復は出来そうだけど中々大変だぞ」

 

「だよなぁ……」

 

 

ガックリと頭を垂れる一夏、その反応をしたくなる気持ちもよく分かるし、楯無も中々な難題を押し付けたものだ。

 

どちらにしても相手と会話をしない限り何も始まらないのは事実、会話そのものを成り立たせるために出来る行動を探し出す必要がある。

 

 

「それでも会話が完全に無理と決まったわけじゃない。例えば相手が強制的に反応しなければならない状況を作るとかどうだ?」

 

「強制的に反応するような状況?」

 

 

なら、嫌でも相手が何かしらの反応を返さなければならない状況を作りあげればいい。

 

声をかけるだけではその強制力は生まれない、声を掛ける以外にもリアクションを起こさせるために一つ手間を加える。

 

手間といいつつもそこまで大それたものではないし、誰にでも出来るような簡単なことだ。

 

 

「あぁ、試しに何か飲み物でも買って持って行ってやったらどうだ?」

 

「飲み物……飲み物か」

 

 

普通に話しかけてもダメなら物で釣れ。

 

簪は普段授業が終わったあとは整備室にいると聞く。俺の言葉に対してうーんと口元に手を当てて考え込む。そんなことで口を聞いてくれるのだろうか、一夏の中に不安もあるのだろう。

 

教室にいるタイミングで渡すと他の生徒に何かを勘繰られる可能性もある故に、話しかけるタイミングとしては彼女が一人でいる時しかない。

 

 

「けど……そんな簡単な事で話を聞いてくれんのかな」

 

「まぁとりあえず一回やってみろよ。打開策がない以上、今はやれることをやるしかないだろ?」

 

 

単純なことではあるが変化をつけることは重要だ。

 

楯無から聞いている性格から判断するに、相手の差し入れを無下にするようなことはないだろうし余程失礼な態度を取らない限り叩き落されることもないはず。

 

 

「それもそうか……今は一つ一つ選別する暇なんてないし、とりあえずやってみるか」

 

 

選んでいるような余裕がある訳ではないことは一夏がよく分かっている。

 

上手くいくかどうかは何とも言えないけど、それでもやらないよりは全然いい。

 

 

「あぁ、上手くいくことを祈るよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まだ、ダメ」

 

 

IS学園整備室。

 

自身の目の前に展開された膨大なプログラムが記載されているディスプレイを簪は険しい顔で睨みながらタイピングを続ける。その表情はどことなく焦りを含んでいるように見えた。

 

一般人が見たら何が書かれているかなど一切分からないその文字の羅列に屈することなくひたすらにコードを打ち込んでいくが。

 

 

「まだこんなものじゃ……姉さんはもっと……あっ!」

 

 

ビービーという警告音とともに『ERROR』の文字列が画面に表示される。

 

プログラムコードが誤っているのか、理論上の制御は出来ないことを示しているのかその内容は定かではないが、少なくともこの状態での動作は見込めないことを示しているようだった。

 

やがてエラー画面が強制的に閉じられるとガクッと頭を垂れる。

 

 

「白式さえなかったら……追いつけたのに!」

 

 

その口から零れるのは恨み言だった。悔しそうに手を握りしめながらじっとディスプレイを見つめる。

 

元々は自身の機体が先に組み上がるはずだった。それがたった一人の男性操縦者の出現で割を食う形になり、自身の専用機の開発は頓挫。

 

その男性操縦者の専用機となる『白式』が先行して開発されることとなった。

 

 

「……はぁ」

 

 

溜息をつき、頭を抱えたところで事態が好転するわけではない。そんな簪の脳裏によぎるのは先日とある人間から言われた言葉だった。

 

 

『一人でこの機体を組み上げるだなんて中々出来るもんじゃないだろ。俺はこの手のことはからっきしだからな、素直に凄いと思うぞ』

 

 

思えばIS学園に入学して初めて人に褒められたかもしれない。

 

入学してからそこそこに期間は経つが、自身の専用機の開発に明け暮れて周囲の人間とコミュニケーションを取る機会は圧倒的に少なかった。

 

霧夜大和、織斑一夏と同じで二人目の男性操縦者。

 

存在こそ知っていたが、彼と会話したのは先日の整備室が初めて。

 

クラスの女子が色めき立つ姿を見ると、相応に良い男なんだろうくらいの認識はあったが、正直そこまで興味を抱くようなことではなかった。

 

いざ話してみると、変に距離感を縮めるような雰囲気ではなくある一定の距離感を保ったまま話を進める、簪としては話しやすいタイプの人間だった。思わず自分のことを深く話しそうになったものの、言葉に出る寸前に思い止まり詳細を打ち明けることはしなかった訳だが、彼の纏う雰囲気からも霧夜大和という人間が悪い人間ではないということはよく分かる。

 

 

「ううん、私は凄くなんか無い。だって姉さんは……」

 

 

一人で組み上げたから、とマイナス思考が再び脳裏を過ぎる。

 

ダメだこんな所で落ち込んでいるような暇はない。単純にずっと作業をしていたから疲れているんだろう、少し空気を吸うために外に出ればまた新たな気付きが得られるかもしれない。

 

席から立ち上がり、整備室の扉をくぐると。

 

 

「よう!」

 

「あっ……ふんっ」

 

 

会いたくない人物に出会ってしまった。

 

簪が自分で専用機を組み立てる原因にもなったじんぶつ、織斑一夏。彼が直接簪に何かをした訳では無いが、この切羽詰まった状況で相手にできる程の余裕はない。

 

ぷいと顔を背けると、スタスタと廊下を歩き去ろうとする。

 

 

「あっ、ちょっと待てよ! 今度のタッグトーナメントなんだけど、俺と組んでくれよ!」

 

 

一夏の口から提案されたのは今度のトーナメントにペアとして出ないか、というお誘いだった。

 

いきなり何を言い出すのか、相手にしていたらよりイモヤモヤが積み重なるだけであって一切メリットがない。無視をして居なくなるのを待とうと、振り向く素振りを見せないまま廊下を突き進んで行く。

 

 

「簪さーん!」

 

 

名前で呼ばれたことに自然と眉間にしわが寄るのがわかる。

 

自身の名前が嫌いなわけではないが、言われる相手が一夏にもなるとその気がなくても拒絶したくなってしまった。

 

 

「……名前で呼ばないで」

 

「更識さん」

 

「名字でも呼ばないで」

 

「えっと、じゃあ……そこの少女!」

 

 

もはや誰かを特定する事もできない何とも言えない言い回しに、進めていた歩を思わず止める。

 

拒絶の意を示しているにも関わらず、どうして自分に付きまとおうとするのか。くるりと踵を返すと一夏の方へと向き直り、険しい表情のまま問いかけた。

 

 

「どういうつもり?」

 

「お前が名前で呼ぶなって言うからだろ?」

 

「そんな呼び方されるくらいなら名前の方がまだ良い」

 

「そっか、じゃあかんざし……さん」

 

 

一夏としては呼び捨てにするつもりだったのだろう。呼び掛けた瞬間に簪の表情がより一層険しくなるのを見て、苦笑いを浮かべながらさん付けに訂正する。

 

こんなところで水を売ってる時間はない。

 

とにかく理由を聞くとしよう、何で自分をペアにしようと思ったのか。くだらない理由なのであれば突っぱねるだけだ。

 

 

「だいたい、どうして私と組みたいの」

 

「え、えーっと……」

 

 

簪の問いかけに思わず口ごもる一夏だったが、脳裏に過去楯無にお願いされた内容がフラッシュバックした。

 

 

『私の名前は……極力出さないでね』

 

 

一瞬楯無を理由に出しそうになるところを寸前でとどまり、改めて別の理由を伝えようとする。

 

 

「あぁ、そうそう。簪さんの専用機を見てみたいから……」

 

 

と最後まで言い掛ける刹那、パチンという音と共に一夏の顔が方向を変えた。じんわりと左頬全体に広がる痛みとあわせて自身が何をされたのかを認識する。

 

 

「……え?」

 

 

簪に頬を張られたということを。

 

 

「あっ……」

 

 

彼女としても意志を持って叩いたというよりかは、反射的に手が出てしまったのだろう。振りかぶった手は一夏の頬を捉え、自身の手のひらには衝撃が走る。

 

 

「……っ!!」

 

 

顔を合わせづらくなり、そのまま簪は走り去ってしまった。

 

自身が頬を叩かれた理由も分からない。

 

一夏はただひたすらに呆気にとられながら廊下に立ち尽くすしかなかった。

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 

自室に戻り椅子に腰掛けながら一夏は目の前に映るディスプレイを見つめる。

 

生徒の情報が掲載されたリストのようだった。項目の共通点としていずれも整備課の文字が記載されている。

 

ふと、先ほどのことを思い返す。

 

なぜ自分が叩かれたのか。

 

もしかしたらアプローチされることが嫌だったのかもしれない。大和には何か差し入れをしてみても良いんじゃないかとアドバイスをされたが、もう一度話してみようと声を掛けたところ叩かれてしまった。

 

理由が分からず、アプローチを変えればよいのかとただ闇雲にリストを眺めていると。

 

 

「ふうん?」

 

 

突然肩口から覗き込む存在が現れる。

 

 

「うわぁ。た、楯無さん! い、いつの間に!」

 

「もしかして整備課に協力してもらうの?」

 

「あぁ、いや。俺じゃなくて。簪さんの専用機のことで頼もうかなと」

 

「うーん……それはちょっと難しいんじゃないかしら」

 

 

楯無はベッドに腰掛けながら淡々と一夏に伝えた。

 

 

「簪ちゃん、多分一人で機体を組み上げるつもりなのよ」

 

「え?」

 

「私がそうしてたから意識しちゃってるのね……気にしなくても良いんだけど」

 

 

自分が一人で組み上げたからこそ、それに倣って簪も全て自分で組み上げようとしているのではないかと伝える。

 

楯無が自分で組み上げた事実を聞き、一夏は思わず目を丸くした。

 

「楯無さん、自分で組んだんですか?」

 

「うん、まぁ……薫子ちゃんとか整備課に意見もらってたからね。それよりどお? 簪ちゃんの様子」

 

 

それは良いとして、と話題を変えて簪との関係について楯無は確認する。

 

一夏のことだからすぐにアプローチはするだろうと、睨んでの質問だったわけだが、一夏は少し表情をゆがめながら実情を伝えた。

 

 

「えっと……叩かれました……」

 

「え!? あの子、そういう非生産的な行動にはエネルギー使いたがらないはずなんだけど……お尻でも触ったの?」

 

「そんなわけないでしょ、俺がやる人間に見えますか?」

 

「冗談よ。そんな事するわけないもんね一夏くんは……そっか」

 

 

殴られたという事実にも関わらず、どことなく楯無の表情は嬉しそうに見えた。

 

 

(あの簪ちゃんが、出会って間もない人に感情を出すなんてね……これは脈アリなのかな)

 

 

普段から初対面の相手に感情を出すことは少ない。一番長く側にいる立場から見て人見知りの簪が怒りの感情とはいえ、一夏にぶつけたことはプラスのようだった。

 

 

(感情、感情か。私ももっと素直になれれば良かったのかな……)

 

 

自身の不器用さには呆れるばかりだ。

 

姉妹間の問題に周囲を巻き込むのは本来お門違いであり、大和や一夏に諸々お願いしてしまっている部分には申し訳なく思っている。

 

そんな自分に嫌気が差すしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい? モデル?」

 

「そうそう。私の姉って出版社で働いているんだけど、専用機持ちとしてインタビューさせてほしいんだって」

 

 

放課後、教室に現れた黛先輩。

 

いきなり来て何事かと思えば、まさかの雑誌へのモデル出演の依頼だった。

 

ん、モデル出演と言えば。

 

 

「この前一夏たちにも声掛けてませんでした? 何か箒がやけにノリノリだったような気がするんですけど」

 

 

そう、一夏たちにも依頼していたことを思い出す。授業時刻になっても延々と自身のグラビアを披露していた鈴が千冬さんに引っ叩かれていたことも。うん、あれは中々に爽快な音だった。

 

話しかけられた時あまり乗り気じゃなかった箒だが、った時はいつもよりもテンションが高かったことから、結果的に依頼を引き受けたらしい。

 

 

「あれ、知ってたの?」

 

「いや、同じクラスなのでそれくらいは認識してますよ。それに俺の近くで話してたんだから尚更です」

 

「あはっ、そうだったわね」

 

 

忘れてましたと言わんばかりの反応だが、多分確信犯だろう。専用機持ちたるもの各国の顔としての活動は多岐に渡り、テレビなどに特集されるのはもちろんのこと、このような一般雑誌に応えるのも活動の一つとも言える。

 

立場としてこなさなければならない活動とはいえ、正直なところあまり自分の顔を外に向けるのは何とも言えない気持ちだ。嬉しさがないわけではないとは言っても、一般の人間に自分の顔が見られるということになるのだから。

 

ま、この期に及んで顔を隠したところで大した意味はなさないに違いない。おそらく既に色んなところで自分の顔は晒されているだろうから。

 

 

「なるほど。ちなみにそのインタビューっていうのは一夏たちと同じ撮影というか、タイミングになるんですか?」

 

「あ、ううん。織斑くんとはまた別の月の掲載になるから撮影日は一緒にはならないと思うよ」

 

 

雑誌自体は同じ媒体だが、掲載日が一夏とは異なるらしく一夏と撮影タイミングも違うようだった。

 

 

「うん? お兄ちゃんはモデルになるのか?」

 

「ようラウラ。一応そんなところだ、まだやるって返事をしたわけじゃないけど」

 

「おおおおお、金ピカなスーツを着たお兄ちゃんも見てみたいぞ!」

 

「いやいや、まだやるとは言ってないしそんな服は着ないから」

 

 

そばに来たラウラが話に入ってくる。目をキラキラとさせているが、金ピカな服を着るような雑誌でもないしまだ依頼を受けてはいない。

 

それに光り輝く金ピカな服を着ている自分の姿がまるで想像できない上に到底似合うとは思えなかった。どこぞの皇帝にでもなったつもりが、読者が見たら鼻で笑うに違いない。

 

 

「私はボーデヴィッヒさんが言うように金色の服も似合うと思うけどなぁ」

 

「うむ、そうだろうそうだろう。私には光り輝くお兄ちゃんの姿が見える!」

 

「待て待て、それ物理的に光ってるだけだからな。黛先輩も茶化さないでくださいよ」

 

「あははは、ごめんごめん。それで、どうかな?」

 

 

ズイッと一歩距離を詰めてきた。

 

どうかな、と言われてもここまで来たら変に断れば怪しまれることになる。怪しまれる……まではいかなくとも断る理由を話す必要があるだろう。

 

インタビュー、インタビューね……うーん、正直言ってあまりイメージが湧かないんだよな。話を盛ったら世間には変なレッテルが貼られるだろうし、動き辛くなる可能性もゼロではない。

 

とはいえこの前のキャノンボール・ファストで俺の顔は関係者各位に割れてしまっているし、今更なところはある。変なことを聞かれるようならその質問については拒否をすればいいだろう。

 

 

「まぁ困ってるんだと思いますし……多少の協力はしますよ。ただ答えられない質問もあると思うので、そこは了承いただければと思いますし」

 

「あれ? 意外かも、てっきり絶対嫌だって断るかと思ってたのに」

 

「じゃあ何で聞いてきたんですか……」

 

 

おいおいと肩を落とす俺にまぁまぁと肩を叩いてくる黛先輩。この感じだと俺が断ったところで、アレやコレやの手を使ってでも参加してもらうつもりだったに違いない。

 

下手に話がこじれる前に了承して正解だったとプラスで捉えることにしよう。

 

 

「さて、これで霧夜くんはオッケーしてくれたからもう一人を早く決めなきゃね」

 

「ん、もう一人? 俺の他に一緒に撮る人がいるんですか?」

 

 

もう一人、という単語に思わず聞き返した。

 

今回の撮影は俺だけなのかと思っていたけど、黛先輩の口ぶりをみる限りそういうわけではないらしい。ほんの少し口角を上げると話を続ける。

 

 

「そうそう。今回の企画のコンセプトが専用機持ちたちのオフショットなんだけど、ペアで撮影する必要があってね。霧夜くん以外にも誰かいないかなって探してるところなんだ」

 

「……ということは、顔も知らない専用機持ちの人と話す可能性があるってことですね」

 

「そうなる可能性もあるってところだね。少なくとも私が声を掛けている人であれば学園内の誰かになるけど、専用機持ちはこの学園だけじゃないから」

 

 

そりゃそうだ、と思わず内心苦笑いを浮かべるしかない。

 

学園に専用機持ちは固まっていたとしても、全世界で専用機持ちは存在する。学園内で見つからなければ当然外部の別の誰かが割り当てられることになるだろう。

 

しかし専用機持ちか、対象者だったらこのクラスにいくらでも……。

 

 

「……」

 

「ぬ? どうしたお兄ちゃん。そんなにマジマジと見つめられると照れ「黛先輩、もう一人の相手は俺が指定してもいいんですよね?」……えっ」

 

「え? う、うん。専用機持ちで容姿が……」

 

 

と言いかけたところで黛先輩の視点が徐々にズレて、俺の側にいるラウラの姿を捉えた。

 

二人から見つめられて呆気にとられるラウラだったが、やがて事態を把握したようでブンブンと顔を横に振る。まさか自分に話題が振られるとは思ってもいなかったに違いない。

 

全ての条件を満たす人物がすぐ近くにいるじゃないか。

 

 

「ま、待て! 私がか!?」

 

「確かにボーデヴィッヒさんなら十分に務められると思うな。専用機持ちだし、代表候補生だし可愛いしそれに霧夜くんの妹? というか、仲良いんでしょ?」

 

「か、かわ!? ま、まぁお兄ちゃんの妹だというところは認めよう」

 

 

照れながらも妹だということを認めるラウラ。

 

可愛いやつだ。

 

何を基準に選ばれるのかは分からないけど、ラウラであればモデルとして十分に被写体になる。それは黛先輩が納得している姿を見れば間違いなかった。

 

身長こそ平均よりも低いが、それを十分に補うくらいの容姿を持ち、傍から見たら妖精のように可憐な風貌をしている。かつての刺々しい雰囲気は完全に無くなり、時には人懐っこい笑みも浮かべる。

 

雑誌掲載されても何ら問題ないはずだ。

 

それにドイツとしても雑誌でラウラが写れば自国の広告にもなる。国家が許すかどうかだが……そこは他の候補生もやっていることだし、許可が出ないなんてことはない。

 

 

「ううむ……し、しかしだな、私はそんなモデルなんてやったことはないぞ? 何をすれば良いのか分からないしそういったことには疎いんだ」

 

「そんな身構えなくても大丈夫。当日の服装やメイクは全部担当が付いているし、シチュエーションも決まってるから自然体でリラックスしてもらえれば」

 

「そ、そうは言ってもだな……」

 

 

こういうことには慣れてないんだと目を泳がせた。

 

嫌ってわけじゃないんだろうけど、普段から色んな服でオシャレをするタイプじゃないし、写真に率先して写りに行くこともないだろうから慣れてないのは仕方ない。

 

それを言ったら俺も写真は未だに慣れてないし、出来ればあまり撮られたくないっていう気持ちもある。

 

でもラウラの私服姿は道を歩いていたら誰もが振り返るような可愛らしさがあるし、余程奇抜なファッションじゃなければ十分に着こなすはずだ。

 

それと喋る内容も変なことを聞かれないようにこっちでフォローをすればいい。

 

 

「まぁでも最終的に決めるのはラウラだ。俺がとやかくいうことでもないし、強制する気もない。もし難しいのであれば全然断っても誰も悪く言わないさ」

 

「い、いや、別に嫌というわけではなく。うぅ……」

 

 

何とも言い表し難いラウラの感情があるようだ。

 

何度も言うように強制する気もないし、ラウラ自身が嫌なら嫌と言っても悪く言うつもりは微塵もない。嫌なことを無理やりさせてもより嫌いになるだけだしな。

 

ラウラが断るならまた別の人間をチョイスすることになるし、仮に見知らぬ相手だったとしてもこの学園に入学した時は、俺にとってラウラだって初対面で知らない相手だったわけだ。相手が誰であっても何とかなるし、そこまで気にするものでもない。

 

 

「その……だな。私自身参加したい気持ちはあるのだが、お兄ちゃんに釣り合っているのか不安なんだ」

 

「へ?」

 

「あらっ」

 

 

ラウラは手をもじもじとさせながら思いもよらぬ言葉を呟く。

 

パターンとしては『私に任せろ!』か『今回は遠慮しておく』とかだと思ってたんだけど……これは中々に興味深い返しだった。

 

本心としては参加したいが一緒に撮影することで俺のイメージを悪くしないか、心配しているようだ。

 

うん、もし転校当初のラウラだったら間違いなく俺のイメージを悪くしていただろう、これは断言出来る。

 

でも今はどうだ?

 

その時から100%モデルチェンジをしたラウラならそんなことは絶対にしないと断言出来た。多少ズレた一般常識を吹き込まれているせいで見当違いなことを言うことはあれど、人を罵倒するなんてことはないし俺に悪く言う姿は想像出来ない。

 

からかい半分で話すと『やめてくれ! それは私の黒歴史だ!』なんて言いながら耳を塞いでるくらいだから大丈夫だ。

 

 

「俺に釣り合うというかこれ以上ないチョイスだと思うけどな。ね、黛先輩?」

 

「うん! 美男美女でどこか雰囲気も似てるし、ぴったりだと思うよ!」

 

「ふぇえ……?」

 

 

パチパチと目を瞬きしながら、何とも間の抜けた可愛らしい声を出すラウラ。

 

あぁ、これが教室じゃなかったら頭を撫でるくらいしたんだけど流石にこの場でやるのは控えよう。

 

どちらにしても黛先輩の言うように釣り合ってないわけがない、何なら俺が余裕で見劣りするようにしか見えないんだが……ラウラさんや、俺を過大評価しすぎていないかい?

 

 

「それに誰もが初めてのことはあるんだし、リアルタイムのテレビ中継じゃないわけだから多少の失敗くらい大丈夫」

 

「そうそう。今回はあくまで雑誌のモデルだから、それに仮にも私の姉が担当しているわけだから変なことは聞かないし、答えづらいことがあれば話さなくてもいいからボーデヴィッヒさんも安心してよ」

 

 

と、絶妙な感じでフォローをしてくれる。

 

初めてインタビューを受けた時には捏造するなんて言ってたから本当に大丈夫かと思ったけど、この人の人柄を知れば変なことをするような人じゃないことくらいすぐに分かった。

 

 

「う、うむ。そこまで言うのならやってみようか」

 

「じゃあ決まりだね! えっと当日の集合場所になるんだけど……」

 

 

こうして俺とラウラの映えある雑誌デビューが決まったのだった。

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