IS‐護るべきモノ-   作:たつな

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「はい? 叩かれた?」

 

「あ、あぁ……」

 

「一体何をやったんだ。もしかして体触ったりしてないよな?」

 

「そんなことしねーよ! むしろ俺が聞きたいくらいだ」

 

 

時刻は流れて夕食。

 

一夏と二人で食堂に向かい食事をとっていると、不意に一夏が相談に乗っていた内容についての話題を振ってきた。

 

当該相手と話を出来たまでは良かったけど、専用機を見てみたいと伝えたところ叩かれたらしい。もう専用機と言っている段階で相手が誰なのか確定しているわけだが……ここは後で突っ込むとしようか。

 

簪の気持ちを考えたら分からなくはない。

 

一夏の専用機開発が先行されたせいで自分の専用機の開発は頓挫し、自分で組むことになってしまったのだから。とはいっても何も言わずに叩くのは良くないけど。感情を出したことに関してはある意味プラスと捉えればいいのか、ただ相手からしたら叩いた相手と話すのは中々にハードルが高くなるに違いない。

 

殴られた一夏からしたら青天の霹靂だろうな。折角距離を縮めようとしたのに、それを一瞬でぶち壊されたわけだし。

 

 

「ホントに専用機を見たいとしか言ってないんだよな?」

 

「あぁ、もちろん。俺もしかしなくても嫌われてんのかな」

 

「嫌われてるわけじゃ……いや、悪い。その反応だけを見ると何とも言えないわ」

 

「ははっ……だよな。はぁ」

 

 

人として拒絶しているわけではないだろうけど、少なくともいい印象かと言われたら違う。ただ嫌っているかと聞かれたら正直何とも言えないってところか。

 

ガックリと頭を垂れる一夏だが同じことをされたら誰でも似たような反応になるし、心が折れてないだけまだマシだ。

 

夕食で付いてきた豆腐の味噌汁をずずっとすすりながら、さて今後はどうしようかと考えてみる。

 

 

「ただ専用機の話を出したのはマズかったかもな。その相手……更識簪だったか。自分で専用機を組み上げているみたいだし、色んな理由があるんだろ。例えば……そうだな、思うように開発が進んでなくて悩んでいるとか」

 

「あぁ……ん? ちょっと待て、名前を大和に伝えた記憶が無いんだが」

 

「分かるさ。一年生に専用機持ちが多いとは言え大体が顔見知りだ。残ってる専用機持ちは四組の彼女くらいしかいないだろ」

 

 

名前を出したことに不審がる一夏だが、専用機と言っている時点でおおよその推測は出来ると伝えた。

 

だって一年生の専用機持ちって現時点だと限られているわけだし、そのほとんどと繋がっているとするのならほぼ確定レベルで特定も出来る。

 

 

「あ……そ、それもそうか。そうなんだ、実は簪とタッグトーナメントでペアを組んで欲しいと思って」

 

 

相手がバレたことで一夏は今回の事の顛末をポツリと話し始めた。自身の専用機開発が優先されたことで、簪の専用機が後回しになってしまっていたことや、一夏なりに申し訳なさを感じていること。

 

開発の背景に関しては一夏が関与しているわけじゃないし、一夏を責め立てるのはお門違いだけど、一夏なりに何とかしてやりたいという思いが強いんだろう。ペアを組むのもあくまで一つの手段であって、他にも自身のデータなどを簪に提供することで少しでも役に立とうと思っているに違いない。

 

結果は若干踏み込みすぎたのは叩かれるという結果にはなったが、そこも含めて一夏らしいなと少し笑ってしまった。

 

と、俺の表情に気付いたようで少しムスッとしながら一夏は抗議をする。

 

 

「な、なんで笑うんだよ。俺だって好きで叩かれたわけじゃないんだ」

 

「あぁ、いや悪い悪い。らしいなって思ったらつい。アレだ、本人も叩いたことに関しては罪悪感もあるだろうし、一夏のことを本気で嫌ってるんならガン無視だと思うから、まだ大丈夫だと思うんだよな」

 

「そうか? 基本的にあまりちゃんと相手にして貰えなかったから完全に嫌われてるのかと思ってたけど……そういう見方もあるか」

 

「見る限りじゃ非生産的な行動を嫌うようなタイプだろうし、人を叩くなんてリソースを割く行動はしないと思うんだ。あくまで推測にしか過ぎないけど、あんまり深く考えなくてもいい気がする」

 

「分かった。また明日以降にでも声を掛けてみるわ」

 

 

こんなところか。

 

簪に関しては一夏のことを完全に嫌っているようには見えないし、暗いというかあまり感情を出すようなタイプじゃないから一夏も少し凹んでいたが、まだいくらでも挽回するチャンスはある気がする。

 

会話が一区切りしたところで話は変わるけど、今日の夕食も美味いな。

 

この味が染み渡ったマグロの煮物とか絶品だ。気付けばおかずに対してのご飯の比率が追いつかず、一口で何杯ものご飯をかき込んでしまっていた。白米が尽きておかずだけやたら残ってしまうってことない? で、おかずを消費しようとしてご飯お代りして腹がはち切れそうになるみたいな。

 

毎回思うけど学園や寮の食事のレベルが一般家庭を大きく上回っている。もちろん実家の食事が最高なのは別として、そうそう毎日作れるようなものでもない。

故に必要以上に食べ過ぎてしまうことが多々あるのが悩みだったりする。俺はその分日々動きまくってるからエンプティーカロリーになることはないわけだが、年頃の女性からすると由々しき問題にもなる。

 

でも不思議とIS学園ってふくよかな人って見当たらないんだよな、そう考えると体型維持のために相応に努力しているんだろう。

 

箸できり分けて口へ運んでいると、不意に背後から声を掛けられた。

 

 

「大和くん、隣良いかな?」

 

「ん? おぉ、ナギとラウラか。良いぞ」

 

「ありがとう」

 

「お兄ちゃん、お邪魔するぞ」

 

 

声を掛けてきたのはナギだった。そのすぐ後ろにはラウラもいるおり、ナギは俺の承諾ににこりと微笑むと、俺の左隣にナギ、ラウラの順番で座る。

 

てっきりこれから夕飯かと思っていたら両手に握られていたのはトレーではなくてグラス……飲み物だけだった。

 

 

「あれ、二人とも夕飯は?」

 

「あはは……実は放課後ラウラさんとちょっと外に買い物に出かけたんだけど、帰りに食べた屋台のクレープが美味しくて」

 

 

率直な疑問を投げ掛けると、ナギは何とも言えない苦笑いを浮かべながら理由を述べる。

 

雑誌インタビューの件の後、ラウラは少し出掛けるなんて話をしていたけどクレープ食べに行っていたのか。クレープも物によってはそこそこカロリーがあるし、反応から察するにちょっと食べ過ぎているのかもしれない。

 

 

「うむ、あれば確かに美味しかった。そしてお姉ちゃんは凄かったぞ、食べてる姿が可愛くて思わず写真を撮りたいと思ったくらいだ」

 

「ち、ちょっとラウラさん! それは言わない約束!」

 

 

え、何それ。

 

ラウラさんやその食べている時の写真を復元することは出来ないか? こう、視覚で捉えた風景を現像する機械みたいな……あるわけないか。

 

どちらにしても普段の表情が緩んでしまうほどの美味しさだったことは分かった。つまりたくさん食べてしまったために、夕飯は控えたっとことか。

 

ナギなんかは普段運動部だからそんなに気にしなくてもいいと思うんだが……そこは年頃だからということなのかもしれない。

 

 

「ほー、そんなに美味しいクレープ屋さんがあるのか」

 

 

有名なクレープ屋さんの屋台があると、クラスメイトたちが話しているのを聞いた記憶がある。その噂を聞きつけて食べに行ったのかもしれないが、噂になるほどのクレープ屋ってことであれば味は保証されているに違いない。

 

デザートは別腹などと言うが、話を聞いてるとまたお腹が空いてくる。

 

 

「クレープかぁ……流石に買って帰ってくるまでに時間が掛かっちまうな」

 

「あぁ、差し入れか? 流石に放課後に買いに行って戻ってくるのは道中も両手塞がっているわけだしハードルが高いと思うぞ。持ち帰り用の包装をしてくれるならまだしも、屋台だと厳しい気がするな。そもそもクレープが苦手な可能性もあるし」

 

「うーん。話の切り口ってか、切っ掛けになると思ったんだけど……」

 

 

簪への差し入れにクレープはどうかと考えるものの、持ち帰りを想定した商品ではないことと、人によって好き嫌いがあるクレープのチョイスは少しリスクがあった。

 

切っ掛けの一つとして悪くはないが、相手のことがあまり分かっていない状態で好き嫌いの判別がつかない食べ物を選ぶのは少し危うい気がする。

 

と、あまり聞き慣れないやり取りを疑問に思ったのか、ナギが質問をしてきた。

 

 

「大和くん、何の話をしていたの?」

 

「ん? あぁ、ちょっと色々あって親しくない相手へのアプローチをどうすればいいのかって話をしてたんだ」

 

「親しくない人へのアプローチっていうのは大和くんが?」

 

「いや、俺じゃなくて一夏だ」

 

「なんだ一夏、お前また何かやらかしたのか?」

 

「ち、ちげーって! 大和と同じことを聞いてくるんだな。というかそんなに俺って毎日のように何かをやらかしてるイメージなのか?」

 

「ふふんそこは兄妹だからな、仕方がないというものだ。むしろ私からすると、毎日何かしらをやらかしてるイメージしか無いぞ」

 

「ひでぇっ!?」

 

 

容赦なく言い放つラウラ。

 

少し言い方が過剰な気がしないでもないが、普段の一夏の生活を見ていると大なり小なり何かしらをやらかしているイメージが強い。

 

フォローしようと思うも割と事実であるために俺の中ではフォローの言葉が出てこなかった。ナギも同じ気持ちらしいのだが、苦笑いを浮かべながら首を小さく横にす振る姿を見るとどうにも出来ないようだ。

 

なんと言うのか。

 

抜け駆けは許さんみたいな共通認識の中で、ちょっとでも逆鱗に触れようものなら蜂の巣にされそうになっている姿を定期的に見ていると感覚がバグってくる。

 

幸いなことに俺の周りは穏健派というか、穏やかや人が多くて実害は皆無。もちろん怒らせたら一夏ラバーズよりも怖いだろうけど、そこは地雷を踏まないように気を付けてます。

 

てか、地雷を踏もうとも思わないし踏みに行くつもりもない。

 

って、俺の話は今どうでも良いんだ。

 

 

「ま、やらかすっていうよりかはちょっとばかり複雑な状況にってところだ」

 

「な、なんか大変そうだね」

 

「こればっかりはな。俺が介入しても解決するとは限らないし、余計に拗れる可能性もある」

 

 

結局のところ一夏に頑張ってもらう以外に現状はいい方法がない。俺が変に出て一夏をよく見せようと思っても、かえって状況を悪くする可能性もある。

 

些細な切っ掛けだとは思うんだけどな、その切っ掛けが直ぐに出来るなら苦労はしないって話だけど。

 

 

「はぁ、どうすりゃ良いんだホントに」

 

「織斑くん、何があったの?」

 

 

ナギ自身あまり詮索するような性格ではないものの、ここまで話を聞いたら気にするなという方が無理な話になる。

 

一夏ラバーズたちに口外をしないようにと伝える必要があるが、この二人なら話しても問題は無さそうだ。

 

 

「んー……一夏、二人には話しても良いか?」

 

「あぁ、鏡さんとラウラなら」

 

「了解。えーっとまずは……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……そうなんだ。ちょっと複雑というか、どちらとも悪くないけど気持ちは分かるって感じがするかも」

 

「あぁ、今回の場合だとどちらも悪くないっていうところが問題になる。どちらかが悪ければ折り合いはつけれるかもしれないけど、一夏に関しては自分の知らないところでそんなことが起きてたなんて知る由もないよな」

 

 

俺と一夏の話を聞いたナギは難しいねと、複雑そうな表情を浮かべる。

 

結局一夏と簪が専用機の開発をめぐって気まずい関係になっていること、専用機を見せて欲しいと伝えたら有無を言わさず叩かれたところまでは話した。

 

前半は一夏にも説明をしてもらったが、改めて聞くと中々に拗れてしまっていることを認識し、思わず苦笑いを浮かべるしかなかった。

 

 

「ある程度状況は理解した。が、何故簪は自分で組み上げようとしたんだ? 一夏の機体が優先されて開発が頓挫したことは分かるが、そこまで意固地になって自分で組み上げる必要も無かろう。日本の代表候補生ともなれば企業の力を多少なりとも借りれると思うのだが」

 

 

ラウラは自分で残り全てを組み上げようとしている理由はなんなのかと率直な疑問をぶつけてくる。

 

 

「そこは推察になるが、実姉の楯無が自分で機体を組み上げたからだと思う。もちろん本人は整備課の力を借りたと言っているが、今年入学してきた簪からすればその背景は知らないだろうし、楯無本人も伝えることはしてないんじゃないか。いや……話を聞く限りだと伝えられないっていう解釈が正しいかもしれない」

 

 

楯無がメインで組み上げた事実はあれど、一人で全部を成し遂げたわけではない。楯無だって分からないことはあるし、整備課のメンバーに意見をもらいながら時間を掛けて完成させた。

 

簪にはその過程が伝わらずに、楯無自身が完成させたという話だけが伝わってしまったことで、姉さんは一人で全部成し遂げたんだと変にマイナス方向に考えてしまっている。

 

故に意固地になり、誰からも意見をもらわずに何とか一人で完成させようと思っているそうだ。

 

なんというか頑固というか真面目というか不器用というか。人のことを言えた試しではないが、俺も含めて周囲には不器用な人間が多いらしい。

 

 

「むう、そうなのか。しかし更識楯無がそこまで遠慮するとは、姉妹関係というのも大変なんだな」

 

 

出来すぎる姉に比べて平凡な自分。

 

姉さんは何でも出来る、何でも持っている。自分では到底追いつけないしその能力もない。

 

楯無が簪に、簪が楯無にもつイメージが分かってしまうがためにお互い歩み寄れなくなってしまっているのもある。楯無の性格上、大体の問題については自分で解決してしまう。それでも姉妹関係だけは解決ができなかった。

 

簪が自分のことをどう思っているのかが分かってしまうから。だから遠慮して歩み寄ることができない。

 

この関係は外野が言うほど簡単なものでは無かった。

 

 

「……」

 

 

今回この一連の出来事には楯無が絡んでいる訳だが、彼女の真意は何なのか、もっと言うならこれからどうしたいのか。

 

簪とのアプローチには既に一夏が動いているわけで、これは一夏と簪の仲を執り成すことにはなるかもしれないが、楯無と簪の関係が果たして修復に繋がるのか疑問なところだ。

 

一夏に丸投げしてしまったと本人は言っているものの、彼女の性格上やらせっぱなし、任せっぱなしにすることはないだろうし、昔のように仲の良かった関係に戻りたいとは思っているはず。

 

 

「……やれることはやってみるか」

 

 

やれることはいくらでもある。

 

目の前にあるお椀に手を掛けると残りの味噌汁を飲み干すのだった。

 

 

 

 

 

 

「あっ……」

 

「よう、また会ったな」

 

「……もしかして狙ってる?」

 

「んな訳あるか。未来を予知できる能力なんてあるわけないだろう」

 

 

夕食を終えて自室に戻っている途中で見知った姿が目に入る。俺が気付くのと同時に相手も気づいたようで声を漏らした。と同時に、狙っているのではないかと疑いの眼差しを向けられた。

 

残念ながら狙った訳じゃないんだなこれが。本当に偶々戻る途中にバッタリと出会ったに過ぎない。簪の動向を完全に把握しているとしたらそれはむしろ簪専属のストーカーになる。

残念ながらストーキングするほどに歪んだ想いを寄せたいとも思わないし、そんな独りよがりで一方的な愛情なんてものは無くなればいいとすら思う。

 

 

「本当に?」

 

「本当だ。何ならさっきまでクラスメイトと夕飯食べていたから、本人たちに聞いてみたらいい。おそらく部屋に戻っているだろうから案内しようか?」

 

「いい。狙った訳じゃないのは分かったから」

 

 

とりあえず納得はしてくれたようだ。

 

いや、本当に。人の動きを完全に予測出来たとしたらそれはそれで人智を超えた能力になる。

 

 

「随分と遅くまで頑張っているんだな」

 

「そんなことない。プログラム連携が上手くいかないところがあって没頭してたらこんな時間になっただけ」

 

「プログラム連携ね、機体を組んだことのない俺からしたらあまりゆかりのない言葉だ。連携は上手く行ったのか?」

 

「まだ。可能性を模索したけど原因の特定と解決には至ってない」

 

 

淡々とした口調で簪は話してくるが、機体に乗る、操作する人間からしたらあまり気にしない部分の単語がボロボロと出てきた。プログラム連携などという構築側でやるような言葉なんて、早々聞くことはないし話に使うこともない。

 

帰宅が遅くなったのはエラーに対しての原因と対策を考えていたからだった。

 

没頭すると時間を忘れてしまうのはあるあるだが、本来抵抗のある分野に長時間向き合えるのは彼女に一定の才能があるからなのかもしれない。少なくとも俺には同じことをやれと言われても無理だ。

 

 

「なるほどね……ちなみにそれって実際の戦闘データとかは役に立つものなのか? 俺の専用機でよければ数は少ないけど実戦データは提供出来ると思うけど」

 

「え?」

 

 

数が多いわけではないが、一応専用機は持っているし多少の戦闘データは残っている。その戦闘データがどこまで役に立つのかは素人目には分からないけど、市場にほとんど出回っていない第四世代の機体だ。

 

そのデータを使えば今突っかかっている問題を解消出来るかもしれない。当然データ数としては他の専用機持ちに比べれば少ないから無駄足になることも考えられるが、無いよりはまだマシだろう。

 

何気なく個人的感情抜きに伝えたところ、予想外の答えだったのか簪はキョトンとした表情を浮かべた。

 

……もしかして変なこと言ってるかな。

 

 

「ん、俺何か変なこと言ったか?」

 

「あの……どうして? 私たち……そんな親しい関係でもないし、それに多分聞いているんでしょ」

 

 

不安そうなオドオドとした面持ちで聞いてくる簪。実際にファーストコンタクトを取ったのは整備室からであり、つい先日の出来事になる。

 

そこから特に関わりがあったわけでもなくこのタイミングまで話したこともなければ、会ってすらいなかった。そんな男に自分の実戦データを提供出来るなんて、傍から見たら怪しすぎるだろう。さっきも言ったように俺自身に他意はないし、簪に対して過剰に肩入れをするつもりもない。

 

純粋に役に立つのかと、聞いただけだ。

 

それから最後に消え入りそうな声で呟いた『多分聞いているんでしょ』という一言は、一夏との出来事を知っているんだろうという意味合いのように聞こえた。

 

 

「聞いている、とは何を?」

 

 

俺の推察が合っているとすれば、結論知っている。

 

ホントについさっき聞いたばかりだから。

 

 

「そ、それは……」

 

 

簪はバツの悪そうな表情を浮かべて視線を這わせた。その表情が全てを物語っている。

 

何の抵抗もなく一夏を叩きましたとは言えなかった。

 

包み隠さずに言うということはその行為に対して後ろめたい気持ちが何一つないということになる。俺から質問されて口ごもる、言いづらそうにするというのは多少なりとも罪悪感が、申し訳なさがあるからだ。

 

 

「ま、いいや。言いづらいこともあるだろうし、俺自身が一切絡んでないような話やセンシティブな話なら仕方ない。誤解ないように言うと別に俺は君を嫌ってるとか、貶めようとしてるとかそんなマイナスな印象は一切ないし、そのつもりもないよ」

 

「……」

 

 

これは事実だ。

 

一夏を叩いた事実は良くないが、簪には簪なりの事情があったわけだし本人も殴り倒すほどに憎かった訳ではない。

 

専用機関連で少し歪んでしまった部分はあったが、話を聞く分には根が悪い人とは思えなかった。本当に根の悪い人間であれば、楯無が矯正しているかまたは切り捨てているはず。

 

それをあそこまで気にかけているってことは、つまりそういうことだ。

 

 

「……私はあなたが協力してくれるような行動は何もしていない。それどころかあなたを敵に回しかねない行動もしてる。それなのにどうして私に気を掛けるの?」

 

「あぁ、困ってそうだったから」

 

「そ、それだけの理由で?」

 

「あぁ、逆に困っている人を助けることに理由なんかいらないだろう。何か見返りを求めようとしてるなら話は別だが、俺が君に見返りを求めるような人間に見えるか?」

 

 

簪の質問に若干の既視感を覚えつつ、苦笑いを浮かべながら俺が実益だけで動くような人間に見えるかどうかを確認する。これでそう見えると言われれば、彼女から見た俺のイメージ像がそうなのだろう。

 

それに対して怒るつもりもないし否定しようとも思わなかった。

 

 

「見返りは求めなさそうだけど……変わってると思う。クラスメイトたちだって私に壁を感じて声を掛けてこなかったけど、あなたはそういうの気にしないんだ」

 

「もちろん。完全拒絶だったら話は別だけど、こうやって話してくれるってことは本当は壁を作りたくて作ってるわけじゃないんだろう?」

 

「そう……」

 

 

ほのかにその表情は笑っているように見えた。

 

 

「今日はもう遅いから……また今度お願い」

 

「了解。時間調整して整備室に行くようにする。悪かったな引き止めて、改めてだけど遅くまでお疲れ様でした」

 

「……ありがとう」

 

 

感謝の気持ちを伝えると簪は食堂の方向へと歩き出す。

 

さて。

 

俺自身にはまだやることも残っている。

 

さっさと自分の部屋に戻って準備をしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、おかえりなさい大和」

 

「……」

 

 

部屋に入ってそうそう飛び込んでくる背景に、あぁそうだったとかつての約束を思い出す。

 

学園祭の演劇で王冠を手に入れたものは任意の相手と同室になれる権利を与える、などというルールが設けられていた。

紆余曲折あって最終的に王冠は楯無の元に渡った訳だが、その約束が未だ続いていたのだと。

 

毎日入り浸ることは無いものの自室の私物を俺の部屋に持ち込まれている状態のため、一部の人間を除き俺の部屋には入れないようにしている。何なら今俺の部屋にある程度自由に入室させるのはナギとラウラの二人だけだ。

 

それ以外の人間はシャットアウトしているし、まず俺の部屋に来ることがない。一時期は部屋の前まで張りこまれることがあったが今ではほとんど無くなった。

 

慣れとは恐ろしいものだ。

 

 

「ただいま。もう夕飯は食べたのか?」

 

「ええ、おかげさまでね。大和が生徒会の仕事を頑張ってくれているから、最近は負担も減って食事だけじゃなくて睡眠時間もかなり増えてるのよ。ありがとう、救世主様♪」

 

あはっ♪ っと嬉しそうにウィンクをする楯無だが、言われてみれば顔色も一時期に比べるとだいぶ良くなっているし、目の下に作っていたクマも無くなっている。

 

俺の頑張りで楯無が休める時間が増えるならそれはそれで良かった。誰がどう見ても業務過多の状態だっただし一回倒れてるから心配していたけど、コンディションも整ってきているみたいで何よりだ。

 

 

「どういたしまして、そりゃ何よりだ。あ、そういえば今日黛先輩から雑誌のインタビューに出てくれないかって言われたんだわ」

 

 

身近なところから声をかけているみたいだったし、話題の一つとして楯無も知ってるのか聞いてみようか。

 

 

「あら、そうなの。私にも話が来たんだけど断っちゃったのよね。大和はどうしたの、断ったの?」

 

「引き受けた」

 

「そう、そりゃそうよね。流石に断……え!! 引き受けたの!?」

 

 

引き受けたという回答に意外そうな表情を浮かべた。

 

 

「えー、大和引き受けたの? それなら私も引き受ければ良かった〜」

 

「というか今の話を聞く限りだと、楯無に断られたから俺に話が来たんじゃないかって思うんだが。ただ休日を使うことになるし、直近までバタバタだったんだから休んだほうがいいんじゃないか」

 

 

ぶーぶーとぶーたれながら足をぷらぷらと交互に揺らしたかと思うと、そのままベッドにボフッと背中から倒れ込んだ。

 

俺の枕を手に取るとギューッと抱きしめて、目線だけを俺の方へと向ける。

 

 

「それはそうだけど。でも大和が参加するんだったら話は別よ!

うーあの時断った自分が恨めしい」

 

「ははは……承諾していたら俺に話は来てないかもしれないけどな」

 

 

今回の撮影がペアということで、もしかしたら俺に話が回ってきた可能性もないとは言い切れないが憶測で話しても仕方ない。

 

が、楯無としては面白くないようだ。

 

ムスッとした表情を浮かべながら枕で口元を覆い、俺に抗議の視線を向けてきた。

 

つーか俺なんか悪いことしたっけ。

 

 

「大和も何で言ってくれないのよ〜! 言ってくれたら私だって薫子ちゃんにいいよって言ってたのに!」

 

「待て待て、そもそも楯無に話が行っている前提を俺は知らないからな? 知らない状態で伝えるなんて神様にでもならない限り無理だわ!」

 

「むぅううう……」

 

 

再び唸りながら枕に顔を押しつけながら足でベッドをバタバタと鳴らす。

 

足がつくたびに歪むベッド、当然ベッドに罪はない。

 

 

「そんなに雑誌インタビューに行きたかったのか?」

 

「インタビューに行きたかったわけじゃないの! ……あの、や、大和が行くって言ったから……そ、その私だけなら行こうとなんて思わないけど、あなたが行くんだったら私だってついていきたいわよ……」

 

「……」

 

 

顔を赤らめながら赤裸々な思いを打ち明けてくる楯無。

 

何だろう、好意をここまでハッキリと打ち明けられるとやっぱり嬉しいな。

 

俺が誰と一緒に居ようとも、楯無の俺に対する想いは一切変わることがないのだろう。

 

……ナギと同じように。

 

彼女と全く変わらなく一途に思ってくれる女の子。

 

先輩と後輩、ビジネスパートナーの垣根を越えた特別な関係。彼女はナギだけだからと言っていたのに、いつの間にかその後ろ姿を追うようになっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ、楯無。話変えるけど聞いていいか?」

 

 

大切に思う存在だからこそ、俺は彼女に伝えなければならない。

 

このままいけば後悔するかもしれない、修復不能な関係になってしまうかもしれない。

 

彼女が今何をしたくて、これからどうしていきたいのか。

 

偶々部屋に来てくれて、こちらから迎えに行く手間が省けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーお前はこれからどうしたいんだ?」

 

 

それが厳しいことだったとしても、前を向いて進めるように。

 

 

「……え?」

 

 

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