IS‐護るべきモノ-   作:たつな

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眼帯兄妹の撮影会な一日

 

 

 

「お兄ちゃん、こっちだ!」

 

「待て待て、そんな走るなって。約束の時間には十分間に合うし、場所は逃げないか……ら!」

 

 

何やかんや色々あっての日曜日。

 

空は雲ひとつない晴天、まるで俺の心のように晴れやかだ……なんて言う小学生並みの感想が出るくらいにはいい天気だった。バタバタとテンション高く駆けて行くラウラの後を追うが、いつもより気分がハイになっているのかその足取りは軽く早い。

 

思えばラウラと二人きりで出掛けるなんて初めてな気がする。だからこんなに嬉しそうなのかと妙に納得がいってしまった。寮を出た後はずっと手を引かれて早く早くと急かされて来た訳だが、一般世間における幼い妹を持った兄は外に出掛けるとなるといつもこんな感じなのか。

 

そりゃ体力もつくわ。

 

さて、今日はラウラと二人で雑誌のインタビューということで学園外に来ている。黛先輩に指示された場所へと向かっている訳だが、普段学生が来るような遊べる場所というよりかは、高層ビルが立ち並ぶオフィス街を俺たちは歩いていた。

 

オフィス街、とはいっても一般世間で言う休日にはなるため、サラリーマンの数はピーク時に比べると多くはなかった。ラウラが走れるスペースがあることが何よりの証明になる。

 

今回は学園に正式なオーダーが来ているものでは無いため、お互いIS学園の制服ではなく私服だった。俺はいつも通りというかこの前ナギと出掛けた時に購入したTシャツを着ている。

 

何気にこの服を着るのは今回が初めてだったりする。結構買ってから時間が経っているのに何故? と思うかもしれないが理由は一連の事件が尾を引いていたからだった。いい思い出だったはずなのに、爆破事件の被害せいで何とも後味の悪いものとなってしまったことは記憶に新しい。

 

やっとほとぼりが冷めてきたということで着てみたわけだが……デザインもいいし通気性も良いからコスパ最高なんだよなこれ。選んでくれたナギに感謝だ。

 

 

「ふふん、お兄ちゃんと初めて二人だけで出掛けるのだ。テンション上げるなというのが無理というものだろう!」

 

 

一方のラウラは可愛らしい白のワンピースを着ているが、容姿と雰囲気が相まって浮世離れした妖精のようだ。道行く男性のみならず女性までもが羨望の眼差しを向けてきた。

 

この服は前にシャルロットと出掛けた時に買ったものらしく、せっかく出かけるならと着てみたとのこと。純白のワンピースを身に纏う小柄な女性、それも絶世の美少女ともなれば似合うどころの騒ぎではなくなる。

 

良いチョイスをしている、選んでもらった相手がシャルロットで良かった。

 

 

「お、ここがインフィット・ストライプスの編集社だな」

 

 

と言っている間に目的地に到着した。

 

大きなオフィスビルの一角、その中でも特に目立つ綺麗に整頓された大きなエントランス。流石出版社というところか、自動ドアから見える先の受付には複数人の女性が並んでいる。

 

二人で自動ドアをくぐり受付の前へと進んだ。

 

少し不思議そうな表情を浮かべる受付の女性だが、こんなところに社会人でもない学生が来れば何をしに来たんだとなるのは仕方なかった。ましてや二人揃って眼帯してるし、どこの不審者だと思われているかもしれない。

 

即座に悲鳴を上げられて通報されないだけマシだろう。

 

 

「あ、驚かせてしまってすみません。本日雑誌インタビューで来ました。IS学園の霧夜大和と、ラウラ・ボーデヴィッヒです」

 

 

自身の名前を明かし、俺とラウラは怪しい者ではないという証明の為にIS学園の学生証を見せる。黛先輩からは念の為に持って行ったほうがいいとアドバイスはされていたが持ってきて正解だった。

 

俺たちの顔と差し出した学生証を交互に確認し、同一人物であることが確認できると手元から入館証の束を差し出す。

 

 

「失礼しました、霧夜様とボーデヴィッヒ様ですね。お話はお伺いしております。お二人から見て右手側のエレベーターで16階まで上がっていただき、お待ちいただければ幸いです。黛には到着した旨お伝えいたしますので、直ぐ迎えに来るかと思います。こちら入館証ですのでそちらのゲートにかざしていただき、エレベーターをご利用下さいませ」

 

「どうも、ありがとうございます。ほら、ラウラも」

 

 

入館証の片方をラウラに手渡しすると、それを頭上から首元に通す。受付に一礼すると俺たちは入館ゲートをくぐり、エレベーターの上の階行きのボタンを押した。

 

付近のエレベーターの一つのランプが点灯し、止まっていた機械が動き始める。平日の出勤時と被っていると中々エレベーターも来ないことが多いが、休日ということもあるのか比較的スムーズに来てくれそうだ。

 

 

「むむ……ちょっと緊張してきたぞ。お兄ちゃんと出掛けることは嬉しいのだが、やはり一般大衆向けの雑誌の撮影ともなると落ち着かん」

 

「俺もだ。しかしインタビューと言っても何を聞かれるんだろうな。答えられなかったら答えなくていいって黛先輩は言ってたけど……お、来た来た」

 

 

エレベータに乗りながら何を聞かれるんだろうと、想像を張り巡らせた。答えられない質問はないとは思うが、答えづらい質問は来るかもしれない。それこそ俺とラウラの関係とか。

 

兄妹を名乗ってはいるけど厳密な血の繋がりはないし、公的書類上も別人になる。取り繕った回答をしてしまうと、誤って認識されて見当はずれなことを書かれてしまうこともあるし筋の通った回答は必要になるだろう。

 

と、言っている間に目的地の階に到着し、エレベーター内の到着音が鳴り響く。目の前にあるボタンを押してラウラを先にエレベーターから降ろしてから続いて外に出た。

 

と。

 

 

「霧夜くんとボーデヴィッヒさんかな? お休みのところわざわざ来てくれてありがとう。あっちで席を取っているから案内するわね」

 

 

ふとエレベーターから出た先で女性に声を掛けられた。

 

自分たちより年上の人であることはもちろんだが、その雰囲気に既視感を覚える。

 

言われるがまま窓際の席に案内されると窓際に俺とラウラ、エレベーター側に女性の担当者が座った。

 

……ん、あれ。この見た目と眼鏡をかけた姿がピッタリな人が一人学園にもいるような。

 

 

「どーも。改めての自己紹介になるけど、インフィニット・ストライプス副編集長の黛渚子よ。妹からは色々と聞いてるわ。今日はよろしくね!」

 

 

そこで自身の名前を紹介される。

 

やっぱりというか何というか黛先輩の実姉だった。

 

これだけ似ていて兄弟じゃありませんというのは逆に無理があるだろう。年上ということもあって相応の落ち着きはあるものの、

表情や雰囲気に関しては黛先輩がそのまま成長したようだった。

 

 

「あっ、霧夜大和です。こちらこそよろしくお願いします」

 

「ら、ラウラ・ボーデヴィッヒです。今日はよろしくお願いします」

 

 

言葉尻からも分かるようにラウラはカチコチに緊張している。エレベーターの中ではまだ余裕があるように見受けられたが、実際に見知らぬ人と話すとなるとまた違うようだ。

 

こちらの緊張を悟ったようで、黛さんはニコリと笑いながら声を掛けてきた。

 

 

「そこまで緊張しなくても大丈夫よ、ボーデヴィッヒさん。えーっと、それじゃあ先にインタビューから始めましょうか。霧夜くん、女子校に入学した感想は?」

 

 

そんなこんなでいざ、インタビュースタート。

 

懐からボイスレコーダーを取り出すとそのスイッチを押すと、続けざまに質問を俺に投げかける。内容としては割とスタンダードな内容だった。

 

これに関しては特に悩む必要もないだろう、自分の体験談をそのまま話せば良いのだから。

 

 

「そうですね。最初のうちは好奇の視線を常に向けられるような生活でプライベートなんかはもってのほかで……外に出かけるのも苦労はしたんですけど今は割と慣れました。人間時間さえ使えば何とでもなるなと、今後の女性社会を生き抜くうえで自信になりそうです」

 

「あはは、そうだよね。中々大変だと思うけど、三年間楽しめそう?」

 

「えぇ、お陰様で。良い仲間にも恵まれて楽しくやれてます。ま、強いて言うなら男子トイレが遠かったり、入浴時間が限定されているところが大変というか。女性しか居ないところに突貫工事で男性用設備を追加したみたいなので、特有の不便さは感じてますかね」

 

「ふふっ、そこは織斑くんも言ってたわ。でも妹の言っていた通り、織斑くんとはまた違ったタイプね」

 

 

黛さんはフフッと堪えきれずに笑った。

 

さらっと一夏の話題を出されるところを見ると、同じような質問を投げ掛けたようだ。

 

ただ反応を見る限りだと、一夏は即物的な不満を言ったと見受けられる。トイレが遠いみたいな、黛さんもおそらく笑ったに違いない。俺も同じことを目の前で言われたら笑う自信しかない。

 

 

「さて、じゃあボーデヴィッヒさん。ボーデヴィッヒさんは代表候補生として、そしてドイツ軍の部隊を取りまとめる立場だって聞いているわ。その年齢でかなり多忙な毎日何かしらだと聞いているけど、どう?」

 

「は、はい……幸いなことに、私は部下にも恵まれて軍の仕事も上手く回せています。そのほとんどが副官に任せている状態なので、私自身が忙殺されるということはないです。代表候補生としては特に自分が強くて選ばれた存在とは思ってはいません。私よりも強い人は沢山いるしその人たちに負けないように毎日鍛錬を積んでいます」

 

 

うんうん、言葉遣いは少したどたどしい部分もあるけど聞かれたことをしっかりと答えられていた。相手とのキャッチボールがしっかりしているし、聞き手としてもかなり聞きやすいだろう。

 

普段ラウラがあまり使わない言葉遣い故に多少の違和感はあれど、受け答えとしては十分過ぎた。インタビューをするって決まってから今日に向けて、シャルロットと受け答えについてかなり練習したと聞いている。

 

元々教え方の上手いシャルロットだ、他の誰かが教えるよりも分かりやすいし、ラウラにとっても噛み砕きやすかったに違いない。

 

 

「そうなんだ。二人とも頑張っているんだね。じゃ、霧夜くんとボーデヴィッヒさんはどちらが強いのかしら。二人とも学年の中でも実力者って聞いているけど」

 

 

話の流れのまま、次の質問へと移る。

 

ふむ、どちらが強いと来たか。

 

少し考え込んでみるもののこればかりは明確な実戦データがある訳じゃないし、そこまでラウラと交戦経験がないから判断が難しいんだよな。

この前のキャノンボール・ファストは俺の方が順位は上だったが、これはお互いの潰し合いが大前提になるしそこだけでお互いの優劣をつけるのは難しい。

 

あれ、実は俺ってそんなにラウラと戦ったことが無かったりする?

 

というかしばらくの間専用機を預けていたせいで、ほとんど俺専用機で戦っていない気が……。

 

 

「それは間違いなくお兄ちゃんですね」

 

 

と、考え込む俺を他所にラウラが即答した。

 

思わずぽかんとしてしまうものの、構わずラウラは続けていく。

 

 

「そうなの?」

 

「はい。確かに他の同年代の生徒たちと私を比べたら、私と答えるかもしれません。でもお兄ちゃんは出会った中でこの人には何をやっても敵わないな、こんな人になりたいなって思えた人なんです。実際にちゃんと戦ったら私は勝てる気がしません」

 

「ほほう、それはまた何か理由があるのかな?」

 

 

黛さんの目がキラリと光り、先ほどよりもぐっと身体を前のめりにする。

 

インタビュアーにとって記事となる一番のポイントにもなるし興味は俄然湧くだろう。

 

しかし改めて言われるとなんか恥ずかしいな、IS戦闘に関しては俺以上の稼働時間を誇る人間なんてごまんといるし、それを加味して言ってくれているともなると思わず頬を緩めてしまう。

 

 

「お恥ずかしい話ですが、IS学園に編入した時の私は人付き合いなんか到底出来る人間では無かったんです。実際そんな私に対しても、ラウラ・ボーデヴィッヒ一個人として初めて向き合ってくれたのがお兄ちゃんで……。実際に手を合わせることもあったんですがとてもかないませんでした」

 

 

あぁ、屋上でのやり取りのことをラウラは言ってるんだろう。確かにあの時俺は別に疲れもしなかったし、体力的な余裕は十分なくらいにあった。

一方でラウラは息も絶え絶え、最後は立ち上がるのもやっとというところまで追い込まれていた。

 

あの一戦だけで判断するなら、ラウラよりも強いということにはなる。

 

 

「やる以上負けるつもりは無いですし、勝つつもりでやるのは当然ですが、それでも勝てるとは言い切れません」

 

「おぉう……良いね良いね、中々熱いエピソードだこと! ボーデヴィッヒさんも結構硬い感じって妹には聞いていたけど、丁寧語で話すのも様になってるじゃない」

 

「そ、それは練習をしたというか……その、仲間のフォローもあってというか」

 

 

元々のラウラのキャラは黛先輩から伝わっているはず。黛さんにも今のラウラと学園生活を送るラウラでキャラが違うというのは分かっていた。

 

話し方も様になっていると褒めるられると、それまで平静を装っていたラウラの顔が紅潮してしどろもどろになる。話し始めた瞬間はラウラに似た別人かと勘違いをしてしまうほどだったが、これはこれでキャラが立っていい感じかもしれない。

 

先日、お兄ちゃんに釣り合っているのか不安だと漏らしていたこともあり下手な姿は見せられないと、自身のキャラが変わるほどに練習したわけだ。

 

その姿勢は簡単にできるものではなく称賛に値するし、こういう真っ直ぐ突き通せるところってラウラのいいところだよな。

 

 

「ラウラ自身も今日に備えて短期間で凄く練習したって聞いています。普段の彼女のイメージをガラッと変えるってことなので、並大抵のことではないはずです。自分の至らない部分に向き合って取り組む姿は自分以上かと、見習わないといけないなって思ってます」

 

「お、お兄ちゃん……」

 

「あらあら〜素敵な兄妹愛! 噂には聞いていたけど仲睦まじくて羨ましい限りね!」

 

 

義妹であることについてはある程度話が行っていることもあるようで深く追及されることはなかった。それを言ったら千尋姉と俺の関係だって血縁関係は一切ない義姉の関係になる。

 

親が離婚して再婚した時にお互い子供がいたら直接の血縁関係は無いわけだし、よくあるかと言われるかと言われるとそういうわけじゃないが、決して珍しいことではないと思ってる。

 

せいぜい色々あるんだな、くらいで終わるだろう。

 

 

「ははっ、いえいえ。でも大切な妹であることには変わらないので……これからもしっかりと見守っていきたいと思います」

 

「う、うぅ……」

 

 

プシューと煙を吹いてラウラは俯いてしまった。

 

褒めることがないわけではないが、ここまで褒めちぎることはこれまでなかったし、人前で褒められることに慣れていないらしい。

 

両手の人差し指をツンツンと付け合わせる。

 

 

「良い関係を見せられるとこっちが妬けちゃうな〜。霧夜くんとボーデヴィッヒさんの関係だけで雑誌書けそうよ。でも今回はインタビューもだけど撮影もあるから、二人の関係についての話題は全部書けないけどごめんね?」

 

「あぁ、いえいえ。その辺は上手く調整して貰えれば大丈夫ですよ」

 

 

全部書いていたらかなりのページ数になるに違いない。見せ方は編集者の腕の見せどころになるし、そこはこちらで辺に要望せずに任せてしまった方が良さそうだ。

 

 

「そう言ってくれると助かるわ。それじゃ、インタビューは一旦この辺りにして撮影に入ろうか。合間で話を聞くことになると思うけど、協力してくれるかな?」

 

「えぇ、もちろんです。自分たちが協力出来る範囲であれば喜んで」

 

「そう、助かるわ。じゃ、更衣室に案内するわね」

 

 

インタビューは一区切りとなり、俺とラウラはそれぞれ別の更衣室へと案内されるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ……どうですかね?」

 

「あらー良いじゃない! 体格的にも似合うと思ってたけどやっぱり間違いなかったわね! 着せられているというよりも着こなしているって感じかな。霧夜くん、同世代の人と比べても雰囲気大人びているし黒スーツは似合うと思ったのよ!」

 

 

所変わって撮影ブース。

 

一足先に着替えを済ませた俺は照明付近に立ちながら、黛さんに違和感がないかを確認する。自分のISに合わせた黒基調のスーツに青色のワイシャツ、ネイビー色のネクタイを組み合わせた訳だが、目をキラキラさせながら完璧じゃない! と反応してくれるあたり着こなしに違和感はなさそうだった。

 

多分学生としての観点で見た同世代の中ではスーツを着ている方だと自負しているし、色の合わせ方も全く分からないわけではない。偶々ラックに掛かっていたスーツをチョイスしたわけだが、スタイリストもある程度協力してくれて撮影に出ても大丈夫なようには準備した。

 

髪もちゃんとセットをしたし、大きな問題は出ないはずだ。

 

 

「そうですかね。そう言っていただけると嬉しいです」

 

 

とはいえ、人から着こなしを褒められるのは嬉しい限り。黛さんにお礼を伝えて準備をしているラウラの到着を待つわけだが、時間が掛かってしまうのは女性故に致し方ない。

 

むしろ男性よりも早く着替えとヘアセットが終わっているなんて早々ないだろう。細かい部分まで気を使わなければならないし、到着するまでゆっくり待つとしよう。

 

今日は他に予定もないし、この撮影に多少の時間をかけた所で弊害はない。

 

 

「お待たせしました〜ボーデヴィッヒさん入りまーす!」

 

 

と、思いの外早くラウラの名を呼びながらスタッフがスタジオに入って来た。

 

想像よりも早く準備か済んだようで照明器具の間を先導して入ってくるスタッフが一名、そのスタッフに続く形で入ってくる小柄な女性が……ってえ?

 

 

「……」

 

「お、お兄ちゃん……」

 

 

思わず言葉を失ってしまった。

 

着慣れて居ないようで視線を這わせながら恥ずかしそうに手を合わせるラウラ。チラチラと俺のリアクションを伺う仕草を見せることから、早く反応を見たい気持ちもあるらしい。

 

朝着ていた白のワンピースから大きくグレードアップした純白のドレスを着ていた。まるで結婚式で新婦が着るような眩い光沢が神秘的な雰囲気を醸し出している。

 

ドレスのロングスカート部分に付いているのは本物のダイヤだろうか。ワンピースを纏うラウラが妖精だとすると、これはまるで幻想上の王女のようだった。

 

一言で褒めると、似合い過ぎている。

 

ある程度身長があってスタイルの良い人間が着るとまた違った雰囲気になるんだろうけど、ラウラのような少し小柄で特殊な髪色の女性が着ると完全に浮世離れした存在になる。

 

 

「そ、その、折角だから普段あまり着たことのない服をと選んだんだが……に、日本の男性はこういう純白のドレスが好みだと聞くし私も一応女性だ! 一度はお姫様になってみたいと思って、えっと……」

 

 

モゴモゴと照れながら言葉を続けるラウラが可愛らしかった。こんな機会にしか着れないのだから憧れのドレスを着てみたってところか。

 

女性にとって純白のドレスを着ることは特別であり、そして憧れでもある。自身のバージンロードを歩む時に着る唯一無二の服装なのだから。

 

そっちのことにはまだ無沈着だと思っていたけどラウラも色々考えるようになった、成長したんだと思うとどこか感慨深いものがある。そういう年齢になったんだと、いやまぁ同い年なんですけどね。

 

それでも少し前までのラウラからは聞かれなかった内容なのは間違いない。女の子らしい、女性らしい服装に憧れを抱く、兄離れももしかしたら早いのかもしれない。

 

 

「そっか、夢が叶っていいことじゃないか。それにドレス姿のラウラも可愛いと思うぞ?」

 

「へ? かかかかか可愛い!!? う、うぅううう……」

 

 

ボンッ! と頭から湯気を出しながら俯いてしまうラウラ。憧れとはいうものの、日頃から豪華絢爛な服を着ることはあまり無いし、いざ褒められるともなると慣れてはいないようだ。

 

それでも口角が上がっている様子を見る限り満更でもないらしい。

 

そんなラウラの様子を見ながら黛さんは微笑ましい表情を浮かべた。

 

 

「ボーデヴィッヒさんって本当に可愛いわよねぇ。年齢を重ねると昔みたいに呼んでくれなくなっちゃうわけだけど、二人の関係を見ていると何だか昔を思い出すわ」

 

「昔……っていうと黛先輩の?」

 

「えぇ。ホラ、私と薫子って割と年齢が離れてるからさ。私が小学校に上がってからあの子は生まれてきたんだけど、小さい頃はお姉ちゃんお姉ちゃんって、何処に行くにしても金魚のフンみたいに着いてきたのよ」

 

「そうなんですね……確かに今の先輩の感じを見るとこう、頼りがいのあるお姉さんって感じがしてお姉ちゃんって呼んでいる姿はあまり想像出来ないかもしれません?」

 

「でしょ? それでも昔はそうやって呼んでくれたの。あの娘もいつの間にか大きくなっちゃって」

 

 

俺とラウラの関係を見ながらどこか感慨深く過去を顧みる黛さん。

 

自身の妹が成長する過程は俺なんかよりもはるかに長く見てきているし、口から溢れる言葉は本心に違いない。歳を重ねれば姉妹関係は変わらなくとも、見た目だけではなく口調も大きく変わる。

 

その時は一瞬しかない。

 

今日というこの時間はもう二度と訪れない。

 

だからこそこの一瞬を大切にして欲しい。そんな意味合いが込められているのかもしれない。

 

 

「あ、ごめんなさい。私のことばかり話してたら今日の本題からずれちゃうわね。さっ、気を取り直して撮影を始めましょうか!」

 

 

このままでは自分の過去を語って時間を費やしてしまうと判断し、半ば強制的に話を切り上げると改めて撮影へと移る。

 

中央に設置されたカメラを元に、俺とラウラに場所の指示を飛ばした。

 

 

「霧夜くんとボーデヴィッヒさんは真ん中に座って……あっ、もうちょっと近いほうが良いかな。ボーデヴィッヒさんもう少し隣に詰めてもらえる?」

 

「は、はい!」

 

 

黛さんの指示に緊張しながら俺との距離感を詰めてくる。

 

やがて俺の左腕にラウラの右腕が触れると、控え目に上目遣いを向けてきた。いやいや、その不安そうな表情は反則すぎじゃないか。

年下っぽいキャラが強いラウラだが、改めて間近で見ると圧倒的に可愛らしい顔立ちをしている。

今回は撮影用に普段下ろしている髪の毛も後ろで束ねてポニーテールにしていて、よりスタイリッシュな印象があった。

 

小柄ではあるがクールなお姫様、とでも言い表せば良いか。

 

俺がラウラを一人の女性として見ていたら、心臓の高鳴りが収まることは無かったに違いない。多分俺は俺でずっと緊張していたと思う。世の中の男性が自身の妹に抱く理想のイメージを全て網羅しているんじゃないかこれ。

 

 

「あ、その感じ良いね! じゃあこのまま二、三枚撮るわよ〜!」

 

 

カシャカシャとフラッシュが焚かれると同時にシャッター音が鳴り響いた。カメラの向きを変えてまたシャッターを押すを繰り返す。

 

ある程度枚数を撮ったタイミングで再度黛さんは口を開いた。

 

 

「そろそろポーズ変えてみようかな。二人とも立ち上がって……そうね、そのまま向き合ってみて」

 

「えっと……こんな感じで良いですか?」

 

「うん、大丈夫! 後は距離感なんだけどもっと身体密着させてもらえる? 霧夜くんがそのままボーデヴィッヒさんを抱き寄せる感じで、片手はそのまま腰に回してもらって良いかな」

 

「こ、腰!?」

 

 

かぁっと顔を赤らめるラウラだが赤面するのも無理はない、まるで恋人のようなツーショットなのだから。

何度も言うけど俺とラウラは形式上兄妹として通っているけど、実際の血の繋がりはないから普通に他人同士の関係になるわけで。

 

お兄ちゃんと俺自身を慕うラウラであったとしても、流石に恥ずかしい気持ちにはなる。

最もキャラチェンジした初期の頃のラウラであれば恥じらいなど無用で飛び付いてきただろうが、ここ最近はナギやシャルロットから正しい知識を吹き込まれていると聞いている。

 

その知識が徐々にラウラの中にも浸透してきているようで、裸で潜り込んでくるとか一緒にお風呂に入ろうとかは少なくなった。もしこれが学園内とかだったら抱きついてくることに抵抗は無かったかもしれないが、このワンシーンが雑誌に載るのであれば少し躊躇するのも仕方ない。

 

 

 

「っ! だ、大丈夫だ。お兄ちゃん、よろしく頼む!」

 

「あ、あぁ。くれぐれも無理はするなよ? 恥ずかしかったら恥ずかしいって言ってもらって大丈夫だから」

 

「な、なんのこれしき!」

 

 

いや、ラウラさん。これは別に訓練とかじゃないからな?

 

大丈夫だと言いつつも何かぎこちないしキャラブレているしこれ大丈夫なのか。

 

とはいえ本人が大丈夫だと言っている手前、俺としては退く訳にもいかないし……まぁもう腹を括るしかないか。

 

 

「分かった。ラウラ、ちょっと恥ずかしいかもしれないけど失礼するぞ」

 

「ん……ひゃっ」

 

 

右手を腰に回して優しくラウラを自身の方へと引き寄せると、小さく声を漏らす。いつも抱きついてくるみたいに力いっぱい引き寄せてしまうと恥ずかしさも増幅するだろうし、少しでも気持ちを落ち着かせるように努めて側に寄せた。

 

ぽすっと音を立てて、いつもと同じように俺の胸元に顔を埋めてしまったわけだが、顔が隠れてしまうと撮影の意味がない。

 

黛さんは俺たちの様子を見つめながらふふっと笑みをこぼすと、改めて指示を飛ばした。

 

 

「そのショットも良いんだけど、もうちょっとこっちに顔を向けてもらって凛々しい雰囲気の表情って作れるかな?」

 

「む、難しいな……こ、こうか?」

 

「んー……もう少しキリッとした感じというか、目力入れて見てもらってもいい? ……って、ちょっとそれは怖すぎかな、もう少しマイルドな感じでいいよ!」

 

「むむむ、そう言われても……こ、これでどうだ?」

 

「そう、それそれ! いいよそのクールな眼差し! 眼帯ペアってやっぱりかっこいい雰囲気の写真は特に映えるわね! それじゃあ次は……」

 

 

その後も黛さんに言われるがまま様々なポーズで撮影を繰り返し、一連の作業が終わるのはそれから数時間後のことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、そこそこに大変だったな。ラウラ、体調は大丈夫か?」

 

「う、うむ……」

 

 

撮影が終わり、帰路に着く俺とラウラ。

 

インタビューと撮影時間を合わせるとおよそ数時間、出版社に滞在していたわけだが、慣れないキャラで頑張ったためかラウラの表情は少し疲れているように見えた。

 

最後の方は元の口調に戻ってしまったラウラだが、周囲から素のラウラも可愛らしいと褒められていて満更でもない様子だった。

 

夕暮れの海沿いを二人並んで歩く。こうして落ち着いた帰路につくのは久しぶりかもしれない。

 

 

「仕事の一環と言うのは分かるがその……兄妹のスキンシップは気心知れた場所でやりたいというか。分かって今回は参加したとは言っても、やはり撮影会は苦手だ」

 

「そりゃそうだ。俺だって得意なわけじゃないし、写真を撮られるのが好きなわけでもない。専用機持ちの仕事として今回は参加したわけだから多少の割り切りは必要だろう。ま、ラウラが兄妹のスキンシップがしたいって言ってくれるのは嬉しいけど」

 

「むぅ、お兄ちゃん……意地悪はダメだぞ。でも今日は初めてお兄ちゃんと二人で出掛けられて楽しかった。生まれた時から兄妹だったら、もっと色んな場所に行けたのだな」

 

 

満足そうな反面もう少し早く……それこそ生まれた時から兄妹関係にあればより二人で何処かに出かけることが出来たのかもしれないと言う。

 

生まれてから今日に至るまで約十六年。

 

確かにこれだけの期間を一緒にいたと仮定すると、色んな場所に二人で出掛けることも出来ただろう。

 

だからといって出会いが遅かったとは思わない。

 

そもそも二人揃って遺伝子強化試験体なわけで、境遇も似ているし生まれた時から同じような血を分けた兄妹のようなものだった。例えば邂逅したのがそこから十六年後の今であったとしても、これまでの過去など関係ない。

 

 

「違うぜラウラ。IS学園で出会えたから親しい仲になれたんだ。出会いに早いも遅いもない、楽しい思い出なんてこれからいくらでも作っていけるさ」

 

 

これから新しい未来を作っていけば良いのだから。

 

どれだけ嘆いたところで過去は戻ってこない。でもこれから先の未来の思い出は作っていける。

 

 

「ラウラだって、そのつもりなんだろ?」

 

「もちろんだ! お兄ちゃんとの時間はいくらでもあるからな、これからもっとももっと楽しい思い出を作ってみせる!」

 

 

 

パァッと明るい笑みを見せるラウラ。

 

時間は有限とはいえ、まだまだ自分が老いていくのは先の話だ。いくらでも遊びに行くことは出来るし、可能な限りラウラも共に時間を過ごすことだって出来る。

 

未来に期待を膨らませられるからこそのラウラの表情なのだろう。

 

慣れないイベントだったが悪くない一日だった。

 

 

「それも、少し話は変わってしまうのだが……お兄ちゃん」

 

「ん?」

 

 

と、今日の余韻に浸っていたら不意にラウラが話題を変えようとしてきた。

何だろう、先ほどの明るい表情とは一転して少し緊張しているというか話しづらい雰囲気を醸し出している。俺に何か聞きづらい内容でも話そうとしているのだろうか。

 

 

「生徒会長と……その、更識楯無と何かあったのか?」

 

「……」

 

 

あぁ、あったわ。

 

俺としても話しづらいし、第三者からしても聞きづらい内容が一つ。ラウラの聞き方は特に曲がりくねったものではなくド直球そのものだった。

 

とはいえ本人も俺が話してくれる内容なのかどうかはラウラも分からないのだろう。それでも放っておけなかった、聞いておきたかったのかもしれない。

 

ラウラの反応を見るからに()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……中々回答に困る質問だな。まぁ結論だけ言うならあった、というのが回答になる」

 

 

その質問に対して俺としてはそれ以外の回答のしようがない。

 

ラウラが気まずいと思っても聞いてくる時点で、ある程度の確証を持っているからだ。

 

正直に言えば何も無かったわけがなかった。

 

 

「お兄ちゃん、一体何が……」

 

「ラウラ、多分ある程度のことは楯無に聞いてるのかもしれない、その中で今俺が言えることとしたら……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――結果として楯無を傷付けてしまった。それだけだ」

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