IS‐護るべきモノ-   作:たつな

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クラスに男子は二人だけ

―――IS学園入学当日。

 

 まさか今まで自分達がこの場所に足を踏み入れる何て予想もしなかった。電車に乗ってしばらく。乗っている間、電車から見ることが出来る海の景色を観覧しながら時間を潰していたわけだが……IS学園って陸の孤島だったのな。

 

自分にとって全く無関係なものだとばかり思っていたために、どこにIS学園があるなんてのは興味がなかった。ISに関してはそれ専用のゲームも出来ているわけだし、俺も若干の認知はある。

 

とはいえIS学園に入ると決まってからそれからが大変だった。中でも電話帳かと思うような馬鹿みたいに分厚い参考書を読んでおけって言われたのには骨が折れた。日数をかけてそれなりのことは分かったが、IS学園じゃこの程度の知識は覚えて当たり前。むしろ何で覚えられないのかって感じかもしれない。

 

覚えられたって言ってもほとんどうろ覚え状態だし、こりゃ授業が始まってからの苦労が目に浮かぶ。自分で選んだ手前、責任はすべて自分にある。自分で何とかするしかない。

 

 

 

で、今俺はどこにいるのかというと教室の中にいる。

 

クラス分けは幸いなことに、もう一人の男性操縦者と同じになれたわけだが、そんな喜び以上に周りからの視線というものはきついものがあった。極めつけは時間帯が時間帯のためだけに誰も話そうとはしない。

 

 

「………」

 

 

 俺の席は前から二番目、詳しく言うと教室のど真ん中の列の二番目。んでこの列の一番前、つまり俺の前に座っているのが一番最初に現れた男性操縦者、織斑一夏。かの有名な織斑千冬さんの弟。

 

こんな場所に男性が放り込まれたら誰だって落ち着かないのは同じ、周囲を見渡しても目に入るのは女性だけだから。あくまで平静こそ装っているが、俺も俺で緊張はしている。だって周囲を見渡しても目に入るのは女性だけだから……大事なことなので二回言わせてもらった。

 

そんな落ち着かない理由を挙げてみたものの、織斑一夏の場合は如実だった。さっきから左手を閉じたり開いたり、顔だけキョロキョロ動かすなど、全くと言っていいほど落ち着かないらしい。

 

普段だったら自分の行為が如何に恥ずかしいかすぐに分かるものだけど、どうやら織斑はそんなことを判断している余裕もゆとりもないようだ。さっきから同じような動作を機械のように繰り返し行っている。

 

慣れればどうか分らないけど、今の状況は天国のような地獄。そう捉えられないこともない。

 

俺から見た考察をしていると、教室の扉が開かれて一人の女性が入ってきた。

 

 

 

「皆さん入学おめでとう! 私は副担任の山田真耶です」

 

 

 先に入ってきたのはこのクラスの副担任の方だった。見た感じだと先生っていうよりも生徒って感じがする。年齢なんかも俺達なんかよりは上なはずなのに、年相応の雰囲気ってのは無い。IS学園の制服を着て入ってきたら誰もが遅れてきた生徒だと疑わないだろう。

ただ、何だろう。この先生色々な意味で苦労してそう。……いや教師っていう職業柄苦労するものではあるんだけど、その……主に外部的な意味で。

 

居酒屋に入ろうものなら未成年と間違われて身分証確認する前に追い出されそうだ、ここは高校生お断りしてますみたいな感じで。後は名前、もう完全にからかってくださいって言っているような名前だ。

 

でも顔立ちは幼く見えるという以外は、すごく可愛らしいと思う。後特に胸回りが。後IS学園の教師をしているんだからISの操縦技術なんかもそれ相応に高いんじゃないんだろうか。

 

 

山田先生は簡単な自己紹介を済ませたものの、周りの反応は実に冷やかなものだった。というよりクラスの過半数の視線が山田先生ではなくて織斑にいっていることが主な原因かなこれは。しらけさせたわけではないんだろうけど、完全にしらけムード満載で自己紹介した山田先生が悪いみたいな感じになっている。

 

このクラスの様子を目の当たりにした山田先生もどうしていいか分らずにただおろおろするばかりだ。

 

……仕方ないな。

 

 

「……よろしくお願いします」

 

 

助け舟ってわけじゃないけど、相手に伝わるくらいの声で返事を返す。するとそんな俺を確認した山田先生の表情はパァッっと明るくなり。

 

 

「あ、ありがとうございます! 霧夜くん!」

 

 

眩しいくらいの笑顔を見せてくれた。よほど嬉しかったんだろうけど、もう少しみんなは反応してあげてもいいんじゃないかななんて思う。

 

俺に笑顔で返してくれた山田先生は、さらに話を進めていく。

 

 

「さて、今日から皆さんはこのIS学園の生徒です。この学園は全寮制、学校でも放課後でも一緒です。仲良く助け合って、楽しい三年間にしましょうね」

 

 

「ういっす」

 

 

またも山田先生に反応を返すのは俺ただ一人。みんな聞いてない訳じゃないんだろうけど……何だろう、少し山田先生がかわいそうになってきた。

 

 

「じゃ、じゃあ自己紹介をお願いします。えっと……出席番号順で……」

 

 

 一応山田先生の自己紹介も終わり、今度は俺達生徒の自己紹介が始まった。一番の相川さんから自己紹介が始まったのはいいけど、一番前の織斑の挙動不審な行動は相変わらず。すると不意に織斑の視線が一ヶ所に固定されていたことに気付く。

 

誰かに助けを求めているのか、視線が左側に向く。その視線は窓際に座る一人のポニーテールの女性を捉えていた。

 

その視線に気がついたのか、ポニーテールの女性は容赦なしに窓の方を向いてしまう。それと同時にぐったりと首を垂れる織斑。この状況を打開する最後の希望だったのか、希望をぶち壊されてどんな表情を浮かべているのかも気になるけど、生憎ここからじゃその表情を確認することは出来なかった。

 

自己紹介は滞りなく進み、いよいよ一人目の男性操縦者、織斑一夏の自己紹介の番だ。

 

……というのにも関わらず、一向に立ち上がる気配を見せない。そんな様子に山田先生も、二度三度声をかける。

 

 

「織斑くん、織斑一夏くん!」

 

「は、はい!」

 

 

その瞬間にクラス中からクスクスと笑い声が上がる。何に対して笑っているのかよく分らないけど俺の時はこんな笑い声が起こらないように注意して自己紹介を行いたい。

 

 

「あの、大声出しちゃってごめんなさい。でも、『あ』から始まって今『お』なんだよね。自己紹介してくれるかなぁ? ダメかなぁ?」

 

 

 何だろう、この二次元のアニメにでも出てきそうな優しい人は。普通だったら教師の方から話を聞け的な感じで怒ってくることが多いのに。

 

 

「いや、あの……そんなに謝らなくても。えー……えっと、織斑一夏です。よろしくお願いします……いっ!?」

 

 

 まぁとにかく自分の順番が回ってきた以上、腹をくくるしかない。何かを決心したかのように、織斑は勢いよく立ち上がって自己紹介を行った。

 

その自己紹介と同時に、ただ見られていた視線が一層強い明確な『興味』を持った視線へと変わる。ところがどうやら本人は話すことが無くなったらしい。これで終わりでいいと思っていた織斑も視線に気がついたのか再びきょろきょろし始める。そして今度また手を震わせながら、あーでもないこーでもないと考え始めた。織斑の反応を見ようと女子は興味津々だ。

 

 

「――――はぁ、すぅ……」

 

 

再び息を吸い込む。雰囲気が変わったことを周りは察したのか、織斑に対する視線は今日一番のものになっていた。

 

腹を括ったのか、力強く手を握りしめながら口を開いた。

 

 

「以上です!」

 

「……は?」

 

 

 まさかの一言で、何年も漫才をしているかのような年期の入ったズッコケを見せてくれる。ここはISだけじゃなくて芸人を養成する機関でもあるのか……と頭の片隅に思いつつも、再び我に返る。

 

期待を見事に裏切るボケを見せてくれた訳だが、本人はこれでよかったと思い込んでいたんだろう。クラスメイト達の予想外の反応にあわて始める。そんな近くに一つの黒い影があるとも知らずに。

 

 

「え、あれ? ダメでした……うぐぅ!?」

 

 

 後ろにいる俺からははっきりと見えた動きが、周りの反応が気になっていた織斑には気付かなかったらしい。表現としては拳骨の音というよりも、バットが頭を殴打したんじゃないかと思うくらいの鈍い音だった気もした。

 

織斑は殴られた個所を押さえて、自分を殴ったであろう相手を確認する。

 

 

「うぐぐっ、いっつー……げぇっ、関羽!?」

 

 

 素直に名前を答えておけばいいものを、三国志の武将の名を口走ったせいで今度は出席簿ではたかれる。見ているだけならタダだけど……すっげぇ痛そう。今ので織斑の脳細胞の大部分が潰れたんじゃないかって思うくらいに。

 

さて、そんなわけで俺と織斑の前では仁王立ちした千冬さんが立っていた。しかしこうして改めてみるとオーラが違う。初めて会った時もオーラは凄かったけど、改めて教師としての千冬さんを見るとよりはっきりとそのオーラを感じることは出来た。

 

 

「誰が三国志の英雄か、馬鹿者」

 

「あ、織斑先生。もう会議は終わられたんですか?」

 

「ああ、山田君。クラスへの挨拶を押し付けてすまなかったな」

 

 

 織斑も実の姉である千冬さんだと気がつくと、驚きの表情を隠すことなくポカーンとしていた。当然と言えば当然か。喫茶店で聞いた話じゃ、織斑は千冬さんがどこで働いているのかを聞かされてなかったわけだし。

 

織斑が聞いても「お前はそんなことを気にするな」って一蹴してたみたいだから、その反応はよく分かる。あ、俺はあの時に聞かされていたからもちろん知っているぞ。

 

山田先生も千冬さんが来てホッとしたのか、さっきの慌てるような表情が消える。そんな山田先生に優しく微笑むと、コツコツと音を立てながら教壇の上に立ち、そして勢いよくこちら側に振り返った。

 

 

「諸君、私が担任の織斑千冬だ。君たち新人を一年で使い物になる為のIS操縦者に育てるのが仕事だ」

 

 

 醸し出す雰囲気は教師っていより軍人って感じだ……一言一句に迫力があり過ぎて、嫌ですなんて逆らう気なんて無くなる。いや、別に俺にそんな気があるわけじゃないよ? あくまでそういう反抗的な態度をとるような人間がいたらそうなるわけで……。

 

……何だろう、この嵐の前の静かさは。何か猛烈な何かが起きそうな気がする、手が勝手に両耳をふさぐように動いた。人間危ないときっていうのは本能で行動するっていうし、これには逆らわない方がいいかもしれない、いや良いに違いない。

 

 

 

 

 

「キャ―――!!!!!」

 

 

 

 

 

 案の定、予想通りというか。猛烈なまでの黄色い歓声がクラス中に響き渡った。あらかじめ耳をふさいでなかったらやばかったかもしれない。両耳ともふさいでるのに、一字一句はっきりと聞き取れるあたり、その黄色い歓声とやらの威力が如何にすごいものなのかよく分かった。

 

 

「千冬様! 本物の千冬様よ!」

 

「私、お姉様に憧れてこの学園に来たんです! 北九州から!」

 

 

ブリュンヒルデともなれば少女の憧れの的になるわけだ。憧れてここに来るなんて夢があるじゃないか。

 

 

「私、お姉様のためなら死ねます!」

 

 

おいおい、何か発言が過激すぎやしないか? 千冬さんのために命を投げ出す覚悟なのはいいとしても、千冬さんはそんなこと望んではいないと思うぞ。もちろん訓練なんかは死ぬ気でやれっていうだろうけど。

 

 

「毎年、よくもこれだけ馬鹿者が集まるものだ。私のところにだけ馬鹿者を集中させてるのか?」

 

 

やれやれといった感じで頭を押さえる千冬さん、どうやら本気でうっとおしいと思っているみたいだ。毎年ってことは今年に限ったことじゃないのか。毎年っていうか多分これからも毎回こんな感じじゃないかな、千冬さん言わば時の人なわけだし、どの生徒が来ていたとしてもこれは恒例行事になりそうだ。

 

そんな千冬さんを尻目に、クラスの女子たちのテンションはますますヒートアップしていく。

 

 

 

「お姉様! もっと叱って!もっと罵って!」

 

 

公然でマゾ宣言とか凄いな、俺見たことないぞ。

 

 

「でも時には優しくして!」

 

 

うん。正直話した感じだと、ザ・スパルタ教育って人だからそれは無理じゃないかな?

 

 

「そしてつけあがらないように躾をして~!」

 

 

ハイ二人目の宣言者発見、今日もIS学園は平和です。

 

なんて馬鹿なことをやっている場合じゃなかった。こんなことやっててよく苦情が出ないなこれ。もう学園公認とか暗黙の了解って域にまで達してしまっているのか。

 

騒ぎ立てている彼女たちを尻目に、千冬さんは握り拳を作りながら織斑を睨みつける。

 

 

「で? 挨拶も満足に出来んのか、お前は?」

 

「い、いや、千冬姉。俺は……」

 

 

最後まで言い切る前に織斑の顔が出席簿で叩かれる。もはや出席簿の出す音ではない。複数回殴られているせいで、いつか織斑の脳細胞がなくなるんじゃないかと心配になってくる。

 

いくら身内だからって、ちょいと厳しくし過ぎな感じも……ま、そこは大丈夫か。

 

 

「織斑先生と呼べ」

 

「……はい、織斑先生」

 

 

俺も呼び方には気をつけるとしよう。まかり間違って学校内で名前なんて呼ぼうものなら出席簿で殴られること間違いない。

 

 

「え? 織斑くんって、あの千冬様の弟?」

 

「じゃあ、ISを使えるって言うのも、それが関係してるのかな?」

 

 

 ようやく気が付き始めたか、まぁ気がつくのがちょい遅い気がするけど、それだけ千冬さんに夢中だったってことでいいか。

それよりもこのままだと自己紹介が終わりそうな雰囲気なんですが……。

 

 

「静かに! まだ自己紹介は終わってないぞ!」

 

 

あぁ、よかった。このまま忘れられたらどうしようかと思った。まさか一年間名無しくんとして生活を送るはめになるんじゃないかと思ったけど、最悪の事態は防げたみたいだ。

 

 

 

 

「霧夜、お前もまだ自己紹介が済んでいないだろう? お前は一度もメディアに顔を晒したことが無かったわけだし、ここが初顔合わせになるわけだ。そこの織斑よりもまともな自己紹介を期待しているぞ。もし織斑と同じようなら……」

 

 

分かっているなと、無言の威圧で納得させられる。一応考えてはあるが、もしお気に召さなかった時のことを考えると気が気じゃない。

 

 

「はい、分かりました」

 

 

 あくまで落ち着いて、前を見据える。先ほどまでは織斑に向いていた視線が、今度は一斉に俺の方へと向く。今度はそれに千冬さんの視線がプラスされたわけだが、言う事は変わらない。そして軽く深呼吸をして、閉じている口を開いた。

 

 

「……霧夜大和です。適性検査で偶々ISを動かし、ここに入学することになりました。趣味は料理と読書。特技も一応料理かな。話しかけにくい子も居るかもしれないけど、俺としては気軽に接してきてほしい。以上です、これから一年よろしくお願いします」

 

 

……やけに静かだけど、ヘマはしてないよな?

 

とりあえず言うことはきっちり言ったし、慣れないしゃべり方にはなったけど特に問題はないはずだ。俺の自己紹介を聞いていた千冬さんの表情も「まぁ良いだろう」って感じのものだし、出席簿を食らうことはなさそうだ。

 

それをみてホッと胸をなでおろし、俺は自分の席に座った。

 

 

「よし。では、諸君らには半月でISの基礎知識を学んでもらう。その後の実習だが、基本動作は半月で身体に染み込ませろ。いいか? 良いなら返事をしろ。良くなくても返事をしろ」

 

「「はい!!」」

 

 

見事に統率されたクラスメイト達はバラバラな返事になるわけでもなく、揃った返事を返した。滞りなく自己紹介は進み、とりあえず一行事を終わらせたわけだが、俺の身体にはやり遂げた達成感よりも疲労感ばかりが漂っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――一限の授業は自己紹介とこれからの授業のオリエンテーションってことで無事に終わり、休み時間となったわけだが、せっかくの休み時間だというのに休まる暇というものがない。

 

と、いうのもだ。

 

 

「あの子達よ。世界でISを使える男性って!」

 

「織斑くんって優しそうでいいなぁ~」

 

「霧夜くんも守ってくれそうな雰囲気がたまらないわぁ……」

 

「ダメ! 私にどっちか選べなんて出来ないわ!」

 

 

外に出て空気を入れ替えようと思っていたものの、流石にこの廊下を突っ切る勇気はない。それどころか顔を廊下に向けようとする勇気すらない。

 

授業が終わってすぐだというのに、すでに廊下には通行できないほどの人だかりが出来ていた。一年から三年と学年は様々、一目男子を見ようと押しかけて来ているのが現状だ。

 

タチが悪いのは別に誰かが進んで話しかけてくるってことじゃなく、ひたすらに全員が牽制し合って結局何もしないし起きないってところにある。少しながらも話しかけてくれればこちらも対応するのに、まるで物珍しい世界的遺物を見るような目で誰も行動してくれないからこちらとしてもどうしようもない。

 

先にも言ったけど、この中で自分から話しかけに行くってのは完全に自殺行為だ。本能が語っているから間違いない。

 

もう何か溜息しか出てこない。流石にこれは生殺しだ。女性の中にいるのがこんなに大変なことだとは。

 

郷に入れば郷に従え、慣れるしかない。

 

 

「えっと……霧夜でいいか? 俺は織斑一夏。大変だと思うけど、これからよろしくな!」

 

 

 俺が疲労困憊の状態でボーっと呆けていると、前方から声が掛けられた。すると自己紹介の時とは打って変わって、ハキハキと喋りかけてくる織斑がいた。……なに、織斑も今の俺と心境は同じなんだ。正直、今の味方は織斑しかいない。

 

 

「あぁ、よろしく。それと俺のことは名前で呼んでくれ、俺も織斑のことを一夏って名前で呼ぶからさ」

 

「おう、よろしくな!」

 

 

 ガッチリと握手を交わす。俺と一夏としては男の友情を深めるための行為に過ぎなかったのに、一部からは「今年の夏は織斑×霧夜で決まりね!」だとか「何言っているの! 霧夜×織斑よ!」って声が聞こえてきたのは別の話。勘弁してくれ、俺のライフはもうゼロだ。

 

貴重な男性と互いに自己紹介を交わしていると―――。

 

 

 

「ちょっといいか?」

 

「ん?」

 

「え?」

 

 

 クラスメイトから突然話しかけられた。凛とした武士のような雰囲気をまといながら、髪の毛を後ろで結ったロングポニーテールの女性。さっき自己紹介の時に一夏がヘルプを送ってた子だよな、この子。確か名前は篠ノ之箒……ん? 篠ノ之? もしかして篠ノ之博士の妹?

 

 

「箒?」

 

「あぁ、久しぶりだな」

 

「六年ぶりか? すぐ箒だって分かったぞ!」

 

「そ、そうか」

 

 

 一夏の言葉に照れくさそうにしながらも、嬉しさを表す篠ノ之さん。どうやら二人で積もる話もあるみたいだし、ここは二人にしてやったほうが良いだろう。それに多分だけど……惚れてるのかな、一夏に。

 

 

「あー篠ノ之さん。久しぶりの再会なんだから、二人で話してきたらどうだ?」

 

「そうだな。すまない、一夏を借りる」

 

「二人とも、授業までには帰ってこいよ」

 

 

 それだけ言ってやると篠ノ之は顔を赤くしながら一夏の手を引いて教室の外へと出て行った。久しぶりの再会らしい、少しくらい二人っきりにさせてやるのもいいだろう。あのままごたごたやるより、二人きりの方が話しやすいのは明らかだ。

 

篠ノ之は一夏に好意を持っているみたいだし、ほんのちょっとだけ俺が気を利かせてやっただけ。

 

 

そんな二人の後を何人かの生徒が追いかけてはいったけど、何かしようとは思っていないはずだ。それよりも問題なのは、いまだに廊下に残っている生徒の方なわけで。

 

一夏がいなくなったおかげで、残った生徒たちの視線はすべて俺に集中した。

 

……これはむしろ墓穴を掘ったか? IS学園に入って初めて女性の知り合いが出来たとはいえ、それとこれとは話は別。二人を教室の外に出してしまったために、被害を俺がもろに受けてしまう状態に。仕方がない、戻ってくるまで耐えるしかないか。

 

今日何度目のため息だこれ? 何? ため息は幸せが逃げていくって? 知らんわそんなの。

 

普通ここまで興味を持たれるなんて思ってもみなかった。せいぜい物珍しいなくらいで終わると思っていたんだよ、チクショウ。

 

 

 

 

――――その後、俺は視線という名の攻撃を二人が帰ってくるまでの間受け続けた。授業の予令が鳴ってすぐに二人は戻ってきたのだが、篠ノ之はどこか上の空だった。原因は十中八九、一夏のせいなんだろうけど言うのは野暮だと思ったので言わないでおく。


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