IS‐護るべきモノ-   作:たつな

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拭えぬ杞憂

 

 

 

「では、現状を説明する」

 

 

旅館の一室に集められたのは、専用機持ち及び教師陣。照明を落とし、外部から隔離された空間には大型のディスプレイが浮かんでいる。

 

「二時間前、ハワイ沖で試験稼動にあったアメリカ・イスラエル共同開発の第三世代型の軍用IS『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』が制御下を離れて暴走。監視空域より離脱したとの情報が入った」

 

 

事は俺たちが想像している以上に重大なものだった。

 

一夏はポカンとしたまま周りをキョロキョロと見渡すばかり。当然だ、今までの任務と言えば精々学園内での処理が可能なレベルで、他国の話など一度たりとも上がったことがなかったのだから。今回は軍用のISが暴走したともなれば、首を傾げるのも無理はない。

 

本来であれば、ISを管理している国が対処すべき内容であって、俺たちに話が舞い込んでくることは無い。だが俺たちの元へと話が舞い込んでくる理由はただ一つ。

 

俺たちが対処しなければならない程に、緊急性のある案件だからだ。

 

 

「……」

 

 

各国の代表候補生たちは普段見ている目つきとはまるで違う、真剣なものだった。ISに関する事態に対処するのはこれが初めてではないだろう。経験したことのない未知の事象に、思わず気が引き締まる。

 

 

「その後、衛星による追跡の結果、福音はここから二キロ先の空域を通過することが分かった。時間にして五十分後。学園上層部からの通達により、我々がこの事態に対処することとなった」

 

 

想像した通りだった。

 

しかし全くデータの無いISを相手にしろとは無茶を言ってくれたもの。

 

話の中で分かっているのはISの名前だけ。細かなスペックや特徴は一切分かっていない状態。話の中で出さなかったのは機密案件に触れる部分もあるからか。おいそれと口外出来るものではないことくらいはすぐに判断出来た。

 

 

「教員たちは学園の訓練機を使用して海域の封鎖を行う。よって、本作戦の要は専用機持ちに担当してもらう」

 

 

これはまた更なる無茶ぶりだ、つまり周囲に誰も近付かせないようにするから軍用ISの暴走を止めるのは俺たちだと。正直、要を任せて大丈夫なのかと一抹の不安が残る。

 

自信が無い……と言われればそうだろう。いくら色んな場所で命にかかわる仕事に携わったとしても、ISで国家レベルの重要任務を任されるとなれば話は違う。どれだけの修羅場をくぐってきても、こればかりは最初から慣れることは出来ない。

 

 

「それでは作戦会議を始める。意見があるものは居るか?」

 

 

むしろ質問しか思い浮かばない。

 

どこまで質問が可能なのか悩んでいると、俺よりも先にセシリアが手を挙げた。

 

 

「はい。目標の詳細スペックデータを要求します」

 

 

セシリアの質問はごもっともな内容だった。

 

これまでの話で分かったことは軍用ISが暴走したこと、暴走したISを俺たちが止めるということ。だが止めるためには今の状況では情報が少なすぎる。

 

不確定要素ばかりで相手に挑むのはあまりにも無謀であり、危険な行為だ。少なからず千冬さんから、軍用ISの情報を少しくらい得なければ勝てる戦いも勝てなくなる。

 

そんなセシリアの要求にも、分かっているといった表情のまま小さく頷く。

 

 

「分かった。ただし、これらは二ヵ国の最重要軍事機密だ。決して口外はするな。情報が漏えいしたと見られたら、諸君には査問委員会による裁判と、最低でも二年の監視がつけられる」

 

「分かりました」

 

 

本来だったら代表候補生といえど知らせてはならない情報のはず。それでも見せたということは、全員を信用しているからか。開かれたモニターをセシリアが鈴がシャルロットが、ラウラが、次々と覗き込んでいく。

 

四人とも緊急事態の対処には慣れているらしい。隠しているのかもしれないが、動揺らしい同様は一切感じ取られなかった。

 

四人に対して控え目な篠ノ之、そしてよく分かっていない一夏。二人とも本当の意味での実戦は初めてだろうし、どうすれば良いのか分からないのも無理はない。誰だって初めのうちは自身の役割が分からない。

 

作戦会議といっても何をどうすれば良いのか、何を聞けば良いのか。何度も経験を重ねて成長していく、言い方は悪いかもしれないが二人にとってはいい経験になりうるかもしれない。

 

 

「おにいちゃんも……」

 

「あぁ、悪いラウラ。どれどれ……?」

 

 

ラウラに促されるままモニターを覗き込む。難しい文字の羅列とは別に、先ほど千冬さんから伝えられた機体のデータが記されている。

 

 

「広域殲滅を目的とした特殊射撃型……わたくしのISと同じくオールレンジ攻撃を行えるようですわね」

 

「攻撃、機動の両方に特化した機体ね。厄介だわ。しかもスペック上では甲龍を上回っているから、向こうの方が有利かもしれない」

 

「この特殊武装が曲者って感じだね。ちょうどフランスからリヴァイブ用の防御パッケージが来てるけど、連続しての防御は難しい気がするよ」

 

「しかもこのデータでは格闘性能が未知数だ。持っているスキルすらも分からん。偵察は行えないのですか?」

 

「いや、恐らくは厳しいだろう」

 

 

はっきりと俺の口から事実を伝える。

 

これがただの普通の機体であればそうは言わなかったが、訓練機ではなく専用機だ。それに緊急事態として俺たちに救援要請をするくらいだし、それだけ強大な力を持ち合わせていることになる。

 

現にセシリアと鈴、シャルロットの会話でISの特性は掴めた。ラウラが言うように近接、格闘性能に関しては全く分からないが、それを調べようにも近付いて情報収集しなければならない。

 

少ない人数で未知数の敵と戦う行為は、あまりにも危険すぎる。

 

それにそれ以前の問題だってある。

 

 

「本来なら偵察して万全を喫すのが得策だろうが、事態は緊急を要している。偵察に掛けている時間も無いはず」

 

「霧夜の言う通りだ。この機体は現在も超音速飛行を続けている。アプローチは一回が限界だろう」

 

 

千冬さんと意見が合う。

 

音速飛行ともなると、そもそも追い付くことすら困難になる。一度チャンスを逃せば、そのまま止めるチャンスを失い、下手をすれば大惨事になることすら考えられる。

 

結局は一度のアプローチですぐにケジメなければならない。だが、一撃で相手を無力化するには、並大抵の攻撃では返り討ちにあうだけだ。

 

だから、一撃で仕留められる攻撃を持つ機体が必要になる。

 

 

「一回きりのチャンス、ということはやはり一撃必殺の攻撃力を持った機体でなければいけませんね」

 

 

山田先生の一言で、全員が一夏の方を向く。

 

どう考えても適任者は一人しかいない。

 

 

「え? 俺!?」

 

 

自身を指差したまま驚く一夏。

 

消去法をとったとしても、一撃の攻撃力が最も高いのは、一夏の白式。単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)の零落白夜であれば、どんな強大な敵でもバリアを無視して攻撃を通すことが出来る。

 

逆に言えば皆が一夏の方を向いた時点で、残された打開策はそれしかないということ。

 

 

「そうよ、あんたが零落白夜で落とすのよ」

 

「だね。ただ、問題なのはそこまで一夏をどうやって運ぶかだけど……エネルギーは全て攻撃に割らないと無理だし、移動に使っている余裕は無いよね」

 

「そうなれば、目標に追いつける速度が出せるISでなければな。それに超高感度ハイパーセンサーも必要だろう」

 

「ちょっ、ちょっと待ってくれ! お、俺が行くのか!?」

 

「当然(だろ)」

 

 

全員の考えが一致する。

 

これは別に一夏を目立たせようだとか、相手を舐めて、自分がやらなくてもといった力配分をしているわけではなく、それぞれ自分たちの機体の特性を把握し、最も成功確率の高い方法を取っているに過ぎない。

 

自分たちでケジメられるのであれば、真っ先にそうしている。真っ先に一夏の名前が出てくるのは、零落白夜を使って一撃で無力化することが、最も得策であるからだ。

 

俺たちが気を付けないといけないのは、被害を最小限に抑えること。出し惜しみをしている暇はない。

 

 

「この中で最大の攻撃力を誇るのは一夏、お前の零落白夜だ。銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)を一撃で黙らせる役割として、これほどの適任者は居ない」

 

 

セシリアや鈴、シャルロットやラウラも高い攻撃力を持ち合わせているが、零落白夜と比較すると一段階以上劣る。相手は音速飛行を続けているのだから、攻撃のチャンスは一度きりしかない。

 

攻撃を当てるのも容易ではないだろう。しかし一度のチャンスで確実に仕留められる可能性がある機体、それは一夏の白式しかなかった。

 

 

「うっ……」

 

 

思った以上のプレッシャーに一夏の顔が若干歪む。今まで経験したことのない重圧に押し潰されそうになっているのかもしれない。

 

一夏の表情を見た千冬さんが、俺の言葉の後に続ける。

 

 

「織斑、これは訓練ではなく実戦だ。お前が適任者ではあるが、もし覚悟がないなら無理強いはしない」

 

「……」

 

 

"覚悟"

 

皆の耳に響く、世界を知っている女性からの重たい言葉。常々一夏は言っていた、大切な誰かを守りたいと。だが守るためには今以上に強く、確固たる覚悟を決めなければならない。

 

これは訓練ではない。もしかしたら作戦に参加した誰かが、旅館にいる誰かが負傷するかもしれない。専用機持ちとは常に大きなプレッシャーと共に戦っている。押し潰されるくらいであれば、専用機など乗る必要もない、乗る資格もない。

 

そう思っている。

 

今後同じようなことが幾度と無く起こるだろう。IS操縦者、代表候補生、国家代表とはそういうものだ。

 

人の安全を、命を。預かり守っていく覚悟が一夏にあるのか。

 

俺が知っている本当の一夏であれば、無様な姿は晒さないはず。

 

聞かせてくれ、お前の答えを。

 

 

 

「やります。俺が、やってみせます」

 

 

不器用だが真っ直ぐな言葉。再びあげた顔に負の感情は無かった。覚悟を決めた眼差しに、千冬さんもどこか満足そうに頷いたように見えた。

 

「よし、それでは作戦の具体的な内容に入る。現在、この専用機持ちの中で最高速度が出せるのは誰だ?」

 

 

話がまとまったところで、早速本題に入る。

 

まずは一夏を相手の元へ運ばなければならない。一見簡単に見えるが、実際は一夏にシールドエネルギーを使わせずに、無傷のまま運ばないといけないことを考えると、相当難易度は高くなる。

 

かつ、音速で移動する機体に追い付くわけだから、機体のスペック……強いてはスピードが遅ければ話にならない。専用機持ちたちが軒並み口を閉ざす辺り、互いに譲り合っているようにも見えた。

 

ISによって向き不向きがあるし、全ISが同じ動きが出来るわけではない。俺のISだって、自分の身体能力に呼応するとはいえ、最高出力がどこまで出るかなんて試したことがないし、いきなりここで大役を任されることを考えると荷が重い。

 

仮にこのISの特徴やスペックがもう少しハッキリしているのであれば、その場で解答を出すことが出来たが、あいにく結論を出せるほど稼働時間も長くない。ここは俺が運び役を引き受けるのは得策では無い。

 

静寂の中、真っ先に手を上げたのは。

 

 

「それなら、私のブルーティアーズが。ちょうど本国から強襲用高機動パッケージ、『ストライク・ガンナー』が送られて来ていますし、超高感度ハイパーセンサーもついています」

 

 

セシリアだった。

 

なんでも試験的なデータ収集も含めて、イギリスから様々なパーツやら何やらが送られてきているとのこと。

 

元々ブルー・ティアーズのスペックは決して低くはないし、状況を考えると実戦にも慣れているセシリアが出た方が効果はあるだろう。

 

運び届けたまま、一夏のサポート役に回ることが出来れば活路は見出だせる。少なくとも素人の俺がうろちょろ手出しをするよりも良い結果になるのは間違いない。

 

千冬さんもここはセシリアが適任であると悟ったようで、更にセシリアへと質問を投げ掛けていく。

 

 

「オルコット、超音速下での戦闘訓練時間は?」

 

「二十時間です」

 

「ふむ……。それならば適任「待った待ーった。ちょっと待ったなんだよ~!」……山田先生、強制退去を。何なら力ずくでも構わん」

 

「え、えぇ!?」

 

 

張りつめた作戦会議の場に、不釣り合いなトーンで割り込まれたことで、千冬さんのこめかみには大きく血管が浮き出る。

 

表情が変わっていないから尚更怖い。ラウラに関しては人の手を握ったまま、ガタガタと震えるように姿を隠し、他面々に関しては私は関係ないとばかりに視線を逸らす。

 

山田先生に追い出す指示をするも、当の本人はISの開発者である人間を一教師の自分が追い出して良いものかと慌てふためくだけ。

 

テレビ番組で出てくる忍者のように、天井の一部分を外して逆さまになりながら部屋の状況を見つめる篠ノ之博士。追い出そうにも天井に手が届かないため、追い出しようが無い。

 

もっとも、千冬さんが本気になれば屋根裏部屋から強制的に引きずり出しそうだ。生徒たちの前だからこそある程度の平静を装うが、これ以上なにかおちゃらけた行動を取ると後が怖い。

 

忠告はしたぞ?

 

もう俺は知らないからな。

 

 

そして誰に言われるわけでもなく、自由気ままに天井裏から飛び降りて着地した。

 

 

「ちーちゃん、ちーちゃん。もっといい作戦が私の頭の中にナウ・プリンティン……ふげばぁ!!?」

 

 

作戦の邪魔をするなと言わんばかりに、半ば強制的に拳骨を落とす。

 

 

「作戦の邪魔だ。さっさと出ていけ!」

 

「おおぅ、これはまた激しい求愛行動だねぇ! そんなツンデレなちーちゃんもばばばばばばば!!? 痛い痛い痛い! 冗談だからやめてよー!」

 

 

相変わらずおちゃらけた篠ノ之博士の頭をグリグリと抉る。さっきまでの張りつめた雰囲気がたった一人の存在で崩される。やりづらいが我慢する他無い。自らの姉の行動に若干ながらも眉間にシワを寄せる篠ノ之。

 

もし千冬さんが手を出さなかったら篠ノ之が手を出していたかもしれない。

 

 

「そんなパッケージなんかを使わなくても、ここは断然紅椿の出番なんだよー!」

 

「何?」

 

「紅椿のスペックデータを見てみて! パッケージなんかなくても超高速機動ができるんだよ!」

 

 

ふむ、もし彼女が言っていることが本当だったとしたら運搬役はセシリアではなく、篠ノ之が受け持つことになる。試験的なパッケージを使うよりかは、従来から備わっているスペックの範囲内で稼働させるか。

 

どちらが効率が良いかと言われれば後者になる。セシリアのパッケージが無駄なわけではないが、使えるのであれば最高スペックを持ち合わせる紅椿が役割を全うしてくれた方が安心ではある。

 

が、それはあくまである程度熟練した候補生がやってくれた場合の話だ。

 

 

「……」

 

 

篠ノ之の方をチラリと見つめる。

 

専用機を貰ったことで、以前よりも明らかに浮足立っている。篠ノ之博士お手製の、世界に一つしか無い第四世代型の最新IS紅椿。

 

実戦稼働で、篠ノ之自身もスペックを存分に体感したことだろう。

 

大きな力は人を惑わせ、過信させる。それこそ自分なら何でも出来ると言わんばかりに。取り返しの付かない事が起きてからでは遅い、その時間を取り戻すことはタイムマシーンでもない限り不可能だからだ。

 

この作戦……二人だけに任せるのは危険かもしれない。

 

 

「織斑先生」

 

「何だ?」

 

「篠ノ之を運搬要員にするのは賛成ですが、二人での戦闘はあまりにも危険過ぎる。直接戦闘に関わらないまでも、現地にバックアップ要員を待機させても良いんじゃないかと思われますが、如何でしょう?」

 

「ふむ……」

 

 

全員が一斉に向かわずとも、作戦本部に残る人間とイレギュラーが起こった際にすぐに駆けつけられる海上で待機する人間がいれば、最悪フォローが出来る。

 

限られた人員で任務を遂行させるためには、最大限の奥の手を考えておく必要がある。それに先ほどから拭いきれないざわめきが気になる。

 

俺の杞憂であって欲しいと願うばかりだ。

 

 

「本来なら篠ノ之と織斑以外は本部待機させる予定だったが……念には念を押すべきかもしれんな。それなら霧夜、お前が行け。他にサポート出来る人間はいるか?」

 

「教官、それなら私が!」

 

「僕も行きます!」

 

 

俺の一言に対し、ラウラとシャルロットがそれぞれ反応を示す。

 

 

「分かった。オルコットと凰は本部待機、他は準備が出来次第、織斑と篠ノ之の後を追え!」

 

「「はい!」」

 

「束。紅椿の調整にはどれほど時間がかかる?」

 

「調整時間は七分あれば全然オッケー!」

 

「では、今回の作戦は、篠ノ之、織斑両名で行うものとする。作戦開始は三十分後。各員、直ちに準備にかかれ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ラウラ、シャルロット。ちょっと良いか?」

 

「うむ、どうしたのだお兄ちゃん?」

 

「どうしたの?」

 

 

一旦解散になり、篠ノ之博士が紅椿と白式を調整している最中、俺はラウラとシャルロットを呼びつける。

 

ラウラとバディを組んだことはあるけど、シャルロットと組んだことはない。組んだことが無いからといって動けませんでしたとならないように、二人に今回の行動、役割について伝える。

 

あくまで俺たちの役割は一夏と篠ノ之をフォローし、銀の福音の暴走を止めること。無用な戦闘は極力避けると共に、万が一があった場合に対処しなければならない。

 

正直、ラウラもシャルロットも実戦経験は豊富だし、そこまで細かく指示を飛ばす必要はないだろう。

 

今回、問題なのはまた別にある。

 

 

「いや、今回作戦のことなんだけどな……正直頭のモヤが晴れないんだわ」

 

「モヤ?」

 

「何か懸念していることでもあるの?」

 

「あぁ。二人には初めに言っておく。最悪の事態も想定して動く必要があるだろうし」

 

 

たらればの話はあまりしたくはないが、十分想定できるイレギュラーがある。

 

 

「この作戦、今のままなら間違いなく失敗する」

 

「「えっ!?」」

 

 

俺の言葉に驚く二人。

 

篠ノ之博士が登場してからの篠ノ之の動向を観察しているが、浮き足だった気持ちを抑えきれていない。薄々二人も気付いているかもしれないが、このままいけば間違いなく作戦は失敗に終わる。

 

一夏と篠ノ之が二人で現地へと向かい、残りのメンバーは本部待機させるのが本来の作戦だが、その作戦にノーを入れたのは理由がある。

 

周りを見れない人間は必ず、些細な失敗で大切なものを失う。力を入れた、専用機を手に入れた、だからどうするのか。それだけで皆と同じ土台に立てたと思ったら大間違いだ。

 

再三言っているが、力の使い方や意味を履き違えれば、己を滅ぼすどころか、第三者までも傷付ける可能性だってある。

 

 

「ど、どういうことなの?」

 

「浮き足立っている時が最も事故が起きやすいのは、二人とも分かるだろう?」

 

「浮き足立つ……もしかして箒のことか?」

 

「そうだ。専用機を与えられて、浮かれているのは否めないし、初めから早々連携が上手く行く保証もない。それに今の篠ノ之が状況判断を的確に出来るかどうかも分からない。あまりに不安な部分が多すぎる」

 

 

流石ラウラと言ったところか。名前を言わなくとも、俺の懸念点を瞬時に把握してくれた。

 

 

「確かにいつもより自信に満ち溢れている気がするけど……」

 

 

シャルロットもラウラほどではないが、篠ノ之の雰囲気の変化を感じ取っているらしい。逆を言えば分かりやすいということ、二人だけではなく、セシリアや鈴も同じように篠ノ之の変化に気付いているかもしれない。

 

 

「注意したところで直るものでもないだろう。だから俺たち全員で二人をサポートし、完遂へと導く。良いか?」

 

「分かった」

 

「うん!」

 

 

不安しか無い今回の作戦の全容。

 

シャルロットやラウラのサポートがあるにしても、成功までの道筋を辿ることが出来ない。もう一つの不安要素があるとすれば、俺の左眼か。今のところ痛み自体は無いが、またいつ同じようなことが起きるとも限らない。

 

もしまた痛みが出てきた場合、俺も前線から退く必要がある。流石に重要な任務で無茶は出来ないし、それが枷となるのであれば出る必要がない。

 

むしろただの邪魔になるだけだ。

 

この作戦はどう転ぶか、全ては俺たちの動きに、もしくは篠ノ之の、一夏の動きに掛かっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さァ……絶望のスタートだ」


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