「俺の妹に何しやがるこの野郎」
刀を握る手首を握りしめて、睨みを利かせる。
ラウラに攻撃が触れるギリギリのタイミングで間に割って入り、振りかぶる手を掴んで攻撃を止める。あと少し、ワンテンポ遅れたら同じ惨状を招いていたかもしれない。間一髪防ぎきれたことを確認し、心のどこかで安堵する。
病み上がりとはいえ体が上手く動いてくれて良かった。それより何より間に合って良かった。それに尽きる。
「な、何でテメェがここに!? あの怪我からそんなすぐに立ち直れる訳が……!」
「さぁ、何でだろう……な!」
「うぉっ!?」
言葉を言い終える前に相手の胸ぐらを掴み、遠心力を利用して明後日の方向へと投げ飛ばす。制御が利かないまま、遠くへと吹き飛ばされる姿を見つつも、背後の様子を伺った。
ラウラの顔に出来ている幾つもの殴打痕もあれば、痛々しい内出血まで確認できる。度重なる殴打により頬は腫れ上がり、いつもの可愛らしいラウラの表情は無い。どれだけ無抵抗の状態で殴られ続けたのだろう。ラウラのISを見てみると、普段のシュヴァルツェア・レーゲンとは装甲が違った。
予備パーツに遠距離射撃特化の砲撃装備があったはず、見慣れない装備だとは思ったが、これがその装備なのか。だとすると従来の機動力は失われている。
故に小回りが効かない。小回りが効かないということは機動力に優れる相手には最悪の相性となる。見る限り、男の機体は一撃必殺の
今のラウラのIS装甲だけで相手をするには、あまりにも相性が悪い。
誰がどう見てもラウラの劣勢は明らか。相性だけではなく、福音との戦いで大きく消耗していたはず。
こいつはそれを知っていながら……。
「お、お兄ちゃん? ホントにお兄ちゃんなのか?」
ラウラが疑い深く、俺の顔を覗き込もうとする。俺の顔を被った偽物じゃないか、まるで化け物でも見ているような表情だ。
信じられないといった感情が物語っているように、誰が見ても再起不能レベルの怪我を負った人間が、僅か数時間で復活出来るはずがない。
誰が見ても一生を棒に振るような重傷だったのは明らか、だというのにどうしてこの男はここに立っている? そんな様々な感情が入り乱れているように見えた。
俺にも何で立てているのかは分からない。気付いたら目が覚めて、いつの間にかISを展開して皆の場に駆け付けていた。
戦うために。
護るべきモノのために。
「おいおい、俺が別人に見えるか? お前の兄の霧夜大和で間違いないだろ?」
「ホントに……本当か?」
「ホントに本当だ」
俺の元に近寄り、顔を体をペタペタと確かめるように何度も何度も触っていく。興味を持った子供が触っているみたいで妙にこっ恥ずかしい。ラウラの見た目はもちろんのこと、変に似合いすぎているせいで、不自然が不自然に感じられなかった。
体全身をほぼ触り切った後、再びラウラは顔を上げる。全身触りきったことでようやく、目の前に居る人物が霧夜大和本人であることを認識した。
「うっ……うぅ……!」
俺であるということを認識した途端、ラウラの表情が崩れる。今にも子供が泣き出しそうな、むしろどうあやしても泣きそうな表情。
泣きたい気持ちはよく分かる。
だがまだ泣く時じゃない。戦い自体が終わってないのだから、今泣かれると俺も困るし、皆も困る。戦いが終わった後まで、その涙は残しておいて欲しい。
気が付けば俺の右手はラウラの頭へと伸びていた。
「ふぇ……?」
子供をあやすように、出来るだけ優しくラウラの頭を撫でる。泣き出しそうな表情は徐々に驚きへと変わっていく。ラウラにはかなり心配を掛けてしまった。目の前で撃墜される俺を見て、待機しろという俺の命令を聞いてしまったことを相当後悔したはず。
あの時、俺の命令に背いてでも共に戦っていればと、自分自身を責めたに違いない。
驚きに染まる瞳にも、涙を流した痕が残っている。それに殴られたのとは別に、ラウラの目元は赤くなっていた。ちょっとやそっと泣いたくらいではこんなに赤くはならない。
どれだけ涙を流したのか想像もつかない。それでも俺のために涙を流してくれたのだと思うと、無意識のうちに申し訳なさと罪悪感がこみ上げてくる。
「よく頑張ったな」
「お兄、ちゃん……」
こんな時だというのに、時間を忘れて気持ち良さそうに目を細める。
普段時でもあまり頭を撫でることも無いというのに、今回ばかりは少しでも長く、自分の"妹"の頭を撫でたい気持ちが強く沸き上がってくる。
"妹"
俺にはまったくと言って良いほど無縁の単語であり、関係の無い存在であると思っていた。
ラウラが俺のことをお兄ちゃんと呼ぶことに、俺はどこか壁を張っていた。
実際に血が繋がっているわけではない。それに実際に知り合ってからまだ数ヵ月であり、互いのことをよく知っているわけでもない。
当然、同じ境遇から生まれた存在であることは知っている。だが結局はそこまでであり、普段互いが何をしているのかまで分からない。それを言ったら俺と千尋姉の関係だって初めから今と同じ関係だった訳じゃない。
つまりどの兄弟であっても、最初は関係値がゼロの状態から始まる。ただ自分が妹を持ったことに対して、どう接すれば良いのか分からなかった。
それでもラウラのことを大切にしたい気持ちは変わらない。ナギに対する恋愛感情や、千尋姉に対する尊敬にも似た大切にしたいという感情。
ラウラに向ける感情としては、千尋姉に向ける感情と大差は無いものの、少しだけ違いを言うなら、親が我が子をかわいがり、いつくしむような慈愛要素が強い。大切な存在には変わり無いのに、やはりどこかまだ第三者といった分け隔てをしていたのかもしれない。
ラウラは俺のことを兄と慕い、本当の兄妹のように接してくれた。ドイツの副官に入れ知恵をされたのは事実だが、それ以上に、俺に対して家族に向ける以上の愛情を向けてくれる。本当の兄として、尊敬してくれる。
俺が笑えば同じように笑うし、俺が傷付けば自分のことのように悲しむ。彼女は決して弱い存在ではない、でも内面は脆く崩れやすい。
俺とラウラは兄妹なんだ。そこに血の繋がりは関係ない。
「こんなボロボロになってまで戦ってくれたんだ。今度は俺がお前たちを守る番だ」
「そんなことより、怪我は……?」
「怪我は大丈夫、気にすることはない。俺は強いからな」
少しでもラウラを安心させる為に、言葉を選んで彼女を諭していく。
現に今のところ怪我の影響は出ていない。
とはいえ傷口を塞いでいる途中だからあまり無理は出来ないし、正直な話、ここでの戦闘は相当リスクの高い賭けにはなる。
満身創痍の中で後どれだけ俺の体が持ってくれるか。何せ俺自身が怪我の状態を把握出来ていない。無茶も甚だしい行動しかしてないが、とりあえず目の前の事態を片付けるまでは持って欲しい。
そう願うばかりだ。
「大和……本当に大丈夫なの? 怪我は……」
「悪いなシャルロット。今は怪我を気にしている状況じゃない。俺なら大丈夫だから、ラウラを頼む」
「う、うん」
シャルロットも心配しての行動なのは分かる。
何度も言うように戦いの場に出てきた以上、怪我をしているからというのは言い訳になる。側に寄ってきたシャルロットにラウラを受け渡し、離れるように指示する。ラウラほどではないとはいえ、シャルロットも度重なる戦闘ダメージで疲弊の色は隠せない。
無理をして戦っても俺の二の舞になる。
鈴とセシリアも、まだシールドエネルギーこそ残っているけど、福音から受けたダメージがまだ回復しきっていない。四人ともまとめて一旦後ろに下がってもらうことにする。
「大和さん……」
「大和、あんた……」
「おいおい、お前ら二人も揃ってなんつー顔してんだ」
セシリアが、鈴が、揃って心配そうな顔を浮かべたまま、俺の元へと歩み寄ってくる。そんな心配を向けられるようなキャラか? と言わんばかりの表情で俺は苦笑いを浮かべる。
おかしいな、そんなキャラじゃなかったはずだったんだけど。
「あ、あんたねぇ! あたしたちがどれだけ心配したと!」
「あのような大怪我をされて、心配するなということ自体が無理な話ですわ!」
逆に怒られる始末。
だが悪いのは勝手に負けて、皆を心配させたほかでもない俺だ。二人の言う内容は完全な正論であり、何一つ言い返すことは出来なかった。
むしろ身勝手な行動で、皆を不安がらせてしまった俺を、二人は心配してくれている。言い方は刺々しいのに、随所に伝わってくる二人の優しさが何よりも嬉しくて、自然と頬が緩む。
「ははっ、悪い。本当ならこのままゆっくりと話をしていたいところだけど……少しだけ待っていてくれ。すぐに終わらせるから」
「すぐに終わらせるって、あんたその体で戦うつもり!?」
「おう」
「そんなの無茶ですわ! 今の大和さんに無理はさせられません!」
本当なら二人の気持ちを無下にしたくはない、セシリアが言うように無理をしていい状態ではない。だがそれ以上に俺には戦わなければならない理由が出来てしまった。
「俺も無理はしたくないんだけどな。どうにも口で言っても分からないみたいだから……」
「は、はい?」
意味が分からないと首を傾げるセシリアをよそに再び投げ飛ばした男の方へと視線を向ける。そろそろ体勢を立て直して来る頃だろう、あまり悠長に会話している余裕はない。
「また後でゆっくり話す」
「あ!? ちょ、ちょっと!」
降下しながらセシリアから離れる。あのまま戦ったら皆を巻き込んでしまう。
俺の後ろに着いてくる人間は誰も居なかった。手負いの状態では足手まといになるのと、現状戦える人間は俺しか居ないと判断したからか。
「この死に損ないがぁ……邪魔をするな!!」
首をゴキゴキと鳴らしながら、自分の思うように出来なかったことに腹が立つのか、体勢を整えた男はギロリと睨み付けてくる。
「おい」
「あぁ!?」
「……お前、名前は何て言うんだ?」
「はぁ? この期に及んで何言ってんだこいつ? 左眼の次は頭まで壊れたか?」
確かにこの状況で相手の名前を尋ねること自体、頭が狂ったんじゃないかと思われてもおかしく無いかもしれない。
それでも俺には聞かなければならない理由がある。
「そう思ってくれて構わない」
「くくっ、俺の名前か。ちゃんとした名前はねぇけど、周囲はプライドって呼ぶなぁ?」
「ほう? して、プライド。俺の妹に手を出した理由は何だ?」
「そんなもん決まってるだろ。単純におもしれぇからだ。お前は害虫を殺すのに、態々理由なんかつけるのかよ?」
俺の妹を。
「あぁ、それだけでいい。ようやく聞けたな」
俺の仲間を。
「後はテメェをぶっ潰すだけだ。このクソ野郎が」
大切な人を傷付けたコイツだけは絶対に許すわけにはいかない。
ニヤリと微笑む表情が死合開始のゴングとなった。一気に
片眼が潰れているが故に、いつもよりも遠近感が掴み辛いが、周囲に鳴り響く音と空気の流れで、相手がどれくらいのスピードで近寄って来ているかは分かる。
「ふっ!」
「オラァッ!」
振り下ろしとともに体を半身にすると、斬撃がすぐ後ろを通り過ぎていく。攻撃後の僅かなスキを狙い、半身のまま相手に蹴りを入れて距離を取り、瞬時に両手に刀を展開した。
展開すると同時に、再びプライドは俺との間合いを詰めて来る。あの刀にだけは注意しなければならない、一発の攻撃力はまさに一撃必殺レベル。まともに食らったらまた病院送り、下手をすれば命を落とす可能性もある。
相手の刃先を直接受けることは出来ないため、受け止めるとするなら相手の手ごと止めるか、完全にかわし切るしか方法はない。
それに大きな回避は、奴のスキルを考えると致命的なミスに繋がるだろう。小刻みに動きを悟られないように立ち回っていくのが最も得策。
突進の勢いを利用し、まずは一突き。
俺の顔を通り抜けていく一撃を見送りながら、再び前へと視線を向ける。
と。
「甘えよっ!」
「―――っ!」
ガツンという鈍い音とともに、相手の蹴りが俺の機体の腹をピンポイントで捉える。肉体に直に伝わる衝撃に、思わず顔を歪めた。幸い刀による一撃ではないため、ダメージ自体は大きくないが、俺の体にはしっかりと負荷が掛かっている。
傷口が開かない事を願ってはいるが、プライドの攻撃は今まで相手をしてきたどの相手よりも、一撃が重たい。このまま何回も相手の攻撃を受け続けていれば、シールドエネルギーは残っても俺の体力や気力が持たない。
手術傷が開いたら一環の終わり、だがこの場で戦えるのは俺だけであり、俺が退けば全員墜とされることになる。それだけは何としても防がなければならない。
「ふん! 片眼を潰されて、怪我をしている割には良い立ち回りだな!」
「ぬかせ」
片眼が潰されたからハンデになるか。
否、それは言い訳に過ぎない。確かに病み上がりの俺の体は絶好調の時に比べて、キレは大きく劣るかもしれない。しかし承知の上でここに来た以上、体の調子が悪いなどと逃げ道を探すことは出来ない。
逃げるつまりなどは毛頭ない、必ずここでケリをつける。
「はぁっ!」
「クハハッ!」
愉快そうに微笑むプライド。
一々反応が気に入らない。余裕のその表情が俺の怒りを増幅させていく。俺はこんなやつに負け、皆は傷付けられたのかと。自身の無力さに腹が立ってくる。
あの時仕留め損なわなければこんな面倒な事態を引き起こすことなど無かった。
「オラオラァ! かわしてみろよ!」
「このっ……!」
拳と剣術のラッシュに、完全な防御体勢に回る。スキのない攻撃に、相手の間合いに入り込めない。そして常に俺の死角になる左眼側に回り込もうとする。
俺が視界を把握できるのは右眼側だけであり、左眼は右眼に比べて視界が大きく狭まる。正面を剝いていたら左側から歩いてくる人間に気付かないほど、左側は大きな死角となっていた。
庇いながらスキを見せないように戦っていたつもりだが、コイツは瞬時に俺の欠点を見つけ、的確に攻撃をしてくる。力押しだけの単細胞かと思ったらとんだ大間違いだ。
これだけの強大な力を持っているにも関わらず、あらゆる場面に対応する柔軟性まで持ち合わせている。コイツ……一体どんな格闘センスしてやがる。これだけの立ち回りを何処で学んできたというんだ。
「手も足も出ませんってかぁ!? そんなんじゃ俺は倒せねーぞ!!」
このままじゃマズい。完全にペースを握られている。
「お前みたいなやつは何度も見てきたよ。息巻いて俺を倒すって言ってきた奴は数知れなかったなぁ!」
大口を叩く暇すらあるらしい。俺がいつ反撃するかも分からないのにだ。
コイツには俺の動きがある程度読まれている。左眼側が大きな死角になっているということも、上半身の怪我を庇いながら戦っているということも。ただ単に手のひらで踊らされているに過ぎない。
まるでマリオネットのようだ。決められた動きしか出来ず、操る人間の赴くままに行動する。意思を持っていたとしても、決して逆らえれない。
決められた動きしか出来ない、まさに今の俺を表現するのにこれほど適切な言葉は無いだろう。
「本当に俺を倒していればカッコ良かったんだろうけどよぉ……俺に喧嘩売っている奴って今どうなってんだろうなぁ?」
今までプライドに戦いを挑んだ人間は数知れず。それはISで戦ったのか、それとも生身で戦ったのかどうかは知らない。だが奴の口ぶりから察するに、戦った相手は恐らく……。
「なぁ? 霧夜家当主さんよぉ!」
「くっ……」
徐々に、だが確実に追い詰められつつある。
強大な力の前に挑んだ相手は屈した。負けを知らない、無敗の称号が奴を傲慢な存在に仕立て上げていた。刀による一撃は辛うじて躱しているものの、小刻みにコンビネーションとして入れてくる拳骨により、じわじわとシールドエネルギーが削られていく。
それでも一撃必殺の攻撃を食らうよりかは全然マシ。奴のワンオフにも何か弱点があるはず、少しでも粘って活路を見出す。目を見開き、正面から迫りくる脅威の数々を躱していく。
「くくっ、こりゃ俺の前にひれ伏すのも時間の問題だなぁ?」
「……」
会話が出来ない。
会話をする暇すら与えてくれない程の猛攻に成す術もなく、ガード状態を解除して攻撃に転換出来ない。
「お前はまた守れず終わるんだ! 今度は自分の仲間さえもなぁ!」
「!」
攻撃を躱す瞬間、ほんの僅かにプライドに隙が出来る。攻撃後の硬直、ほぼ無い隙がようやく生まれた。攻撃した直後は隙が生まれやすいものの、ここまでほとんど無かったため、形勢逆転の糸口すら掴めなかった。
偶々なのか、わざとなのかは分からないが、続けて刀を使わせなければそれでいい。
「うおっ!?」
自分の持っている刀で相手の刀を弾く。
これで次の攻撃に移るまでに時間を稼ぐことが出来る。拳による攻撃は間合い的に届かないし、ガトリング砲による攻撃も考えられるが、刀による攻撃を考えたら可愛いもの。このチャンス逃すわけにはいかない。
両手の刀を握り締め、右手を振りかぶってプライドの無防備な体に向けて一撃を。
「ぐっ……くあっ!?」
入れられなかった。一撃を加える前に、重たい何かが俺の左脇腹を捉えた。苦悶に歪む表情を脇腹に向けると、そこには見たことも無い新たな刀が食い込んでいた。
「油断したなぁ。誰も刀は一本しかないなんて言ってねぇぞ?」
「くぅ……」
「この刀には大した能力はねぇが、まともに当たりゃ痛いだろうよ? えぇ?」
攻撃にダウンする俺を他所目に奴の攻撃は始まる。
プライドの絶対的な優勢は変わらない。一撃必殺の能力を持たない刀であるが故に助かったが、大きくシールドエネルギーを持って行かれたのと、脇腹にはまだズキズキと痛みが走ったままだ。
骨折までは行ってないだろうが、容赦のない攻撃を叩き込まれれば、誰だって痛い。シールドエネルギーでは吸収しきれない質量エネルギーが、機体を通して直に伝わる。
普段ならなんてこと無い攻撃でも、怪我をした体には猛毒にもなる。
「あの怪我から立ち上がったのは確かにすげぇよ! 相手をした中で、倒れずに俺に向かってきたのはお前が初めてだ!」
度重なる攻撃でいつこの傷口が開くか分からない。完全に塞ぎきっていないとしたら、そう長くは持たない。
「リベンジして俺に勝つシナリオを想像していたんだろうけどよぉ! そんなものは空想上の夢物語なんだよ!!」
戦い始めてから手痛い一撃を何発か貰った。
後どれだけ耐えれるか、限界が来るまで数えるほどの回数もないだろう。
「さぁお前と同じ二刀流だ! これで終わらせてやるよ! どっちの方が強いのか、これでハッキリするだろ!」
確かに強かった。
俺が今まで出会った奴らの中でもトップクラスに。代表候補生と比較しても、それを十分上回るくらいに力はつけている。
「お前みたいな行動を蛮勇と呼ぶんだ! わかったかぁ!?」
一端の候補生や、IS操縦者じゃまるで相手にならないことくらい。ましてや手負いの人間が堂々と勝負を挑むなど、蛮勇も良いところ。格上の相手に対して自らハンデを背負い込んで、勝とうと思う浅はかな考え方がそもそも間違っていた。
「さっきから何黙り込んでやがる! このっ―――」
だから、それがどうしたっていうんだ。
―――一閃。
プライドが突っ込んで来ると同時に、何かが凄まじい速度で横切ったかと思うと、甲高い金属音と共に宙をクルクルと細長い破片が飛ぶ。
「……え?」
何が起きたか全く分からず、攻撃を止めて呆気に取られるプライド。目の前をハイパーセンサーでも追いきれない何かが通り過ぎ、金属音が鳴り響いたという事実しか分からないはず。奴の表情を見ればよく分かる。
初めて見せる困惑の顔。
負け知らずだった自分が、何をされたかも分からないなど、プライドにとっては屈辱でしか無い。
「シナリオだの蛮勇だの、くだらないことばかり言いやがって。だからどうした?」
「お、俺の刀が……!!」
そこで初めて、自分自身が何をされたか分かる。右手に握っていたはずの刀は刃先が鍔の部分からポッキリと切り取られ、全く使い物にならない状況になっていた。宙を舞う金属片はプライドの刀の刃先であり、攻撃手段として最も有効活用出来る部分。
そこをへし折られた刀は、攻撃手段として使い物にならない。
コイツの表情を見ていると、本当に何で刀が折れているのか分かっていないのがひしひしと伝わってくる。
特別なことは一切していない。ましてや
原理だけで言えば誰でも出来るような非常に簡単なことだ。
では何故、実力も兼ね備えているはずのプライドが、何で刀が折れているのか分からないのか。
理由はただ一つ。
居合い抜き。
別の呼び方を抜刀術と呼ぶ。
公では一度もお披露目したことは無い。
何故なら俺は抜刀術が
その苦手とする抜刀術すらコイツは見抜けなかった。
確かに今まで戦ってきた相手は強い相手も多かっただろう。だからこそ自信もつくし、傲慢にもなる。それこそ相手を何処の誰とも詳しく調べないで、喧嘩を売るような自信家に成り下がる可能性だって十分にあり得る。
言い方を悪くすれば井の中の蛙。
強い相手と戦ってきたかもしれないが、まだまだ世界を知らなさ過ぎた。俺のISの特性は、持ち主の
つまり俺の純粋な身体能力に、コイツは追い付いていない。
以前セシリアと戦った時、彼女は俺たちの稼働時間が短いからと慢心し、結果一夏には善戦され、俺には負けた。それでもセシリアはそれ以降、決して慢心するまいと心に決めて訓練に打ち込み、弱い心を鍛えた。
それがまだ実戦ではなく、訓練だから彼女は取り返しが出来た。
だが実戦中の慢心は、ちょっとやそっとでは絶対に治ることのない病と同じ。一度出来た慢心は綻びを生み、やがて自身を破滅へと導く。
「くっくくっ……刀を一つへし折ったくらいで何を粋がっている? まだ勝負はついてないぞ?」
相変わらず気に入らない笑い方だ。見ているだけでぶん殴りたくほどの表情など、早々あるもんじゃない。
―――あぁ、本当に面倒くさい。
こんな奴に本気を出さなければならないだなんて。ふざけたやつだからこそ、手の内を見せずに潰してやろうと思ったのに。怪我で満足に動けない状態だが、コイツを潰し切るだけの力は残されている。
だが、徹底的にやらなければ必ずコイツは俺たちに報復しに来るだろう。
それなら報復する気すら失せるほどに叩きのめすまでだ。
「ほう、まだ威勢はあるみたいだな。なら踊ってみせろ、俺の手の上でな」
「あぁ!?」
力を貸せ、
お前の力を最大限に見せてやれ。
そして後悔しろ。
大切な仲間を傷付けた事を。
「行くぞ、
《Limit Break Mode Standby....》