IS‐護るべきモノ-   作:たつな

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Epilogue
○護るべきモノ


 

 

 

「んー……紅椿の稼働率は絢爛舞踏含めても四十二パーセントかぁ。まぁこんなところなのかなぁ?」

 

 

空中に浮かび上がるディスプレイに映るパラメーターを眺めながら無邪気にほほ笑む。断崖絶壁の縁に腰かけ、下には満潮を迎えたであろう波が、幾度となく押し寄せた。恐怖という概念が無いのか、周囲の見通しの悪い時間帯だというのに淡々としたままディスプレイを叩いていく。落ちればもれなくあっという間に海の藻屑となれるだろう。

 

どこか納得が行かない不満そうな感情を込めながらも、鼻歌を歌いながら別のディスプレイを展開すると、そこには白式と不死鳥フェニックスの戦闘映像が流れている。

 

 

「まさか生体再生まで可能だなんて、ホント白式には驚かされるなぁ。まるで「白騎士のようだな」―――やぁ、ちーちゃん」

 

「おう」

 

 

気配を消し、音も無く束の後ろに立つのは千冬だった。深夜だというのにスーツに身を包む姿は、どこか独特の雰囲気を持つとともに、静かな威厳に満ちていた。どことなく千冬の浮かべる表情は険しい。だが数少ない興味を持つ対象であるにも関わらず、束は後ろを振り向こうとしない。束は無限に広がるであろう海原を見つめたまま、千冬は近くにある木に背中を預けたまま。

 

二人そろってどんな表情を浮かべ、何を考えているのかくらい長い付き合いなのだから分かる。態々顔を合わせる必要もない。

 

 

「ところでちーちゃん、白騎士はどこに行ったと思う?」

 

「……白式を『しろしき』と呼べばそれが答えなんだろう」

 

「ピンポーン! 流石だねちーちゃん! 白騎士を乗りこなしていただけのことはあるね」

 

 

白騎士はコアだけを残して解体され、第一世代機の作成に大きく貢献した。しかし保管していた研究所が襲撃された際に、コア自体が行方不明になったのだが、いつしかそのコアは白式の一部として組み込まれていた。

 

 

「にしてもあの子、やっぱり面白いよねぇ。私が想定している以上の成果を出してくれる。本当に面白い存在だよ」

 

「……霧夜のことか?」

 

「そうそう! 私も初めてあった時は何処にでも居るようなつまらない人間だと思っていたんだけどね。探ってみたら中々に面白い経歴の持ち主だったんだよね『やっくん』は」

 

 

大和のことを愛称をつけて呼ぶ束の顔はイキイキとしたものだった。初めてあった時には大和の素性を知らず、一般人に対する態度と変わらない態度を取り続けた。

 

しかし彼の行動を見ている内に気付く。とんでもない経歴と、一般人と異なる点を多々持っていると。

 

一つ目は言わずもがな、彼が遺伝子強化試験体だということ。それも通常の遺伝子強化試験体ではなく、人為的に強化された遺伝子を組み込まれている個体であると。

 

表向きは失敗として実験自体が無かったことにされたが、国を容易に滅ぼしてしまうことが出来る危険因子として、捨てられた個体の何人かは生き延びていた。

 

この事実はとっくの昔に束も掴んでは居たが、情報が余りにも少なすぎる故に、個々の足取りは掴めない。数少ない興味の対象として視線を向けるも、探すことが出来ずにほぼ諦め、忘れかけていた。

 

諦めかけていた最中に、出会ったのが偶々大和だっただけに過ぎない。見た目は普通の人間と何一つ変わらず、細かい身体的特徴も、話す言語も同じ。

 

違うことがあるとすれば、二つ目に挙げる、大幅に強化された身体能力だ。

 

視覚、聴覚、嗅覚といった感覚はもちろんのこと、ラウラの前で硬質な五百円玉を軽く握り潰してしまったように、握力、腕力、脚力といった力までもが人間を軽く超越している。

 

到底の人間では太刀打ち出来ないどころか、質量兵器と呼ばれる戦車や戦闘機をたった一人で無力化し、その気になれば国すらも潰せる力を持つ個体までいる。

 

通常の人間には行き着けない領域に居る作られた人間。篠ノ之束にとってこれほど興味を引かれる対象は居ない。

 

彼が任務を終えて帰った後、即座に調べた。そもそもこの護衛任務も、自分で手を下すのが手間だったが故に、渋々依頼をしたに過ぎない。正直誰が来ようが、何かに襲われて死のうが、彼女にとっては至極どうでも良かった。

 

が、これも時の運、巡り合わせというのだろう。

 

かつて追い求めていた試験体が目の前に居る。飛び上がりたくなる気持ちを抑え、あらゆる手段を使って即座に調べ上げた。

 

彼の身長、体重、生年月日等の個人情報を始め、生まれてからここまでどのような経歴を持ち合わせているのかを。

 

 

機密になっている部分でも、必要とあらばハッキングしたし、他の遺伝子強化試験体にも、執着心を持って調べた。調べて得た結果を元に大和の住まいを特定。

 

実際に会いに行き、情報をより手に入れようとした。

 

 

そんな中、束にとっては朗報とも思える事が起きる。

 

 

「まさかやっくんがISを動かすとはねぇ。それは束さんも意外だったよー」

 

 

大和がISを動かしたこと。

 

こればかりは想定外だったが、逆に合法的に近付けるチャンスだと思った束は、特定した住所を千冬へと提供。千冬に大和の実家へ足を運んでもらい、IS学園へと入学出来るように手を回した。

 

束の一言に、大和を入学させるようにISを動かさせたのはお前ではないのかと、千冬の顔が少しだけ強張る。

 

 

「お前が動かすようにしたわけではないのか?」

 

「まっさか。いくら束さんが天才でもそこまでは出来ないよ。どうしていっくんとやっくんがISを動かせるのかは未だに分かっていないんだから」

 

 

束が嘘を言っているようには思えない。てっきりと確信犯的にやった行動だとばかり思っていた千冬にとって、彼女の言葉は予想外。

 

……少し質問をしてみよう、大和の情報を踏まえて、束には聞きたいことがあると、千冬は話を続けた。

 

 

「なら私から質問をしよう。お前は霧夜に怪我をさせるためにわざとあの男を呼んだのか?」

 

 

あの男、とはプライドのことを指すのだろう。千冬の言葉にはいつも以上に力が込められている。自分の生徒を、大切な人間を傷付けられて、彼女の中にある怒りは未だに収まってはいない。

 

もし可能なら、直接本人を見つけ出して叩きのめしたいほどに。それにもし束が一枚噛んでいるとしたら、それも許しがたい事実。本当に関与していないのか、確認の意味を込めて束に尋ねる。

 

口に手を当てて考える素振りを見せると、やがて首を横に振った。

 

 

「やっくんが並外れた力を持っているのは知っているし、戦闘データは欲しいけど、だからといってよく分からない人間に襲わせることはしないよ。そもそも、あの男に関しては私は一切関わってないもん」

 

 

大和が負傷した原因になったプライドに関しても、束は知らないと言い切る。あくまでトーンは一定だが、この期に及んで嘘を付いているとは考えづらい。

 

実際、プライドの召喚に束は一切関わっていない。大和を襲撃したのはあくまでプライドの独断専行に近いものがあり、束が直接手を加える、命令するといった類は一切していない。

 

何よりも、と束は付け加える。

 

 

「興味対象を自ら傷付けることなんかしないし、私が手を出したら黙っていない子が居るからね。流石にアレを敵に回すのは私にとってメリットにはならないのさ」

 

「……」

 

 

誰のことを指しているのか。

 

千冬にはおおよその検討がついて入るものの、あくまで冷静に口を結ぶ。

 

 

「私もちーちゃんも、まともにやりあったら勝てないからね。少なくとも今は敵対しようとは思わないよ」

 

「今は……か」

 

 

思わせぶりな発言をする束に、警戒心を強めていく。一体何が言いたいのか、少なくとも千冬よりも束の方が大和に関する情報を持っているのは事実。ただ現状、大和への手出しをするつもりは無い上に、束から明確な敵意を感じることは出来なかった。

 

 

「なら、将来的には敵対する可能性があるということか?」

 

「……さぁ、そこは束さんにも分からないなぁ。時の流れは無常だからね。その時々で考え方も変わるし、新しい発見だって出て来るし」

 

「お前らしい言い方だな」

 

「えへへ〜、ちーちゃんに褒められちゃった」

 

 

無邪気な子供のように喜ぶ年齢不相応な姿。

 

彼女の真意を知るものはいない。例えそれが付き合いの長い親友だったとしても。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ねえちーちゃん、今の世界は楽しい?」

 

「そこそこにな」

 

「そうなんだ」

 

 

刹那、強めの風が吹き荒れる。

 

 

「私は―――」

 

 

束が呟いた言葉は風に消え、同時に束自身の姿も海辺から消した。束が居なくなった後、一人取り残された千冬は木に体重を掛けて物思いにふける。

 

束の考えている事はいつも曖昧であり、掴みづらい。

 

 

「……一体お前は何を考えているんだ」

 

 

千冬の率直な思いが溢れる。

 

もうかれこれ十年近い付き合いになるというのに、束の手の内は掴みづらく、振り回されてばかりだ。

 

 

「遺伝子強化試験体か……」

 

 

何気なく千冬の発する言葉には何か別の意味合いが込められているようにも見えた。

 

だがその言葉を理解出来るものは誰一人としていない。

 

 

 

―――長い夜は明け、帰宅時間へと時は移る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大和くん、大和くん。もうサービスエリア着いたよ? お土産とか買わなくていいの?」

 

「んぁ?」

 

 

どこからか俺を呼ぶ声に手繰り寄せられるように目を覚ますと、両肩を持ち、優しく俺を起こすナギの姿が映った。

 

臨海学校も無事に全日程を終えて昼には旅館を出発、思いの外疲れがたまっていたのか、座席に身を任せ、いつの間にか眠ってしまっていたらしい。

 

何とも間抜けな声を上げながら起きたのは良いが、昨日の一件があってから寝顔を見られても抵抗感が薄れた気がする。

 

恥じらいが無いと言うのか、関係がより親密なものになったと言うのか。良いことなのか悪いことなのかの判断も付かないレベルで、ナギとの関係が深まった気がする。

 

 

「マジで? さっき寝たばかりの気がするんだけど」

 

「一時間近く寝てたよ? 凄く気持ち良さそうにね」

 

「むっ……そうか」

 

 

クスクスと笑われるあたり、相当爆睡をしていたに違いない。ゴシゴシと目を擦り、目を覚まそうとするが中々目のしばしばが取れない。

 

サービスエリアについたことだし、トイレにでも行って顔を洗えば多少は取れるだろうと思いつつ、席を立とうとすると先ほどからじっとナギが見つめたままなのに気付く。

 

 

「ほ、本当はもう少し寄り添ってて貰っても良かったんだけど……」

 

「え、何て?」

 

「な、何でもない!」

 

 

何を言ったんだろう、声が小さすぎて何も聞き取れなかった。変に誤魔化すくらいだし、さほど重要視する必要もないか。ぐーっと背筋を伸ばし、血液の循環を良くする。

 

普段は移動中もあまり寝ることは無かったのに、隣に安心出来る人間が居ると、身を任せて寝てしまうようになった。あくまで隣にいるのがナギだから、という建前もあるんだろうけど、自身の変化に驚きを隠せない。

 

 

「あっ! お兄ちゃんおはよう!」

 

「おっ……と! こらこら、バスの中で抱きつくなよラウラ」

 

「えへへー♪」

 

 

胸に顔を埋めて満足そうに微笑むラウラの頭を、グリグリと撫でる。そういえば今日は全くラウラのことを構ってないし、バスの中でも速攻で寝てしまったが故に話すらもしていない。

 

ラウラもまた、臨海学校を経て変わった人間の一人だ。人間的にももちろんのこと、なんつーか……完全に人目を憚らずにベタつき甘えるようになったと言うか。

 

今となっては可愛い妹だし、抱きつかれることに抵抗感もない。嬉しい気持ちは分かるが、この狭い車内で抱きつかれると危ないし、寝起きの俺がバランスを崩す可能性も考えられなくはない。

 

まぁラウラの反応が一々可愛いっていうのがあるから、強く言えない部分もあるし、俺個人としては全然許せてしまうレベルであるが故に特に言っていない。

 

それこそ軽く注意するだけに止めている。俗に言うシスコンとでも言うのか、ここ最近気持ちが何となく分かった気がする。

 

 

「どれくらい止まっているんだっけ?」

 

「えーっと、確か一時間くらいじゃなかったかな? お土産とかも買えるように長く取っていたと思うんだけど」

 

「そうか、ならちょっと見に行こうか」

 

 

停車している時間を確認し、二人を引き連れて外に出ようとするのだが、どうにも周りの空気感がおかしいことに気付く。厳密には一夏の周囲を取り巻く面々が。

 

セシリア、シャルロットの二人は仏頂面をしたまま席を立とうとしないし、一夏に至っては座席の机に顔を伏せたまま意気消沈している。

 

 

「おい、一夏。いつまで突っ伏しているんだよ。外行こうぜ!」

 

「お、おう大和……そうだな、行こうか」

 

「……? なぁ一夏、なんか妙にやつれてないか?」

 

「これは色々あったというか……ははっ、女性って怖いな大和」

 

「はぁ?」

 

 

とりあえず何を言っていることが分からない。一夏が妙に疲れているのは分かるけど、これほど疲れるまで何をしたというのか。

 

それに女性が怖いってことは、女性関連で一夏がトラブルに巻き込まれたんだろうか。なら嫉妬して二人の機嫌が悪いのも良くわかるけど。

 

 

「女心を理解出来ない一夏さんが悪いんですわ」

 

 

一夏の後ろの席にいるのはツンツンした金髪お嬢様、セシリア・オルコット。絵に書いたようなテンプレゼリフを残しながら、プイと顔を背ける。頬をリスのように膨らませながら、拗ねる姿は何ともお嬢様らしい。

 

普段は背伸びして落ち着いた年上の女性を目指そうとしているのに、好きな男の子が絡んでくるとこうも、必死になる姿は見ていて興味深いものがある。

 

 

「……」

 

 

ちゃっかりと一夏の隣に陣取るのはシャルロット。隣にはいるものの、見るからに機嫌が悪い。体から溢れ出る負のオーラが尋常じゃなく、口を一切開こうとしなかった。

 

そういえばバスに乗り込む前に聞いたなぁ、昨日の深夜に勝手に旅館の外に出て怒られた生徒が居たって。俺はキチンと許可を取ったし、さほど長い時間外に出ていた訳だからお咎めなし。

 

帰ってきた時に偶々千冬さんと出会ったが、俺とナギの様子をみると満足そうな笑みを浮かべた。最低限の節度は守るように……なんて言われたけど、もしその場になったら我慢出来るかどうか分かったもんじゃない。

 

で、その怒られた生徒が一夏だったとすると、話の辻褄が合う。

 

 

「くっそ、眠い。全然寝れなかったぞ」

 

「それを俺に言われてもな。許可の一つも取っておけば怒られることも無かっただろうに」

 

「うっ、それはそうだけど……」

 

 

予想的中、俺の言ったことに否定しなかったことから怒られた人物は一夏ということが確定。

 

 

「あー……、誰か飲み物を持っていないか?」

 

「ありませんわ」

 

「知らない」

 

 

哀れ一夏、僅かな希望を持って懇願をするもセシリアとシャルロットに一蹴され、力なく崩れ落ちた。

 

 

「箒……」

 

「な、何を見ている!」

 

 

仔犬が懇願するような眼差しに恥ずかしくなってしまったらしく、唯一機嫌が悪くない頼みの綱である箒までもがそっぽを向いてしまう。

 

まさに四面楚歌。一夏の周りに仲間は居ないようだ。幸いなことにサービスエリアに着いているから、多少体にムチを打って買いに行けば全ては解決する。

 

もっとも、その体力がないからこそ皆に頼んだんだろうけど……いやぁ、女性の嫉妬は怖いねぇ。

 

 

「一夏、サービスエリアに着いたんだから買いに行けば良いだろう。ほら、時間もないんだから」

 

「うぅ、じゃあ大和が買ってきてくれれば……」

 

「俺が手伝うとでも?」

 

「期待した俺が馬鹿でした。はぁああ……」

 

 

大きなため息をついて気だるそうに立ち上がる。あくまで俺は質問しただけであって、手伝わないとは言っていない。自己解釈したのは一夏だから、俺は悪くないはず。

 

あぁ、こんな時にまで人をからかおうとする辺り、俺の性格も大分捻くれてるな。

 

 

「三人がくれないなら仕方ないだろ。まぁそんな優しいやつが居たら、一夏も嬉しいよな」

 

「当たり前だろ。もう何でも良いから飲み物を口に入れたい……」

 

 

ボソリと呟く俺の一言に、そっぽを向いていた三人は一斉に顔を上げた。

 

一夏は現在進行形で困っているわけだ、しかも三人とも飲み物を持っている。一夏が喜ぶこと、すなわちここで飲み物を差し出せば、一夏の好感度アップにも繋がる。

 

はっとした表情のまま、それぞれ手持ちのカバンの中を探り始める。あまりにも分かりやすい反応に思わず笑みが溢れる。そうこうしている間にも一夏はバスから降りようと通路に出る。その後ろ姿を追うように、俺とナギ、ラウラが続く。

 

手持ちの残高がいくら位あったかと、財布の中身を確認しようとすると同時だった。

 

 

「「い、一夏(さん)!」」

 

「はい?」

 

 

俺の後ろをぞろぞろと、三人が続いてくる。箒とセシリア、シャルロットの手にはそれぞれ水の入ったペットボトルが握られている。

 

さり気なく一夏に渡して好感度アップを狙っているんだろうが、果たしてそう上手く行くのか。三人が手渡そうと一夏に近付いた瞬間、更に別の人物から声が掛けられた。

 

 

「ねぇ、織斑一夏くんって貴方よね?」

 

 

バスの入り口から車内に上がってくる一人の女性、光に照らされているのではないかと思うほどの金髪が眩しい。同時に見たこともない女性だということに気付く。学校の教師にはこんな特徴的な金髪の持ち主は居ないし、臨海学校に来ている生徒の中にも居ない。シャルロットやセシリアも金髪ではあるものの、特徴的なのは彼女の纏う雰囲気。

 

年齢的には二十歳くらいか、クラスメートたちと比較してしまうと随分大人びた雰囲気を感じる。実際、その表情からは幾多もの経験をくぐり抜けてきた強さが、ひしひしと伝わってきた。

 

黒のサングラスを掛け、カジュアルスーツを着崩した姿が妙に様になっている。テンプレなのか、スタイルも良い。それにモデルでもやっているかのような美人だ。町を歩いていたら数多くの男性が振り向くであろう美貌を持ち合わせている。

 

男性にとっては非常に魅了的な女性ではあるものの、あまり色目を使い過ぎるとナギに白い目で見られるだろうし、視線を少しだけ逸して自然体を装う。

 

サングラスを外して一夏に近付くと、興味深げに顔を凝視する。

 

話したことも会ったこともない美人を目の前に、若干緊張の色を隠せない一夏と、取り残される一夏ラバーズ。

 

 

「へぇ、君がそうなのね~」

 

「あの、あなたは……?」

 

「私はナターシャ・ファイルス。『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』の操縦者よ」

 

 

女性から聞かされる単語に驚きを隠せない。

 

どこかで既視感のある顔だとは思っていたが、まさか昨日戦っていた福音の操縦者だったとは。海面スレスレでキャッチはしたものの、顔まではよく確認していないなら若干うろ覚えな部分があった。

 

よく見ていると助けた本人によく似ている。というより本人なのだから間違いはない。

 

一体サービスエリアまで出向いてどうしたというのか。

 

 

「あ、あの……?」

 

「ふふっ、これはお礼よ。勇敢な騎士(ナイト)様?」

 

「え―――」

 

 

ニコリと微笑むと一夏に近付き、無防備な左頬にそっと自身の唇をくっつけた。羞恥から頬を赤らめる一夏と同時に、ぴしりという音とともに箒、セシリア、シャルロットの三人は凍り付く。

 

ラウラは興味深げにその様子を眺め、ナギは恥ずかしそうに両手で口元を覆った。社内は突然の行為にざわめき、社内に残っている生徒の視線は一斉に一夏の元へと降り注ぐ。

 

何でも頬へのキスは感謝の意味も含まれているらしく、ファイルスさん的には感謝の意味を込めたのではないかと、個人的には考えている。

 

しかし一夏に想いを寄せる三人からしてみれば、感謝のつもりであってもキスはキスだ。あって間もないファイルスさんが一夏にキスをすれば、新しいライバルが現れたと勘違いしても無理はない。

 

驚きは嫉妬へと切り替わり、ペットボトルを握り締める力が強くなる。

 

 

「あらあら、ちょっと刺激が強かったかしら? ごめんなさいね」

 

「え……はぁ」

 

 

浮かべる笑みも様になってて、口を押さえ方が何とも上品に見える。大人の色気というのか、同じ世代の異性が笑う時と比べると違いは歴然だった。

 

飄々と返すファイルスさんに、恥ずかしさから頬を赤らめて照れくさそうに視線を這わす一。少なくとも、一夏がファイルスさんに向ける視線は、女性として見ている貴重なものでもある。だからこそ、尚更三人からすれば面白くない。ここに鈴がいたなら、規律を無視して甲龍を展開する姿が容易に想像できた。

 

 

「一夏ってモテるねぇ」

 

「ホント、羨ましい限りですわぁ」

 

「はっ、ははっ、はははっ」

 

「ひぃっ!」

 

 

フリーズが解け、満面の笑みの中にどす黒い感情を込めて一夏のことを見つめる。一言でいうと怖い、これが女性の嫉妬なのかと考えると、背筋が凍り付く。

 

三者三様の反応に、一夏はビクリと体を震わせる。これから襲い来る未来を想像したのだろう、三人の手にはそれぞれペットボトルが握られていた。当然、中身は満タン。

 

中身がないならまだしも、中身がフルで入った状態で、それを投げようものなら軽く死ねるなと、他人事のように一部始終を見つめていた。

 

案の定、俺の予想は的中することになる。

 

 

「「はい、どーぞ!」」

 

 

一夏の画面めがけて、人数分のペットボトルが投擲された。

 

が、あいにくここは狭いバスの中。幸いラウラにもナギにも当たる軌道ではないが、一夏に当たったペットボトルはどうなるだろう。跳ね返ったペットボトルがあらぬ方向へ飛んでいくかもしれない。

 

そうすると無関係の人間が巻き込まれる可能性も出てくる。

 

それは防がなければならない。

 

 

一夏の前に素早く割って入ると、投げられたペットボトルをキャッチしていく。残った三本目は俺が掴むより先にラウラが掴んでくれたため、これで全部のペットボトルを掴むことに成功した。にしてもラウラのとっさの判断も目を見張るものがある。理由はどうであれ、気遣いも出来るようになってきているし、独り立ちするのも時間の問題かもしれない。

 

兄としては少し寂しい気分もあるが、致し方ない。

 

さて、問題なのはペットボトルを投げた三人か。

 

嫉妬から怒りたくなる気持ちは分からなくはないけど、流石にこの場でペットボトルを投げる行為はいただけない。

 

 

「ほっ……助かった」

 

 

胸を撫で下ろす一夏を確認すると、バツが悪そうに視線を逸らす三人に軽く注意をしていく。

 

 

「お前らなぁ。気持ちは分かるけど、こんな狭いところでペットボトル投げたら他の人間に迷惑かかるだろ?」

 

「うっ……それは」

 

「た、確かに大和さんの言うとおりですわ……」

 

「で、でも!」

 

「言い訳しない!」

 

「は、はい……」

 

 

反省した素振りを見せる箒、セシリア、シャルロットの三人。若干シャルロットが何かを言い掛けるが、言わせる暇も与えずに黙らせる。ここで話を聞いていたら埒が明かないし、ファイルスさんにまで迷惑を掛けることになる。

 

一概に三人を責めることはしないものの、TPOは弁えて欲しい。

 

 

「すみません、騒がしくて。皆悪気は無いんですけど、ちょっと元気が良すぎるというか……」

 

「あら、私は特に気にしないわよ? あなたたちの年なら、これくらい青春してないとねー」

 

 

ファイルスさんがいい意味で砕けていて助かった。一人の男を巡ってバチバチの争いをされたら敵わない。今のやり取りに対して楽しそうに笑みを浮かべる。

 

 

「貴方は霧夜大和くんよね。どう? 怪我の状態は」

 

「まぁボチボチってところです。体の傷は大分癒えたんで、日常生活にも支障は無いと思います」

 

 

お陰様で少し遠近感が掴みづらい以外は、別段支障はない。掴みづらいとはいっても、前線で両目を駆使している時に比べてであって、この状態でも常人に負ける気は全くない。

 

眼帯を外して左眼を駆使すれば言わずもがな。

 

怪我の状態を聞き、ファイルスさんは少し安心したように表情を和らげる。

 

 

「そう、それなら良かった。……でも左眼までは戻らなかったのね」

 

「そこは仕方ないです。作戦中に油断した俺が悪いんで」

 

 

やはり左眼が気になるらしい。気になるのは分かるが、この話題を出すと箒の表情が暗くなりそうだから、あまり本人の目の前で話したい内容ではない。

 

話はつけて落ち着かせてはいるが、話題に上がっても良い気分にはならないはず。

 

 

「貴方も大概無茶をするタイプなのね。よく心配かけて泣かせるタイプでしょ?」

 

「……否定出来ないですね」

 

 

この人もよく人を見ている。

 

つい先日の出来事がフラッシュバックし、思わず苦笑いを浮かべながら視線を逸した。実際に泣かした本人が近くにいる手前、そこに関してはぐうの音も出ずに首を縦に振るしかない。

 

というか福音の操縦者ならある程度事故の概要は聞かされているはず。怪我を押してまで作戦に参加した時点で、無茶をする人間だというのは目に見えて分かる。

 

 

「あら?」

 

「えっ?」

 

 

不意にファイルスさんが視線を俺の後ろに向ける。後ろに居るのは五人、だが視線の矛先は箒やセシリア、シャルロットには向いていない。となると残る選択肢は二人、どう考えても他のクラスメイトは無関係だし、視線が向けられる理由もない。

 

視線の矛先を確認してみると、丁度真後ろにいるナギの元に辿り着く。ナギが声を上げたのも自分に視線が向けられていることに気付いたからだろう。

 

しかしナギとファイルスさんにはまるで接点がない。俺が知らないところで会ったとも考えられないし、今回が初めての邂逅のはず。どうして真っ先にナギへと視線を向けたのか。

 

何だろう。このケース、凄く嫌な予感がするんだが……。

 

 

すると今度は俺の方へと視線を戻す。またナギへと視線を移すといった動作を二度繰り返し、再び柔らかな微笑みを浮かべた。

 

 

「ふふっ♪ まさかとは思ったけど、やっぱりそういう事ね」

 

「はい?」

 

 

言っている意味が分からないのに、何故か寒気がする。野生の勘とでもいうのか、これから起きることに一抹の不安が拭えない。

 

 

「だから燃えるものもあるわよね。よしっ!」

 

「あの、ファイルスさん?」

 

「私のことはナターシャで良いわ大和くん。そしてこれは左眼を失ってまで戦ってくれたお礼と……」

 

 

一歩間合いを詰め、俗に言う一足一刀の間合いへと入ってくる。彼女のことだし悪意はないだろうと、油断して構えていたのがいけなかった。

 

 

「んっ」

 

「!!?」

 

 

素早い身のこなしで俺へと近付くと、背伸びをして薄く口紅が塗られた色っぽい唇を頬ではなく、俺の口元に軽く口付けた。ほんの一瞬の僅かな出来事だったが故に感触もへったくれも無かったが、ファイル……ナターシャさんの唇が触れた事実は変わらない。

 

 

 

「えっ!?」

 

「「なぁっ!!?」」

 

 

あっけに取られる俺と、驚くナギとクラスメイトたち。ほんのりと頬を赤らめるナターシャさんの姿は俺から離れると、小悪魔のようにニヤリと微笑み。

 

 

「宣戦布告、かな?」

 

 

宣戦布告の意味が分からないほど、俺も鈍感ではない。わざわざナギに視線を向けた意味がようやく分かる。つまり……ナターシャさんはナターシャさんで、俺に好意を持っていると。

 

確かに作戦には参加したが、参加した理由はあくまで一夏のバックアップ要員として。事がスムーズに進めば、本来は戦いに参加することはなかった。

 

しかも戦ったのは福音ではなく、未知の存在プライドとだ。ナターシャさんを守るためかと言われると、若干の語弊があるし、俺が好意を向けられる理由が見当たらない。

 

とはいえ、口付けをされたわけだ。彼女でもない別の女性に、しかも彼女の目の前で。

 

今の口付けの意味を単純に解釈すると海外式の挨拶か愛情。が、この場で挨拶というのには無理がある。その解釈は俺だけではなく、全員の共通認識だろう。

 

もちろん、ナギにも……。

 

後ろを振り向くのが堪らなく怖い。

 

意識せずとも押し寄せてくる背後からの威圧感に、俺の背筋は凍り付く。わざとじゃないとはいえ、自分の彼氏が別の女性に唇を奪われて平気で居られるわけがない。

 

ましてや初対面の人間に。

 

冷や汗を垂らしながら、俺は目の前のナターシャさんの方へと向いたまま、話を続ける。

 

 

「宣戦布告って……何を?」

 

「あら、貴方ならすぐ気付くかと思ったけど……もう一回する? 今度は少し情熱的なやつを」

 

「いえ、分かりました。認識しました。だから勘弁してください!」

 

 

クスクスと俺の反応を楽しむナターシャさん。

 

後ろに居る存在(ナギ)の反応に焦っていることを悟られ、面白そうに微笑む。俺の知ってる年上の女性はこんなのばっかり、恨むぜ神様。

 

 

「ふふっ、可愛い♪」

 

「うぐっ……」

 

「あまりイジると、嫉妬されそうだしね。じゃあまたね、バーイ」

 

 

後ろ向きに手を振ると、ナターシャさんは颯爽とバスの外へと出て行ってしまう。バスを唐突に襲った嵐は甚大な被害を残し、あっという間に去ってしまった。

 

これからどう収拾付けろというのか。とはいってもこの微妙な空気感のまま放置する訳にはいかないし、何とか元の空気に戻すしかない。

 

また殴られるんじゃないかと、腹を括り、思い切って後ろを振り向く。

 

 

「あの……うおっ!?」

 

「……」

 

 

効果音で表すなら『ゴゴゴゴゴゴッ!』という音が相応しいか。

 

結論から言えば果てしなく怖い。無言で仏頂面を浮かべるナギの背後に阿修羅がいるようで、隣にいたラウラに関しては瞬時に反応し、俺の背後に隠れる。ガタガタと体を震わせ、顔を半分だけ出してナギの様子を伺う。

 

真正面に立たされたこっちとしては既に逃げたい。

 

俺とナギが恋人関係にあることを知っている人間は、ラウラとナギの一部取り巻きだけ。仲が良い事は知っていても、どうして修羅場になっているのかを知っている人間は少ない。

 

一夏に関しては何が起きているのか分からず、箒、セシリア、シャルロットの三人は俺が焦っている理由が分からず、頭の上にはてなマークを浮かべている。

 

 

「何をやっているのかな……?」

 

「い、いや! その、これはあくまで不可抗力で!」

 

 

そう、不可抗力だ。

 

俺は何も知らないし、何もやっていない。どちらかと言えば被害者じゃないだろうかとナギに訴えるも、聞く耳は持たないようで、ムスッとしたまま見つめている。

 

 

「へぇ、そうなんだ。良いね大和くん、モテモテで。私なんかよりもずーっと美人さんだったし」

 

「いや、だからそれはだな!」

 

 

美人だったことは否定しない。

 

ナターシャさんは一般の女性と比べても勿論のこと、美人の中で比べても上位クラスに入る。そんな綺麗な女性に好かれて男冥利に尽きるところではあるが、あいにく俺からナターシャさんに好意を持っているわけではない。

 

そもそも彼女の人となりを知っているわけではないし、突然のことにこちらの方が驚いているくらいだ。いくら弁明をした所で、ナギの機嫌が直るかと言われれば何とも言えない。

 

 

「な、何か修羅場みたいな感じだけど……」

 

「ど、どういうことですの?」

 

「い、いや、それは私に振られてもだな」

 

 

箒たちは各々、俺たちの関係に疑問を持ち始める。付き合っている真実は伝えていないし、目の前で繰り広げられるやりとりが、まるで恋人のように見える。

 

そう括られてもおかしくはない。

 

一方で一夏は完全に蚊帳の外。何が起きているのか、どうして修羅場になっているのか分からずに首を傾げていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「浮気性の男の子には罰が必要かな?」

 

「罰? 一体何を……」

 

 

しようとするんだ。

 

そう言いかける前に、目の前に広がるどアップの顔。唇に触れる柔らかな感触、温もり。ふわりと揺れる髪から漂う、トリートメントの甘い香りが鼻腔を刺激する。

 

あの、これってもしかして……。

 

 

「「えぇえええええええ!!!!??」」

 

 

突然展開されるラブコメ展開に、バスに残っているクラスメイトの地響きのような叫びが木霊する。人間にはイメージがある。ナギのイメージは大人しく、あまり積極的に行動はしない。キャラが濃いクラスメートと比較すると、悪く言えば影が薄く、目立たない。

 

普段俺と行動することが多くて目立ってはいるが、俺がいなかったらそう目立つことはない。

 

そんな生徒が今話題の男性操縦者とキスしている。

 

 

「っあ……き、急に何を」

 

 

驚きのあまり、即座にナギから離れる。

 

口づけしていた時間はほんの僅かであったものの、周囲に見られたことを思うも、恥ずかしさから体中の体温が一気に上がっていくのが分かる。驚く俺をよそに、照れくさそうに微笑むナギの顔が眩しい。

 

 

「上書き、成功だね♪」

 

 

そう呟くナギの表情に、一気に顔が赤くなる。ナターシャさんに奪われた唇を、再度奪い返された。好きな男を見ず知らずの女性がキスをすれば、良い気分がしないのは当たり前。今までのナギなら、自分より優れているからとネガティブに思っていたかもしれない。

 

でも今は違う。俺に寄り添う女性としての余裕と、自信があった。

 

 

ズルい、それを言われたら何も言えないではないか。天使のように微笑む自分の彼女を直ぐにでも抱き締めたい気持ちにかられる。

 

口元に残る確かな温もりに無意識に唇を触る。

 

 

こんな公の場でしてくれたら、もう後には引けない。

 

俺以上に魅力的な男性が出て来ようとも、誰にも渡すつもりはない。

 

 

「……っとにお前は」

 

 

口から溢れる言葉は照れ隠しだった。

 

目の前に居る愛おしい彼女の体をギュッと抱き締める。抱き締めると共に湧き上がる黄色い歓声、俺たちの関係を祝福するもの、冷やかすものと様々だが、どれも悪い気分にはならなかった。

 

人前だから遠慮するという気持ちを忘れ、ナギを抱き締め続ける。一生分の幸せを噛みしめるように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふつつか者ですが、これからもよろしくお願いします♪」

 

 

気持ち良さそうに顔を埋めるナギを抱き締めながら、改めて思う。

 

……この学園に入学して本当に良かったと。

 

 

 

 

人は幾多もの偶然の中で生きている。

 

 

 

 

どのような生い立ちなのか。

 

どのような才能を持ち合わせているのか。

 

どのような人と出会うのか。

 

 

 

これらは全て偶然であり、元々決められたレールではない。ひょんな事で変わることもあれば、ずっと変わらないことだってある。

 

だが人は出会った瞬間、それを必然だとか、運命だとか言う。

 

そこを否定する気は無い。幾多もの可能性から探り出した僅かな確率を引き当てたのだから、そう思わない人間の方が少ないはず。

 

男性がIS学園に入学するなど誰が予想しただろう。適性検査で動かさなければ、決して踏み入ることのなかった異界の地だった。ISを動かすことが元々決められていた未来なのか、それとも偶々だったのか、そんなこと今はどうでも良かった。

 

何故ならこうして大切な存在と出会えたという事実は揺るがないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

「本当に退屈しないな……この学園は」

 

 

かつてないほどに充実している学園生活。

 

学校を楽しいと思ったことは一度もなかった俺にとって、IS学園の入学は、全く別の新しい世界を見ているようだった。

 

変わるものもあれば、決して変わらないものもある。

 

少なくともこの充実感だけは変わることが無いはずだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

休憩を終えたバスは、IS学園へと向けてひた走る。

 

長いようで短かった数日間は終わりを告げようとしていた。明日からは再び、あの喧騒が戻ってくることだろう。時には鬱陶しさすら感じてしまった喧騒でも、今となっては心地よいサウンドのようにも聞こえる。

 

この数日間の臨海学校で、それぞれ学ぶことがあったはず。それらはこれから先、決して無駄にはならない。だが活かすも殺すも自分次第であり、必ずしもタメになるとは限らない。

 

どう活かしていくかは、その人間次第だ。

 

 

各々想いを胸に座席へと座る。

 

思った以上に溜まった疲れが、睡眠へと誘うには十分だった。座席に背中を預けるとともに、押し寄せる睡魔に逆らうことが出来ずに闇へと落ちる。

 

左肩には何かが乗っかる感触、それだけで俺の心は安息に包まれる。隣にいてくれるだけで安心するような存在、かけがえのない存在へと変わった。

 

 

 

 

 

ただの知り合いから友達へ。

 

友達から親密な関係に。

 

親密な関係から彼女へ。

 

彼女からかけがえのない存在に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――これから先、あわよくば永久に。

 

本当の意味での『護るべきモノ』として、俺は彼女を守り続けよう。

 

そう新たに胸に誓った。

 

 

 

【挿絵表示】

 




ここまでご愛読頂きありがとうございます。
臨海学校編で一旦物語は区切りとなります。
今後の詳細等は活動報告にて報告させて頂きますので、そちらをご覧ください。

本当にありがとうございました!

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