とある青年が幼い頃から憧れていたヒーロー、その名は仮面ライダー電王。
それは昔も今も、未来もずっと変わらない。

仮面ライダー電王全話視聴記念&以前から『平成ジェネレーションズ FOREVER』に
関する話を書きたかったことから本日書きました。

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『平成ジェネレーションズ FOREVER』、特報で人々の間を進む電王を見た時点で
「これ絶対面白いやつじゃん!」ってなりましたけど期待以上でした。

直撃世代の基に来るエグゼイドゴーストWクウガとか、最後の兄弟写真とか思い出す度にアーナキソ


幼い頃からヒーローに憧れて

 

『平成仮面ライダー』と呼ばれる一連の作品群がある。

 

平成仮面ライダーシリーズは、一度は途絶えた仮面ライダーの系譜を継ぎ、人々にとって記念すべき西暦2000年の冬に始まった。その初代でありシリーズの方向性を決定付けたクウガから2018年に放送が開始されたジオウまで、20年近くの時を駆け抜けたこの作品群は老若男女問わず多くの人々に支持されて来た。TV放映から映画、その他の様々なグッズ展開まで全く平成ライダーシリーズに関わる事無く平成を生きてきた人間の方が今の日本では珍しいだろう。

 

無論東京に住む何の変哲もない一般人の僕だって平成ライダーシリーズは大好きだ。その中でも一番好きな作品は人によって異なるだろうが、僕が一番好きなのは無論、

電王。

 

電王の放送が始まった当時の僕はまだ小学校低学年の身で平成仮面ライダーシリーズを見るのは電王が初めてだった。しかし僕は記念すべき1話から電王を見始めてすぐにその面白さに魅了された。

 

気弱なようでいて意志が強い主人公の野上良太郎。彼と共に戦うモモタロス、ウラタロス、キンタロス、リュウタロスのコミカルなやり取り。大切なものを失いながらも戦う桜井侑斗とデネブ。その他のキャラクターも魅力的で親にレンタルDVDやグッズをよくねだった物だ。あの時の僕にとって仮面ライダー電王こそが最高のヒーローだった。

 

いや、僕が本当に電王を好きになった時の事を考えると、今になっても電王という存在は僕にとってのヒーローであるのかもしれない。それは2008年の1月の事。その時の僕は型は忘れたけど重度のインフルエンザにかかっていた。しかも発見と治療が遅れたせいで高熱を出していたはずだ。

 

何日もの間電王の最終回を控えているのに、インフルエンザの高熱のせいで僕はうなされ悪夢を見ていた。今になれば陳腐で子供向けの作品に出てくるような内容だったけどあの時の僕には悪夢の内容は本当に怖かった。

 

お決まりの悪夢の内容は廃墟になった街で延々と怪物達に追いかけられるという物。最初は人の皮をかぶっていても、僕を見つけた途端それがぐずぐずに崩れて怪物の本性をむき出しにして怪物は僕を追いかけてくる。夢の中の幼い僕は怖くて泣いた。

 

「えぐ…うぐぅ…助けてぇ電王ぅ……!」

 

夢の中なので普段僕を助けてくれる両親も友達もいない。僕に追い付いた怪物の一体が子供の脳天位串刺しにできそうな鎌を振り上げる。ボクは絶望の中、自分の信じるヒーローの名前を呼んだ。そして鋭い物が風を切る音と一瞬の静寂の後――――――――――――――怪物が真っ二つになって小さく爆発した。

 

「え……?」

「おいおいどうしたよボウズ。こんなところで一人で」

 

僕の前に居たのは輝かしい赤い装甲を身に着けたスーツの戦士。振り向いた顔にある桃が二つに割れたような顔を僕はTVで本で、数えきれない程見ている。

 

「だがもう心配はいらないぜ。事情は分からねえが―――――」

 

その名前は仮面ライダー電王ソードフォーム。電王の主人公野上良太郎に僕の一番好きなイマジンだったモモタロスが憑依することで変身する仮面ライダー。僕の憧れたヒーローの姿だ。

 

「俺は最初から最後までクライマックスだぜ!」

 

電王ソードフォームは群れを成す怪物たちに威勢良く切り込んでいく。喧嘩上等の殺法は拳や蹴りを交えながら怪物たちを切り裂いていく。すぐに三、四体の怪物がさっきとおなじように真っ二つにされて倒された。

 

だが怪物もさる物。遠くから猿のように素早く動く怪物と岩のような肌をしたいかにも頑丈そうな怪物の二種類が大挙して押し寄せてきた。でも僕は心配をしていない。電王の力は一つだけじゃないのだ。

 

青いエネルギー体のような物が電王にぶつかると今度は電王の姿が青く変わり仮面もどこか亀を模したような形状に変わる。仮面ライダー電王ロッドフォームだ。

 

「お前達、僕につられてみる?」

 

電王ロッドフォームは巧みな槍捌きで一定距離に敵を寄せ付けず、隙を見せた敵から巧妙に突き刺していく。警戒してうかつに距離をとった敵もまたそのリーチの長さの餌食になった。

 

そうして電王ロッドフォームが素早い敵を全滅させたのと同時に遅れてきた頑丈そうな怪物が拳を振り上げる。しかしそれよりも早く今度は黄色いエネルギーたちが電王にぶつかり、マッシブな黄色い装甲と斧のような角の生えた姿に変わった。仮面ライダー電王アックスフォームだ。

 

「俺の強さに、お前が泣いた!」

 

強烈な一撃で逆に頑丈そうな怪物の腕が吹き飛ばされ、帰す刀で振るわれたキンタロアックスが頭部をかち割った。残りの数体もその豪撃に耐えきれず爆散していく。

 

そして残った怪物たちを、紫色のエネルギー体が憑依しまたも姿を変えた電王が、銃撃で蹴散らしていく。仮面ライダー電王ガンフォームだ。

 

「全員倒してもいいよね?答えは聞いてない!」

 

体中に無数の弾痕を穿たれ、倒れていく怪物たち。しかし新たな怪物たちが近づいてくる。だが電王は邪悪の軍勢にひるむことはない。何故なら彼らは仮面ライダーだからだ。

 

「行くぜ、行くぜ行くぜぇっ!!!」

 

怪物たちに再びソードフォームになった電王が切りかかっていく。その後ろ姿に僕は喜びと憧れの目を向けていた。冷めない悪夢の中電王は助けに来てくれた。

 

僕のヒーローは、たとえ夢の中でも、僕の事を裏切らなかった。

 

 

 

悪夢が終わって僕のインフルエンザが終わってから、どうにか渋る両親に頼み込んでみた電王の最終回。僕を始めとするファンが満足するような素晴らしい話だった最終回で、良太郎はデンライナーに乗って旅立っていくモモタロス達に「いつか、未来で」っと言っていた。

 

だからだろうか。当時の僕はこんなことを決意した。もしいつかの未来に良太郎とモモタロス達と再会する日が来たら、いや彼らは架空の人物だから俳優や声優ならともかくありえないんだけど、その時の為に胸を張って生きていけるような生き方をしようって。ちょっとしたことでもよい事をしよう。そんな微笑ましいを胸に生きていこうと当時の僕はそう考えて、現代になってもそんな思いは細々と続いている。

 

だから仮面ライダー電王は、今も僕のヒーローなのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

とある冬の日、僕たちが大好きだった仮面ライダー電王が終わってから11年近くたった2018年の12月。クリスマスを数日後に控えたその日、東京を災厄が襲った。

 

東京を襲った災厄がどの様な物かについては話だけ聞けば当事者たちの正気を疑われるかもしれない。無数に発生し東京の人々を襲った災厄の正体は、平成仮面ライダーに登場する怪人たちの姿をしていた。

 

思えばその前から予兆はあった。その前日に見知らぬ怪人(造形からおそらく仮面ライダーWを基にしたと思われる)が仮面ライダービルドのライダー達と戦う姿がインターネットにアップロードされていた。明らかに撮影ではあり得ないエフェクトや迫力の伴ったその映像は、リアルさに注目を受け多くの人々に視聴されたものの、まさか人々は本当に仮面ライダーや怪人が存在するとは考えるまでに至らなかった。当然だ。彼らはあくまで架空の存在なのだから。

 

だが現実に現れた怪人たちは街を破壊し、人々に危害を加え続ける。ありふれた日常で幸福の中にいた人々は恐怖に怯え逃げ纏う。仮面ライダーという作品の中で幾度なく描かれたありふれてすらいる地獄が現実となって襲い掛かったのだ。

 

「うわあああ駄目だ!こっちにも化け物達が居やがる!あっちに逃げるぞ!」

「畜生あいつらは架空の存在のはずだろ!?なんで現実に出てきてんだよ!?」

「すみませんウチの息子を知りませんか!うちの息子を―――――」

 

東京都心らしい広い道路を走るのは自動車ではなく逃げ纏う人々。その後ろを姿も色も獲物も様々な怪人たちが追いかける。過剰なまでの数による混雑のせいか怪物たちはまだ人々に追い付けていない。だが怪人たちは戦闘員に分類される下級の存在であるが当然ながら力は人間より優れている。その差は徐々に縮まりつつあった。

 

「あっ!!」

「勇人ぉ!」

「駄目だ奥さん!もう…」「やべえっすってマジで!」

 

不運な事に最後尾を走っていたまだ幼稚園に通うような年頃の子供が転んでしまった。その子供の親は慌てて子供を助けようとするが隣にいたサラリーマンとフリーター風の若者が慌てて抑える。何故なら子供の前にはすでにグールと呼ばれる邪鬼のような姿の怪人が槍を構えて立っていた。その槍は恐怖に震える子供に振り下ろされ――――

 

「っあああああああああ!!!」

 

る前に金属製の看板で思いっきり殴られてグールは怯んだ。看板でグールを殴った青年は子供を抱きかかえると急いでその場を離れようとする。

 

「君っしっかり掴まってて!」

「……うん!」

 

子供を抱えて青年は重さによろめきながらも走り出す。一歩、二歩徐々に加速をつけてなけなしの体力を振り絞って駆けだす。少しづつ最後尾までの距離が縮まりもう少しで親の元に子供を返せそうな所で、逃げる人々から悲鳴が上がった。

 

 

「っ!?」

 

振り返ると獲物を投擲しようとする怪人たちが数体いる。逞しい腕からは今にも獲物が投擲されそうだ。

 

「そこのお母さんたち、頼みます!」

 

緊迫した状況に青年は子供を親や周りの大人たちに向かって押し出す。転がりながらも子供が親元へ届いたのと同時に投擲された獲物の一部が青年の脚に命中する。

 

「あぐっ!!」

 

幸いにも刃が当たることがなかったが元より人外の存在が振るう事を前提とした物。したたかに青年の脚を打ち据えたそれは確かに彼の脚を痛めつけ目的を果たした。こざかしい妨害者を嬲り殺す為足を止めるという目的を。

 

「はあ……はあ……うっぐぅう……」

 

脚が動かない中必死に這って進む青年を怪人たちが取り囲む。ある者は鈍い槍を、ある者はミリタリーチックな銃口を、またある者は内蔵されたエネルギー砲を一斉に青年に向けていた。人のそれとは全く異なる相貌から何処か喜悦に満ちた雰囲気をにじませながら。

 

(ああ……これで終わりかよ……ていうか走馬灯って本当だったんだ……)

 

逃れられようのない死を前に青年は走馬灯が流れることに驚く。

 

産み育ててくれた両親。子供時代を過ごした街。よく遊んだ友達。苦労した受験勉強。今となっては苦笑するような初恋。合間合間にした小さな親切。そして子供のころから憧れていた仮面ライダー。

 

(少しは…良太郎やモモタロス達に、胸を張れるような人間になれたかな……)

 

青年は目を閉じる。歪んだ叫びと共に怪人達が青年に凶器を向けた。

 

 

 

 

 

「……あれ?」

 

カラン、と幾つもの物が落ちる音がした。音に続いて聞こえるのは怪人達の呻くような声。数秒間待っても自分に死をもたらす痛みが来ない事に気づいた青年は恐る恐る目を開ける。足の痛みはそのままだが、他は擦り傷とか以外特に痛くない。周囲に転がっているのは綺麗に切断された獲物や腕。そして次に目に入ったのは、二等辺三角形を引き延ばしたような形状の刃に切り刻まれ爆散する怪人達。

 

「あ…あああ…ああああこれは……!」

 

青年はその赤い刃を見た事がある。現実ならともかく画面の中なら、それこそ何百、何千回も。

 

「仮面ライダー電王、ソードフォームのデンガッシャー……!」

「いーじゃん、いーじゃんすげーじゃん」

 

刃の正体を叫ぶ青年の基に更に逃げていた人々の間から誰かが近づいてくる。その姿は青年からはまだ見えない。しかし絶望から一転喜びに沸く人々の顔が、怪人達を切り裂いた刃が、そしてその声が誰かを示している。

 

そして電王は現れた。かつて子供の頃の青年が憧れたその時の姿のままで。

 

「よう、久しぶりだなボウズ。だいぶ強くなったじゃねーか」

「モモ、タロス……!」

 

それ以上は言葉にできない。痛み以外の感情で青年の視界は滲んでいる。

 

「ここからは俺たちに任しとけ。俺たちはあの時も、今も未来も―――――」

 

電王ソードフォームはポーズをとる。その先には無数の敵。

 

「最初から最後まで、クライマックスだぜ!」

 

彼らは進んでいく。それが仮面ライダーなのだから。電王はデンガッシャーで怪人達と切り結び戦う。

 

電王の守りの元勇敢な人々が青年を助け下がっていく。その中には青年が助けた子供と母親もいた。

 

「兄さん大丈夫っすか?これひょっとしたら折れてるかもしんないし病院行った方がいいっすよ」

「ああ…あの仮面ライダーが戦ってる間にどこかで布とか調達できるといいんだが…」

「ん…多分大丈夫です。杖があれば歩けそうで…」

 

そんな様子を彼が助けた子供は見ていた。その手にはジオウの人形がある。

 

「ねえお兄ちゃん」

「いたたた…何かな?」

「あの人もジオウの仲間、仮面ライダーなの?」

「ああ、そうだよ僕が子供のころから好きな仮面ライダーその名も――――」

 

その視線の先には今も戦い続ける姿がある。青年が子供のころから、そして今も未来でもあこがれ続ける大好きな仮面ライダー。

 

「仮面ライダー、電王!!!」

 

 

 

 

 

――――――――――時代が、人々が望むとき、仮面ライダーは必ず現れる。




また未来でも、会おう


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