娯楽部っ!   作:アポロ231号

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第6話です
学生の土曜日っていいなって話


Stage6 土曜日こそが至福なのである

俺が一番好きな日は土曜日だ。学校がないというのもあるが、何より自分の時間があるのが一番の理由だ。

平日は紫乃月や部長たちといる時間が多い。別に悪くはないが、いつも何かしらの形で俺を弄ってくるから気苦労が絶えない。

逆に日曜日はダメだ。休みではあるが明日が月曜日である事を考えると憂鬱になってくる。よって土曜日こそが至高なのだ。

 

そして今日は俺が大好きな土曜日、さっき理由にも挙げたから分かるとは思うが今の俺は気分が良い。軽く歌でも歌いたくなるくらいに。

コーヒーを飲みながら読書に読み耽るのもいい、何もせずにグータラして過ごすのも悪くない。

そんな事を考えているとスマホの着信が入る。知らない番号からの電話だった、本来なら出ずにそのまま無視の方向性なのだが気分が良かったせいもあって何も考えずに出てしまった。

 

「やっほー結弦。今日ヒマ?ヒマなら遊ぼうぜー」

 

聞き覚えのある女の声を聞いた直後、俺は無言で電話を切った。

その後同じ番号から何度か着信が入る。迷惑すぎる。暫くすると着信は来なくなり、今度はピンポーンとインターホンが鳴り響く。

まさかとは思うが家の前に待機しているんじゃないだろうなあいつ……。

 

「電話に出ないなんて酷い…酷くない?結弦はとっても冷酷な人間、私は悲しい……」

 

「……なあ紫乃月。お前なんで俺の電話番号と住所知ってんだ?俺言ってねえよな?」

 

「結弦、いつもトイレ行く時スマホ置いていくからつい。つまり私は無実で置いていく結弦が有罪、ギルティ」

 

「普通にアウトだよ!てか家はどうやって調べたんだよ!?」

 

「結弦の友達に聞いた。結弦の友達は私の友達、そういう事」

 

なにがそういう事なのかさっぱり分からん。そしてなんだその謎のジャイアニズムは。

で、こいつは今遊びに誘っているのか?誰が行くものか、俺はこの至福の時間を誰にも邪魔されずに味わいたいんだ。

 

「行かないなら家に上がり込んで好き勝手やるけどいいの?」

 

「行くからそれだけはやめてくれ」

 

さらば俺の土曜日、俺だけの時間よ。こいつがいる限り、プライベートな時間は永遠に来ない気がする。

 

 

──────────────────────

 

 

さて、支度を済ませて街へ出たのはいいが何をするつもりなのだろうか。紫乃月のことだし、女の子らしく買い物に付き合えって感じではない。

気になった俺はつい「どこに行くんだ?」と聞いてしまった。

 

「決まってるでしょ、ゲーセンよ。ゲーセン行って目一杯遊ぶのよ」

 

「なんで態々ゲーセン行くんだよ?いつもゲームしてるだろお前」

 

「結弦は何も分かってない。コンシューマーゲームとアーケードゲームはまた違った楽しみがあるの。それが分からないなんてまだまだ」

 

ふぅ、と溜め息を吐きながら紫乃月は言った。別に分からない訳ではないが俺はゲーセンの雰囲気は少し苦手だから乗り気ではないだけなのだが。

ゲーセンに着くと騒々しいくらいの音が過敏に耳を刺激してくる。この音量の大きさが苦手な理由の一つだ。耳が痛くて壊れそうになる。

紫乃月は「効果がないようだ」という顔で金を両替していた。

 

「まずはストⅤで対戦していく。私より強い奴に会いに行く…!」

 

お前より強い奴なんて限られてると思うんだが。トレーニングしながら待っていたら挑戦者という名の犠牲者が現れた。

対戦が始まると手慣れた手付きで操作し流れるように怒涛のコンボを決めていく。結果だけを言うと紫乃月の圧勝、見ていて相手が可愛そうになってくるレベルの圧勝だ。

 

「さあ、ドンドン掛かってくるがいい。誰でも相手になってやる」

 

それからというもの、全国のプレイヤーとマッチングしていき勝ちを積み重ねていく。時には圧勝して時に苦戦、顔色一つ変えずに戦い続けていく姿を見ていると、いつの間にか周囲にギャラリーが集まっていることに気付く。

何勝かしたら紫乃月は筐体から離れようとゲームをやめて立ち上がる。

 

「結弦、次行こう。次からは結弦もゲームやろう」

 

「え?いや、俺は別に見てるだけでいいって」

 

嘘ではない、俺は見ているだけでも十分な人間だ。

正直言うと、さっきの圧勝劇を見ていただけでもお腹いっぱいな気分だ。

 

「私は結弦と遊びに来た、結弦に楽しんでもらう為に誘った。だから楽しんでもらわないと意味がない」

 

……そこまで言われては断りづらい。なので彼女の言う通りに少しは楽しんでみようと思う。

それにしても、なんでこいつはここまで俺に楽しんでもらう事に重視しているのか分からない。その理由を問いただしても良かったが、特に気にならなかったので聞かないことにした。

 

その後は色んなゲームで遊んだ。レースゲームにシューティング、リズムゲーム、カードを使ったアクションゲーム、とにかく色々やった。

時間も忘れて遊んでいると外が暗くなっていることに漸く気付いた。何時間遊んだんだろうか、帰ろうとしていると紫乃月が立ち止まってある物をジッと見つめていた。

見ていたのはクレーンゲームの景品の犬の人形、欲しいのか?と聞くと「クレーンはやらない。取れそうな時にしかやらない主義」と言った。そんな欲しそうな顔で言われても説得力がないんだよなぁ…。

手持ちの所持金を確認、まだ小銭は残っている。ならちょっとぐらい挑戦してみてもいいだろう。

 

「無駄なことしなくていいよ結弦。それ取れないからお金の無駄だよ」

 

取れないのは承知の上、金をドブに捨てるものと理解している。それでも何故取ろうとしているのかは敢えて聞くな。

クレーンを人形の上まで動かして紐に引っかかるよう上手く調整、まあ取れねえだろうなーと思って見ていると人形が落ちることなく、そのまま取り出し口の中に入ってしまった。

驚いた表情を見せる紫乃月だが、俺自身予想外の結果だよ。いつまでも固まっている訳にはいかないので景品の人形を彼女に渡す。

 

「犬、好きなのか?」

 

「別に……そんな事ない。それより、その、ありがとう……。大切にする」

 

人形を抱き抱えて小さく呟く。いつもの無表情ではなく、少しばかり嬉しそうな表情を見せながら。

そんな紫乃月の顔を見ていると取った甲斐があったというものだ。

 

「折角だから名前を付けてあげよう。……よし、お前の名前は『げろしゃぶ』よ。よろしくね、げろしゃぶ!」

 

「ゴメンそれだけはやめて」

 

 

──────────────────────

 

 

「本当に送っていかなくていいのか?」

 

「うん、大丈夫。すぐ近くだし」

 

ゲーセンから出て帰路に就く途中、女の子一人で帰すのは危険なので家まで送ろうとしたが問題ないと言う。

家が近くなら大丈夫かと、別れを済ませて帰ろうとした瞬間、呼び止められる。

 

「結弦、また遊ぼうね?」

 

「──ああ、また今度な」

 

今まで見せたことのない表情でまた遊ぶ約束を交わした。

俺の唯一の救いである土曜日は無くなってしまったが、一緒に遊ぶ事で喜んでくれるのなら、こんな日があってもいいのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

翌日、家の前

 

「結弦、あーそーぼー」

 

「昨日の今日でこれかよ!?」

 

日曜日も消えそうでいよいよ俺のプライベートが無くなりそうだ。





以上、第6話でした。
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