娯楽部っ!   作:アポロ231号

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7話目です。

もうちょっと文章長く書いた方がいいのかなぁ〜と思いつつ書いてると本人ですら何を書いてるのか分からなくなる、なんだいつものことか(白目)


Stage7 悩みを解決するのも一種の娯楽

季節は移ろいでいき6月。夏に入る季節前という事もあってか徐々に暑くなっていく。

暑くなってきたとはいえ長袖を着ていても不快になるほどではない、しかしそれでも袖を捲らないと汗で軽いサウナ状態になってしまう。そんな微妙な暑さの中、部室へ向かっていると途中で小鳥遊さんと出くわす。

 

「八神くん、今から部室へ行くところですか?」

 

「ああ。どうせいつも通りゲームをするだけだろうけどね…。小鳥遊さんも今から行くんだろ? なら一緒に行こうか」

 

「はい。……それと八神くん。「さん」はいらないって先日言いましたのに付いてますよ?」

 

そういえばそんな事も言われていたな。前にも言ったと思うが、小鳥遊さんは学園のアイドル的存在だ。そんな彼女を呼び捨てにするのはメチャクチャ躊躇われる。

こうやって話をするようになってまだ日も浅い。彼女の性格を考えるなら別に俺なんかに呼ばれても気にしないだろう、けど此方の心の問題もあってね?兎に角、さん付け無しで話すにはまだまだ時間と女性に対する経験値が足りない。

 

「これでも善処してるつもりなんだが…ま、まあその内呼び捨てで呼べるようには頑張るから今は勘弁してくれって事で……」

 

「ふふ、約束ですよ?」

 

柔らかく微笑みながら勝手に約束を交わされた。

想像していたよりやたらとフレンドリーな女性だ。誰に対してもそうなのかもしれない。流石は学園のアイドルだ、感動的な優しさだ。だが相手は選んだ方がいい。

もし俺がチョロい男ならば今のやり取りで「お、もしかしてこの娘俺に気があるんじゃないか?」と勘違いしているだろう。

現にこれが彼女のファンなら昇天モノに違いない。実際俺もヤバかった。

 

その後は適当に他愛のない会話をしていると目的地の前までやって来た。どうせこのドアを開けたらいつものようにゲームに盛り上がっている事だろう。

ドアを開ければ誰も入室した事自体に気付かない、今までの流れからしてきっとそうなる。いっそ嫌でも気付くように壊れる勢いで開けてやろうか。

別に空気みたいな扱いに不満がある訳ではない、そうないのだ。ないったらない。

 

「お願いします!頼れるのは娯楽部の皆さんしかいないんです!」

 

「それが人にモノを頼む態度か〜?私たちに動いて欲しけりゃウチのお嬢にもっと献上しな。お嬢、何か欲しいものはありますか?」

 

「ローゾンの超盛りホイップクリームパンを所望する」

 

「……との事だ。今すぐ買って来いやぁ!私コーヒーゼリーな!」

 

「なに人をパシってんだよアンタら!?」

 

ドアを開けると、知らない男子生徒が一人、二人に対して土下座しながら何かを懇願していた。俺の視点から見たらガラの悪い不良が一般生徒をパシらせているようにしか見えない。

 

状況がまるで理解できないので我らが常識人、水瀬先輩に事情を伺ったところ、彼の名前は【見浦 晴人(ミウラ ハルト)】。学年は1年、俺の同じ学年の生徒だ。

彼が此処に来た理由、それはズバリ「恋の悩み」。日々ゲームをして遊んでいるだけの部活に何故こんな相談がくるのか、そこだけ心の底から理解できなかったが──。

「こういうのって何でも屋みたいで面白そうじゃない」

と、紫乃月の言葉で心の底から理解した。他人の悩みを解決するのも一つの【娯楽(愉悦)】ってワケだ。

 

「恋」──15年間生きてきて未だ経験したことがない感情の一つ。15年って短いじゃんと思う人もいるだろうが時間にすると約13万時間、これだけ聞くと結構長生きした感が出る気がする。

今まで過ごしてきた13万時間という時間、過去に戻れるのなら何を伝えようか?勉強してもっと良い高校に入れるように激励の言葉を送るべきか。

 

……話が逸れてしまった。兎に角、この見浦という男は同じクラスの女の子に恋をしたらしく、告白しようにもその子の事をまだよく知らない。

だから彼女と親しくなってから改めて告白しようと算段、だが此処で新たな問題が発生。

『どうやって親しくなればいいのかが分からない』。なんてこった、これじゃ告白どころの話じゃない、このままでは友達からスタートする事はおろか、3年間の学園生活で一度も会話する事なく初恋が終わってしまうかもしれない。

そうなってしまえば僕は一生後悔してしまう。で、ウチに駆け込んだって流れだ。ぶっちゃけ、此処に来る勇気があるからその女の子に話しかけるなり友人に相談した方が早いと思ったのは内緒に口に出さないでおこう。

 

「それで……どうしたら彼女と仲良くなれますかね?」

 

「うーんそうねぇ……私たち、恋愛とかした事ないから分かんないなぁ。ま、任せなさいな。恋愛マスター(仮)(カッコカリ)と呼ばれる私にかかればすぐに恋人関係になれるわよ」

 

「ほ、本当ですか!?正直(仮)(カッコカリ)ついてたら不安しかないんですけど力になってくれますか!?」

 

「あたぼーよ!明日にでも周囲もドン引きするくらいの仲にはなれるわよ!」

 

「なる訳ねえだろ!キミも落ち着いてよく考えなよ。こんな恋愛経験0の連中に頼っても得られるものも得られないかもしれないんだよ?もう一度よく考えて、な?」

 

「結弦の癖に生意気…だぞ」

 

0に何掛けても0だろ、俺たちでは彼の力になる事はできないのかもしれない。

 

「お?オメェ女の子と仲良くなりてえんだべ?だったら簡単だよ、オメェから話かけりゃいいんだよ!」

 

能天気にそう言って声の主は見浦少年の肩を組む。いたのか金剛寺。

事実、金剛寺の言う事は唯一の正解である。話しかけなければそこから発展する筈がないんだから。

 

「んーまあそうだよねぇ。その子と共通の趣味を見つけるしかないわよね」

 

「……その女の子の趣味とか、分かったりする?」

 

「い、いえ、分かりません……」

 

「じゃあ彼女の話に合わせてみたら?音楽が好きなら彼女の好きな歌手のファンになるなり、筋肉フェチなら筋トレして鍛え上げた上腕二頭筋でメロメロにするなり、やりようはいくらでもある」

 

紫乃月が真面目そうな顔でアドバイスする。後半部分、ちょっとおかしくなってる気がするが俺は何も聞こえない、聞かなかったことにしよう。

いちいちツッコんで話の腰を折ると進むものも進まない。

 

「あ、そうだ!あれやってみたら?前流行ってた「壁ドン」ってやつ。こう、女の子に近付いて壁ドォン!最近の女って案外チョロいからこれで大抵落ちるでしょ。多分」

 

「落ちるのは好感度じゃないッスか、赤の他人にやられたら部長だって嫌でしょう?」

 

「股ぐら思いっきり蹴り上げる自信あるわ」

 

はい、というワケで壁ドン作戦は無し。

こうなってくると紫乃月がさっき言った作戦で行くことになる。だが、果たしてそれで上手くいくのだろうか?

もっと、こう…別のやり方で上手く行く方法がきっとある筈だ。恋愛経験0のクソ雑魚では知恵が出てこない。

 

「無理に合わせる必要なんてないですよ」

 

そう言ったのは小鳥遊だった。

まっすぐ見浦を見つめながら真剣に、優しく語りかける。

 

「例えば、学校でその人に会えば笑顔で「おはよう」と挨拶をして、学校が終われば「また明日」と伝える。たったそれだけですけど、日を重ねればいつかは挨拶だけじゃなく、貴方が思い描く仲になれるかもしれない。貴方が理想とする関係になれるかもしれません。だから勇気を出してチャレンジ!です!」

 

優しく微笑み、最高といってもいいアドバイスを送る。

自信がなく俯いていた暗い顔が、徐々に明るく輝くように元気になっていき、勢いよく立ち上がる。

 

「ありがとうございます!僕、勇気を出して声をかけてみます!」

 

「はい。良い結果に転ぶように祈っています!」

 

悩みを聞いてもらい、小鳥遊に感謝しながら深々と礼をする見浦を見送る。

依頼人がいなくなり、空気がいつもの陽気な雰囲気へと戻る。別に変わってないって自分で自分にツッコミを入れる声がしたが無視しよう。

 

「ふっ、また迷える子羊を救ってしまった……」

 

「解決したのアンタじゃないけどな」

 

壁ドンを提案しといて自分がされると股ぐら蹴り上げる宣言しかしてないのに、自分が解決したかのように振る舞う部長を尻目に、小鳥遊の方に視線を向ける。

 

「にしてもスゴイな小鳥遊。よくあんな上等なアドバイスできたな」

 

「い、いえそんな……。彼の話を聞いてると、なんだか放っておけなくなっちゃってつい……私、役に立てましたでしょうか……?」

 

「ううん、奏音がいてくれて助かった。じゃなかったら私が適当に考えた作戦で行く羽目になってた」

 

「あれ適当だったのかよ……」

 

何はともあれ、無事に解決できてよかったと言ったところか。

これから先は俺たちが首を突っ込むのは野暮ってものだ、後は見浦()次第だが、きっと問題ないだろう。

彼の恋路が上手くいくことを陰ながら願おう──。

 

 

 

その数日後、下校中に見浦が女の子と二人で歩いているところを発見した。


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