でも皆さん、こんな千夜ちゃんが欲しかったでしょう?
作者は欲しかった。だから文才なくても書きました。
なんか好評だったら早めに続き書くかもです。
「千夜ちゃん、何か悩み事?」
黒埼ちとせは自分の正面に座って共に夕食を食べている白雪千夜に尋ねる。
千夜は少し目を見開く。
驚いた、というわけではなく主であるちとせに心配をかけてしまったことへの申し訳なさで。
「……分かって…しまいますか?」
「もちろん。私を誰だと思ってるの?世界で一番千夜ちゃんを知っている人間だよ?」
いずれその称号は取られそうだけど、と内心付け加える。
「お嬢様には…隠し事はできませんね。」
ここ最近、千夜はぼうっとする事が多くなった。
以前までの千夜なら、何よりもちとせ優先どころかちとせの事しか考えていなかった。いや、考えてすらなかった。ちとせにとって何が最適解か、何が不要か、そんな事は悩みにすらならず、本能的に対応していた。
強いて言えば食事のメニューくらいだろう。
さながら機械のように動く彼女だったが、最近はどこか上の空。敬愛するちとせが呼びかけてもそれに気づくのに10秒くらいかかることもある。
最もちとせがそのことに怒る事なんて無い。むしろそれはちとせにとって喜ばしいことだ。自分以外の存在に興味を持ってくれているのだから。
そして大好きな従者をこんな風に変えてくれた人物が、彼女の悩みの種であることにも気づいている。
「魔法使いのこと、考えてたでしょ。」
「……はい。」
回りくどい言い方をせずにストレートに尋ねる。
千夜は否定せずに答えるが、顔は赤い。
魔法使いとは彼女らが所属するアイドルプロダクション、346プロのプロデューサーの事である。
ちとせをスカウトしてきた彼に興味を抱いたちとせは、千夜も誘い半ば強引にアイドルにさせた。
この人なら千夜ちゃんに新しい世界を見せてくれるかもしれない、そう思ったから。
幸いにも彼は自分も千夜も原石だと言った。もしも千夜を認めなかったら彼の血を一滴残らず抜いてやろうと思ったことは、彼女の胸の内に秘めておく。
しかし予想はしていたがやはり千夜とプロデューサー、というよりかは千夜からプロデューサーへの好感度はすこぶる低かった。
呼び方は「お前」、業務連絡以外の会話をしようとせず、ちとせのアイドルとしての方向性で幾度となく揉めていた。
だがそれが今ではたまにお弁当を作ってあげ(お嬢様の残り物を詰め合わせただけ、と千夜は主張していたが)、たまに一緒にご飯を食べに行き、たまに休憩どきに合わせてお茶を入れるほどの中になった。
「アイドルを楽しい」と言わさせたのも、アイドルの友達を作らせてくれたのも彼に一因がある。
その証拠に必要最低限の家具しか無かった彼女の部屋に彩ができた。
部屋の隅の観葉植物はフラワー系アイドルの相葉夕美と癒し系アイドルの三船美優からの贈り物で、教科書以外何も無かったクローゼットにはカリスマアイドル・城ヶ崎美嘉やフランスハーフの宮本フレデリカがくれたファッション雑誌や、正統派キュートアイドル・五十嵐響子と佐久間まゆおすすめの料理本などが並び、真っ白だった壁にはアーティスティックアイドル・吉岡沙紀作の絵が額縁とともにかけられている。極め付けはテーブルの上にチョコンと乗った緑のブサイク。びにゃこら太というこの人形は綾瀬穂乃果からのプレゼントなのだが、千夜はこれをえらく気に入ったらしい。
それももちろん嬉しいことだが、今問題となっているのはプロデューサーの方だ。
「ここのところ…何をしていてもアイツのことを考えてしまうのです。」
「私といる時も上の空、プロデューサーといればチラチラ見てるもんね♪」
「う…申し訳ありません…」
「んーん、責めてるわけじゃないから。それで?」
「はい。…どうにもおかしいのです。アイツに心配されると嬉しくなり、アイツが他の仕事で私についてこれなくなったら胸が苦しくなり、いつもアイツの顔が浮かぶのです。」
以前の千夜なら「お陰で吐き気が止まりません。」と付け加えるであろう言葉を顔を赤らめながら口にする。
「へぇ…千夜ちゃんはどうしてそうなってるか分かってる?」
「はい、私はプロデューサーに恋をしています。」
「そう、千夜ちゃんは恋をして………って、えっ?」
ちとせは思わず間抜けな声を上げてしまった。
自分の予想としては「私はアイツが好きなのでしょうか?」と尋ねてくるものかと思っていたからだ。
なのにこんな超ストレートに即答するとは思ってなかった。
「どうなされましたか?」
「いや、意外だったわ……千夜ちゃんがそんなハッキリと答えを出すなんて。」
「……確かにそうですね。自分でも驚きです。」
「じゃあ、何で悩んでるの?もしかして『プロデューサーとアイドルだから』的なアレ?それとも私に対しての遠慮かな?」
前者だったら自分はもちろん、事務員の千川ちひろにも協力を仰ぐ。なんだかんだであの人もアイドルにはかなり甘いのだ。
後者なら何の問題もないどころか大歓迎だ。
しかし果たして、千夜がこのような悩みを抱えているとは誰が思うだろうか。
「どうすればアイツは私だけを見てくれるのでしょうか?手っ取り早く私に依存させるのが良いかと思ったのですが、お嬢様はどう思いますか?」
「…うん?」
ちとせは千夜が発した言葉の意味を理解できなかった。
「えっと、待って千夜ちゃん。」
「はい。」
「…まず最初から確認させて。千夜ちゃんは、魔法使いに、自分だけを見てほしい、んだよね?」
「はい。ですがアイツの職務上それは不可能なので、そもそも職務が成り立たないように監禁、あるいは依存させようかと。」
「待って!!!」
とんでもない爆弾発言は聞き間違いではなかったらしい。
くどいようだが以前の千夜ならプロデューサーに対して絶対に言わないような言葉が飛んできて、ちとせは軽く現実逃避しかけてきた。
が、そこは踏みとどまって質問し続ける。
「え、待とう千夜ちゃん。第一にしたいことが監禁か依存なの?」
「ええ、おかしいでしょうか?」
「おかしいよ!!!何でよりによって、っていうか何でその発想が出てくるの!?」
「…好きな人に自分だけを見てほしいというのは普通のことではないのですか?」
「そこは普通だよ!!でも本来の恋って、『デートしたい♡』とか『可愛いって言われたい♡』とか『キスしたい♡』とか『×××したい♡』とかそういうのが最初に来るんじゃないの!?」
「お嬢様、監禁すればキスも×××も好きな時に出来ますし、それ以上のことも2人で楽しめます。」
「それ一方通行だって!!そのうち2人で楽しめるかもだけど、それは魔法使いの性癖が歪んできちゃっただけだって!!」
「……っ!」
「え、気づいてなかったの?」
あからさまに「確かに!」的な動揺した表情を浮かべる千夜。
こんな風に目まぐるしく表情が変わる千夜をちとせは最高に可愛いと感じるが、それ以上のインパクトを受けすぎて自覚したのはほんの一瞬だった。
「それに他にも問題あるわよ。200人近いアイドルを一人でプロデュース(ただしアシスタント一人含む)してるのにスタドリ・エナドリで身体がどうにかなってる上に、有香ちゃんや早苗さんや時子ちゃんや晴ちゃんや亜紀ちゃんや茜ちゃんやほたるちゃん、その他諸々etc.のアタック(物理的)を受けても無傷な超人を千夜ちゃん一人で何とかできる?」
「…無理ですね。」
「他にも彼に負けず劣らずの超人のちひろちゃんや、魔法使い絡みになるとものすごいまゆちゃんや、天才理系組を相手にして監禁続けられる?」
「…それも無理ですね。」
改めて字面に並べてみると346プロはヤベーやつらの集合体だった。個性の殴り合いなんて生温いくらいには全員が全員、何かしらおかしい。
(というよりなんで私は千夜ちゃんの監禁を手助けするような事を言ってるのかしら?)
「ですがお嬢様、私には私なりの強みがあります。」
「そうなの?」
繰り返し言うが、以前の千夜ならこんなに胸を張って自信を持って自分の長所を語るなんてできなかった。
「やっぱり家庭的とか?結構な頻度で魔法使いにお弁当作ってあげてるもんね♪」
「いえ、そうではなく。私はアイツを嫌っているという点が強みです。」
「ごめん、意味が分からない。」
何故に嫌っていることが好きにさせる強みになるのだろうか。
千夜の中ではプロデューサー=マゾという方程式が立っているのだろうか。魔法使いのMなのか。
「申し訳ありません。言葉たらずでした。事務所の皆さんから見て、私はプロデューサーの仕事ぶりは評価していても、個人としては嫌っている、と思われています。」
「……そうね。」
「なので、仮に私が監禁に成功して、事務所の皆さんがプロデューサー探しを始めても私への疑いは低くなります。」
「………」
ちょっとだけ納得しかけたが、無理だろうとちとせは思った。
確かに千夜の言っていることは概ね間違っちゃないが、事務所のアイドルを侮ってはならない。
八神マキノ、大石泉、池袋晶葉ら諜報・技術のスペシャリストに加えて、鷹富士茄子、依田芳乃、遊佐こずえら超常現象のスペシャリストに勝てる可能性なんて京に一つも無いだろう。
そもそも察しのいい何人かのアイドルは千夜のプロデューサーへの好感度の上昇に気がついてるはずだ。
「やっぱり正攻法で行きなよ。事務所のアイドル全員敵に回して勝てるはずなんて無いし、そもそも根本的に間違えてる気がするし。」
せっかく千夜が抱いた思いを無下にはしたくないが、思いに限度はなくても許容範囲には限度がある。
都内のマンションの最上階がまんま一室となっている自宅は当然部屋もたくさんあるしいくつかは持て余しているが、そのうちの一つが調教室になるなんて考えたくもない。
「いいえダメです。」
「なんでよ〜〜〜〜」
「お嬢様、私達は新入りです。加えて私は所属後しばらくは無関心、怒り、呆れ、嫌悪の態度で接してきてしまいました。その時点で私への好感度は地の底にまで落ちたと言っても過言ではないでしょう。」
あのプロデューサーが担当アイドルへの好感度落とすわけないと思うんだけど、とちとせは思ったが熱く語る千夜に言い出すタイミングが見つからない。
「だからこそ!既にプロデューサーとの好感度を底上げしに行っている先輩アイドルの方々との差を縮めるには!正攻法なんて選んでいられないのです!!」
「それは考え曲がりすぎじゃない!?」
「これを見てください!私達と同期の久川颯さんが先週プロデューサーを誘ってデートに行ってます!」
「なんで写真なんか持ってるの!?」
「凪さんと共に尾行したので!」
本人の許可は得ずに、姉の許可のもと盗撮するのはアウトでしょとツッコム力はちとせにはもう無い。今日で一生分のツッコミ力を使った気がする。
というかよくよくみたら、プロデューサーと颯以外のアイドルが写っている。二人以外に尾行していたアイドルがいたのには突っ込むまい。
なんだったら颯の瞳のハイライトが消えてるような気がしたが、ちとせは見間違いということにしておいた。
「ずるいです!!私もプロデューサーとイチャイチャデートしたい!!」
「やっぱりしたいんじゃない!!」
「当たり前でしょう!?」
「じゃあ頼んでみなよ!今度のオフ合わせて、とかさ!」
「一ヶ月前に言ってみましたよ!そしたら『ちとせと一緒に行くための足が必要なのか?』って返ってきましたよ!」
「あの時三人で美術館行った裏でそんなことが!?」
千夜が頑張り屋なのは知ってたが影でそんな努力までしていたのを知って感慨深くなったのと共に、プロデューサーも千夜も重症だと感じた。
珍しくちとせはこの現状から逃げ出したいと思っていたが、目の前で泣き出した千夜を見て逃げるに逃げられなくなった。
「うぅ…本当なら毎日お弁当を渡したいのに、佐久間さんや五十嵐さんを始めとした『今日のプロデューサーのお弁当選手権』に毎回勝てるわけじゃないし…スイーツはSweetchesやmacca-afternoonに羽衣小町、コーヒーや紅茶は相原さんや東郷さんと狭き門が多すぎます…。なんでもっと早くに素直になれなかったのでしょうか……どうすれば……」
「千夜ちゃん……」
「お嬢様……私は私のような魅力のない女の子が、他のアイドルに勝てるとは思えません。だから監禁するしかないと思いました……ですが、お嬢様の言うように私のアイツへの感情は間違えているのでしょうか…?」
自己評価の低さが千夜にあのようなねじ曲がった思いを抱かせていた。自分より魅力的な存在が周りにたくさんいるのなら、自分だけを見させればいい。自分がその人にとって最も魅力的な存在となる空間に閉じ込めてしまえばいいと。
生まれて初めての恋、それが普通とは異なっていたとしても必死に悩んで勝ち取ろうとしている親友を切り捨てることなんてちとせには出来ない。
「そんなことないよ。千夜ちゃんはとっても魅力的。それは私はもちろん、ちひろさんや他のアイドルの子、ファン、そして千夜ちゃんをプロデュースしている魔法使いがよく理解している。それに思いならまだ全然負けてないでしょ?確かにその感情を持ったのは他の子達より遅いけど、だからって敵わないわけじゃないよ。千夜ちゃんの思いはちょっと変わってるけど、その心に嘘ついちゃダメ。自分の思ったようにやらないと!」
ただ節度は守ってね、と付け加えてウインクする。
敬愛する主からのありがたい応援、それを千夜が信じられないわけがない。
「……分かりました。私は、私のやり方で、アイツに思いを伝えて、アイツを手に入れてみせます。」
「うん♪私も応援するよ!出来ることなら何でも手伝うからね。」
「何でも…ですか。ならば早速、叔父様から何処か山奥の別荘を借りられませんか?監禁用に使えればと…」
「行動が早すぎる!あと、もうちょっと他の手考えない!?」
歪でも、あの子が普通の女の子みたいに恋をしてくれるという願いが叶った。だったら私も長生きして、全力であの子を支えよう。今まで沢山助けてもらったんだもの。
ちとせは心の中でそう誓った。
なお、後日千夜の部屋の本棚からプロデューサー観察日記なるものを発見した時、改めてちとせは軽く後悔した。
白雪千夜:17歳、メイド系アイドル。 何かが原因か、それとも積もりに積もったのかプロデューサーへの好感度が限界突破してヤンデレに。自己評価低めという珍しいタイプのヤンデレ。
黒埼ちとせ:19歳、吸血鬼系アイドル。まだ正常。千夜とプロデューサーがくっついてくれないかなと思っていたら、予想外の状況に巻き込まれてしまった。多分本作でもっとも心労が絶えない人になる。
プロデューサー:二重の意味で魔法使い。超人、だけど鈍感。