元うちはによる鬼殺道中記   作:卑の呼吸・卑劣切り

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 こんなガバ小説なのに評価とお気に入りがとんでもないことになってて驚きです!!これ夢じゃないよな…

 なのに大遅刻もいいところですがそれでも宜しければどうぞ。


元マダラ大誤算

 「フ…こうして実際に見ると心躍るものだな。」 

 

 任務として鎹鴉に導かれてやって来た東京は今世での故郷とも前世での木の葉やうちはの集落とはまさに別の世界だった。

 まず、もう日は完全に落ちているというのに昼間のように明るい。それは術によるものでも戦乱によるものでもなく照明の大きさや数が尋常ではないからだ。

 次に炭治郎が住んでいた場所とは違い西洋風の建築物と和風の建物が混在し建物も今まで見てきたものとよりも高いものが多い。特に路面を走る列車など前の世界ではまず考えられないものだ、前の世界ならばあんなものを走らせるなど忍術の餌食にしてくださいと言っているようなものだったからだ。

 

 「絵巻の中に飛び込んだみたいだ、いい任務もあったものだ。」

 

 まるで物語の中に入り込んでしまったような光景に炭治郎は年甲斐もなく心の中ではしゃいでいた。もちろん、ここに遊びに来たわけではないことはわかっている。

 だが炭治郎はうちはマダラとしての記憶が蘇ってからというもの、ぜひここに来てみたいと思っていたのだ。今までは力を付けるのが先決だったため、そして禰豆子を放っておくわけにはいかなかったのでなかなか来ることはできなかったが任務としてここに堂々とこれたのは行幸だった。

 

 「これならば俺の探し求めている物も見つかりそうだな、まずはここからだ。」

 

 そう呟き、目的地まで移動した炭治郎の目の前には赤レンガ作りの建物が聳え立っていた。

 

 「さて、禰豆子お前はここで待っていてくれこの場所ならばしばらくは人目に付くことはないだろう。…何、もしかしてお前も一緒に行きたいのか?しかしだな…」

 

 禰豆子から置いていかれるのは悲しいといった目で見つめられ、袖を引っ張られどうしたものかと思案する。そして数刻悩んだ末に出した結論は…

 

 「…分かった、分かったからそんな目をするな。」

 

 炭治郎として十数年過ごしたマダラは最後に残った家族には少々甘かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結果として潜入は上手くいった。チャクラを感知する結界も忍びもおらず、超人的な感覚器官に恵まれた存在がそうそうおらず、それを補いきれるほどまだ技術力が高まっていない今生のセキュリティはうちはマダラとしての観点からすればザルと言ってもよかった。

 ただ、途中『女の子がどうしてこんなところに!?』というやり取りになりかけたが、禰豆子の小さくなる術のおかげで『俺疲れてるんだ…』状態に持っていくことが出来た。

 つまりはおおむね順調だったという訳だが炭治郎は不機嫌だった。

 

 「これは不味いな…予想以上に時間が無い。」

 

 東京に来てから入手した辞典をもとに拝借した資料を翻訳した炭治郎だったが、その内容に思わず毒づく。それに伴い自然と険しい顔をした炭治郎だったがその顔を見て心配そうにした禰豆子に頭を撫でられ少し表情が和らぐ。

 

 「…そうだな、今焦ってもどうしようもない。元々時間はあまりない前提でいたんだからな。」

 

 確かに思っていたよりも時間はなかったが、事前知識から察せられる範囲でも自分たちに残された時間は多いわけではないと予想していたため精神を落ち着かせる。

 

 「腹も少々減ったことだし食事にするか…」

 

 気分転換に何か食べるかと考えた炭治郎は禰豆子をつれ店を探すことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 (血と人が焼ける臭いには慣れているがこれは少々キツイな。)

 

 常人より鼻が優れた炭治郎は街道ゆく人々の香水や整髪料などの臭いにうんざりしていた。

 長い人生の中でいろいろなものを見てきたがここまで雑多なにおいに囲まれたのは今回が初めてであることは言うまでもない。

 

 (稲荷寿司の匂いが判別しきれない。折角東京に来たのだからいい店を探し当てたいがどうしたものか)

 

 自慢の鼻で好物である稲荷寿司を探し当てる。そんなことを考えていた炭治郎だったが当てが少々外れたためどうしたものかと悩むことになった。

 

 (さてどうしたものか。んこの匂いは!?)

 

 そんな中炭治郎はあるにおいを感じ取る。その先には質の良さそうなモダンな服装をした端正な男と妻と娘と思われる人間がいた。

 

 「禰豆子、俺から離れるなよ」

 

 小声で禰豆子にそう呟いた炭治郎は手を強く握り、一度裏通りへと入る。

 

 「…間違いない!この匂いは!!禰豆子いったんはこの中に入っていろ。」

 

 炭治郎の言葉に禰豆子は頷き体を小さくさせ、箱に入る。人ごみの中でもはっきりとわかるほどの強い血の匂い、腐ったドブ川よりもなお酷い悪臭を放つ存在は炭治郎の知る限りでは一人しかいない。

 

 (今すぐ殺してやりたいが、どうしたものか…)

 

 煮えたぎるような憎悪を理性で無理やり抑え込みながら炭治郎は考える。今戦うべきか否かで言えば否だろう。人が多すぎる、巻き込みたくないとかいう話ではない、鬼という存在があまりにも多くの人の目に付きすぎる。それは炭治郎の一番かなえたい目的にとっては不都合極まりないものだった。

 

 (だが、目立ちたくないのは奴も同じはず。)

 

 無惨は数百年にわたり鬼狩りから身を隠し続けていることはすでに聞いている。それはあのモダンな格好と態々妻役と娘役と思しき人間を用意していることからもまず間違いはないだろう。

 

 (禰豆子はほぼ確実に奴の呪いの埒外にいる。つまりは今の奴には俺がどういった存在かを知ることは出来ないということだ)

 

 鬼狩りと普通の人間を判別できるなんてことが出来るならばとっくの昔に鬼殺隊は潰されているはずだ。なにせ十二鬼月の上弦は柱でさえ情報を持ち帰らせることなく殺すことが可能なのだから。群れることが出来ないというデメリットを除いてもなおそれは揺るがない。

 

 (まずは奴の動向を詳しく知ることだ、人ごみに隠れながらな。)

 

 情報は何よりも大事だ。無惨の潜伏先を気付かれることなく突き止めることが出来ればそれは大きなアドバンテージとなる。最悪戦う可能性も考えて杖に偽装させた日輪刀もいつでも使えるようにしておく。

 そして人ごみに隠れた炭治郎は追跡を開始する。幸いにして強いにおいのおかげで見失うということはない。

 

 (あの女どもはこの匂いに気付かないのか?匂いじゃなくても雰囲気で分かりそうなものだが…)

 

 一瞬あの女どももグルかと考えるが成人している妻役はともかく娘役にそこまでのことを期待はしないだろうと考え直す。

 そして人間というのは長く戦場にいてそういった感覚に優れていないと案外気づかないものだなと考えていると、突如として何かの視線を感じ取る。その視線の方向にはあの嫌なにおいがある。

 

 (気づかれた!?だが殺意と敵意は隠していたはず。)

 

 いくら炭治郎として十数年過ごしたといっても気配の消し方まで忘れるほど平和ボケした記憶はない。だが事実として無惨は明らかにこちらに何らかのものを感じ取っている。そしてその敵意は徐々に強くなっていっている。最悪戦るしかないか、炭治郎は戦闘に入ることを覚悟しながら刀に手を伸ばす。だがここで予想だにしなかったことが起こる。

 

 (…は!?)

 

 無惨がやったことに対して炭治郎は一瞬理解が追い付かなかった。なぜならその行動は炭治郎が鱗滝のもとで学んだ鬼殺隊と鬼の歴史から考えてまず取るとは思いもしなかった行動だったからだ。

 

 (奴は正気なのか!?こんな…こんな都会のしかも裏通りでもない人が多い街道で堂々と鬼を作るだと!!)

 

 炭治郎の驚愕を他所に無惨は妻役と娘役と思しき女を連れてこの場から立ち去ろうとする。そこはいい、いや良くはないのだがまだそこは理解ができる。ここはあまりにも目立ちすぎる、正体を隠したがっているであろう無惨がこの場での戦いを避けようとするのはある意味自然といえよう。だからこそ分からない、なぜこいつはこんな愚かしい行動を態々するのかと。

 

 「チッ、今考えても仕方がない、まずはこの場を収めるのが先決か。」

 

 鬼にされた男はそのまま隣にいた妻であろう女性に襲い掛かろうとする。それを予想していた炭治郎は人ごみの中を正確にかき分け、一瞬の内に男のもとまで到達すると組み伏せる。正直いっそのことこの男の首を日輪刀で刎ねてしまえれば楽ではあったが、こんな衆勢の中で刀を振り回し人間だった者を切ろうものなら鬼殺隊の隠の者共に後でかなり身の回りを調べられる可能性があり、それでは禰豆子に不都合が及ぶ可能性があったためこの場はただの喧騒で納める必要があった。

 

 「あ、あなたどうしたの!?あなた!!」

 

 「黙ってろ、気が散る。」

 

 明らかに眼が完全に正気を失っている旦那を見て、何らかの異常事態が起こっているということだけはかろうじて理解できた女性は慌てふためくが、炭治郎はそれを一喝し布を男の口に突っ込み男の後頭部を殴りつけ気絶させる。

 

 「貴様ら!!これは何の騒ぎだ!?」

 

 だが、ひと段落したのもつかの間、騒ぎに気付いた警官たちがこちらへとやってくる。

 

 (無知な狗共が、もう嗅ぎ付けてきたのか。)

 

 近づく警官に対して炭治郎は悪態をつく。

 

 「糞、こいつに罪を被られるわけにはいかん…戦るか、いやこの場を離れるのが賢明か。」

 

 もしも警官たちにこの男の身柄が確保されてしまえばこの先どういうことになるか分かったものではない。幸いにしてやってきているのは一般人に毛が生えた程度の身体能力しか持たない警官であったため、炭治郎は気絶した男を担ぐとその場から離れようとする。

 しかしその時思いもよらぬことが発生する。

 

 

 

 ――惑血。視覚夢幻の香

 

 

 

 何処からともなく不思議な香りが漂ってきたと同時に、華を基とした不思議な文様が現れ自分たちと警官たちを分断する。

 

「幻術だと!!」

 

 幻術、元居た世界では人の感覚器官に作用することで対象者に様々な幻惑を見せる術全般を指す言葉だったが、この世界で見るのは初めてだった。無論この世界にチャクラの概念はないので正確には血鬼術の一種であるのは間違いがないが、それでも幻術というものにかかるというのは久しく体験したことがないためどこか新鮮な気持ちさえある。

 しかし感心している場合ではない、視覚に作用しているということは、それに乗じて襲撃がある可能性が高いということに他ならない、ゆえにいつでも迎撃可能なように素早く戦闘態勢に入る。

 そして案の定誰かが近づいて来る気配がした。だが、予想に反し女性は優しい声色でこう言った。

 

 「あなた方は、鬼となった者にも『罪を被られるわけにはいかない』と言ってくださるのですね。そして助けようとしている、ならば私も、あなた方を手助けしましょう。」

 

 意外にも正面から現れたそいつらは一人の美しい女性と、目つきが鋭い少年の鬼の二人組だった。女性の腕からは血が流れだしておりその血がこの幻術のトリガーになっていると炭治郎は判断する。

 

 「貴様らは鬼舞辻の部下ではないようだが、この匂いは…」

 

 炭治郎の言葉に、女性の鬼は頷き肯定する。

 

 「そう。私は鬼ですが医者でもあります。そしてあの男、鬼舞辻を抹殺したいと思っている。」

 

 「詳しく話せ…」

 

 話を聞く価値はあると判断した炭治郎は一度臨戦態勢を解く。

 

 「いいでしょう。その人と一緒についてきてください。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 珠世に連れられてやってきたのは、普通の人からすれば何の変哲もない袋小路だった。

炭治郎はそれを見ると面白いものを見たといった様子でそのまま壁に向かって突き進んだ。すると不思議なことに、彼の体は溶けるように壁に吸い込まれていった。

 

「面白い仕掛けだな、これはなかなかに見つけにくい。貴様の血鬼術か?」

 

 「…見ればわかるだろ。それより鬼狩り覚えてろよ…」

 

 愈史郎は酷くやつれていた、原因は道中箱から出た禰豆子に対して下した愈史郎の評価だった。その評価を聞いた炭治郎の顔は悪鬼よりなお恐ろしいものだったと珠世はのちに語ったという。

 

 「よしなさい、あれはどう考えてもあなたが悪いです。そういえばまだ名乗っていませんでしたね。私は珠世と申します。その子は愈史郎。仲良くしてやってくださいね。」

 

 珠世がそういうと、炭治郎はギロリと愈史郎を見る。対する愈史郎は恨めしそうに炭治郎を見る。

 

 「こいつの目が正常に機能するようになったら一考してやろう。医者だと言っていたが、鬼は治療など必要としないはず。となると相手は自然と人間になるが人の血肉を見てもお前たちは平気なのか?」

 

 「鬼の俺たちが血肉の匂いに涎を垂らして耐えながら、人間の治療をしているとでも?」

 

 「それは無いな、いくら何でも怪しすぎる。ゆえに貴様たちは自分の体に何らかの細工を施しているか、禰豆子のように特異な存在かだ。」

 

 「お察しのように辛くはないですよ。普通の鬼よりかなり楽かと思います。私は自分の体を随分弄っていますから。鬼舞辻の呪いも外しています。」

 

 「ほう…そいつは非常に興味深い。是非詳細を聞きたいものだ。」

 

 「続きは別室で話しましょう。」

 

 一行は鬼となった男を安全な場所に監禁した後応接のための部屋に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「禰豆子、行儀悪いぞ」

 

疲れたのか部屋につくなり、禰豆子はごろりと畳に寝転がる。

 

「いえ楽にしてくださって構いませんよ。先ほどの続きですが、私たちは人を食らうことなく暮らしていけるようにしました。人の血を少量飲むだけで事足りる。不快に思われるかもしれませんが、金銭に余裕のない方から輸血と称して血を買っています。もちろん、彼らの体に支障が出ない量です。」

 

 その言葉を聞いて炭治郎は薄く笑う。だが次に珠世から発せられた言葉は炭治郎をして驚く内容だった。

 

「愈史郎はもっと少量の血で足ります。この子は私が鬼にしました」

 

 「…何だと、それは本当か?」

 

 鱗滝の話では鬼を増やすことができる鬼は鬼舞辻だけだったはずで、それが鬼殺隊の共通認識であったはずだった。しかしここにはそれを覆す存在がいたことに少なくない衝撃を受ける。

 

 「鬼舞辻以外は鬼を増やすことができないと言われている。それは概ね正しいです。二百年以上かかって鬼にできたのは、愈史郎ただ一人ですから…」

 

 「だが、技術としては確実に存在するという訳か。」

 

「一つ、誤解しないでほしいのですが、私は鬼を増やそうとはしていません。不治の病や怪我を負って、余命いくばくもない人にしかその処置はしません。その際は必ず本人に、鬼となっても生きながらえたいか尋ねてからします」

 

 そんな珠世の眼を炭治郎はじっと見据える。彼女の眼は、嘘偽りのないものであり、匂いも清らかなものであった。炭治郎は確信した彼らは予想以上の存在でこれ以上ないくらい自分が必要とする存在だと。

 

 「ククク…ハハハハハ!!」

 

 「貴様、一体何がそんなに可笑しい!!」

 

 「素晴らしい、ただただ素晴らしいぞ!!これは予想以上だ。」

 

 突然不気味に笑い出した炭治郎に愈史郎はもとより珠世も若干引き気味になる。

 

 「失礼ですが、あなたは鬼殺隊でありながら私たちを見ても何か思ったりしないんですか?」

 

 「勘違いしているようだが俺が直接的に恨みと殺意を抱いている鬼は鬼舞辻無惨だけだ。それ以外はただの障害物もしくはサンプルにすぎん。」

 

 「…あなたは随分変わった人のようですね。普通の人たちは人を喰らう鬼という生き物を知れば恐れ嫌悪するというのに。」

 

 「俺からすれば鬼なんてのは食性と生命力以外は人の一面が肥大化した存在にすぎんものだ。人を喰らう?人間も個人集団にかかわらず自分たちの都合で同じ人間を殺し騙す。それも総合的な件数では鬼が人を喰らう場合よりも多いはずだ。」

 

 前世で殺し殺され、その対価で自分たちの家族や一族の糧食を得る。かつてそんな時代と一族に生まれ育った炭治郎からすれば鬼と人間の違いなどそこまで無いと思っている。ましてや自分が殺してきた人間の数などこの世界のどの鬼よりも多いだろう。

 

 「…お前本当に鬼殺隊の隊員なのか?」

 

 この炭治郎の物言いにはさすがに愈史郎も困惑するが炭治郎はそんな様子を無視して話を続ける。

 

 「俺にとって鬼殺隊は目的達成のための後ろ盾になれば御の字というものでしかない。もしも鬼殺隊に禰豆子の存在が認識され抹殺対象となるならば対決も辞さないつもりだ。幸いにしてそのための材料もあるにはある。…まぁよほど追い詰められない限りはやるつもりはないがな。」

 

 炭治郎は口には出さなかったが鬼殺隊自体はそこまでは信用はしていないが、腹を切る覚悟を見せた鱗滝にはさすがに信を置いている。なので可能な限り対立は避けたいというのは本心だった。

 

 「全くとんでもない奴だ…よく鬼殺隊に入れたものだ。」

 

 「精神鑑定もない常時人手不足の組織など力があれば入るのは容易い。そしてその人手不足は今後さらに加速していくだろう。ちなみにこの話は今後のお前たちにもかかわってくるのだがな。」

 

 「それはある意味助かりそうだな、鬼殺隊が小さくなれば見つかる可能性は少なくなるから逃亡生活が少しは楽になりそうだ。…いや鬼舞辻の活動が活発になるから結局は一緒か。」

 

 愈史郎は炭治郎の言葉に複雑な気分となるが、炭治郎はそれを否定する。

 

 「違う、そういう意味じゃない。」

 

 「じゃあどういう意味だ?」

 

 「お前たちの技術は確かに素晴らしいがそれゆえに時間が無いということがさらにはっきりした。」

 

 「時間?もしかしてここを嗅ぎつけられた可能性があるのですか!!だとしたら早く離れないと。」

 

 「落ち着いてください珠世様!」

 

 「話は最後まで聞け、俺が言いたい時間とはそのことではない。詳しくはここに書かれたことを読んでみろ。」

 

 炭治郎はそう言って荷物の中からいくつかの紙をテーブルに置く。

 

 「東京に来てから俺が集めた資料を翻訳したものだ。ここには俺たちにあとどのくらい時間が残されているかの大まかなことが乗っている。」

 

 「翻訳ということは元は外国の資料ですか。…書かれているのは各国の情勢とこの国の情勢のことですね。」

 

 炭治郎はイギリス、ドイツ、イタリア、アメリカ様々な国の大使館に忍び込み情勢が書かれた資料を拝借してそれを辞書を使って纏めていた。さすがに翻訳には骨が折れたが、暗号解読よりはマシだったので大まかにどういった情勢であるかまでは理解できるようにしてある。

 

 「おい鬼狩り、こんなもの見せて何が言いたい?具体的にどう時間が無いんだ?」

 

 「判らないか?では説明してやろう。」

 

 炭治郎は置いた資料について説明を始める。欧州列島の小さな小競り合いが積み重なった結果、野火のごとく瞬く間に大きく広がり、血で血を洗うどころか流血の大河が生まれるほどの戦いへと変貌するというものだった。

 

 「外国しかも遠い場所の話じゃないか、それが何だって言うんだ?」

 

 「順番に話すぞ、戦争には二つの側面がある。一つは言うまでもなく戦争を行った国は基本的に疲弊するということ。そして、二つ目は巨万の富を得る者が出現すること。」

 

 「富ですか…」

 

 更に話は続く、戦争は国や企業にとってビジネスのチャンスでもあり、食料、衣服、医療品、弾薬など間接的に参入することで莫大な金を稼ぐことも可能となると。もっと言うならば疲弊した国の生産力は確実に落ち、そこに空きができることでさらに稼げる可能性すら出てくる。今この時代はまさに戦争がもたらすビジネス最盛期を迎えようとしているとも付け足して。

 

 「…今が激動の時代というのは理解したがそれがどう影響してくるのだ?」

 

 「この国はしばらくは戦争の良い面だけを甘受することが出来、好景気に身を浸せるだろうが、人間というのは一度手に入れば簡単には元には戻れない。必ず前へ前へと進もうとする…その先に何が待っているのかも知らずにな。」

 

 「…なるほど何となく理解できました。つまりその先に待つのは…」

 

 「他国から奪い去ってでも上に行きたい、だが欧州はそれを決して許さないだろう。そうなれば直接戦争をするしかない。」

 

 そして進退窮まったこの国がどういった行動に出るのか、炭治郎以外の二人にもここまでくれば容易に想像できた。

 

 「鬼殺隊は一応は証拠隠滅や政治家共への裏工作をやってはいるみたいだが、今日の鬼舞辻無惨の無作為振りを鑑みるに鬼という存在は到底隠しきれるものではない。そして鬼という存在は鬼舞辻無惨だけの専売特許ではないということはそこの小僧が証明している。」

 

 「…何てこと。私はそんなことのためにこの技術を…ごめんなさい愈史郎、私は…」

 

 「珠世様!!貴様、なぜこんなこと話した!!」

 

 愈史郎は目を鋭くさせ炭治郎をにらみつけるが、炭治郎はそれを一喝する。

 

 「では知らなかった方がよかったか?いつの日か実験動物と同等の扱いを受けるのがお前たちの望みなのならこちらとしても言うことはないが。」

 

 「ぐ…」

 

 「勘違いするなよ、お前たちが技術を封印しても技術である以上別の誰かが発見する可能性はある。だからそこまで気に病む必要はない。それでようやく本題に入るが俺たちに残された少ない時間の中で鬼を人に戻す方法はあると考えられるか?これはお前たちにとっても必要なことだということは理解できていると思うが。」

 

 腕を組みながら嘘偽りは絶対に許さないといった口調で告げられた言葉に何とか立ち直った珠世は答える。

 

 「可能性はあります。ただそのために必要なものをそろえるのは極めて困難といえるでしょう。」

 

 「必要なもの…俺の予想が正しければ血清を作るための生体資料と思うが。」

 

 「その認識で問題ありません。その中でも禰豆子さんは極めて稀で特殊な状態です。二年間眠り続けたとのお話でしたが、おそらくはその際に体が変化している。通常それほど長い間、人の血肉や獣の肉を口にできなければ、まず間違いなく狂暴化します。しかし、驚くことに禰豆子さんにはその症状がない。この奇跡は今後の鍵となるでしょう」

 

 「そうか…」

 

 「しかしそれだけでは完全とは言えません。鬼舞辻の血が濃い鬼とは即ち、鬼舞辻により近い強さを持つ鬼ということです。その鬼から血を奪るのは、容易ではありませんがそれでもあなたは、この願いを聞いてくださいますか?」

 

 炭治郎は先ほどまでとは違い優しげな瞳で禰豆子を見つめそっと手を伸ばす。すると禰豆子は嬉しそうにその手を取ると、ぎゅっと握った。

 

 「愚問だな、必要とあらば何だって獲ってきてやる。ちょうど素材がやってきたみたいだしな。」

 

 「素材?それは…」

 

 「珠世様伏せてください!!」

 

 珠世が最後まで言い切る前に突然屋敷の壁が砕け何かが飛んできた。それは頭上を縦横無尽に駆け、あたりのものを次々に破壊していく。

突然愈史郎は鋭く叫び、かばうように頭を抱え床へと伏せる。炭治郎も禰豆子を抱えその場を少し離れる。明かりが消え、暗闇に包まれた部屋の中で、轟音と共に砂煙がもうもうと立ち上る。

 

(思った通り刺客がやってきたな。)

 

 屋敷の砕けた壁の向こう側に襲撃者の姿が見える。相手は二人、狂気じみた笑みを浮かべた女と目を閉じた男だ。

 

 「キャハハ!矢琶羽のいう通りじゃ。何もなかったところに建物が現れたぞ」

 

 女の鬼の楽しげな声が響くと同時に、再び轟音が鳴り響く。それに対して矢琶羽と呼ばれた男の鬼は着物を払いながら、忌々しそうに女の鬼に悪態をつく。

 

「巧妙に物を隠す血鬼術が使われていたようだな。しかし、鬼狩りと鬼が一緒にいるのはどういうことじゃ?だが、それにしても朱紗丸。お前はやることが幼いというか短絡的というか。儂の着物が塵で汚れたぞ」

 

「うるさいのぅ。私の毬のおかげですぐに見つかったのだからよいだろう。たくさん遊べるしのう!」

 

 そう言って朱紗丸は再び毬を屋敷の壁に投げつける。轟音と砂塵を上げて毬は壁を砕くと、再び彼女の手元へ戻った。

 

「ちっ。またしても汚れたぞ」

 

 矢琶羽はさらに顔をしかめ、再び着物を払う。

 

「神経質な奴じゃのう、着物は汚れて等おらぬわ。」

 

朱紗丸は楽しそうに笑いながら再び毬を投げつける。毬は不規則な動きをしながら縦横無尽に飛び回り、あちこちを破壊する。

 そして毬の一つが愈史郎に向かって飛んできたため体をひねってよけようとしたが、毬は空中で一瞬停止すると急に方向を変え愈史郎の頭部に命中しそうになる。だが…

 

 「お前たちは隙を見て禰豆子を安全なところへ運べ。」

 

 毬をいとも簡単に切り裂き威力を大きく落とした炭治郎は二人にそう言うと、珠世は外は危険であるから地下室を使うように促し愈史郎はうなずく。

 

 「炭治郎さん、私たちのことは気にせず戦ってください。守っていただかなくて結構です…鬼ですから」

 

 「そんなことは知っている、だがお前らに万一のことがあると俺としても禰豆子としても困る。」

 

 「ん?耳に花札のような飾りのついた鬼狩りはお前じゃのう?それに裏切り者の女まで…運がいいのう。」

 

 珠世とやり取りしながらも相手から決して注意をそらさなかった朱紗丸の言葉に炭治郎は聞き逃せないものを聞いた。

 

(耳に花札?親父の遺品か…炭治郎としての生活のせいか付けることに何ら違和感を感じてこなかったが、これが原因で鬼舞辻に特定されたのか。)

 

 改めて考えると父親には不自然な点があった。なぜ炭職人であるのに鬼殺隊の元柱も知らない呼吸を身に着けていたのか。それに死の間際に見せた技、もしかすると何か鬼舞辻無惨と因縁があったのかもしれない。

 だがそれは今考えることではない。そして多分目の前の鬼たちも詳しいことは知らないだろう。

 

 「キャハハハ!十二鬼月である私に殺されることを、光栄に思うがいい。」

 

 「十二鬼月というともしや…」

 

 「鬼舞辻直属の配下、危険な相手です!!」

 

 「やはりそうか…いやそんなわけはないだろう。全く雑な刺客を送ってくれたものだ。」

 

 ノリ突込みのようなやり取りをした炭治郎は溜息を吐きながら期待外れといった様子を見せる。

 

 「何だと?私が違うだと!!」

 

 明らかに機嫌が悪くなる朱紗丸に対して、炭治郎は呆れたように答える。

 

 「まだ鬼共の基準に詳しいわけではないが貴様等程度の匂いが幹部連中な訳がないことは俺でもわかる。大方おだてられて体のいい駒として使われているだけだろ。そもそも十二鬼月は眼球に数字が刻まれていると聞くが。」

 

 「殺す!!」

 

 朱紗丸は憤怒の表情を浮かべると体に力を込める。すると胸元が震えたかと思うと、新たな二対の腕が生えてきた。六本になった腕に、先ほどの毬を持ち身構える。

 

「貴様は思いっきりいたぶってやる!!朝になるまで、命尽きるまで!!」

 

 怒りの声を挙げながら朱紗丸は毬を投げてきた。数が増えた毬はそのままの威力であちこちを飛び回る。その破壊力は、先ほどの比ではない。

 

(ここで私の術を使うと、お二人にもかかってしまう…)

 

 珠世が自分も戦おうと思う中、炭治郎は必要最低限の動きで生き物のように襲ってくる毬をよけ、珠世と愈史郎に向かう毬は刀で斬る。

 

 「矢印の奴の前にとりあえず一匹片づけるか。」

 

 水の呼吸――参ノ型 流流舞

 

 矢印の動きを巴柄の目で完全に見切り水の呼吸独特の流れるような斬撃で毬をすべて断ち切ると、炭治郎はそのまま朱紗丸に近づき容易に首を跳ね飛ばした。

 

 「な!?馬鹿な!!十二鬼月である私が…」

 

 「血の回収は頼むぞ。そんな奴でも少しは足しになるだろう。」

 

 「朱紗丸!?糞、儂はそう簡単にはいかんぞ!!」

 

 矢琶羽は突然の出来事に焦りながらも再び矢印を炭治郎に向けて放つ。放たれた無数の矢は、時間差で炭治郎をとらえようと飛んでくる。この矢印は対象に当たるまで消えないし、斬ることもできない。刃に触れさせても矢印の方向へ飛ばしてしまう自慢の技だ。

 …無論相手が規格外でなければこの上なく効果的だという注訳は付くが。

 

 「便利な技ではあるが、根本的に地力不足だ。」

 

 ――水の呼吸 ねじれ渦・流流

 

 水流のごとく流れるような足運びで回避と攻撃を合わせた参ノ型と、上半身と下半身を強くねじった状態から勢いを伴って斬撃を繰り出す陸ノ型を組み合わせることで、相手の攻撃をいなしながら距離を詰められる技。飛来してくる矢印を巻き取りそのまま炭治郎は矢琶羽へと一気に近づく。

 

 「ば、馬鹿な!!儂の術が…」

 

 「終わりだ、死んで糧となれ。」

 

 ――水の呼吸 弐ノ型・改 横水車

 

 本来は垂直方向に身体ごと一回転しながら斬りつける水車を、水平方向に回転しながら斬りつける形に改式した技をもってして矢琶羽の首をこともなげに跳ね飛ばす。

 

 「あっけないものだ、これでは生体資料としてはあまり期待できんな。」

 

 簡単な作業をこなしたといった風に炭治郎は刀を納刀し、珠世は注射器を取り出すと矢琶羽の体からも採血する。

 

 「炭治郎さんの言う通りこの方たちは十二鬼月ではありません、弱すぎる。」

 

 珠世の言葉通りこの鬼たちは弱すぎた。故に炭治郎の中で疑問が生まれる。

 

 「…妙だな。」

 

 「妙とは?」

 

 「奴らの言葉が真実ならば鬼舞辻はこの耳飾りを付けたものに嫌な思い出があると推測できるが、それにしては雑過ぎる。まぁあんな場所で鬼を作るような情報管理もまともにできていない奴なら仕方がないと言えばそれまでだが、いくら何でも送られてきた刺客が弱すぎる。」

 

 「確かに、それは言えますね。」

 

 炭治郎は先祖代々竈門家に伝わる耳飾りを撫でながら思案にふけっていた。そしておそらく鬼舞辻に煮え湯を飲ませた存在は父親が使っていた呼吸かそれに近いものだろうと推測した。

 

 「昔鬼舞辻に嫌な思いをさせられる存在がいてそいつがこの耳飾りと同じようなものを付けていたとしたならば、あのような奴らでは威力偵察にもならないだろう。つまりは…」

 

 「より強力な刺客がすぐにでもやってくると?」

 

 「そう考えるのが妥当ではある。ただそれでも不自然だが。」

 

 威力偵察にもならない駒を無駄に消費するくらいならば普通はもっと強いか隠密行動に長けた存在をよこすはずだという点がどうにも炭治郎には引っかかった。だがこれ以上は時間を無駄にはしていられないと思考をいったん止めることにする。

 

 「そろそろ戻るか禰豆子が心配だ。」

 

 「そうですね、二人とも無事でしょうが早く戻るに越したことはありません。」

 

 そして二人はボロボロになってしまった屋敷に足を踏み入れる。

 

 「珠世様!!ご無事で何よりです(無事な珠世様はやはり美しい)。思ったよりは早かったな。大言吐くだけあって腕はまずまずのようだ。もっとも本物の十二鬼月はああはいかないぞ。まぁ珠世様にけががなかったという一点だけは褒めてやってもいいがな。」

 

 炭治郎が地下室の階段を下りていくと、愈史郎は珠世には優しく、炭治郎には目を鋭くさせ出迎える。

 そして一緒にいた禰豆子が炭治郎に飛びつく。二人はしばらく抱きしめあったが、禰豆子は炭治郎から離れると元の道を戻っていく。

 そして珠世に炭治郎にしたのと同様に抱き着いた。それを見た愈史郎が激昂するが珠世はそっと静止した。

 

「禰豆子さんがこのような状態なのですが、大丈夫でしょうか?」

 

困惑する珠世に炭治郎は答える。

 

「心配いらん、おそらくはお前らのことを家族のだれかだと思っているのだろう。」

 

 禰豆子はそばにいた愈史郎の頭をなでようと手を伸ばし、それを本人に阻止されていた。

 

「禰豆子そいつの頭はなでなくていいぞ」

 

「…俺としても別に撫でてもらいたいわけではない。」

 

「家族?しかし禰豆子さんのかかっている暗示は、人間が家族に見えるものでは?私たちは鬼ですが・・・」

 

「だがお前たちを人間だと判断した。禰豆子には俺と鱗滝で暗示をかけたが、今回は本人の意思によるものだな。…だから禰豆子に免じて俺もお前たちを信用することに」

 

 途中まで言いかけた炭治郎の言葉が不意に途切れた。珠世の薄紫色の瞳から、大粒の涙がこぼれだしたからだ。それを見た炭治郎はどうすればいいのか分からなかった。一方珠世は禰豆子をぎゅっと抱きしめる。それを愈史郎は複雑そうに眺める。

 

 「私たちはこの土地を去ります。鬼舞辻に近づきすぎました。早く身を隠さなければ危険な状況です。それに医者として人と関わると鬼だと気づかれることもある。特に子供や年配者は勘が鋭いです。」

 

 「それがいいだろう。いくら鬼舞辻が雑でも次はさすがに強力なのが来るだろう。」

 

 「ところで炭治郎さん。禰豆子さんは私たちがお預かりしましょうか?」

 

 「珠世様!?」

 

 珠世の提案に愈史郎が同時に声を上げ心底いやそうな顔で首を振る。

 

「絶対に安全とは言い切れませんが、戦いの場に連れていくには危険が少ないかと。」

 

 鬼舞辻にマークされた以上、炭治郎はそのほうが禰豆子にとっては安全である可能性が高いかもしれないと考える。

するとそんな考えを見抜いたのか禰豆子が炭治郎の手をそっと握った。

 

(そうだな…)

 

 炭治郎は禰豆子の手を握り返す。そしていつも通り仏頂面ではなく少しだけ微笑み珠世と向き合う。

 

 「気遣いはありがたいが、俺たちは一緒に行く。もう、二度と離れ離れにはならん。」

 

 かつて自分は一緒に戦ってきた弟を死なせてしまった、かつて自分は守るべきだった母と弟や妹を守れなかった。そんな中で最後に残ったのが禰豆子だ。今度こそは必ず守り通して見せる、炭治郎の言葉にも表情にも一切の迷いはなかった。それを見た珠世は納得したようにうなずく。

 

 「では俺たちはもう行く。鬼からとった血はお前の猫に渡せばいいんだな?」

 

 「はい、よろしくお願いします。」

 

 「じゃあな、全員人間に戻ることが出来れば…禰豆子が望むならばだが祝いをするのも吝かではないぞ。」

 

 「待て鬼狩り。」

 

 愈史郎が別れ際に二人を呼び止める。

 

 「何だ?」

 

 「お前はいけ好かない奴だが、一つだけ訂正しておくことがある。お前の妹は美人だよ。」

 

 そっぽを向いたまま、愈史郎はぶっきらぼうに言葉を紡ぐ。そんな彼にたいして炭治郎はじめてうれしそうに愈史郎を見る。

 

 「フン、そんなことは分かり切ったことだ。」




 無一郎が分割されて俺はつらい!!
 鬼滅アニメが終わって俺はつらい!!
 鬼滅映画待つのが俺はつらい!! 
耐えられないから次遅れても許してくれ!!
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