元うちはによる鬼殺道中記   作:卑の呼吸・卑劣切り

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 せっかくの二次創作なのだからある程度自由にしてみっか…そんな頭の悪い感じで書いた話

 …今回結構無茶苦茶していると思います


 それはそうと、18巻…まったくワニは人の心を的確にえぐってきやがるぜ…


元マダラ蜘蛛と蝶と遊ぶ

  

 

「これは不味いことになったね…」

 

 時は少しさかのぼり…鬼殺隊棟梁こと産屋敷耀哉は采配ミスに思い悩んでいた。

 一応補足しておくと竈門炭治郎を那田蜘蛛山に向かわせるよう指示したのは産屋敷耀哉ではない。仮に向かわせたのが産屋敷耀哉だったとしたら追加で送る柱は冨岡義勇か時透有一郎のどちらかで胡蝶しのぶを送ることは見送っただろう。

 

 

 ではなぜこんなことになったか?理由は単純、竈門炭治郎を那田蜘蛛山に向かわせるよう指示したのが鬼殺隊所属の別の事務員だからだ。

 それはそうだ、資金繰りや組織運営の方針を決めている状態で、柱や甲などの高い階級の者たちへの指示ならともかく鬼殺隊に入り日が浅く階級の低い者への任務指示などまで行っていては例え持病が無かろうと過労死しかねない。今回このことに気づけたのは持ち前の感のおかげだった。

 

 「あまね、彼は今現在どのあたりの位置にいるか分かるかい?」

 

 「時透有一郎でしたら、那田蜘蛛山に近い場所にいるかと思われます。」

 

 「なるべく速い鎹烏を使って那田蜘蛛山に向かうよう伝えてくれ、もしも竈門炭治郎が彼の予想通りの人物だとしたらしのぶが危険かもしれない。」

 

 

 何事もなければと思う反面、自身の感はよくないものを感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「蜘蛛の巣だらけじゃねえか!邪魔くせえ!」

 

 山へと入った伊之助は被り物の下で顔を思い切り顔をしかめる。ふとあたりを見回すと、あちこちに蜘蛛の糸が絡みつき、かすかな月明かりで不気味に光っていた。手についた蜘蛛の巣を乱暴に振り払い悪態をついた。そんな彼の背中に、炭治郎は声をかける。

 

 「あまり不用意にその蜘蛛を触るなよ…何かがおかしい…っと生存者か。」

 

 伊之助と炭治郎は生存者を発見する。その眼には絶望が浮かんでいた。

 

 「援軍なのか…階級は!?」

 

 「…両方とも癸だ。」

 

「なんで柱じゃないんだ。癸なんて何人来ても同じだ!意味がない!」

 

 炭治郎の言葉に対して隊員がそう言った瞬間、伊之助は隊士の頭を掴んで大声を上げた。

 

 「うるせえ!!意味のあるなしでいったらお前の存在自体意味がねえんだよ。さっさと状況を説明しやがれ弱味噌が」

 

 「そのあたりにしておけ、一応は情報を持った生存者だ。情報を聞き出すまでは生きていてもらわねば困る。」

 

 あまりのぞんざいさに隊士はドン引きするが情報の共有は大事だと思い二人に状況を説明する。

 曰く彼も炭治郎達同様鴉からの指令を受け、十人ほどの集団でこの山に入った。だが、しばらくして隊員たちが突如斬りあいを始めたという。そして彼も巻き込まれそうになり、命からがらここまで逃げてきたということだった。

 

 「隊員同士の斬り合い、考えられるのはやはりさっきの蜘蛛か…」

 

 炭治郎が持論を言いかけたとき、あたりから奇妙な音が聞こえてきた。それは山に引きずりこまれた隊士が消える寸前に聞こえてきた音と同じであった。生存者の隊員も、音に聞き覚えがあるのか瞬時に顔が青くなる。

 

 「近いな、すぐそこだろう。」

 

 「ハハッ、いいぜ!腹が鳴るぜ!!」

 

 「…腕が鳴るだ。」

 

 「そんなこと言ってる場合かよ!!」

 

 炭治郎の言葉にそれぞれが刀を構える。音はこちらに近づく様にどんどん大きくなっていく。そして不意に、彼らの背後で何かが動く気配がした。反射的にその方を向くと森の奥から一人の隊士がこちらに向かってくる。さらに森の奥から次々と他の隊士たちも現れた。全員口から血を流し、目の焦点が合っていない者もいる。

 

 

 そしてそのうちの一人が刀を構え、三人に斬りかかってきた。

 

 「ヒぃ!!来た‼」

 

 「ハッハ!こいつらみんな馬鹿だぜ。隊員同士でやりあうのはご法度だって知らねえんだ!」

 

 「違うなこいつら操られている。」

 

 炭治郎は身をかわしながら伊之助に説明する。実際彼らの動きは明らかにおかしく、人間ならばありえない動きをしているのだ。

 

 「よし、じゃあぶった斬ってやるぜ!」

 

 「悪くはない考えだが、それでは能率が悪すぎる。」

 

 「何でだよ!?」

 

 「よく見ろ、あの中にはすでに死んでいる奴もいる。にもかかわらず歪な形とはいえ動いている以上相手は傀儡と同じようなものと考えるべきだ。」

 

 「傀儡…何じゃそりゃ?」

 

 「操り人形のようなものだと考えればいい。とにかく殺す程度に切ったくらいでは動きは止まらん、かといってバラバラに分解するのは時間の無駄が多すぎる。」

 

 「否定ばっかしてんじゃねぇ!!」

 

 業を煮やした伊之助が、怒りの声を荒げる。

 

 「とりあえず糸を切れ、応急的には何とかなる。」

 

 

 目を凝らすとそこには、やっと見えるくらいの糸が何本もつながっていた。その糸を断ち切ると隊士の体は解放された様に地面に吸い込まれていった。

 

 

「お前より先に俺が気づいてたね!」

 

伊之助は得意げに言うと、跳躍しながら二本の刀を振るい複数の隊士の糸を切り捨てた。

 

 

「とはいえ糸を切るだけではだめだ。蜘蛛が操り糸をつなぐ。」

 

「じゃあ蜘蛛を皆殺しにすればいいんだな!?」

 

 「蜘蛛は血鬼術の類で作られているから本体を叩かないとあまり意味がない。なのでさっさと本体を探索しろ。」

 

 「んなもんお前がやれよ!!」

 

 「刺激臭が強すぎて俺の鼻が利かん。それにそこそこ離れた距離にいるのか俺の目でも見つからん。だからお前がやれ。」

 

 襲い来る隊士たちの攻撃を適当にいなし、炭治郎が命令する。

 

 「…つまりお前ができねぇことを俺ならやれるってことだな?」

 

 

 「そういう認識で構わん。操られている奴は俺が適当に何とかする、その間に探せ。」

 

 

 そこまで言ったとき、炭治郎の第六感が何かの気配を感じ取った。上を向くと真白な肌に赤い文様。真白に蜘蛛の巣を彷彿とさせる文様が入った着物をまとった少年だった。

 

 (そこそこは高位の鬼のようだな。こいつは治療薬のいい材料になってくれそうだ。)

 

 無惨を抜きにすれば、これまでの鬼よりも格段に濃い鬼の匂いに、炭治郎はほくそ笑む。

 

 

「僕たち家族の静かな暮らしを邪魔するな」

 

 

 そんな考えを知らずか、少年の鬼は淡々とそう告げ、炭治郎達を冷ややかに見降ろす。

 

 

「お前等なんてすぐに母さんが殺すから」

 

 炭治郎は彼が言った言葉に違和感を感じた。彼は確かに今、母さんと言った。もし彼の言葉が正しければ、今隊士達を操っている鬼は別にいることになる。そしてこの山に漂う刺激臭もまた別の鬼の仕業なのだろう。

 

(一族のように徒党を組む鬼がいるとはな…こいつら程度ならまだ問題はないが、より上位の鬼が徒党を組む可能性があるとしたら少々厄介だな。)

 

 

 上弦と呼ばれる長い年月、一体も討伐されていない鬼たちもそういったことができるなら面倒なことになりそうだと考える炭治郎。それをよそに伊之助が、操られている隊士を踏みつけ飛び上がり、少年の鬼に斬りかかった。

 だがその刃は高所にいる彼には届かず、見事に空振りをする。少年の鬼は何をするまでもなく糸の上を歩いてどこかへと去っていった。

 

 

「アイツ一体、何のために出てきたんだ!」

 

 伊之助はそのまま背中から地面に落ちる。そんな伊之助に向かう隊士を牽制すべく、炭治郎は動く。

 

「今は気にするな、奴はおそらく傀儡廻しの鬼ではない。だからさっさと続きを再開しろ。」

 

「わかったっつうの!俺は今からもう一度、鬼の居場所を探る。だからそいつらを俺のそばに近づけんじゃねえぞ!」

 

 伊之助はそういうと、持っていた二本の刀を地面に突き刺し両手を広げ感覚を研ぎ澄ませる。

 

 

――獣の呼吸―― 漆ノ型 空間識覚

 

 

 伊之助の最大の特技は、触覚が人並外れて優れていること。意識を集中すれば僅かな空気の揺らぎすら感知することができる。ただしその場から動けなくなり無防備になってしまうため、一人での使用には危険を伴うが、炭治郎ならばそこらへんも織り込んでいるだろうと考えていた伊之助は気にせず捜索を続ける。

 

 

 

 「…見つけたぞ!そこか!!」

 

 しばらくした後、伊之助は大声で叫びその方向に指を向けた。

 

 「ほう、チャクラによる探知もなしによくやる。」

 

 炭治郎が感心すると、伊之助は誇らしげに胸を張る。

 

 「へっへー、お前にできないことが俺にはできた!!やっぱ俺はすげぇ!」

 

 「この場は貴様の能力を当てにしていた。次も同じようなことがあったら頼むぞ。」

 

 炭治郎がそういうと、伊之助はまた胸を張ってきた。それを見て炭治郎は『扱いやすいな、コイツ』と心の中で思った。

 

 

 そんな彼らを見て村田は何かを決心したように口を引き結ぶと、襲い掛かってくる隊士の太刀を受け止め、で絞り出すように叫んだ。

 

「ここは俺に任せて先に行け!!」

 

「小便漏らしが何言ってんだ!?」

 

 伊之助が返すと村田は顔を真っ赤にし、叫ぶ。

 

「誰が漏らしたこのクソ猪!テメエに話しかけてねえわ黙っとけ…情けない所を見せたが、俺も鬼殺隊の剣士だ!!ここは何とかする!!」

 

 「いいのか?高確率で貴様は死ぬぞ。」

 

 「とにかく!糸を切ればいいというのが分かったし、ここで操られている者達は動きも単純だ。蜘蛛にも気を付ける。鬼の近くにはもっと強力に操られている者がいるはず。先に行ってくれ!!」

 

 「いいだろう。死に場所を決めたのなら好きにしろ。」

 

 「勝手に俺を殺すな!!」

 

 村田の叫びを無視して炭治郎はそのまま伊之助を連れて駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 探知した方角に進むたびに本体にちかづいている証拠か、蜘蛛が増え、糸も多くなる。その様子に伊之助は苛立つ。

 するとすっかりおなじみのキリキリという金属音が聞こえ、二人は足を止める。暗がりの中からすすり泣く声と共に、糸に繋がれた隊士が現れた。

 

 

 

「駄目…こっちに来ないで…」

 

 今にも死にそうなか細い声で隊士がそう嘆願するのは、黒髪を一つにまとめた女性の隊士だった。顔色が悪く、右手には他の隊士が突き刺さったままの刀を持ち、左手は同じく血まみれになった隊士の屍を掴んでいる。

 

「階級が上の人を連れてきて!!そうじゃないと、みんな殺してしまう!お願い、お願い!!」

 

 女性隊士の刀が振り上げられ、炭治郎達を襲う。

 

「さっきの傀儡よりも力が強いな。」

 

「操られているから、動きが全然、違うのよ!私たち、こんなに強くなかった!!」

 

 

 

 その無理な動きで彼女の骨が砕ける音が響き、潰れたようなうめき声が上がった。おそらくはもう長くはもたないだろう。

 さらに全身から血を噴き出し、体のあちこちが人体の構造上あり得ない方向に曲がった三人の隊士が現れる。

 

 

 「頼む。こ、殺して…くれ…」

 

 一人の隊士が息も絶え絶えに懇願する。彼の右腕からは骨が飛び出しているが、それでも糸がお構いなしに持っている刀を振り上げさせようと、無理やり彼の腕を引き上げていた。

 

 「骨が内臓に刺さっているんだ…どのみち、もう死ぬ…だから…助けてくれ。止めを、刺してくれ」

 

 「よしわかったァ!」

 

 その言葉に伊之助が飛び出し、隊士達に止めを刺そうとする。それを炭治郎がそれを静止した。

 

 「待て…さすがにこの数の人間を殺すと後が面倒だ。」

 

 一応は操られている隊士から殺害の懇願は下りているが、残念ながら死体は『自分が頼みました。』とは弁護を語ってくれない。なので、あまり考えなしに殺し過ぎるとさすがに事情聴取が面倒なことになる。

 そう結論付けた炭治郎は考えを巡らせた。傀儡の術者までは近いとはいえまだ距離がある、糸は斬ってもすぐにつながる、動きを止めるには…

 

(傀儡と同じ原理ならば上手くいくかもしれん…試してみるか。)

 

 

 炭治郎は刀を納めると、女性隊士に突進する。そしてそのまま懐に入り彼女を抱え女性隊士を真上に放り投げた。そしてそのまま木の枝に糸が引っ掛かり、宙ぶらりんの状態になった。

糸が複雑に絡み合いこれでは刀を振るうどころか、動くことさえままならない。

 それを見て伊之助は

 

 「なんじゃああそれええ!!俺もやりてええ!!」

 

 子供の様にはしゃぎだし、同じ様に隊士を放り投げた。木の上で絡まる隊士を見て、伊之助は小躍りしながら声を上げる。

 

 「見たかよ!!俺にだってできるんだぜ!?」

 

 しかし炭治郎はそれを無視しながら黙々と隊士を放り投げる。

 

 「無視してんじゃねぇ!!つか、負けてらんねぇ!!」

 

 憤慨した伊之助は再び隊士を掴むと、再び渾身の力で放り投げた。そして負けじと次々と放り投げてゆく。

 

 「がはははは!!まだまだ行くぜ!!」

 

 しかしそんな楽しい時間もすぐに終わることとなる。彼の前にいた隊士の頸が鈍い嫌な音を立てて反対方向へ曲がった。

 

 「っ!!」

 

 伊之助が一瞬ひるむ中、吊り上げられていた他の隊士達の頸も同じように逆方向へ捻じ曲げられた。

 

 「何だよ!これじゃあ意味無かったじゃないか!!」

 

 伊之助が声を荒げ、怒りを露にする。それに対し、炭治郎は持論を述べる。

 

 「いや、無意味ではない。見たところ苛ついて傀儡の操作をやめたようだから、鬱陶しい人形どもをこれ以上相手にしなくていい。それに事後処理も鬼がやってくれたおかげで後が楽だ。下手に生き残った人間は死体よりもはるかに厄介だからな。」

 

 「お、おう…」

 

 「…おっとこれは人前では言うなよ、こういう時は他の隊士には表面上は自身の無力感を出しておくのが余計な詮索を避ける秘訣だ。」

 

 淡々とした声で炭治郎は説明する。その冷たさにはさすがに伊之助も戦慄き、『あ、ああ…覚えておく。』としか言うことができなかった。

 そしてそんな伊之助を無視して炭治郎はあたりに散らばっていた刀の中から、状態の良いものを鞘とセットで一本拾う。

 

 「おいおい何やってんだ?刀ならもう持ってるじゃねぇか。」

 

 「予備がこの先必要になるかもしれないからな、どのみち死体となったこいつらにはもう無用の長物だろう。」

 

 「予備?」

 

 「この先相手するかもしれないやつのためだ。」

 

 『それはおそらく鬼ではないがな…』と炭治郎は心の中で付け足すが、口にはしなかった。炭治郎の刀はあまり例を見ない黒だ。もしもそれを❝厄介な輩❞に見られたらすぐに身元が特定される危険性がある。ゆえに❝厄介な輩❞と戦うための武器が必要だったのだ。

 

 「そうだ、ついでだ貴様もここで武器を新調しておけ。その刀はもうそろそろ限界だろう。」

 

 「そうなのか?まだまだいける気がすっけど。」

 

 「そんな刃こぼれだらけの刀だと次鬼と戦った時、折れかねん。そんな理由で死にたくはなかろう。」

 

 「それもそうだな、どれにしようか…より取り見取りだぜ!」

 

 伊之助も炭治郎にならい、刀を二本拾う。そして何を思ったのかその刀をそこら辺の石でたたき始めた。

 

 「…おい、貴様…いったい何をしている?」

 

 何がしたいのか分からない炭治郎は困惑の声を上げる。それに対して伊之助はさも当然のようにこう答える。

 

 「見て分かんねぇのかよ!?こっちのほうが千切り裂くような切れ味になるからに決まってるからだろうが!!」

 

 その意味不明さにはさすがに炭治郎も呆れ、『そうか…』としか言うことができなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こっちだ!かなり近づいているぜぇ!」

 

 そんなこんなで遺品漁りを終えた二人は月明かりだけに照らされたうっそうな森の中を走る。鬼の気配が強くなると同時に、二人の視界に黒い影が映った。

 

「来るぞ。」

 

「俺の方が先に気づいてたぜ!早速試し切りができるってもんよ!!」

 

 伊之助は高らかに叫ぶと、新調した刀を構えなおしていち早く先陣を切った。しかし目の前の相手を見て、伊之助は困惑する。立ちはだかった相手は、頭部がなく鎌のような腕を接がれた鬼の屍だったからだ。

 

 「こいつ、頸が無ぇぇぇぇぇ!?」

 

 伊之助は混乱しているが、炭治郎は冷静な声色で言った。

 

 「ちょうどいい、こいつをお前が何とかして見せろ。俺が本体を殺すまでの間にな…」 

 

 「んなこと言われたってあいつ急所が無ェぞ!無いものは斬れねえ!!どうすんだどうすんだ!?」

 

 「それは自分で考えろ。ただまぁ…ヒントぐらいはくれてやろう。相手はさっきまでとは違い一体だ、そして一番最初に貴様は人形どもにどう対処しようとしていた?」

 

 「…最初、そうだ!!ぶっ壊そうとしたんだ!!」

 

 思い出したかのように伊之助は叫ぶ。

 

 「…相手は人型だ、どう壊せば動きを止められるかは言わなくてもわかるな?」

 

 

 広範囲に右の頸の付け根から左脇下まで斬ってみようと考える。

 

 「やってやらぁ!!」

 

 伊之助は鬼の攻撃を避けつつ反撃の隙を伺うが、それに気をとられていたせいで小さな蜘蛛の存在に気づくことが遅れた。

 

 「勇み足は構わんが、蜘蛛には気をつけろ。そしてあとは自分でやれ…」

 

 しかしそれを炭治郎は切り払い、アシストする。

 

 「うるせぇ!ちゃんと気づいてたっつうの!!こいつ思ったより遅いぜ!!」

 

 短い間とはいえ炭治郎に調教…もとい鍛えられていた伊之助は傀儡の鬼の攻撃を楽にかわし、そのまま二本の刀は、鬼の右肩から左脇下を切り裂く。すると鬼の体は崩れ、灰となって消えていった。

 

 「見たか!!ってアイツいねぇ!?」

 

 声高らかに炭治郎に自慢しようとする伊之助だったがそこには誰の姿もなかった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方伊之助を置いて傀儡使いの本体をサクッと殺した炭治郎は山の中を歩いていると何とも言えない場面に立ち会うことになった。

  

「お願いだから、もうやめて累…」

 

 嘆願する声に交じってすすり泣くような声も聞こえてきたのでのぞいてみると、そこには顔から血を流してすすり泣く少女の鬼と、その傍らで冷徹な眼で彼女を見下ろす少年の鬼の姿があった。少年の手には、血の付いたままの糸があやとりをするように指にかかっていた。

 

 

「何見てるの?見世物じゃないんだけど」

 

 累は炭治郎に視線を向けさほど興味がないといった口調で言った。

 

「仲間割れ…烏合の衆だったか。」

 

 炭治郎がつぶやくと累は首をかしげながら答えた。

 

 

「烏合の衆でもなければ、仲間などというそんな薄っぺらなものと同じにするな。僕たちは家族だ。強い絆で結ばれているんだ…それにこれは僕と姉さんとの問題だよ。余計な口出しするなら、刻むよ。」

 

 累の言葉に炭治郎は呆れを覚えた。少なくとも自分の感覚では家族というのは今生も前世も温かみがあった大切なものだという認識があったからだ。

 

 (まぁ、どうでもいいか…)

 

 これから治療薬の材料になるやつのことなど考えても仕方がないと、考えた炭治郎は刀を抜く。

 そんな時、不意に背後から草が揺れる音がした。

 

「お?ちょうどいいくらいの鬼がいるじゃねえか」

 

 炭治郎が視線を向けると、そこには一人の鬼殺隊士が笑いながら近づいてきた。

 

 「こんなガキの鬼なら俺でも殺れるぜ!!俺は安全に出世したいんだよ。出世すりゃあ上から支給される金も多くなるからな。俺の隊は殆ど全滅状態だが、とりあえず俺はそこそこの鬼一匹倒して下山するぜ」

 

 彼はそう言って刀を累へとむけた。むろんこれは勇気などではない。

 

 (…愚かな実力の違いも理解できないのか?)

 

 どう考えても無謀だということに炭治郎はその言葉に呆れを覚える。しかしそんな考えをよそにその男はそのまま背後から累に斬りかかった。

 累は手の指に絡まっていた糸を隊士の方へ伸ばした。その糸は一瞬で隊士の全身を細切れに刻み、哀れ愚かな隊士をサイコロステーキへと変えてしまった…

 

 

 

 

 

 

 

 「不味い!!何をしている禰豆子!!」

 

 かに思われたが、ここで思いもよらぬ救いの手が差し伸べられることになる。鱗滝だけでなく、炭治郎からも人間を守るよう二重に暗示をかけられていた禰豆子は生物学上、一応は人間である愚かな隊士を救うべく、箱から飛び出し、隊士を蹴飛ばしてこの場から遠ざけたのだ。 

 無論それだと禰豆子が累の糸によって切られることになってしまうのだが、とっさに炭治郎は刀で累の糸をすべて切り落とし、全員無事となった。

 なお、蹴り飛ばされた隊士は何が起こったか理解することなく気絶したため、禰豆子が鬼であることに気づくことはなかった。

 

 「大丈夫か!?こんな愚かな奴のために無茶をする必要などないのだぞ!!」

 

 炭治郎が少し怒った口調で禰豆子を叱ると、禰豆子は落ち込んだ様子を見せる。

 

 「…いや、俺の暗示がきつ過ぎたのが悪かったか…」

 

 その様子を見て炭治郎は言い過ぎたかとこれ以上何かを言うのを控える。するとそこに鬼を倒した伊之助が駆けつけてきた。

 

 「俺を置いて前を行きやがって!!…ってそいつ箱から出てるじゃねぇか!?いったい何があった?…つかあの鬼なんだ!?やべぇのが肌でわかるぜ!!」

 

 訳が分からないといった感じに混乱する伊之助に対し、炭治郎は一から説明する。

 

 「禰豆子は馬鹿を助けるために箱から出てきた、そしてあの鬼はおそらくこの山の鬼どもの頭目だ。」

 

 「よっしゃー!つまりあの鬼を倒せばいいんだな‼」

 

 「…今のお前では肉片になるだけだ。」

 

 「何だとぉ!!馬鹿にするなよ!!」

 

 

 言い争いを始める二人、一方の鬼サイドは…累が何とも言えない感じになっていた。

 

 

「箱から出てきたのは鬼…でもあの人間はそれを助けた…もしかして兄妹…妹は鬼で兄は人間…それでも一緒にいる!?」

 

「る、累?」

 

「兄は妹を救った。身を挺して…本物の絆だ!!欲しい!!!

 

「ちょっ、ちょっと待って!!」

 

 累の様子のおかしさに姉鬼は思わず前に飛び出して言った。

 

 「待ってよお願い!!私が姉さんよ!!姉さんを捨てないで!!」

 

 「黙れ!!結局お前たちは、自分たちの役割もこなせなかった。いつもどんな時も・・・」

 

 累は糸を姉鬼に向かって飛ばし、彼女の体を斬り飛ばした。頸だけになった姉鬼に、累は吐き捨てるようにキレる。

 

「ま、待って。ちゃんと私は姉さんだったでしょ?挽回させてよ…」

 

 姉鬼は涙を流しながら累を見上げ、かすれた声で言った。

 

「だったら山の中をチョロチョロする奴らを殺してこい。そうしたらさっきのことも許してやる。」

 

 累は目も合わせないまま姉鬼に冷たく言い放つ。

 

 

 

「わ、わかった。殺してくるわ」

 

 姉鬼は再生した体で頭部を抱えると、森の中へと消えていった。

 

 (…役立たずが…どいつもこいつも…だがまぁいい…ようやく本物の絆を手に入れられそうだ。)

 

 本人は記憶があいまいだが、累の元となった少年は生まれつき体が弱かった。走るどころか、歩くことさえ辛い程。彼の両親は彼を治そうとあちこちの医者へかかったが、皆匙を投げてしまっていた。

そんな中、少年の下にある一人の男が現れた。洋風の服を着た、白い肌に血のような赤い目の男。

 

 『可哀そうに。私が救ってあげよう』

 

 

 

その男の血によって少年の体は強くなった。しかし、彼の両親は喜ばなかった。強い体を手に入れた代わりに日の光に当たれなくなり、人を食わねばならなくなったからだ。父親は酷く怒り、母親は泣き崩れた。

 少年には意味が分からなかった。何故この二人は、息子である自分に笑いかけてくれないのだろうと。

 

 かつて聞いた川でおぼれた子を助けて死んだ親がいたという話。彼は感動した。親の愛、絆。その親は立派に親の役目を果たしたからだ。

 だが、少年の父親は彼を殺そうと刃を向けた。母親は泣くばかりで殺されそうになっているわが子を助けようともしない。

 

 …偽物だったのだろう。俺達の絆は。本物じゃなかった。

 

 それからは毎日が虚しくて虚しくてたまらなかった。他の鬼の姿を作り変えても作り物の家族を作っても、その虚しさが消えることはなかった。家族にはそれぞれ役割がある、父には父の役割があり、母には母の役割がある。親は子を守り、兄や姉は下の弟妹を守る…何があってもだ。なのにどいつもこいつも与えられた役割を果たすことが出来なかった。

 

 しかし今その役割を果たせそうな人材にようやく出会えた。鬼と人間、通常ならば相いれない関係、それは累も自身の体験からよく知っている。にもかかわらず少年の素性は分からないが、鬼であるはずの少女を自分の糸から素早く庇った。おそらくは兄妹なのだろう。

 何という家族愛‼自身が欲していたものがついに目の前に現れたのだ、興奮しないわけがない!

 

 

 「坊や。話をしよう。出ておいで…僕はね、感動したんだよ。君たちの‘絆’を見て、体が震えた。この感動を表す言葉はきっとこの世にないと思う。」

 

 先程の冷徹な声とは裏腹に穏やかな声で累は言った。

 

 「でも、君たちは僕に殺されるしかない。悲しいよね、そんなことになったら。だけど、回避する方法が一つだけある…」

 

 そして累は炭治郎に一つの提案を出す。

 

 「君が僕の兄さんになってよ。大人しくなってくれれば、その鬼の女の子も猪の子も命だけは助けてあげる。大丈夫、無惨様には僕からも誠心誠意、君を鬼にしてもらえるよう頼みこむから…」

 

 

 「五月蠅い…先程から聞いてもいないことをベラベラと…」

 

 累の話をバッサリと炭治郎は切り捨てる。十二鬼月というだけあって少しは情報を得られるかと思って聞いていたが有益そうな情報は全くないと判断し、心底鬱陶しそうに刀を構える。

 

 

 「…大人しく僕の兄さんになってくれないみたいだね。いいよ、暴れられても面倒だし手足の二三本は斬ることにするよ。ついでに恐怖の“絆”を紡いで逆らうとどうなるか、ちゃんと教えてあげるよ。」

 

 それに対して気分が乗っていた累はそこまで怒ることなく、余りにも身勝手且つ意味不明な言葉と共に累の血を含んだ真っ赤な糸を炭治郎の周りに張り巡らす。

 普通の糸はすでに斬られていることを累は先ほどのやり取りで知っているため確実に炭治郎に“絆”を与えるために本気で攻撃する必要があると判断したようだ。

 

 

 「先ほどまでの糸と匂いがまるで違う…まぁ関係ないがな。」

 

 ――水の呼吸―― 拾ノ型 生生流転

 

 張り巡らされる糸を回転しながら繰り出される連撃で炭治郎は次々と斬り落としていく。それはまるで荒れ狂う竜の如き動きで、しかも回転を増すごとに威力が増すというおまけ付きで一度に斬られる糸の数が明らかに増していることに累は気づく。

 

 (奴の間合いに入った瞬間、糸がばらけた。一本も届かなかったのか?最硬度の糸を複数本斬られた?…しかも威力が上がっている!?)

 

 自身の本命の糸が次々と断ち切られたことに、累の眼が見開かれる。

 

 「そんなはずはない!これならどうだ!!」

 

――血鬼術・刻糸輪転――

 

 ここにきて焦りに焦った累の手にいくつもの糸が集まり、輪のようになっていく。最高硬度の糸をさらに密集させた文字通りの本気の攻撃、その糸の束を累は炭治郎に向かって放った。糸の嵐が、轟音を立てて彼に向かう。当たれば骨付きサイコロステーキ確実の攻撃、しかし威力が最大限に上がった“生生流転”の前では相手が悪すぎた。

 

 「もう一度だ!もう一度・・・!」

 

 糸がパラパラと彼の周りを漂った累は再び術を放とうと手を伸ばす。だが、不意に彼が累の視線から消えた。

 

 「俺の妹のために血をよこせ…それが貴様の役割だ。」

 

 炭治郎はすれ違いざまに累の頸に刃を滑らせた。累の頸がずれ、ごろりと頭が地面に落ちる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「そういえば炭治郎、コイツ訳の分からねぇことベラベラ喋ってたが一体何だったんだ?」

 

 「さぁな、あくまでも推測になるが人間だった時の記憶と鬼になったことによる欲望の歪みが混ざったことによる結果だろう。」

 

 倒した累の体から血液を採取しながら炭治郎は話す。下弦とはいえ十二鬼月の鬼から血を手に入れることが出来たためその顔はどことなく嬉しそうだった。

 一方の伊之助は説明を聞いても何が何だかよく分からないといった様子だった。

 

 「人間の時の記憶?欲望?…どういうことだ?」

 

 「鬼となって家族を食い殺したが、食い殺した後で家族の大切さを思い出しそれを歪んだ形で再現しようとしたのだろう。…それが無意味であるということを知らずにな。」

 

 「やっぱよく分かんねぇ…」

 

 「そのうち貴様にもわかる時が来るかもな…貴様とて木の股から…ましてやイノシシの中から生まれたわけでは…」

 

 

 炭治郎が最後まで言おうとした瞬間、こちらに向かってくる何かの匂いがした。伊之助も何かを感じ取り臨戦態勢に入る。炭治郎は懐から仮面を出して被る。

 

 「…禰豆子を連れてここから離れろ。」

 

 「ま、待ていったい何が、どうなってんだ⁉」

 

 「いいからここから離れろ…」

 

 「お、おう…わかった。」

 

 伊之助に小さく、しかし有無を言わせない声で禰豆子を預けると、瞬時に❝死体から拝借した刀❞を抜き、その襲撃者を迎撃する。伊之助はその間に禰豆子を連れて森の中を駆け巡っていった。

 

「あら?」

 

 襲撃者は空中でくるりと体勢を立て直すと、炭治郎を見た。その女性は蝶を彷彿とさせる羽織を纏い、蝶の髪飾りを付けた小柄な女性。その髪飾りには炭治郎は見覚えがあった、選別試験の最後に見た人形のような少女と同じものだ。

 

 「すみません、先ほどの鬼を斬りに行きたいのでどいていただきたいのですが?」

 

 頼み込む口調とは裏腹にしのぶは刀を炭治郎に向ける。刀身が針のように細く尖っているその日輪刀は、どう見ても斬ることには適していない形状をしていた。

 

 (微かな毒の匂い…鬼用か。それにあの刀の形状、明らかに対人戦用ではないな。)

 

 得られた情報から目の前の女は自分を抹殺しに来たわけではなくあくまでもこの山にいた鬼を殺しに来たのだと判断する。だからと言って安全という訳ではない。

 

「どくつもりはないと…それにしても鬼と仲良くしようとしている方がいらっしゃるとは…冨岡さんが見たら大層驚きそうですね。」

 

 炭治郎は一言も答えずに

 

「…もしかして元家族の方ですか?だとしたら可哀そうに…」

 

 一方しのぶは事情を察したらしく気の毒そうに口元に手を当てた。しかし炭治郎は仮面の下でため息をつく。どう考えても憎しみが漏れ出している、しかもそれを無駄に隠そうとしている。こいつには話が通じそうにない、話すだけ無駄だと炭治郎は判断した。

 

 

「苦しまないよう、優しい毒で殺してあげましょうね」

 

 先に動いたのは炭治郎だった。しのぶの刀と炭治郎の刀がぶつかり合い、火花を上げる。体格的には男性である炭治郎が有利であるが、しのぶは小柄な分かなり素早いようだ。

 

「日輪刀…隊士の方でしたか。…では切腹は覚悟してくださいね。」

 

 体勢を立て直しながらしのぶは淡々と言葉を紡ぐ。それに対し炭治郎も心の中で状況を分析する。

 

 (ヒノカミ神楽で手っ取り早く片づけるか…いやあまり手の内はさらすべきではないか…)

 

 戦力を推測するに、この女ともう一人の柱である冨岡義勇がいればここにいた鬼どもを殲滅するのは容易であっただろう。鬼殺隊とて暇人集団ではないはずだ、ゆえにここに柱二人以上の過剰戦力を投入する可能性はかなり低いと考えた。

 冨岡義勇はよほどの自殺志願者でなければこちら側、つまりはこの女さえ何とかすればかなり状況は好転する。無論だからと言って時間をかけすぎてもいいわけではない。正体を隠している状態ならば冨岡義勇はあちらに味方する恐れがある。そうなっては非常に面倒だった。

 そう考えていると戦況に動きがあった。

 

 「仕方ありません…あなたは厄介そうなのでここで戦闘不能になってもらいます。」

 

  ――蟲の呼吸―― 蝶ノ舞 戯れ

 

 その動きを炭治郎は可能な限り圧縮した体感時間の中で冷静に分析する。

 

 (蝶か…見たところ水の呼吸に近いが、奴独特の型なのだろう…丁度いい。)

 

 この技に対してどう対応すべきか結論付けた炭治郎はさっそく行動に移る。自分の手札を見せたくないのならば、相手の手札を使って戦えばいい。

 

  ――蟲の呼吸―― 蝶ノ舞 戯れ

 

 「え…!?」

 

 その光景にしのぶは目を見開く。

 

 (…あり得ない…これは…こんなことが…)

 

 二つの蝶がぶつかり合い、体重と筋力の差からしのぶは後ろへと下がり、ぎりぎりと手足を震わせながら心の中で言葉を紡ぐ。その顔には先程の笑みは消え、驚愕の表情が浮かぶ。

 

 「あなた一体…何者ですか?」

 

 目の前の男はしのぶの質問に対して何も答えなかった。

 しのぶが使う“蟲の呼吸”は“水の呼吸”から派生した“花の呼吸”を更に自身に適したスタイルへと派生させた、彼女独自の流派である。だからこそ、この流派を使用するのは自分だけのはず、それが大原則のはずだった。しかし相手は継ぐ子であるカナヲも継承していない“蟲の呼吸”を確かに使ってきた。

 …故に目の前の人物がいったい何者なのか本格的に分からなくなってきた。

 

 「…どうやらあなたには聞かねばならないことが山ほどあるようですね。」

 

 ――蜂牙の舞い―― 真靡き

 

 今戦っている相手が何者なのか分からないが、それでもしのぶが行うべきことは変わらない。さっきの鬼の少女を倒し、正体不明の仮面の人物を尋問するべく連行する。そのためにも

相手を行動不能にする必要があった。

 しかし現実は非情なものだった…

 

 ――蜂牙の舞い―― 真靡き

 

 突きの威力に特化した刺突技、その威力は上位の鬼の頭蓋すらも余裕で貫通せしめるものであったが、相手はまるで最初から見切っていたかのように、それを避けると、先と同じようにその技を複製して見せる。

 

 (またですか!?) 

 

 自分の太刀筋故、その動きを理解していたしのぶはギリギリのところで躱し、上着を少し切るぐらいに抑えたが、動揺はさらに大きくなる。

 しかも自身の勘違いでなければ一つ目の技の時よりもさらに、模倣にかかる時間が少なくなっている。

 

 (まるで自分の分身と戦っているよう…いえ違いますね…)

 

 相手はまるで鏡のように自身の動きを模倣してくるが、決定的に自身と違う部分があった。…それは相手の姿、より正確には体格と筋力である。相手はずば抜けて筋力が高いわけでも、背が高いわけでもなかったが、それでも自身よりは勝る。故に同じ技が同じ精度でぶつかり合えば、不利になっていくのがどちらかは明白だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 (時間をかければかけるほど不利…)

 

 幾度か剣を交えるたびに、自身が徐々に不利になっていくことを感じたしのぶはここで勝負に出ることにする。

 

 ――蜈蚣の舞い―― 百足蛇腹

 

 蜈蚣の如く、四方八方にうねる変則的な足運びで無軌道に動きを見せるしのぶ。変則的故に、これまでの技以上に模倣が難しい技。

 

 (面白い技だ…だがそろそろ余裕がなくなってきているな。)

 

 ――蜈蚣の舞い―― 百足蛇腹

 

 もしも、ここに一般の隊士がいれば一体何をやっているのかまるで分からないくらいに変則的な動きで、二人はぶつかり合う。ただ一つわかることがあるとすれば、段々と追い詰められているのはしのぶの方だということだ。

 

 (さすがに予想は出来ていましたが、やはりこの技も…この人を倒すにはどうしてもあと一人必要ですね…)

 

 結果をある程度予測していたしのぶは苦々しい感情を抱きながらも、あくまで冷静であろうとする。

 目の前の相手を倒すことは自分だけでは厳しいだろう。無論、増援が柱級の腕前でもなければ彼の相手などお話にならないことはしのぶも重々承知していたが、今回ばかりはその増援にアテがあった。十二鬼月がいるかもしれないということで柱が二人派遣されていたことが思わぬところで役に立つ可能性があったのだ。

 …まぁ、しのぶとしてはその増援は大きくは期待してはいないし、したいとは思っていないのだが。

 

 (こいつの動きはおおよそ掴んだ…そろそろ仕上げだな。)

 

 一方の炭治郎はこの踊りを終わらせようとしていた。

 狙い所はすでに決まっている。毒を相手に打ち込むという性質上刀の強度は決して高いものではない。無論彼女もそれは重々承知しているため、戦闘の際には破損してしまわないようにしているのだが、今回ばかりは相手が悪かった。理由は至極単純、戦闘経験値に大きすぎる差があったためだ。

 変則的に動く相手の動きも、自身のペースに乗せてしまえばコントロールすることはさほど難しくはない。

 

 (不味い…この人の動きに完全に乗せられている!?しかも振りほどくことが出来る気がしない!!)

 

 かつてこことは違う世界の戦国の世で、写輪眼を開眼する以前の少年時代から強大な戦闘部族の大人を幾人も刈り取ってきた炭治郎(元マダラ)からすれば目の前の女の動きを自分の都合のいいように誘導することは容易いものだった。こうなってしまってはしのぶの持ち味である、動きの変幻自在さも意味をなさない。隙の糸で絡めとってしまえば後は捕食するだけ、胡蝶しのぶは既に蜘蛛の巣に絡めとられた蝶も同然だった。

 そしてその時は訪れる…

 

 ――蜂牙の舞い―― 真靡き

 

 自らの技で、自らの武器を壊される…おそらく後にも先にもそんな経験をするのは今回だけだろう。しのぶは壊れてゆく自身の刀を見て心の中で考える。

 

 (これほどとは…最後までこの人の正体がわからなかった。)

 

 せめて手掛かりだけでもつかみたかった…そして死を覚悟したとき、突如相手の動きが止まる。

 

 (動きが止まった⁉何故…)

 

 何故かはわからないが、明らかに相手は別の方向を向いている。その微かな隙をしのぶは見逃さなかった。草鞋の裏の部分に仕込まれた小刀で相手の不意を突こうとするが…

 

 「あぁっっっっ‼」

 

 かつて千住扉間の不意打ち(卑劣ゼミ)からすら生き残った炭治郎は一瞥もせずにしのぶの足をつかみ取り、そのまま体を地面にたたきつける。

 

 (この匂いは…まさか⁉不味いぞ‼)

 

 しかし何かの異変を察知した炭治郎はしのぶにとどめを刺すことなく、その場を走り去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 白い羽織を纏った、黒髪の蝶の飾りを付けた少女が森をかける。年齢は炭治郎とさほど変わらないように見える。

 イノシシの被り物をした奇妙な人物を退けた彼女は刀をほかの鬼にもやるように躊躇なく鬼の少女の頸へ刃を振るう。だが、その刃が鬼の少女の頸を穿とうとしたその時、鬼は身体を縮ませ幼子の姿になった。

 

(小さく、子供になった)

 

小さくなった鬼はそのままとてとてと足音を立てながら走り出す。少女もその後を追い、何度か刀を振るうが禰豆子は小さな体でそれを巧みに躱す。

 

 

(逃げるばかりで少しも攻撃してこない。どうして?まぁいいか…) 

 

 少女は一向に反撃してこない禰豆子に疑念を抱くが、言われたとおりに鬼を斬るだけと考えを固定し鬼の少女をひたすら追う。

 しかしここである異変を彼女が襲う。

 

 (…この感覚は…あの時と同じ…)

 

 最終選別の時にわずかに感じた感覚、否その時よりもさらに大きな感覚…感情が死んで以来久しく感じてこなかった感情。

 

 (誰⁉まさか最終選別の時の…)

 

 覚えのある感覚を確かめようとふと振り向く、そこに立っていたのは過去の記憶、その中でも最悪の記憶がフラッシュバックし❝うちはマダラ❞に精神が完全に立ち戻っていた炭治郎だった。




 
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