現在外出自粛が続いておりますので、この機会に少しでも更新していきたいと思っています。
感想、評価をいつでもお待ちしています!
『この本によれば…普通の高校生南雲ハジメ。彼には魔王にして時の王者『オーマジオウ』となる未来が待っていた』
『我が魔王達は吸血鬼族最後の生き残り『ユエ』を仲間に加え新たな旅を勧めている一方、地上で我が魔王達の生存を信じる八重樫雫や坂上龍太郎、そしてその他大勢は再びオルクス大迷宮での訓練に臨む』
『しかし、そこに現れたのは以前倒されたはずのベヒモスだった…絶体絶命の中、彼女達に託されたライドウォッチがその力の片鱗を…』
「失礼。先まで読みすぎました…」
――――――――――
光輝達が迷宮に再び潜る前、まだハジメ達が奈落に消えてから間もない時間に遡る。
深夜の王宮で1人の男が何やらブツブツとつぶやいていた。
「ふざけやがって………あんのキモオタ野郎が…!」
ブツブツと不気味につぶやきながら何度も壁を殴っていたのは檜山。
ハジメ達を橋から落としたものの、まさか香織までもが落ちてしまうというのは彼にとって予想外のアクシデントだった。
元々香織に片思いしていた檜山だったが、彼はその恋を半ば諦めていた。
なぜなら、香織の傍にはいつもあの光輝がいたからである。
クラスの二大女神の一人である香織と、文武両道で完璧な性格の光輝。このふたりの間に自分が入る余地なんて無いと檜山は無理にでも自分を言い聞かせていた。
いや、恐らく檜山でなくても周囲の人間ならば子の2人が交際すると信じて疑わなかったのだろう。
だから檜山は不服ながらも諦めていた…つもりだった。
「そんなに…あのオタ野郎のほうがいいってのかよ…!!」
だが、香織が選んだのは完璧超人の光輝ではなく南雲ハジメ。それが彼にとって一番イラついたことだった。
協調性の欠片もなく、成績も一部除いてパッとしない。容姿に関しても光輝のような腕っ節の強さ、男らしさや爽やかさに欠けており、何よりもオタクと言われる下等な人種。そんな相手に香織が恋慕の感情を向けていることが檜山は何よりも不服だった。
何も取り柄なんてない、ただ無意味に生きているだけの人間の底辺。檜山はハジメをそんな風に思っており、彼をイジメたり痛めつけるのも全ては香織を守るためだと自らを正当化し続けていた。
当然ながらハジメの兄でもあり自分達を邪魔し、ハジメを守ろうとしていたツカサも同罪であった。
(くそ!くそ!どうして白崎まで…!)
「あれは裁きだ………俺は間違ってない……あんな奴、生きてる価値なんてないんだ……!」
あの兄弟がベヒモスを倒したとき、檜山は寒気がした。
無能と蔑まれてきた兄弟が、勇者ですら叶わなかった怪物をたった二人、知恵と工夫と戦いに向かない魔法のみで倒してしまったからだ。
だが、あのアナザーディケイドの襲撃によって結果的にあの二人を奈落に落とせたことは幸運だったかもしれない。あとはショックを受けた香織を慰め、彼女の心が自分に向くように励まし続けるだけ。
光輝に関しても、二大女神のもう一人である雫を選ぶようにそれとなく誘導すればいい。それだけのはずだったのに…
「あんなキモオタ野郎を助ける方が…俺より大事だったのかよ…」
かれこれ数十分は自問自答を繰り返していた檜山だったが、だからこそ彼は気づけなかった。
自分に迫る『悪魔』に………
「やっぱり、君の仕業だったんだね♪異世界最初の殺人がクラスメイトだなんて…どんな感想?」
その悪魔は『4つのアナザーウォッチ』を二つずつ握り締めながら、檜山に声をかけた。
――――――――――
「万翔羽ばたき 天へと至れ! 〝天翔閃〟!」
光輝の放つ曲線状の光の斬撃がベヒモスに直撃する。
以前彼が放った最強技〝神威〟ですら傷一つ与えられなかったが、威力が増していたのか確かなダメージが出ていた。
「いけるぞ!俺達は確実に強くなっている!永山達は左から、檜山達は背後を!メルド団長達は右側から!後衛は魔法準備!上級でダメージを与えてくれ!」
「ほう、迷いなくいい指示を出したな。総員、光輝の指示通りに動け!」
『了解!!』
雫達も認めるのは癪だが、メルドや様々な騎士、それも隊長クラスから戦術について学び続けた光輝の指示は確かに的確だった。
「グウルゥアア!!」
前衛がベヒモスを囲み、一部魔法騎士と鈴や治癒師の辻綾子などの魔法特化メンバーは後衛として魔法の詠唱を始める。
「邪魔はさせねえ!永山、合わせてくれ!」
「任せろ、坂上!」
龍太郎と永山。召喚組きってのパワーファイターコンビがスクラムを組むようにベヒモスに組み付き、抑え込む。
「「猛り地を割る力をここに!〝剛力〟!」」
身体能力のうち、特に膂力を強化する身体強化系統の魔法でベヒモスを完全に抑え、受け止めきる。
「ガァアアアア!!」
「らぁああ!」
「うぉおおお!!」
3人の叫び声が響く中、龍太郎は動き出そうとした人物に叫ぶ。
「雫ううううう!ぶった斬れええ!」
その言葉に頷き、雫は剣を抜刀して居合いの構えを取り、ベヒモスとの間合いを詰めて…
「全てを切り裂く至上の一閃〝絶断〟!!」
切れ味を高める魔法と彼女自身の技術、力量。
その全てがベヒモスの角を捉えるが、その刀身は半分食い込む程度で止まってしまう。
「そんな…!」
―――――――――――
(まだ…届かないっていうの!?これだけ準備しても、私の剣じゃ…)
ベヒモスは確かに強敵だ。
だが、あの兄弟はたった2人でこの怪物に勝利してみせた。
(こいつに勝てないなら…私達はツカサ達を探すだけの力すら無いことになる…!)
彼らのように知恵や工夫で戦うことが雫達は苦手だ。どうしてもこの世界で与えられた強い力に頼ってしまいがちになってしまうためである。
(だけど…俺達にはこんな戦い方しかねえんだよ!)
負けたくない。その思いが雫だけでなく龍太郎の心にまで火を灯した。
「「………こんなところで、立ち止まってられるか!!!」」
その瞬間、2人のポケットに収納されていたライドウォッチが輝く。
「うおおおおおおお!!吹っ飛べええええ!!!」
龍太郎の気合の入った叫び声とともに振り抜かれた拳はベヒモスを吹き飛ばし、その光景に隣の永山だけでなく雫以外全員が唖然とする。
「雫!トドメは俺たちで!」
「ええ!しくじらないでよね!」
30メートルは吹き飛ばされたベヒモスに対して走り出す龍太郎と雫は後ろにいる光輝達の死角になる真正面でライドウォッチのリング『ウェイクベゼル』を回転させ、ウォッチを起動。
《GEIZ!》《GAIM!》
その瞬間、龍太郎の体に赤いオーラが、雫の体にオレンジ色のオーラが纏われ、2人は体が軽くなるのを感じ取った。
「まず…一発!」
雫が振り抜いた剣。
オレンジ色のオーラを纏った剣はいとも容易くベヒモスの角を切断し、果汁のようなエフェクトが発生。
「龍太郎!」
「おう!」
龍太郎はベヒモスの尻尾を掴み、ジャイアントスイングでベヒモスを再び先程まで戦っていた場所に投げ飛ばす。
「っと!少し借りるぜ!」
「え?ああっ!?」
すかさず龍太郎は騎士の一人から彼の武器である『ハルバード』を借り受け、それを使ってベヒモスの顎に強烈な一撃を放つ。
「でええええい!!」
真っ赤なオーラを宿したハルバードがベヒモスをかち上げ、二人はトドメを刺すべく動く。
「これで…」
「終わりだ!」
ジャンプした龍太郎は空中で飛び蹴りの体勢になり、雫はより強いオーラを纏わせた剣を横に構えて…
「ウウウルゥアアアア!!」
「セイッハアァァ!!」
二人の技が直撃し、ベヒモスは派手に錐揉み回転しながら壁に衝突。
そのまま、ベヒモスの意識が戻ることはなかった………
――――――――――
「ふう…」
「おっと…結構体力使うな、これ…」
雫と龍太郎が起動させたライドウォッチは力の供給を止めており、二人はウォッチのウェイクベゼルを元の位置に戻していた。
「すごいよ、シズシズ!龍太郎君!今のコンビネーション、息ピッタリ!」
ウォッチをポケットにしまった雫達に鈴が話しかけてくる。
「おう!…だけど、ここから先はさらに面倒になりそうだな」
今のところマッピングされているのはこの65層まで。すなわちハジメ達が落ちていったこの先はマッピングしながら進む必要がある。当然ながら敵の情報なども一切無い未開の地となっている。
「…でもここで止まるわけには行かない」
この先に待つ仲間を救い出す。それはこの場にいる全員の想い。
…尤も、『3人全員』を救い出すと決意しているのは僅か3人なのだが。
「よし!ここから先は俺「俺達でさっさと進むぞ!この先からは警戒することを忘れんな!」………龍太郎…」
光輝が指示を出そうとするが、龍太郎が力強く全員を鼓舞するのであった…
―――――――――――
一方、ハジメ一行はというと………
「………あの~…ユエさん?」
「……………ぷいっ」
ハジメが声をかけても完全に無視し、目を合わせまいと香織の胸に顔を埋めてコアラのように彼女から離れないユエがいた。
「ハジメ君…私思うんだ。いくら何でも、乙女心を理解しようとする向上心だけは奈落で捨てちゃダメなんじゃないかって…」
「白崎に同意だ…仕方ないとはいえ、あれは兄としてショックだよマジで…こういう時こそ俺や白崎を頼ればいいものを…」
「う………ホントごめん…」
時間は、少し前に遡る。
ユエと出会い、探索を再開したハジメ達は森のような光景の広がる階層で恐竜のような魔物の群れに襲撃を受けた。
その中でハジメ達が疑問を抱いたのは魔物達の頭にくっついていた一輪の花。そのあまりにも不釣合いな花はどうやら恐竜の魔物に寄生していたらしく、ハジメは恐竜達の動きから本体の花の位置を特定。
すぐさま本体の魔物と相対するが、ここでユエとハジメ達の大きな違いが顕になってしまった。
敵が花を寄生させるべくばら撒いた胞子に対し、ハジメ達3人は魔物肉を食べ続けたことで得られた毒耐性で無力化できた。
しかし、これまでユエは魔物の肉ではなくハジメの血液を飲むことで食欲を満たしており、彼ら同様に毒耐性を得ていたわけではない。
そのため、ユエのみ魔物に寄生されて操られてしまい、ハジメ達に攻撃を仕掛けてくるようになった。
「ハジメ………お願い…」
体の自由がきかず、ハジメ達に攻撃してしまうことへの悔しさと罪悪感を抱いたユエは叫んだ。
「お願い…撃って!!」
「ユエ…私達がどうにかするかr」
「え?いいのか?助かるわ!」
軽かった。それはもう想像以上に軽かった。
ドパンッ!と炸裂音が聞こえると、ユエの頭上にあった魔物の顔がドンナーの弾丸によって破裂。
結果的に魔物は倒せたものの、弾丸の衝撃波でユエの頭皮が一部『ジョインッ!』という奇怪な音と共に削れてしまい、彼女の乙女心までも流れ弾をくらう結果となってしまったのは言うまでもない。
その結果、ユエは本気で怒っており現在も香織の胸に顔を埋めたままハジメを見向きもしない状態が続いていた。
「大体、こういう時こそ俺達に頼ればいいのに勝手に動きやがって…ユエのことはお前がどうにかしろよ」
「おう…」
ツカサにこってり絞られ反省したハジメはまずいつものコミュニケーションを取ろうと行動する。
「えっと…ユエ?そろそろ飯にするけど、お前は俺の血飲まなくてもいいのか?」
「…いらない。今日は香織から飲む」
いつの間にかターゲットにされていた香織が驚くが、ユエは香織を押し倒した。
「え、ええ!?ユエ、別にいつもみたいにハジメ君の血でも…」
「……いつもハジメの血ばっかり飲んでたら、ハジメが貧血になる。最初に香織が言ってた…」
「そ、それは…」
最初、ユエが血で栄養を取れると聞いたときに香織はハジメとユエが物理的にくっつくことに妬いて理由をつけてはユエと離そうとしていた。
だが、まさかここにきてこれまでの行動が裏目に出るとは流石に予想していなかったようである。
「大丈夫…天井の石を数えてる間に終わるから…」
「それって普通シミじゃないかな!?え?待ってユエ!ユ―――」
その後、香織はユエによって『美味しく頂かれた』。
途中聞こえてくる艶かしい悲鳴に、ハジメ達が気まずそうにしていたのは余談である…
次回、ありふれた職業と最強兄弟
第18話 決戦、奈落の最深部