とりあえず言いたいのは、今作は香織さん推しということです。
勿論、他のヒロイン達を蔑ろにするつもりはありませんが…
感想、評価が励みになるのでいつでも待ってます!
月曜日。それは世の学生や社会人にとって憂鬱に感じることの多い日である。
「ふあ~あ…眠い…」
「お疲れさんだな、ハジメ。流石に休み潰してまでのバイトは無茶だったんじゃねえか?」
眠気が拭いきれずあくびをするハジメの横を歩いているのは双子の兄、『南雲ツカサ』。
「しょうがないよ。まさか納品間際のプログラムにバグが出たなんて事態は父さん達にとっても予想外だったんだし、会社の人達だけじゃ手が回らなかったんだから」
ハジメの家は少々特殊で、父親はゲームクリエイター。母親は売れっ子の少女漫画家。
そんな家で暮らしていたハジメもツカサもこの手の技術に関しては高校生としての範疇を超えた技能を持っており、時折父の会社での助っ人や母のアシスタントとしても活動を行っている。
「でもまあ、こんな事はもう暫くは無いと思いたいけど…はぁ」
最後に小さくため息をつくハジメを見て、ツカサは彼の悩みを察した。
そして教室に入ってきたとたん、教室中の男子生徒からの敵意の籠った視線がハジメ達に向けられる。
(ったく。毎日毎日ご苦労なこったな)
視線の意味を知るツカサは小さなため息をつき、ハジメはこの視線を受けて既に大きなダメージを精神的に受けていた。
そんな2人に歩み寄ってきたのは1人の少女。
「おはよう、ハジメ君、ツカサ君。またギリギリだから、もっと早く来たほうがいいよ?」
白崎香織。この学校でも人気の高い美少女クラスメイトで、ある理由からハジメに毎日話しかけてくる少女。
ゲームオタクであるハジメが香織と仲良くなっている。それがクラスメイト達からの敵意の視線の正体である。
「お、おはよう…白崎さん」
「おはよう白崎…そうは言っても、俺が置いていったらハジメが遅刻するのはほぼ確定だったからな…」
「兄さん…まあ否定できないけどさ…」
ほぼ徹夜でプログラミングを行っていたハジメのことだ。もしツカサが声をかけずに学校に行っていたら寝坊して確実に遅刻は免れなかった。
「もしかして、またゲームで夜更かししたの?」
「ううん…父さんの会社でのアルバイト…結局終わってからそんな経ってないし…」
談笑をするハジメと香織を見て、机にカバンを置くツカサ。
「おはよう、ツカサ君。ハジメ君も大変そうね」
ハジメ達のやり取りを眺めていたツカサは声をかけられ、そちらの方向を振り向く。
「ああ、おはようさん八重樫。あとついでに坂上と天之河」
ツカサに声をかけてきたのは香織の幼馴染である剣道少女『八重樫雫』。ポニーテールにした長い黒髪が特徴でかわいい系の香織とは正反対の凛々しいというべきタイプの少女。
「おいおい、俺と光輝はついでかよ…」
ぞんざいな扱いに不服そうな表情を浮かべた長身の男『坂上龍太郎』。悪い奴ではないのだが、努力や根性といった言葉が好きな熱血漢である彼にとって、ハジメやツカサの態度は気に入らないらしく眠そうにしていたハジメを鼻で笑い、興味を失ったのか無視している。
「全く、香織はまた南雲の世話を焼いているのか?本当、君は優しいんだね」
このいかにもな言葉を告げた少年は『天之河光輝』。名前の時点で勇者っぽい彼はまさに『現代の勇者』と呼ばれるような男。
容姿端麗、文武両道の完璧超人で、彼の欠点と言えるのが『境目のない優しさ』と『一方的な正義感』である。
そのせいでフォローに回る雫がストレスを蓄積しているのは内緒だ。
「おはよう、八重樫さん、天之河君、坂上君。まあ、これも自分で選んだ道だからね」
雫達に挨拶をするハジメだが、その途端より視線が強くなる。
「それが分かっているのなら生活態度を改めるべきじゃないのか?学生としての本分を無視してまでのアルバイトは感心しないぞ。そんなことでいつまでも香織の優しさに甘えていいはずがないんだから」
光輝の言葉にハジメは面倒なことになったと思いつつ、反論はしなかった。
今の光輝にとってハジメは『幼馴染である香織の親切を無下にし、勉強を疎かにしている不真面目な生徒』として映っているようだ。
「ったく。相変わらず自分のご都合解釈を垂れ流すな、天之河は」
そんな光輝に対して物怖じせず真っ向から言い返してきたのはツカサ。
「単なる親切心で白崎がここまでするとは思えないが?それに…こいつの行っている『バイト』も将来設計のために必要なものだ」
愛用のトイカメラを掃除していたツカサは光輝の前に立つ。
「…ツカサ。僕はただ君の弟の態度を直したほうがいいと教えているだけだ。いつまでも香織に甘えてばかりでは、ハジメはずっと香織の優しさに依存してしまうかもと…」
「言っておくが!こいつは自分の得意分野での技能を磨いている。その結果将来的に食っていくにも困らないだけのスキルはもう持っているんだよ。だから…お前の考えは既に見当違いってわけだ」
家族思いのツカサにとって実の弟のことを侮辱するのは絶対に許せないことだった。
「何も知らないなら余計な口出しをするな…じゃあな」
そう言うとチャイムが鳴り、生徒達は急いで授業の準備をする。
南雲ツカサ。彼にとって一番大切なのは『家族』と『友人』であり、それらをどんな理由があれど貶されたりすることは例え誰であろうと許せなかった…
――――――――――
時が過ぎて昼休み。ハジメは授業が終わったと同時に目を覚まし、背伸びをする。
「ハジメ。ほれ、お前の分の弁当」
ツカサが持っていたのはハジメの分の弁当。
「ありがとう、兄さん。じゃあこれを…」
ハジメは小さなタッパーを取り出し、ツカサに渡す。
すると、香織が弁当を持ってこちらに歩いてくる。
「ねえ2人とも。よかったらお弁当一緒にどうかな?」
再び教室内の空気が重くなったが、誰もがツカサを警戒して直接手を出そうとはしない。
「別にいいぜ?ハジメも、白崎にアレ渡してみたらどうだ?」
『アレ』とは、ハジメの持ってきたタッパーの中に入っている『ハジメの手作り杏仁豆腐』である。
昔、まだ幼かった頃は両親の仕事が遅くなっていた時は時計屋を経営している叔父のもとに遊びに行くことの多かったハジメとツカサ。
高校生になっても叔父との交流が多かったハジメとツカサはいつしか料理においてもプロ並みの腕前を持つ叔父から習うことが多くなり、料理のスキルを磨いていた。
ちなみに料理全般が得意なツカサだが、ハジメのスイーツ作りの腕前には一歩劣るらしい。
和やかな雰囲気になるハジメ達だが…
「香織。君はこっちで食べよう。ツカサとハジメはまだ眠そうだし、せっかく香織が作った手料理を寝ぼけたまま食べるなんて僕が許さないよ?」
相も変わらず爽やかな笑顔で語る光輝。
「え?どうして光輝君の許しがいるの?」
素で返され、光輝は思わず引き攣る。
その見事な返しに光輝の後ろにいた雫や龍太郎までもが吹き出し、ツカサが呆れ顔でため息をついた瞬間…
教室の足元に白銀に輝く幾何学模様が浮かび、巨大な魔法陣を形成した。
「な…なんだこれは!?」
「魔法陣!?どうして…」
瞬く間に教室に広がる魔法陣。
全員が驚く中、魔法陣が輝き…
光が消えた頃、教室には誰もいなかった。
弁当や椅子、机などはまるで先程まで誰かがいたかのような痕跡を残していたが、いるべきはずの人だけがその姿を消していた。
後にこの事件は世間を騒がせる集団神隠し事件として広まることとなる…
次回、ありふれた職業と最強兄弟
第2話 『神による召喚』