近頃は移動規制が解除され、人の動きが多くなりましたが感染予防を心掛けて生活していきたいと思っています。
感想、評価をいつでもお待ちしています!
『この本によれば、『元』普通の高校生南雲ハジメ。彼には魔王にして時の王者『オーマジオウ』となる未来が待っていた』
『オルクス大迷宮を脱出し、ライセン大峡谷にたどり着いた我が魔王達はそこでカブトライドウォッチを所持した兎人族の少女『シア・ハウリア』とジオウウォッチに酷似した謎のライドウォッチを持つ少女『クロハネ』と出会い、ウォッチの譲渡及びハルツィナ樹海の案内を条件として彼女達の種族を助けるべく契約を結んだ』
『その中で我が魔王達はハウリアを狙う帝国兵を抹殺。しかしこの時彼らの行動があるメンバーの心に暗い影を…』
「おっと失礼。ここから先はまだ皆さんには未来の出来事…でしたね」
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大峡谷を抜け、ハルツィナ樹海目指し進む複数の荷馬車。
乗り切れなかった数人の兎人族は護衛が乗っていた馬に乗りながら移動することで全員が無事に移動できるようだ。
「…ハジメ。さっきはどうして纏雷を使わずに戦ったの?」
「ん?ああ…ちょっとした実験だよ」
馬車の先頭にいたユエは一緒にいたハジメに問い、ハジメはドンナーを取り出し、眺める。
「電磁加速は確かに強力だけど、街中で使えば無駄に被害を増やしかねない…敵だけ倒そうとして、うっかり後ろの民家や一般人まで消し飛ばしたとか、笑えないからな」
「そっか…でも、どうしてハジメ君とツカサ君だけで戦ったりしたの?確かに人を殺すのは怖かったけど、ハジメ君を守るためなら…」
「それは…俺自身ある程度確認したくてさ」
香織の言葉にハジメが返す。
「奈落の底で相手を殺す決心はついてても、実際手にかけたのは今までなかった。だから実際に殺して、俺自身どんな感情が浮かぶのかを確認しておきたかった」
理不尽に抗う決意をし、自分の手を血に染める覚悟は出来たと思っていても実際に揺らいでしまえば仲間達を危険にさらすかもしれない。だからこそハジメは自分が人を殺しても揺らがないのかを確認したかったのだ。
「…ま、特に何も感じなかったよ。殺したことへの恐怖も、罪の意識も何もない…トータスに来る前の俺と今の俺が別人なんじゃないかって思ってるくらいさ」
「ハジメ君…」
そんなハジメの言葉を聞いて香織は悲しそうな顔になり、ハジメの右腕に抱きつく。
「でも、これでよかったと思ってるよ。誰が邪魔してこようと、俺はお前達を守るためならいくらでも戦える…躊躇いなんて抱えずに済むってな」
優しさこそある程度残っているが、ハジメの心が大きく変貌したのは紛れもない事実。もし自分が横にいなかったら…もしツカサと離れ離れになっていたら…恐らくハジメの精神はもっと荒んでいてもおかしくなかったかもしれない。自分たちのことも忘れて、孤独に戦っていたのかもしれない。そう思うと香織は急に恐ろしく感じた。
これから先、ハジメと一緒にいるということは綺麗事だけで生きていけるほど甘くはない。誰かの命を救うだけでなく、奪うことも要求されるだろう…
(それでも…ハジメ君やツカサ君、ユエを守れるなら…やっとここまできてハジメ君の『大切』になれたもの。この居場所を守るためなら…)
それでも、香織の胸の奥に残る不安は拭いきれなかった…
――――――――――
「あの…少しよろしいでしょうか?」
ふと、シアがハジメ達に話しかけてきた。
「ハジメさん達のこと、もっと教えてくれませんか?」
「旅の目的とか、今までのこととか…少し、気になりまして」
シアとクロハネはハジメ達に対して興味を抱いていた。
なにせ、自分達同様に魔力操作なんて技能を持っている上、圧倒的なまでの強さを得ている。
彼らの旅の目的や過去に大きく興味を抱いていた。
「う…うぐっ…」
「シア…泣きすぎですよ」
ハジメ達の壮絶な戦いを聞いたシアは泣きじゃくり、クロハネが背中をさすっていた。
「まだ父さま達が一緒にいてくれた私は恵まれてましたよ…」
シアが泣き続け、香織が困ったような表情でハンカチを渡すとシアはすぐに涙と鼻水を拭う。
「ハジメさん!私決めましたよ!このシア・ハウリアとクロハネさんがハジメさん達の力になります!旅に同行させてください!」
「断る」
「はい!ありがとうござ………はい?」
まっすぐな眼で宣言するが、秒速で断られポカンとするシア。
「な、何でですか!?私の未来視だってあれば絶対に役に立ちますよ!大体ウォッチだって持ってますし!」
「別に意地悪で言ってるんじゃねえよ。俺達の旅先は残る6つの大迷宮攻略と、この世界では異端扱いのライドウォッチ回収だ。オルクスより難易度は多少下がるが他の迷宮もこの世界の一般や一般をちょい超えてる程度じゃ死ぬし、そもそも入口である峡谷の魔物相手に戦う術を持たないお前達じゃすぐに死ぬ」
ハジメの正論にシアは肩を落とす。
「お前らのことだ。どうせ今回の件が終わったらハウリアから離れるつもりだったんだろ?お前もクロハネも異端の力を持ってるし」
クロハネの反応を見る限り正解らしい。
ハウリアが安全に過ごせる場所を見つけたのなら、すぐにシア達は危険から家族を遠ざけるべく旅に出るつもりだった。
「お前達2人なら十分やっていけるよ。少なくとも俺達のように自分から危険に喧嘩売るような奴とつるむよりはな」
シアのように目立つ兎人族一人ならともかく、しっかりしてそうな上腕っ節もそれなりにありそうなクロハネもいるのならなんとかやっていけるかもしれないとハジメは何となくだが思っていた…
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移動から数時間後。ハジメ達はハルツィナ樹海の入口に到着した。
「では行き先は森の深部…『大樹ウーア・アルト』でよろしいのですな?」
「ああ…俺の考えが当たっていればそこが樹海の大迷宮の入口になっているはずだ」
樹海ではなく、その深部に入口があると推理したハジメにユエが疑問を抱く。
「…樹海が迷宮じゃないの?」
「最初はそう思ってたが…よく考えるとそれはありえないんだよ」
もし樹海が迷宮ならば、オルクス大迷宮のような『試練』として迷宮が存在するはず。
だが亜人族が普通に生活できているということは、この樹海は解放者達の試練が存在しない場所ということだろう。
一部の種族のみが平和に過ごせるような試練など、あるはずがないのだから。
「もしこの樹海に迷宮があるのなら、この天然の迷路のさらに奥底…奈落のように簡単にはたどり着けないだろうしな」
そう考えたハジメ達のうち、ツカサが直接カムに尋ねたところ可能性が高い場所として大樹のことを話した。
曰く、聖地として崇められている大樹に近づくものは少ないからだという。
「お話のところ申し訳ございません…これより先は気配をできる限り消してもらっても良いかな?我々は一応お尋ねの身でありまして…フェアベルゲンの者に見つかると厄介ですから」
「ああわかった。俺達も気配を消す技術はある」
そう言うとハジメ、ツカサ、香織は奈落で手に入れた気配遮断の技能を使い、ユエも同じように発動させる。
「なっ…!その…できればユエ殿と同じくらいまでに留めてもらえませんでしょうか…流石にこのレベルだと我々の方が見失いかねません」
戦闘力に乏しい兎人族だが、隠密能力や索敵能力は亜人族でもトップ。
しかしハジメ達のように常識はずれのレベルには流石に対応が難しかったようだ。
「いやはや、全く兎人族として立つ瀬がありませんな…」
「いや…カム。どうやら逃げも隠れもする必要はなくなったらしい」
樹海を歩く中、ハジメ達はそれぞれの武器に手をかけて周囲を警戒。
すぐにハウリア達もその『気配』を掴んだ。
「そんな馬鹿な…つけられていたのか!?」
「違う…どうやら運悪く顔を合わせちまったらしいぜ」
あっという間に周囲を囲まれ、ハジメ達の前に姿を現したのは…
「動くな!キサマら、何故人間とともにいる!?」
筋骨隆々な肉体に虎模様の耳と尻尾をつけた亜人…『虎人族』だった。
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「あれは…そうか。ジオウとディケイドがこの地に…」
樹海の中でハジメ達を観察する1人の影。
それはハイリヒ王国のギルドでロージオ達と一緒にいた熊人族の大男だった。
「なら、俺は為すべきことを為すまで」
大男…タイムジャッカーの『デュール』は気配を完全に遮断し、持っていたアナザーウォッチを起動させた。
『カブトォ…!』
次回、ありふれた職業と最強兄弟
第4話 交渉、ハウリアの運命