ありふれた職業と最強兄弟   作:狼牙竜

39 / 53
お待たせしました、第11話です!

仮面ライダーゼロワン、またもや新形態『ヘルライジングホッパー』が発表されましたが…かっこよすぎた!

今回は書く事が多く、文字数もかなりのものになりました…

感想、評価が作者の力となります!



第11話 烈火探索2017

『この本によれば…『元』普通の錬成師、南雲ハジメ。彼には魔王にして時の王者『オーマジオウ』となる未来が待っていた』

 

『第2の迷宮、ライセン大迷宮を攻略すべく進む我が魔王達ですが、どうやらミレディ・ライセンの罠の数々に神経をすり減らしている模様ですね…』

 

『おや?どうやらハイリヒ王国のほうでも新たな動きが見えます…では、まずそちらからご覧下さい』

 

 

――――――――――

 

 

 

ハイリヒ王国の王宮の一角には、召喚された『神の使徒』のために用意された食堂兼サロンがあった。

生徒達一人一人に専属のメイドが属しており、生徒が視線を彷徨わせればそれだけで要望があると判断し、食べ物などを頼めばすぐにでも準備をしてくれるのだ。

 

 

現在ここに集まっているのは『あの日』以来心が折れて最前線に立てなくなった者が集まっている。

 

『夢と魔法のファンタジー』などという言葉では表現できないほど生々しい残酷な世界。命を奪いかねない危険な罠に、一切の容赦がない魔物からの殺意と、異世界チート能力など無意味なほど強い怪物による圧倒的な力。

それによって3人の生徒が奈落の底に落ちて死亡し、そのうちの1人はクラスでもかなり慕われていた少女。

オルクス大迷宮で目の当たりにした現実は、それほどまでに大きかった。

 

 

当然ながら王国や教会は彼らが戦えるようにとあの手この手で生徒達を再び前線に立たせようとしており、それが彼らにとって大きな重圧や不安となっていた。

 

『もしここで断れば、自分達は彼らの援助を受けられず捨てられるのでは?』

 

そんな考えが生徒達に過ぎったが、王国や教会から生徒達を守るために立ち上がった人物がいたのである。

 

それこそ、彼らにとっての保護者である畑山愛子先生。

生徒達を守れず、3人が死んだことにショックを受けた愛子だったが毅然とした態度と大人としての立ち振る舞い、そしてこの世界に来て覚醒した己の希少な才能すらも交渉材料にし、戦えない生徒達が帰還できるまで国が面倒を見るようにと交渉。見事に要求を呑ませることに成功したのだ。

 

 

そして、戦いを急かされることのなくなった生徒達は今日もサロンに集まり、一日を会話しながら過ごしていた。

 

「なあ聞いたか?天之河達、大迷宮の70層に到達したらしいぞ?」

「マジで?こないだまだ66層だったじゃんか」

「流石は勇者様ってか?俺達凡人とは元から違うからな」

 

肩をすくめてそんなことを言った生徒…大迷宮でかつて仮面ライダーウォズに救われた玉井淳史は何とも言えない複雑な顔をしていた。

 

強い勇者への羨望か、それとも今もなお戦い続ける光輝達への劣等感か…

それでも彼らが動けないのは、あの日の恐怖が今でも頭の中に残っているから。

特に玉井は敵…アナザーディケイドの力によって不思議な空間に閉じ込められた。

記憶こそ残っていないが、それでも何かをされたのではという恐怖が僅かに残っている。

 

「そうだよね、やっぱり雫っちとかああいう特別なメンバーじゃないとねぇ…」

 

女子達も集まって雑談をするが、ただただ虚しい会話が続いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…八重樫だって普通のクラスメイトじゃねえかよ。一部に責任を押し付けてるだけだってのに」

 

そんな言葉が聞こえ、玉井達が振り返る。

 

そこにいたのはアーティファクトの杖を持った清水幸利。

どうやら日課であるトレーニングを終えて王宮に戻ってきたようで、後ろには一緒に行動していた宮崎奈々もいた。

 

「…何だよ清水。お前、文句でもあるのか?」

「…いや。ふと思ったことが出ちまった。悪いな…気分を悪くさせたんなら謝る」

 

その言葉に玉井が激昂し、清水に掴みかかる。

 

「テメェなあ…最近結果出して騎士の人達に認められてるからって調子乗るんじゃねえぞ!」

 

慌てて玉井を止めようと友人である仁村と相川が間に入ろうとするが、清水は一切視線を逸らさない。

 

「…別に、気に入られたくてやってるんじゃねえよ。大人しく引き篭ってたところで地球に帰れる保証なんてない…だったら、今やれることをやるしかねえだろ」

 

その言葉に全員が言葉を失う。

玉井が手を離し、清水は落とした杖を拾う。

 

「…ま、正直怖いってのもわかるしな。別に無理して戦えって言ってるわけじゃないし、むしろ怖いのが当たり前…大迷宮に潜っていられるのは八重樫や坂上みたいに戦う理由が持てたやつか、天之河みたいに使命感で戦う…あとはそいつにただついて行った奴…俺たちからみりゃ向こうがおかしいのかもしれない」

 

「…だったら、お前はどうしてこんなに訓練してんだ?しかも一人で…」

 

仁村の言葉に清水は杖を強く握って答える。

 

「無駄にしたくない………それが理由だ」

 

清水の言葉に、その場にいた一人の生徒が反応する。

 

 

「周りから『無能』だの『役立たず』だの散々なこと言われても…あの兄弟は勇者ですら勝てなかった魔物を倒せたんだよ。なのにここでいつまでも怯えて…逃げて…引き篭って…俺からしたら、そんな時間をこれ以上送り続けることはあいつらに対して一番の冒涜だと思ってる。あいつらの戦いを…『無駄にしたくない』。それが怖くても戦おうって思えた理由だ」

 

静寂に包まれるサロン。その中でずっと喋らなかった生徒…園部優花が口を開く。

 

「無駄にしたくない…か」

 

あの日、トラウムソルジャーに襲われたときツカサとハジメが自分の命を助けてくれたことを思い出す。

 

ぶっきらぼうだけど、誰よりも家族思いで優しかったツカサ。

弱くても戦う方法を編み出し、勇気を持って強大な敵に挑んだハジメ。

絶大な力でみんなを助け、癒してくれた香織。

 

あの日、勇者と呼ぶに相応しかったのは彼らだったのではないか?

 

 

 

「………ありがと、清水。お陰でようやく動けるみたい」

 

勢いよく椅子から立ち上がった優花は、清水にある質問をする。

 

「ねえ、愛ちゃん先生の出発って…いつだっけ?」

「…明日の朝だ。俺もついて行くつもりだったけど…お前も?」

 

頷いた優花に、周囲がぎょっとした。

 

「お、おい園部!本気かよ!?」

「本気よ…今から天之河君達と一緒に…なんて難しいけど、せめて私達を守ってくれた先生に恩返しくらいしなきゃ」

 

決意を固めた優花。その目は先程までとは違う、強い眼差しになっていた…

 

 

 

 

――――――――――

 

 

「ん…ここって…」

 

気が付くと、香織は何もない荒野に1人立っていた。

 

 

「っ!そうだ…ハジメ君!ツカサ君!ユエ!シアちゃん!クロハネちゃん!」

 

仲間達の名前を呼ぶ香織だが、周囲には誰ひとりいない。

 

 

…否、遠く離れた場所で何人かの人物が戦っていた。

 

 

「あれって…ハジメ君!?」

 

 

 

 

荒野で複数人のライダーに囲まれていたハジメ。

そんな中でハジメは金色のジクウドライバーに似たベルトを装着し、禍々しい金色のオーラを纏いながら変身した。

 

 

「ハジメ…なっちまったのかよ…オーマジオウに!!」

 

ツカサの変身したディケイドだけでなく、シアンカラーのディケイドにどことなく似たライダーやジクウドライバーを装着したジオウとは異なるライダー。

さらにまだ香織の知らない未知のライダー達が複数人でオーマジオウを取り囲んでいたのだ。

 

「…来るなら来い!もうこの世界にも…未来にも希望なんてない」

 

 

オーマジオウの身体からドス黒いオーラが吹き荒れ、ライダー達に迫り…

 

 

 

―――――――――――

 

 

「ダメエエエエエエ!!」

 

香織は悲鳴を上げ、目を覚ました。

 

「香織!大丈夫か!?」

 

横で寝ていたハジメが声をかけ、他のメンバーも心配そうに見る。

 

「…ごめんね。ちょっと嫌な夢を見てて…もう大丈夫だから」

 

 

嫌な汗を宝物庫から取り出したタオルで拭い、香織は無理にでも笑顔を作る。

 

「…わかった。だが疲れてんなら無理だけはすんな」

 

ハジメの言葉に頷いた香織。

だが、彼女の『悪夢』が今日だけでないことを知っている人物は他にもいたのだ。

 

 

(…大丈夫。絶対、あんな未来訪れたりしない…!)

 

あの姿…あれがジオウの行き着く最悪の未来を表した『オーマジオウ』だとしても、自分がハジメの味方である限りハジメがオーマジオウになるなどありえない。

 

…そう自分に言い聞かせても、香織の心の不安は消えることはなかった。

 

 

―――――――――――

 

ハジメ達がライセン大迷宮に潜ってから1週間。

この迷宮は内部構造が変化するが、その変化にも一定の法則があることを突き止めたハジメはその法則だけでなく、ある程度の基本構造を記憶しながら少しづつではあるが迷宮を進んでいた。

 

その間、謎の液体やらトリモチやら金ダライなどの嫌がらせに強制スタート地点飛ばしなどの妨害に会いながらもついに一同は新しい部屋へと到達した。

 

「…ここは」

「ああ。いかにも…だな」

 

ハジメの言葉にツカサが返す。

無数の甲冑が並べられた部屋の奥にはオルクスの最下層にあった…ヒュドラの間と同じ扉が見えたのだ。

 

「ここを突破すれば、ラスボス戦か」

 

全員が部屋に足を踏み入れると、甲冑が全て動き出してゆっくりと歩いてくる。

 

 

「うう~…やっぱり動き出したですよ~!!」

 

シアは不気味な甲冑に怯えるが、ハジメが振り返らずにシアとクロハネに声をかけた。

 

 

「シア。クロハネ。時間がないから簡潔に伝えるが…お前らは充分強い」

 

その言葉に顔を上げるシアとクロハネ。

 

「うん。もしも大変だったら、いつだって私達が助けるから」

「ん…シア達なら大丈夫」

「そういうことだ…いくぞ!」

 

顔を達の励ましに二人は力強く頷く。

 

「はい…シア!いくよ!」

「ですぅ!このシア・ハウリア…全力で暴れますよ!!」

 

 

 

――――――――――

 

魔力の分解作用が強くなったためツカサ、シア、クロハネが前衛に立って各々の武器でゴーレムと対峙。

 

ハジメと香織は事前に宝物庫ではなくコートの内側に弾丸や他の銃器をしまい込み、手動のリロードを行うことで魔力消費を抑えつつ戦っていた。

 

「囲まれると面倒だ!壁に隣接している間にできる限り破壊しろ!」

 

ツカサの指示に従い、後衛のハジメ達はドンナーやレーゲン・ハイルメタル、ネブラを使い次々と甲冑を破壊。

 

撃ち漏らした分は前衛が破壊しつつ扉をくぐるが…

 

 

 

「はあ!?」

「と、飛んでる!?」

 

クロハネが叫んだとおり、甲冑兵達は空を飛んで攻撃してきたのだ。

 

「ハジメ!こいつらの素材に妙な仕掛けとかは!?」

「いや、ねえ!使われてる鉱石も既知のもんだし、生成魔法で重力を中和したりする仕掛けも見当たらねえ!」

 

ハジメは甲冑兵の装甲の一部を掴んで鑑定をするが、どれもハジメがこれまで見つけた鉱石と変わらないのだ。

 

振り返るハジメだったが、甲冑兵の1体が真っ直ぐにジャンプして砲弾のように突っ込んできた。

 

「っ!こんにゃろう!!」

 

ハジメは開発したアーティファクトの一つ『ソードオフショットガン型アーティファクト・キース』を出現させると内部に装填していた散弾を発射。

散弾によってバラバラになった甲冑兵だが、武器や頭部などが真っ直ぐに向かってくる。

 

「これって…重力を操ってる!?」

 

香織の指摘は的を得ていた。

この甲冑兵達は何者かによって重力を操られ、自在に空を飛んできたのだ。

 

「それだけじゃない…この甲冑兵達、さっきから少しづつ再生してる!」

「ああ…最初に破壊したやつら、もう再生して襲ってきてる!」

 

ハジメも魔眼石で甲冑兵達を見るが、この手の『ゴーレム』にも備わっているはずの魔石がないのだ。

恐らく、これらは重力操作で飛ばしてくる『何者か』によって操作、再生も同時に行われているとハジメは推測。

 

「だったら…纏めて消し飛ばす!香織、オルカンを使う!」

「わ、わかった!みんな耳塞いで!特にシアちゃん!」

 

ハジメが出現させたのは十二連装ミサイル型アーティファクト『オルカン』。

そこから放たれたミサイルが着弾し、あっという間に甲冑兵達を消し炭に変えたが…

 

 

「うっそ…また再生しやがる」

 

何度も何度も再生され、唖然とする一同だったが唐突に石版が出現。

 

 

『残念でした~♪ウォッチの力でこの騎士たちは1体につきそれぞれ『99回』ずつ復活する仕様になってるから、地道に蹴散らしていってね~!ま、それまで体力持つか怪しいだろうけど、ププッ!』

 

よく見ると、倒された甲冑兵の残骸が不思議な『土管』らしきものに取り込まれ、その都度土管から飛び出してくる。

 

「…へえ。ウォッチ使ってこのトラップやってるのなら…これ使っても問題ないな!!」

 

ハジメは全力で挑むため、ジクウドライバーを装着。

 

《ZI-O!》

「変身!」

 

《仮面ライダー!ジオウ!!》

 

ジオウに変身したハジメは、これまで一度たりとも使っていなかったウォッチを起動させる。

 

《CROSS-Z!》

 

オルクス大迷宮でヒュドラを倒した際に入手した『クローズウォッチ』を取り出し、ドライバーに装填する。

 

「これで…どうだ!」

 

《アーマータイム!》

 

ドライバーから出現したアーマーはビルドアーマー同様仮面ライダークローズの形になり、右手の拳を左手で受ける動作をすると分解。

ビルドアーマーと全体的に似ているが、左右非対称だった両肩は小さなドラゴン型メカのようなパーツに変化。

マスクの文字も『ライダー』から『クローズ』に変化し、全身に一瞬青い炎をまとった。

 

《Wake up Burning!クローズ!!》

 

「新しいジオウ…!」

「名付けるなら…クローズアーマーか」

 

ジオウ・クローズアーマーは握った右手を左手で受け止めて『パァン!』と鳴らす。

 

「今の俺達は…負ける気なんざしねえぞ!」

 

 

両手に炎を纏ったジオウは次々と甲冑兵を殴って粉砕し、コンティニューをする傍からどんどん破壊していく。

 

「俺たちも行くぞ!変身!」

 

ツカサもディケイドに変身し、香織はキースとレーゲン・ハイルメタルを駆使して銃撃。

シアとクロハネが前衛に立ち、ユエがネブラや初級魔法で援護をしていく。

 

(いけます!これならハジメさん達と…)

(一緒に、戦える…!)

 

シアはドリュッケンのバーニアを点火して加速、カブトのクロックアップには程遠いものの慣れた高速戦闘で甲冑兵を破壊。

クロハネは身体強化を使い、バスターモードにしたフランメとアイズで力任せに甲冑兵を粉砕。

 

 

だが、その背後に甲冑兵が迫り…

 

 

「っ!クロハネ!」

「シア!」

 

ジオウは宝物庫から『爆裂盾』と名付けた小型シールドをクロハネと甲冑兵の前に投げつけ、甲冑兵の振るった剣が盾に命中した瞬間、縦の表面が爆発を起こし甲冑兵を粉々にする。

ユエも宝物庫から出現させた金属型の大きな水筒を二つ持ち、そこから放った水を媒介に水魔法を使うことで魔力消費を抑えながら攻撃。

 

 

すぐさまジオウがクロハネを救出し、ボレーキックで甲冑兵を打ち砕く。

 

「クロハネ、心を落ち着けろ!テンションが高くなりすぎて冷静さを失うなよ!」

「は、はい…ありがとうございます」

 

少しばかり浮かれていた自分を恥じたのか、クロハネの頬が赤くなる。

 

 

 

「残りも少ない…なら、一気に決めるぞ!」

 

ジオウはジクウドライバーのジオウウォッチを押して必殺技の準備をする。

 

《フィニッシュタイム!》

 

「俺も…」

《FINAL ATTACK RIDE…DE・DE・DE・DECADE!》

 

ディケイドも必殺カードを装填し、香織はキースからシュラーゲンに武器を交換。

ユエはばら撒いた水で再び魔法を行使し、シアはドリュッケンを砲撃モードに変形、クロハネは二本の剣を交差させ、魔力を剣にコーティング。

 

 

《ドラゴニック!タイムブレーク!》

 

「うおりゃああああああ!!!」

 

ジオウは青い炎のドラゴンを纏って走り、必殺のキックで次々と甲冑兵を破壊。

ディケイドはライドブッカーをガンモードにして巨大ホロカードめがけて射撃し、極太の光線が甲冑兵を飲み込む。

シュラーゲンの弾丸が纏めて複数のターゲットを貫通し、ユエのウォーターカッターが敵を切断。

最後にドリュッケンのスラッグ弾とフランメ、アイズの熱と氷を纏った斬撃により甲冑兵達は跡形もなく消えた…

 

 

 

――――――――――

 

 

 

「…どうやら、ここで最後らしいな」

 

 

甲冑兵達を殲滅したジオウはクローズアーマーの負担が大きかったのか、次の部屋に来るなりクローズウォッチを外して変身を解く。

 

次に彼らが訪れたのは、空中に足場の浮いた不思議な空間だった。

 

 

「足場が…浮いてる?」

「ですね、なんか妙な…っ!?」

 

シアは何かに気づくとクロハネにアイコンタクトを送り、クロハネもシアが何を言いたいのか理解した。

咄嗟にシアはツカサとユエを、クロハネはハジメと香織を抱えるとその場からジャンプし、一瞬のうちに彼らの立っていた場所には無数のブロックが降り注いた。

 

 

「な…!?」

「未来視が自動発動したんですけど…かなり危なかったです…」

 

もしシアがいなければ自分達は不意打ちをくらっていただろうことは想像でき、冷や汗が流れる一同。

 

気を引き締めたハジメ達だったが、突如その前に巨大なゴーレムが出現した。

 

 

「でやがった…」

「いかにも『ラスボス』って感じだな…」

 

ハジメ達が警戒する中で…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっほー!はじめまして、みんな大好き、ミレディ・ライセンちゃんだよ~!」

 

そのゴツイ外見とはイメージが結びつかないキャピキャピした少女の声で話しかけてきた。

 

 

「!?」

 

そのギャップに戸惑うハジメ達の反応が気に入らないのか、不貞腐れるような反応をするミレディ。

 

「どうしたの、返事がないよ?挨拶されたら返すのが礼儀なんじゃないかな~?全く、最近の若者は常識も知らないのかい?」

 

「…おい。ミレディ・ライセンは既に死んでいるはずじゃないのか?」

 

ハジメが真っ先に疑問を持ったのはそこ。

オスカーの手記やアルフレリックの話からして、解放者達が敗北して大迷宮が作られたのはそれこそ数百年を越えるレベルで昔の話。

大迷宮のうち半数以上の情報が残らないほど長い時間が過ぎているのに、単なる人間族だったミレディが現代でも生きているなど、普通はありえないのだ。

 

「既に死んでいるはずのミレディを名乗る、自我を持つゴーレム…普通ならありえないと切り捨てられるが、考えられる可能性は二つ」

 

ハジメは指を二本出して語る。

 

「一つは、ミレディが創り出した人工知能に近い存在…いわば分身としての意識をゴーレムに焼き付けた。人間の精神に干渉できる可能性が魔法にあるんだし、生成魔法を使えばそれも不可能じゃないからな」

 

「ふ~ん…で、もう一つは何かな?」

 

ミレディの挑発めいた口調に乗せられることなく、ハジメは続けた。

 

「もう一つは、『ミレディ・ライセン本人の人格をゴーレムに移した』。オスカーの手記にいたんだよ…人間の魂に干渉できるメンバー、『ラウス・バーン』ってのがな」

 

ミレディ・ゴーレムが黙り、ハジメは仮説を話す。

 

「俺としてはこちらの説のほうが有力だと思ってる。本人の魂をそのまま別の体に移せば、魔法だって普通に行使できるし寿命による肉体の老化が引き起こす死を回避して…擬似的だが不老不死にだってなれるんだしな」

 

 

ハジメの言葉を聞いたミレディはやがてしゃべりだした。

 

 

「う~ん…大正解!いや~、まさかこの時点で解かれるなんて思ってなかったよ~!」

 

頷いたミレディ・ゴーレムは改めて説明する。

 

「その通り、私は正真正銘、ミレディ・ライセンだよ!ゴーレムの不思議は神代魔法によって全て解決!ってね」

「やっぱり、魂に干渉する魔法が神代魔法なら可能だったんですね…」

 

香織はクラスメイトだった中村恵里の存在を思い出した。

彼女の使う『降霊術』は死者の残留思念を呼び起こして操る代物だったが、この世界の魔法は全て神代魔法の下位互換。

すなわちそれ以上のことができても不思議ではないのだ。

 

 

「じゃあ、今度はミレディちゃんからの質問だけど………君達はなぜここに来たの?何故神代魔法を求める?」

 

急に冷静な口調になって驚くハジメ達だったが、嘘偽りは許さないと言わんばかりのミレディに語る。

 

 

「…俺達の目標は二つ。故郷である別世界への帰還と………この世界を支配する神を騙る敵を滅ぼすことだ」

「私達は別の世界からエヒトの手によってこのトータスに連れてこられました…エヒトは今外の世界で続く、人間族と魔人族の戦争遊戯をさらに盛り上げるための駒として」

 

ハジメに続き、香織が説明する中でミレディ・ゴーレムは黙って聞き続け…

 

 

 

「そっか、別の世界から…ふ~ん、それは災難だったね~。なら…」

 

 

ミレディ・ゴーレムの目が怪しく光り、周囲に『赤く発光したライン』が刻まれた人型ゴーレムが数体出現。

 

「私と勝負してもらうよ。その代わり…君達も本気で来なよ。こっちも…本気だから」

 

ミレディ・ゴーレムの両手にそれぞれライドウォッチが出現し、その内の一つがハジメの手に収まる。

 

「それはさっきの特別ステージのクリア報酬。私達が大迷宮を作った時から、決して奪われないように守り続けてきたこの世界の希望。この二つのウォッチは『私が認めた相手にしか絶対に渡らない』から」

 

 

 

「そのウォッチを使うもよし、使わずクリアするのもよし。だけど…」

 

もう一個のライドウォッチを構えたミレディ・ゴーレムは、そのボタンを押す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《FAIZ!》

 

音声が鳴り、ミレディ・ゴーレムの目が黄色く輝くと全身に赤いラインが広がり…

 

 

 

 

「さあさあ!この最強形態『ファイズミレディ』ちゃんに勝てるかな~?」

 

 

より凶悪なフォルムになったミレディ・ゴーレムが立ちはだかった…

 

 

 

「………え、最初からこれ?」

 

 

 




次回、ありふれた職業と最強兄弟

第12話 決戦、ライセン大迷宮

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。