ありふれた職業と最強兄弟   作:狼牙竜

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お待たせしました、第3話です!

ここ数日、寒い日が続きますが体調を崩すことなく投稿していきたいと思います。

あと、今回は『ありふれた日常で世界最強』のネタが少しだけ入っております。

感想、評価が力となります!


第3話 依頼と支部長

『この本によれば…『元』普通の高校生だった南雲ハジメ。彼には魔王にして時の王者『オーマジオウ』となる未来が待っていた』

 

『グリューエン大火山の迷宮へと向かう旅の途中、我が魔王達は貴族のプーム・ミンに狙われながらもこれを退けるが、騒ぎになってしまうもののブルックでであったギルド職員、キャサリンからの手紙によって事態は変化していく…』

 

「しかし…彼女は何者なのでしょうかね?実は………おっと。これ以上は読者の皆さんにとっては未来の話…かもしれません」

 

 

――――――――――

 

ハジメ達が連れてこられたのは、フューレンの冒険者ギルドの応接室。

 

彼らが応接室に来てからきっかり十分後、部屋に入ってきたのは金髪をオールバックにした三十代後半くらいの男と、ハジメ達を連れてきたメガネの青年、ドット(名前は来る途中で聞いた)だった。

 

 

「はじめまして。冒険者ギルド、フューレン支部の支部長『イルワ・チャング』だ。南雲ハジメ君達…君のことはキャサリン先生からの手紙にも書いてあったよ」

 

簡潔な挨拶のあと、握手を交わすハジメとイルワ。

 

「俺達の名前も手紙に?」

「ああ。先生からも注目されているようだね。将来有望だがトラブル体質…できれば目をかけてやって欲しいという内容だったよ」

「トラブル体質ねえ…事実なのがまた辛い」

 

日本にいた時といい、王宮にいた時といいあちこちでトラブルに巻き込まれていることを思い出して苦笑いをするハジメ。

ブルックでも面倒事が重なっていたことを思い出したようだ。

 

 

そんな中、イルワの言葉に疑問を抱いたシアが質問する。

 

「あの~…キャサリンさんって何者なんですか?」

 

彼女を『先生』と呼ぶ辺り、イルワとキャサリンは何らかの付き合いがあったのだろうと予想される。

それも大都市のギルド支部長が田舎町ギルドの受付を『先生』と呼ぶほどだ。決して小さい人間関係じゃないだろう。

 

「…彼女は素晴らしい女性だよ」

 

イルワはポケットから1枚の写真を取り出し、テーブルの上に置く。

そこには、恐らくハジメ達とさほど変わらないであろう頃のイルワと赤髪の美女が並んで写っていた。

 

「かつて彼女は王都のギルド本部でギルドマスターの秘書長をしていたんだよ。その後はギルド運営に携わる教育係になってね。今のギルド支部長の半数以上は彼女の教え子なのさ…無論、僕もね」

 

関係者どころか、思いっきり中枢人物だったことに唖然とするハジメ達。

だが、それよりハジメが今一番気になったのが…

 

 

「その写真、隣にいるのが当時の「いや、それよりこのお姉さん誰だ?」…誰って、当時のキャサリン先生だが?」

 

ハジメ達の周りにはいないタイプのいわゆる『姐さん』的な雰囲気の美女。

それがあのおばちゃん職員とどうしても結びつかない。

 

「美しさと頼れる人柄で当時の僕達の憧れだった…結婚して田舎へ転勤したときはもう当時の養成所は荒れに荒れて臨時休校にまでなったほどさ。僕も丸一日寝込んだしね」

「………時の流れってやつは」

 

美しさと人柄で好かれていたという言葉に納得する女性陣だったが、南雲兄弟は時間の流れというこの世で一番残酷な力を感じ、哀愁を漂わせた。

 

 

「…それはそうと、身分照会のほうは大丈夫か?元々そのために来たのだが…」

「ああ。キャサリン先生の紹介なら身分は問題ない」

 

 

 

「だが、その前に一ついいかな?」

 

ドットがハジメ達の前に『依頼書』を置いてくる。

 

「依頼書?」

「ああ。実は仕事を引き受けて欲しいのだが…」

「断る」

 

バッサリと切り捨てて立ち去ろうとするハジメだが、イルワは続ける。

 

「そう言わず話を聞いてくれないか?聞いてくれたのなら、今回の件は不問にするが…」

「は?今問題ないって…」

 

苛立ちを隠さないハジメにも臆さずイルワは話し続けた。

 

「さっきのは身分証明だ。街中での過剰防衛についてはまた別問題だよ」

 

実を言うと、ハジメが蹴り飛ばしたプームは思いのほか重傷だった。

加減したとはいえすでに人間レベルを超えていたハジメの蹴りはプームの鼻と歯をへし折っており、まともに話せるようになるまで時間を要するという。

 

「内容はわかりきっているけど双方の話を聞いてきちんと手続きをしなければいけない。だが話を聞くだけで面倒な手続きは無しになるんだが…どうする?」

 

 

イルワの言葉に嫌な顔をするハジメだが、ツカサが肩を叩く。

 

「…詳しく聞かせてくれないか?話によっては引き受けてもいい。ただし…それなりの報酬を求めるがな」

 

ツカサの言葉で渋々座るハジメ。

 

「…まず依頼内容についてだが、行方不明者の捜索だ。『北の山脈地帯』の調査依頼を受けた冒険者一行が帰還予定を過ぎても戻ってこず、連絡も途絶えた。そこで参加している冒険者の家族が依頼を出したということさ」

 

イルワの話を要約するとこうなる。

 

最近、北の山脈で魔物の群れが頻繁に目撃されるようになり、ギルドに調査依頼が出された。

北の山脈地帯は一つ山を越えると未開の地となっており、強力な魔物が出没すると言われている(尤も、奈落の魔物ほど強いわけではないがこの世界の人間にとっては十分すぎるほどの脅威である)。

なので、フューレンの中でも腕利きの高ランク冒険者でパーティーが組まれたのだが一人本来のメンバー以外の人物が割り込むような形で参加することとなってしまう。

その飛び入りはクデタ伯爵家の三男坊『ウィル・クデタ』。冒険者に憧れを抱いていたがイルワ曰く『冒険者には向いていなかった』とのこと。

 

「クデタ家は独自のやり方で捜索を続けているらしいが、人手は欲しいとギルドにも依頼を出していた。

だが、そもそも出発したパーティーがかなりの手練だったにも関わらず行方不明になったことから、並みの冒険者じゃ二次被害になってしまう」

 

だから、『黒』のレガニドとルースを瞬殺したハジメ一行に目をつけたのだろう。

 

「言っておくけど、ランク『青』だから…なんて言葉は通じないよ?」

 

実力を見抜かれたようで、ハジメも少し焦っている。

 

「そう言われても…俺達も旅をしている。わざわざ貴族の坊ちゃんに時間を潰すほど暇じゃない」

「…だったら、君達のランクを『黒』まで引き上げるというのはどうだい?」

「いや、俺達にとっては金もランクもどうでもいいんだが…」

 

活動資金を稼ぐ方法ならユンケル商会を利用するなりの方法はあるし、いずれトータスを立ち去って地球に帰る予定のハジメからしたら冒険者ランクもさほど意味を成さない。

だが、そこまでしてハジメ達に依頼を受けてもらおうとしているイルワに疑問を持ったツカサが声をかけた。

 

「…なぜ、そこまでして俺達に頼む?」

「私と伯爵は個人的な友人でね…ウィルを同行させたのは私の指示だった。異変の調査といってもまだ実害は出ていなかったし、確かな実力者で構成されていたから大丈夫だと思っていたのさ…」

 

本来、イルワはウィルに冒険者の道を諦めさせるために同行を許可していた。

だが、その結果彼らは行方不明という考えられる限りかなり悪い方向に進んでいる。

 

すまし顔だったイルワだったが強く握られた手を見る限り、藁にもすがる思いでハジメ達に頼み込んでいるのだと彼らも理解した。

 

 

 

「………わかった。なら二つの条件をのんでくれ。それが俺達の求める報酬だ」

 

ハジメは身を乗り出すと、『報酬』について語る。

 

「一つ、ユエ、シア、クロハネのステータスプレートを作成するがその内容を一切他言無用にすること。勿論、発行料はこっちが出す」

 

ユエ達の技能やステータスは隠蔽できるが、それはあくまでも外でのこと。

作成したときはどうしてもギルド職員達に見られてしまうため、これまでハジメは3人のプレートを作成できなかった。

 

「そしてもう一つは…あんたのギルド関連を含む全てのコネクションを使い、できる限り俺の要望に応えて欲しい」

「なっ!?」

 

イルワだけでなくドットも驚く。

それは即ち、大都市のギルド支部長が一冒険者の言いなりになるということだ。

 

「それが無理ならこの話は無かったことにしよう。俺達も旅の続きに戻る」

 

立ち去ろうとするハジメだったが、イルワは質問した。

 

 

 

「君は…何を求めるつもりだ?」

「大したことじゃない…俺達はいつか、いや…近い将来教会から指名手配を受ける。だからそうなっても施設の利用などが妨げられないようにしてほしいだけさ」

「指名手配されるのが確実なのか…?」

 

 

 

彼らの抱える『秘密』に疑問を抱きながらもイルワは答える。

 

 

「…言っておくが、二つ目の報酬に関しては条件をつけさせてくれ。便宜を図ることに関して、犯罪に加担するなどの要望には応えられない。そして、事前にどんな方法でも私に要望を届けてから行ってくれ」

「ああ。かなり無茶を言ってる自覚はあるからな…その条件で構わない」

 

――――――――――

 

「とりあえず生きていたら連れてくる…最悪、遺体か遺留品を持ってくるという条件でいいんだな?」

「ああ、どんな形であれ痕跡を見つけて欲しい」

 

握手を交わしたハジメ達は依頼書を受け取り、応接室を去っていく。

 

 

「…支部長、あのような条件をのんでよかったのですか?」

「仕方ない…ウィル達の命が掛かっているからな」

 

ハジメ達が去ったあとの応接室で会話をするドットとイルワ。

 

「彼らの秘密…ステータスプレートに表示されては不都合なものとは…?」

 

ドットの言葉に耳を傾け、イルワはふと切り出した。

 

「ドット君、知っているかい?ハイリヒ王国が召喚した『勇者』達は全員がこの世界の人間を超えた強さを持っているということに」

 

イルワはハジメ、ツカサ、香織のステータスプレートを見たときに疑問に思った。

 

『南雲ハジメ』『南雲ツカサ』『白崎香織』

 

この世界の人間とは異なるタイプの名前を持った3人は、いずれも17歳。

そして、『神の使徒』のリーダーの名前は『天之河光輝』で、全員が17歳。

 

「名前の表記も似通っていて年齢も同じ…まさか、彼らが『神の使徒』だとでも!?しかし神の使徒は教会が管理しています!それに彼らは神と敵対するかのような口ぶりを…」

「以前話が回ってきてね…4ヶ月ほど前、勇者と懇意にしていたという治癒師の少女と、ある兄弟の3人が最初の訓練でオルクス大迷宮内部の事故で橋から転落し、行方不明になったらしい。勇者の話だと少女は生きている可能性があるが、一緒に落ちた二人は亡くなったものと判断されているが」

「…その3人が生きていたと?確かに特徴は一致しますし、彼女の天職も治癒師でしたが…でも4ヶ月前といえば、この世界に来たばかりです。転落して生きているなんて可能性は低いですし、仮に生き残ったとしても、誰も到達していない未開の階層を3人で突破するなど…」

 

ドットは信じられないと首を振ってイルワの推測を否定する。

しかしイルワは面白そうな表情で応接室の扉を見つめていた…

 

「でももし、彼らが本当に元『神の使徒』なら、なぜ勇者達と合流しないのか…彼らは奈落の底で『何』を見たのか…」

 

 

ハジメ達に底知れない何かを感じたドットはイルワに警告した。

 

「支部長…どうか引き際を見誤るようなことだけは」

「ああ…わかっているさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、そういえば一つ頼みごとがあったわ」

 

突然、ハジメが扉を開けて戻ってくる。

 

「すいません、ウィルさんの顔がわからないので似顔絵か何か受け取りたいのですが…」

 

横にいた香織の言葉で、イルワは似顔絵をハジメに渡すが…

 

 

 

 

「……………こんなのでわかるかあ!!」

 

もはや辛うじて人と認識できるようなレベルの絵を渡され、叫ぶハジメ。

そのまま彼は机の前に座り、ペンと紙を取り出す。

 

「本気で探す気あんのか!俺が代わりに書く、特徴は!?」

「えっと…二十歳くらいのイケメンで髪の色は金髪、目つきは………って滅茶苦茶絵上手いな、君!?」

 

南雲ハジメ、久しぶりにオタクエリートの血筋の本領発揮となった…

 

 

 

 

 




次回、ありふれた職業と最強兄弟

第4話 同郷・サイカイ・2001

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