サブタイの0065までは辿りつけませんでしたが、大迷宮は次回からとなります!
感想、評価が作者のパワーとなります!
『この本によれば、普通の高校生南雲ハジメ。彼には魔王にして時の王者『オーマジオウ』となる未来が待っていた』
『彼らは実戦経験を積むため、この世界に存在する大迷宮の一つ『オルクス大迷宮』での実戦訓練を行うこととなる』
『そしてついにこの私が我が魔王と接触。彼の覇道の第一歩へと導く時が来た』
『だが…彼にとって運命の糸で結ばれた相手もまた…』
「おっと失礼。ここから先は皆さんの目でご覧下さい…」
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『オルクス大迷宮』
それは全百階層からなる大迷宮の一つである。
この世界には七大迷宮という有数の危険地帯が存在する。
尤も、現在明確に場所が判明しているのは『グリューエン大火山』や亜人族の住まう『ハルツェナ樹海』、そしてハイリヒ王国の南西にある『オルクス大迷宮』の三つだけである。
一応他にも目星の付けられている土地はあるが、それも確証があるわけではない。
なぜこのような説明をするかというと、ハジメ達は訓練の新しい段階としてこのオルクス大迷宮の近くに有る宿場町『ホルアド』に到着していたからだ。
ハジメ達が調べた情報によると、オルクス大迷宮は危険地帯でありながら冒険者や傭兵、新兵の訓練に最適な場所とされている。
その理由は階層によって魔物の強さがわかりやすいほど違うため、どの階層まで行けるかがわかればそれが本人の強さの目安になるというのが一つ。
もう一つは魔物の体内に存在する特殊な鉱石『魔石』の質が大迷宮の魔物の方が高いからだ。
魔石とは、魔物の証とも言える器官で上質な魔石を粉末にして魔法陣を描くことに使えば、より強力な魔法が発動するようになる。
この魔石は戦闘以外でも重宝されることの多い品で、これ目当てに迷宮に潜る冒険者も少なくないらしい。
また、魔石が良質な魔物ほど強力な固有魔法を使う。
固有魔法とは魔物がそれぞれの種類ごとに一つしか持っていない魔法のことだ。
魔物は魔力を持っているだけの獣であり、人間のように魔法陣や詠唱といった能力が使えない。その代わり固有魔法は一つしかない代わりに詠唱も魔法陣も無しで使える、魔物の脅威の理由でもある。
「ふう…」
ハジメは魔物の固有魔法などに関してまとめたノートを見直し、ベッドで横になる。
同室のツカサは雫に誘われて自主トレに向かい、ホルアドの宿では自由に錬成の練習もできないため持ってきた武器や発明品の整理をしていた。
「随分と熱心だね、我が魔王」
すると、突然窓際から声をかけられた。
「え!?」
振り返るとそこには…黒っぽい服を着て表紙に腕時計と無数の歯車が書かれた奇妙な本を持つ青年が立っていた。
「えっと…どちら様ですか?」
困惑するハジメに対し、青年は話す。
「おっと失礼…自己紹介がまだでしたね。私の名前はウォズ。これから先時の王者となる我が魔王『南雲ハジメ』の親愛なる従者でございます」
ウォズと名乗った人物はハジメに頭を下げる。その姿には一切の誤魔化しや嘘は感じられず、ハジメに対して敬意を持っていることだけは確かだった。
「まずは…おめでとうございます。この本によれば、明日は君にとって特別な一日となる。ただし…君を妬む少年には気をつけたほうがよろしいかと」
「それって…?」
ハジメが聞こうとするが、ウォズは本を閉じる。
「申し訳ないが…これ以上明かすことはできない。だが安心してください…私はあなたの『味方』です」
そう言うとウォズは懐から黒い懐中時計のようなものを取り出すとハジメに渡す。
「これは『ライドウォッチ』。いずれあなたが王としての覇道を歩む時に導いてくれるでしょう」
「ライド…ウォッチ………あれ?」
ウォッチを見つめていたハジメだったが、気が付くとウォズの姿がなくなっていた。
「あの人、どこに…?」
いきなり現れ、いきなり消えたウォズに困惑するハジメだったが、今度は扉がノックされる。
(こんな時間に?兄さんならノックする必要ないし…)
「ハジメ君、起きてる?白崎です。ちょっと…いいかな?」
「う、うん!」
突然の来訪者に驚いたハジメは扉を開ける。
そこには純白のネグリジェにカーディガンを羽織っただけの、健全な男子高校生には刺激の強い格好の香織が立っていた。
(ええ…?)
衝撃的な出来事に声が出なかったハジメだが、香織はキョトンとしていた。
「どうしたの?」
「いや、ちょっとビックリしただけだよ。何か連絡事項?」
「ううん。少しハジメ君と話がしたくて…迷惑だった?」
「そ、そんなことないよ!上がって?」
なんの警戒心もなく部屋に入る香織に困惑するハジメだが、すぐに持ち込んできた紅茶の準備をする。
部屋に備え付けてあった水出しの紅茶モドキもあったが、ハジメ的にどうしても出来栄えがしっくり来なかったので錬成の合間に密かな趣味として作った紅茶を持ってきたのだ。
今回はそれが功を奏したと言えるため、内心これ作っておいてよかったと安心していたハジメである。
「ありがとう」
嬉しそうにハジメの淹れた紅茶を口にする香織。
その姿に見惚れるハジメだったが、よほどテンパってたのか同じように紅茶を飲むと盛大にむせた。
「そ、それで話したいことって…?」
少し恥ずかしくなりながらもハジメは香織に聞く。
その途端、香織はさっきまでの笑顔が嘘のように思いつめた深刻な表情になる。
「明日の迷宮のことだけど…ハジメ君には街で待っていて欲しいの。メルドさんやクラスのみんなには私が説得するから…お願い!」
香織の言葉に驚きを隠せなかったハジメ。
「…それは、僕の実力不足が理由?」
「違う!実力不足とかそういうことじゃないの!」
すぐに否定した香織は話を続けた。
「さっきまで眠ってたんだけど…嫌な夢を見たの……真っ暗な場所でハジメ君がいて…声をかけても全然気が付いてくれなかった。走っても追いつけなくて、最後には………消えてしまう」
「………そっか」
確かに、不安にもなる夢だ。
「それに…もう一つ」
「え?」
香織が見た不吉な夢は一つではない。
「ハッキリ見たわけじゃないけど…今とは違う姿のハジメ君がたくさんの魔物を相手にして…その時の姿が怖くなって…まるで、ハジメ君が遠くに消えるみたいに…」
その時の内容を思い出したのか、肩が震える香織。
「大丈夫だよ…僕はここにいるし、今回はメルド団長達や天之河君、それに兄さんだってついているんだ。むしろ負ける要素なんて見当たらないし…」
ハジメが優しく語りかけても、なお香織の不安は拭えない。
「それでも不安だって言うなら………今回だけでもいい。僕の事を守ってくれないかな?」
「え?」
正直、この言葉を言うのは男として結構勇気が必要だった。
それでも、香織の不安を取り除けるというのならという彼の心が言葉を紡ぐ。
「白崎さんは治癒師だよね。あらゆる治癒系統に優れた天職。なら…僕が何か大きな怪我をしたとしても、白崎さんなら治せるよね。その力で助けて欲しいかな…それなら、僕は白崎さんの言っていた夢のように消えたりしないし」
香織はじっとハジメを見つめており、ハジメは続けて口にする。
「それに…約束するよ。僕だっていつまでも弱いままでいるつもりはない。僕に出来ることを立派な武器にして、いつかは僕が白崎さんを守れるようになるから」
ハジメは今までの弱々しい雰囲気を払い、しっかりと香織の目を見つめる。
「…ふふっ。やっぱりハジメ君は変わらないね。いざという時はまっすぐな目になるところとか…」
「変わらない…?僕と白崎さん、前に会ったことある?」
香織は懐かしむように語る。
「ハジメ君、中学生の時道の真ん中で土下座してたの覚えてる?」
「ど、土下座!?そういえば…」
まだハジメが中学生の頃、偶然遭遇した事件だった。
街中で男の子がガラの悪い男達の1人にぶつかってしまい、持っていたたこ焼きが男の服についてしまったのだ。
男が怖いからか少年は大泣きし、それにキレた不良が少年のお婆さんにいちゃもんをつけ、中々に大変な状況だった。
正直、ハジメとしてはスルーしようとしていたのだがお婆さんがクリーニング代として渡したお札を不良達が取り上げ、さらに恫喝しながら財布ごと奪い取ろうとしたところで思わず体が動いた。
と言ってもハジメは喧嘩などしたことがないし、仕方なく全力の土下座で少年とお婆さんを許してもらえるよう頼み込んだ。
流石に公然の前で土下座され、不良達もいたたまれなくなりすごすごと帰っていったことでこの時は無事に解決した。
「強い人が力で解決するのは簡単だよね。光輝君なんて、いっつも自分からトラブルに飛び込んでは相手の人を倒してるし…でも、弱くてもそれを理由にせず立ち向かえたり、他人のために行動できる人はそんなにいないと思うよ。私も…あの時は怖くて動けなくって…私は雫ちゃん達みたいに腕っ節が強いわけじゃないって、必死に自分に言い訳をしてた………きっと誰かが止めるって、他人任せにして」
あの日のことを悔いているように言葉を紡ぐ香織。
「白崎さん…」
「だからね。あの日から私の中で一番強い人はずっとハジメ君なんだよ。だから、一緒の高校でクラスも一緒になって嬉しかった…でも、すぐに寝ちゃったりするから中々話せなくて…」
「そ、それは面目ない…」
予想以上に高評価だったことに照れくさくなったハジメ。
しばらく無言の空間になるが、耐えられなくなったハジメは何かを思い出したかのように椅子から立ち上がる。
「ちょっと待ってて。白崎さんに渡そうと思ってたものがあるんだけど…」
ハジメはこれまで開発した武器や道具が入っていた箱の中から『それ』を持ってくる。
「これって…ブローチ?」
それは、中央に青い宝石が組み込まれたシンプルなブローチだった。
「うん。王宮の錬成師がくれた貴重な鉱石を加工して作ったんだ。なんでも、持ち主の魔力を活性化させたりする作用があるらしくて…ステータスプレートに詳細が出たけど、加工したら持ち主の魔力を2%向上させられるって…正直、微妙な性能だからお守りくらいに考えてくれたらな…なんて」
ほんの僅かしか効力が見込めないため、自信の無かったハジメ。
しかし、香織は嬉しそうにブローチを受け取る。
「ありがとう!明日の訓練から早速つけてみるね!」
香織の笑顔に、ハジメは作って良かったと心から思えた。
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一方、月の下で雫とツカサは鍛錬を続けていた。
「はあっ!ふっ!」
「デヤアアッ!」
互いに武器は使わず、素手での格闘戦。
いつもはそれぞれ武器を使うのだが、今回は無手での鍛錬を行っていた。
「…やっぱり、素手での戦いはツカサにどうしても勝てないわね…」
それから数十分。タオルで汗を拭う雫はたいしたことないとばかりに平然とするツカサの体力に内心驚いていた。
「まあ、雫はどうしても剣での戦いに慣れちまってるからな」
どうということはないと言わんばかりの雰囲気を出すツカサを、雫は複雑そうに見つめている。
元々ツカサとの出会いは1年前。
写真撮影が趣味だったツカサは、写真部に所属しており活動の一環で練習している雫の撮影を行ったのがきっかけである。
だが、お世辞にもツカサの写真の腕前は良いとは言えずいつもピンボケ写真ばかりになってしまうため他の女子剣道部の生徒達はあまりいい顔をしていなかった。
が、この時はツカサのピンボケ癖が功を奏したと言える。
普通の写真ではなく、他に撮った写真も重なるように写っている。普通ならば没になるであろう写真だったが、この時は逆に様々な雫の姿が重なった幻想的な写真となり、部誌でも取り上げられるほどの写真となった。
「どうしてツカサって、写真だけは下手なんだろうね?」
「さあな。それは俺にもわからん…なにせ、デジカメで取ってもブレちまうからな」
地味にツカサはこのピンボケを気にしており、雫はそんなツカサの一面を見るのが密かなお気に入りだった。
(本当…普段は態度大きいくせに、こういうちょっと拗ねるのはまだまだ子供みたいね)
ハジメと香織の仲を応援しているツカサと雫は必然的に二人でいることが多く、時折光輝達のフォローに奔走する雫が心から話せる相手。
それが今の二人の関係性だった。
「…なあ。あの二人はこれから付き合えると思うか?」
「…さあね。でも、お互いに悪く思ってはいないだろうし」
雫もツカサも、それぞれの大切な人の恋を応援することで今は手一杯だった。
…だが、この時は誰も気がつかなかった。
ハジメの部屋から浮かれた顔の香織が出てきたのを目撃した人物が居ることを。
彼からもらったブローチを見つめ、喜んでいた香織。
その姿を見て目撃者の表情が歪んでいたことなど、この時は誰も知る由もなかったのだ…
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その夜。ハジメは夢を見た。
薄暗い洞窟の中。橋の上でマゼンタカラーの悪魔のような風貌の怪物が目の前に立っている。
「お前は………『●ウォ●●』…!」
どういうわけか、ハジメの口から目の前の怪物の名前が出てきた。
「さらばだ………オーマジオウのなり損ないよ」
必死に逃げるハジメだが、突然真っ赤な炎がハジメの足元を破壊。
「なっ!?うわああああああ!?」
足元が崩壊し、ハジメの体は落下をし…
「はっ!?」
ハジメは悪夢から目を覚ます。
「………あれ、夢なの?」
リアルな悪夢で目が覚めてしまったハジメ。
普通なら単なる夢と笑い飛ばせるが、不思議とハジメはこのときの悪夢を否定できなかった。
「…今日から大迷宮での訓練か…何もなければいいのに」
眩しい位の朝日を見て、ハジメの口から言葉がこぼれた。
次回、ありふれた職業と最強兄弟
第6話 迷宮での戦い