2年B組極道息子より   作:Colore

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別作品を書いてる最中に浮かんで吐き出しました。ボクためとチー転もちゃんと書いてるので許してください。


マフィアの世界を知りました。

 隣のクラスには「十代目」と呼ばれる男がいる。

 

 

 

 現在時刻は10時15分、並盛中学では2時限目の授業中だった。にも関わらず、窓際の席でただ時間が過ぎるのを待っている生徒――竹中龍刻(タケナカ タツトキ)がいた。飽きてその身を机に伏し寝始めても教師は一向に注意する気配はない。……彼はそれだけの人物だった。

 

 竹中龍刻は竹中組現組長の嫡男であり、次期首領として最有力候補である。本人も首領としての覚悟があり、現在は義務教育として仕方なしに中学に通っているだけである。故に、教師・生徒からは避けられ友人の1人もいた試しがなかった。

 

 そんな彼が最近興味を示したのは、隣のクラス2-Aに通う沢田綱吉だった。彼は1年の時に転校してきた獄寺隼人を舎弟にし、ボクシング部キャプション笹川了平、風紀委員長雲雀恭弥との友好関係を築き、最近転校してきた古里炎真率いる至門中並び粛清委員会、内藤ロンシャンとも友好関係を築いている。渾名はダメツナまたは――十代目。十代目ということは何か大きな組織の代表ということだ。龍刻はこれをボンゴレ十代目だと推測する。

 

 判断材料は多く存在した。まず内藤ロンシャンに関して、彼は自らが公言する通り歴史あるマフィアであり、その所在も割れている。竹中組が様子を見ている組織のひとつだ。その嫡男こそロンシャンであり、その彼が沢田綱吉を「マフィア友達」として接している時点である程度のマフィアであるという推測は立てられる。

 

 次に巨桃会についてだが、並盛の端に存在した派生暴力団で、1年前に物理的に解体された。裏では麻薬取引、売春を手引きしていたと囁かれ、海外進出も目論見ボンゴレの同盟ファミリーに手を出したという噂もあった。物理的解体に関与したと噂があるのはボンゴレとキャバッローネであり、解体時期に関しては沢田綱吉が十代目と呼ばれ始めた時期ととても近い。また、ボンゴレは9代続いた大マフィアであり、彼が次期首領であるなら十代目と呼ばれるのにも不自然はない。

 

 細かいものではアルコバレーノの姿を目撃したという情報や、ボンゴレ直属独立暗殺部隊ヴァリアーの姿を並盛で目撃したという話や、日本でボンゴレの継承式があったという話、爆発音や発砲音が聞こえるなど、これら全ては沢田綱吉が十代目と呼ばれ始めてから耳に入ってきたものである。

 

 以上の情報から、龍刻は沢田綱吉がボンゴレ十代目であると推測を立てた。その真偽が気になって、最近は沢田綱吉を学校でできる範囲で観察するのが日課だった。

 

 しかし、その日課は今日で終わりを告げるようだ。昼休みを通して観察してた事が獄寺隼人にバレていたらしく、龍刻は放課後に校舎裏へ来るよう呼び出されている。迂闊だった、と龍刻は後悔した。沢田綱吉がボンゴレ十代目であるのなら、その舎弟にバレるのは得策ではない。現時点で竹中組が行っている事がボンゴレからすれば快くない仕事であるのもまたひとつのしこりだ。未熟過ぎた自分に溜め息を吐いて龍刻は校舎裏へと移動する。

 

 校舎裏で待っていたのはあからさまに機嫌の悪い獄寺隼人だった。他のメンバーは見かけない為、どうやら単独で呼び出してきたようだ。彼の転校してきた当時よりもずっと鋭くなった威圧感に息を飲んで、声が震えないようにしながら声をかける。この威圧感は中学生に出せるものでは無いだろう……と、龍刻は心の中で愚痴をこぼす。

 

「てめぇ、ずっと十代目に目付けてただろ。何が目的だ?」

「目的なんて……ただ、最近凄く逞しくなってるから、つい目を向けてしまうだけだよ」

「白々しい嘘は止めとけ、竹中組時期ドンの竹中龍刻。てめぇを調べるのは簡単だったぜ。うちのメカニックに掛かればてめぇのところのセキュリティなんざ蜘蛛の巣以下の脆さだったぜ。それに金さえ詰めば情報がボロボロ出てくるもんだ……。もう一度聞く、てめぇの目的はなんだ」

 

 メカニックが何故ハッキングしてるのかは今は無視することにする。

 

 龍刻はまさかここまで簡単に情報が探られるのは予想外だった。確かに家の者は繋がりが軽い連中ばかりで、ボンゴレが詰めば一発で靡く可能性はある。本当に情報が掴まれている可能性が高いだろう。しかし、ここで相手に隙を見せてはいけない。カマかけだった場合に相手に付け入られてしまうからだ。龍刻は冷静に真実を話すことにした。本当にボンゴレか知りたかっただけで、それ以上の意味はなかったからだ。

 

「……本当に裏は無いんだ。最近注目を浴び始めたのがボンゴレ十代目だって聞いて確かめたくなっただけさ。真実だ」

「ケッ。竹中組の奴の話なんざ信じられるかよ」

 

 なら最初から質問するなよ。とは口が裂けても言えないため、唇を噛みしめて無言を貫く。重い空気が肌を刺すようで気持ちが悪い。本物の殺気なんて受けるのは初めてで身がすくむ。どうすればいい、どうしれば死なずに切り抜けられる? 龍刻は思考を巡らせるが、一向に答えは浮かんでこなかった。

 

「獄寺くん!」

 

 無言を打ち破ったのは、男にしては少し高めの声の持ち主――ボンゴレ十代目沢田綱吉だった。綱吉は窓から身を乗り上げ、少し怒った風に獄寺へ声を上げる。その行動に一番焦ったのは獄寺であって、視線の先には綱吉ではない存在がいた。

 

 小さいそれは綱吉の頭を思い切り蹴り上げたため、綱吉は乗り上げていた身をさらに空中へ晒し、ついに重力に身を任せた。一瞬で落ちる彼に対して俺は顔を背け衝撃音に耳を向ける。……死んだか。なんて不幸な死なのだろうかと弔おうとすれば、「いてて」となんとも間抜けな声を聞く。咄嗟に声の方向に目を向ければ、先ほど落ちてきた沢田綱吉が頭をさすって何か小さな存在に怒鳴り声を上げていた。

 

「いきなり蹴るなよ!」

「これくらい飛べねーとボスになれねーぞ」

「だからボスになる気はないって!」

「お怪我はありませんか十代目!」

「うん……ちょっと打ったけど大丈夫みたい」

 

 手を差し伸べた獄寺の手を取って綱吉は軽く笑いをこぼした。大丈夫だと告げた彼の体は、確かに血の一滴も出ておらず、腕に軽く擦りむいた跡が残るくらいだ。その姿に龍刻は驚愕する。……大丈夫なわけないだろ、落ちたのは3階からだぞ? ありえない現実を目撃して、もしかしたらショックによる幻覚なのではないかと目を擦るが、何度見ても彼は無傷で、周りはそれがさも当たり前かのように接していた。……異常だ。龍刻は得体の知れない存在に恐怖し再び息を飲み込む。

 

「あ、えっと、キミは……大丈夫? 獄寺くんに絡まれてたみたい、だったけど」

「十代目! こいつのことは俺が相手するんで気にしないでください! こいつ、ずっと十代目のこと監視してて……あと、一般人じゃありません。ここから東にある竹中組の次期ドン、竹中龍刻です」

「えぇーー!? じゃああの人もマフィアなの!?」

「ちげぇぞダメツナ。竹中組はマフィアには到底及ばねぇ弱小ヤクザだ。覚えとけ」

「そういうことなんで俺が果たして来ます!」

「リボーンは蹴らないで、獄寺くんは落ち着いて!」

 

 見事な活舌で流暢に話す赤ん坊と、日本ではなかなかお目にかかれないダイナマイトを大量に所持し近づいてくる獄寺と、それに対して突っ込み静止を伝える綱吉。現実なのかと疑う状況に龍刻は理解が追い付かずに頭痛を起こす。ヤクザの世界はそこそこ見てきた故にまだ心構えがあるが、マフィアと対面する機会はあまりなく何が常識なのかわからない。マフィアとはここまで賑やかな存在なのだろうか……? 龍刻は頭を悩ませる。その間も彼らの漫才は終わる気配はなかった。

 

 ふと、一番この場面に似合わない赤ん坊に目を向けてみる。きっちりとスーツを着こなし、光沢のあるボルサリーノを被り、そのツバにはカメレオンを乗せ、胸にはアクセントなのか黄色のおしゃぶりを下げている。赤ん坊だが赤ん坊離れしたそれは、ただの赤ん坊ではないことを示していた。裏社会には噂として7人の赤ん坊が存在する。各分野で最も優秀な存在がその7人の赤ん坊、通称アルコバレーノと呼ばれる存在だ。龍刻はいつか聞いたその話を思い出す。話が本当だとすれば、目の前の存在こそがアルコバレーノだということだ。信じられない話だが、現に歩き、蹴り、話し、知識を有しているのであるのだから信じる他はない。

 

「で、おめーは何でツナを探ってたんだ」

「ボンゴレ十代目って話が本当か知りたかっただけだって」

「そんな見えすいた嘘バレバレだっつってんだよ!」

「ツナはどう思うんだ?」

「えぇっ俺!? 俺は……嘘、じゃないと思うけど」

「なら嘘じゃねぇ」

「十代目がそう仰るなら……」

 

 綱吉が一言「嘘じゃないと思う」と発言するだけで獄寺は爆弾を片付けた。彼には嘘かどうか瞬時にわかる機能でもあるのか? と目を向けると、なぜかその隣のアルコバレーノがニヒルに笑って龍刻に言った。

 

「ボンゴレに伝わるブラッド・オブ・ボンゴレの証超直感の前では嘘なんか意味をなさねーんだ。でもって、俺はお前が推測した通りアルコバレーノのリボーン。ま、今じゃ元アルコバレーノだがな」

「……俺の心が読めるのか」

「ああ。手に取るように分かるぞ」

 

 再びニヒルに口角を上げたアルコバレーノ、リボーンを見た龍刻は背筋を駆け巡る不快感にのけぞった。彼を敵に回してはいけないと、それだけは直感的に察する。

 

「ずっと固まっててもしょーがねーしおめぇら自己紹介しろ。まずはツナからだ」

「なんで……ああもう分かったよ! えっと、俺は沢田綱吉。2-A組で……えーと」

「事実はしっかり伝えろ。こいつはボンゴレ十代目から改名したネオ・ボンゴレプリーモになる時期ドン・ボンゴレだ」

「だから! 俺はボスになんかならないって言ってるだろ!」

「んじゃ次獄寺やれ」

「なっ無視―――!?」

「リボーンさんに言われたのなら仕方ねぇ……俺は獄寺隼人、次期ボンゴレボス沢田さんの右腕になる男だ。もし沢田さんに指一本触れてみろ、てめぇを果たす」

「獄寺くん脅さないで!」

「ほら最後だ竹中」

「……俺は竹中龍刻。2-B。知っての通り竹中組次期ドンの最有力候補だ」

 

 茶番に流され、龍刻も渋々自己紹介をする。時期ドンの話をした瞬間に綱吉が青ざめたが、その瞬間「雑魚にビビってんじゃねぇ」とリボーンから理不尽な蹴りをもらっている。雑魚と呼ばれて憤るよりも、ビビっただけで強烈な蹴りを入れられる綱吉に対しての不憫さで龍刻はなんとも言えない気持ちを味わった。

 

「そのなんだ、ずっと見てて悪かったな。それと……大丈夫か、沢田」

「えっあっうんっ大丈夫」

「そうか……なぁ沢田、マフィアっていうのはこういうのが普通なのか?」

「えっヤクザの世界ってこういうのじゃないの?」

「いや……普通爆弾は持ち歩かないし、迂闊に銃も出さなければアルコバレーノが身近にいたりはしないな」

「えっ」

 

 今までの常識が崩れた、とでも言いたげな綱吉の表情に龍刻は何も言えなくなる。こんなのが日常って時点できっとヤクザとは大きく住む世界が違うのだろう。そう思って龍刻は考えるのをやめた。これ以上考えてしまえば、今まで常識だと思っていた世界にファンタジーが乱入して最悪発狂してしまうかもしれない。普段では絶対に味わることのない恐怖に身を震わせた。

 

 再び綱吉はリボーンとの漫才を再開させ、どうやら疑いが晴れたらしい龍刻を放置してそのまま学校から出て行った。なんとも形容し難い感情を胸に募らせ、龍刻も鞄を持って家へと帰る。あんな規格外の世界もあるんだな、と思い耽りながら。

 

 

 あんな、マフィアのボスなのに楽しそうに、殺し屋と絆を築いて、信頼関係のある世界が。自分とは遠い世界が。

 

 

 

 

 

 龍刻と綱吉とはすれ違いざまに声をかけるような仲になった。それ以上でもそれ以下でもない、ただ挨拶をかわすだけの関係。あまりにも理不尽な目にあわされている綱吉を哀れに思って、たまに労いの言葉も混ぜていく。一般人の生徒には分からないし、彼のファミリーもこれを普通だと感じているのなら労ってやれるのはおそらく龍刻一人だけだ。そういう意味で目をかけずにはいられない存在だった。

 

 そんな毎日を過ごしていたある日、龍刻は商店街で綱吉と出会った。綱吉は大きな買い物袋をいくつもぶら下げ、今にも倒れそうなほどふらふらと歩いていた。明らかに一人で持って帰る量ではない。まあどうせあのアルコバレーノのせいなのだろうが。と思いながらも手を出さずにはいられない。龍刻は一つ息を吐いて綱吉に近寄った。

 

「沢田、大丈夫か? 半分持つぞ」

「あ、龍刻くん……大丈ぶっあっ!!」

 

 綱吉が大丈夫、と言おうとした次の瞬間に体制はバランスを崩し、そのまま前のめりで転びかける。龍刻は咄嗟に手を伸ばして何とか綱吉はバランスを取り戻し、買い物は無傷で袋に入ったままだった。二人で息を吐いて、お互いの顔を見て苦笑する。綱吉は申し訳なさそうに龍刻に買い物袋を半分任せ、二人は沢田家へと歩み始めた。

 

「本当にありがとう、助かったよ……。リボーンが買い物メモだけ渡してさ、行け! って言いながら撃ってくるもんだからさ~……ほんと、これ絶対一人で買う量じゃないって!」

「ほんとお前のとこの……家庭教師だっけ? は破天荒な奴だな……」

「分かってくれるのは龍刻だけだよ……あ、ごっごめん呼び捨てなんて!」

「いいよ、俺も綱吉って呼んでいいか?」

「もちろん!」

 

 沢田家へと向かう道のりで、少しだけ二人の距離は縮まった。自然に笑みを浮かべるような関係なんて、観察していた当初は考えていなかったので困惑する。しかし、龍刻にとって綱吉は初めての友達と呼べる相手だったので、心の底から喜んだのもまた事実だった。この地元並盛では竹中組の話は1度は聞くほど有名で、その息子ともなれば忌避するのは当たり前。敵ばかり作ってきた龍刻にとって、この距離は少しむず痒いがとても心地よい場所だった。

 

「ここが俺の家。手伝ってくれてありがとう! お茶入れるから上がってよ」

「ああ、邪魔する」

 

 買い物袋を持ったまま靴を脱いで沢田家へと上がる。どうやら結構な大人数で住んでいるようで、小さい子供の靴や女性のヒール、高級そうな真っ白な靴が並べられていた。もしかしたら、一際浮いた白い靴は来客なのかもしれない。先客がいるのであれば、俺は早めに帰らなければ……と思って、龍刻は居間を横目で見やる。

 

 今でマシュマロを頬張って寛いでいたのは、髪の毛が真っ白で肌も白く、また服すらも白で統一された真っ白な人間だった。奥では少し縮こまりながら、マシュマロを食べる男を呆れながら見ているすごく普通な眼鏡の男がいる。後者は龍刻と同じくらいの年齢なのだろう。幼さが残る顔はまだ少年といった風だ。

 

 龍刻は通り過ぎる際に一瞬だけ白い男と目が合った気がしたが、その目は細められていて瞳の判別はつかなかったため気にしないことにし、台所へと荷物を運んだ。重いなと思って持っていたその中身は、ニンジンやジャガイモ、サツマイモ、大根、玉ねぎと重い根野菜が大半を占めていて、これは確かに重いはずだと思いなおす。袋を一つ一つテーブルの上へと乗せ終わると、パタパタとスリッパ特有の足音を鳴らして女性がやってきた。ショートカットの柔らかい髪の毛を揺らして、笑顔でこちらを見つめる女性に龍刻は少し尻込みする。年の離れたお姉さんだろうか? そう思って綱吉を見る。

 

「あらあら、ツッ君の新しいお友達かしら? いつもうちの綱吉がお世話になってます。母の奈々です。よろしくね!」

「えっあっはい……よろしくお願いします……って、え、お姉さんじゃなかったんですか」

「まあ! お姉さんだなんて照れちゃうわ。お世辞でも嬉しいわ」

「え、いや……本音……」

「龍刻、母さんはド級の童顔なんだよ……」

「……血は争えないんだな」

「やめて! それ以上はやめて!」

 

 母という事実に驚いて綱吉を見た龍刻だったが、確かに綱吉は母親の面影を継いでいた。大きな瞳に丸みのある輪郭はどこか女性を彷彿とさせる。記憶にある1年の頃の綱吉はここまで幼い顔つきはしていなかった気がするが、時とともに母親の血が表立って来たのだろう、と龍刻は一人心の中で納得した。

 

 その間も綱吉は必死に否定しつつ、自身の頬を撫で確かめる。「そんなに童顔かな……去年と違って結構筋肉もついたのに」と小声で零す。確かに筋肉はついたのだろう。龍刻は観察している際、確かにその筋肉量に驚いた。運動部でもないのに、確実に鍛えられた筋肉。その筋肉は美の追求のためにつけられたものでは決してなく、必要な部分に必要なだけついた、何か違う目的のためにつけられたものだというのは気づいていた。が、まさかマフィア間の抗争のためだとは予想だにしなかった。龍刻は再び思う、マフィアの世界は恐ろしいと。

 

「お茶も入ったし、居間に移動しようか」

「ああ」

 

 そういえば居間にはあの白いのがいたような、と龍刻は思ったが口にしない。多分綱吉のことだ、気づいているだろう。

 

「やぁ、綱吉クン♪ 遅かったね」

「なんで白蘭いんの―――!?」

 

 まさかの気づいていなかったという事実と、突然の叫び声に龍刻は目を見開いて驚いた。綱吉は普通の一般人だったり、明らかに異常だったりとふり幅が広い。少々付き合った程度では、綱吉の性質など1ミリも分からないのだと龍刻は理解する。

 

「で、そっちの子は? 綱吉クンのお友達? ってことはマフィア?」

「友達……? だけどマフィアじゃないから! 彼はえっと、ヤクザ……結局裏社会の人間なんだよなぁ」

「え、なんかごめんな綱吉」

「いや、別にいいんだよ! 例え家がヤクザだって、龍刻は大事な俺の友達だし!」

 

 綱吉が友達と言うたびに、実はこっそりと龍刻はときめいていた。友達。人生で初めての友達だった。多少世界は異なれど裏社会の人間ということで、ある程度話も通じる。それが心地よくて、龍刻はうれしかったのだ。

 

 うんうん、と満足そうに龍刻が頷いている間に、白い男はゆっくりと立ち上がって龍刻へと向かってきていた。気づいた時にはすでに目の前に立っており、自分よりも大きい身長と、隙だらけのはずなのにどこか得体の知れない威圧感から足が竦みそうになるのをぐっとこらえる。

 

「ふぅん、ヤクザってジャッポーネマフィアのことだよね。ってことは彼も裏社会の人間なんだ♪ ボクは白蘭、よろしくね。キミの名前は?」

「え、あ、俺は竹中龍刻……えっと、あなたは裏社会の、」

「うん♪ ドン・ジェッソの白蘭。で、綱吉クンとは拳と拳で語り合って焼き殺された仲だよ」

「えっ……え?」

「み、未来の話! 未来の話だから! 今は生きてるし仲間だよ!」

「みら、い?」

 

 情報量が多くてついていけない、と言って龍刻はとうとう尻餅をついた。目の前の若い真っ白な異常な男が恐らくイタリアンマフィアで、ボスだろうというのは辛うじて理解したものの、未来で焼き殺された仲というのはあまりにも常軌を逸していて理解ができない。まず未来ってなんだ未来って、焼き殺す予定なのか。龍刻は思考を放棄できずに頭を抱える。

 

「あの、君、白蘭さんの話は聞かないでいいからね」

「えー、正ちゃんひどい」

「普通の人に理解しろって方が間違ってますからね! 僕だって記憶が無ければ理解できなかったでしょうし」

「この世界では常識じゃない?」

「裏社会でも規格が違うことをいい加減理解してください」

 

 記憶がなんだ、と言われても龍刻には理解ができない話で、眼鏡の男の言葉で余計混乱を引き起こしていることはこの場にいる人間には分からない。彼らにとってはその現象が当然の事実で、分からない相手に話すというのは至難の業だった。

 

 何とか話をしとうと、龍刻はふらつく体を無理やり立たせて一番話ができそうな眼鏡の男に目を向ける。何度見ても平凡で普通の中学生だが、二人の話についていっているということは確実にマフィアで。どうやら最近のマフィアは中学生が多いらしいと、龍刻は無理やり理解することにした。

 

「えーと、君は?」

「あぁ、僕は入江正一。こう見えてもまだ一般人だからね! 一応白蘭さんの親友で、ここにいるのは無理やり連れてこられただけだから……」

「正ちゃん嘘はよくないよ。正ちゃんはもう立派なマフィアで、ボクの親友で、ボクの右腕で、裏切り者で、ボンゴレのメカニックじゃないか!」

「まだ! まだ正式に入ってないのでノーカンです! っていうか裏切ったのは白蘭さんが世界を壊そうとするから……! それに右腕と言ったって結局ボクは仮初の幹部でしかなかったじゃないですか!」

「知ってて幹部にするわけないじゃないか。守護者には絶対に裏切らない駒を配置するのは戦略の基本だよ」

「ほんっと、あの時はやられたと思いましたよ……!」

 

 さりげなく世界を壊すだとか、眼鏡の男がマフィア幹部だった話が聞こえたが、混乱しそうな情報はこの際捨てておこう。龍刻は取捨選択ができる男だ。

 

 悔しそうに眼鏡を抑える正一に対して、龍刻は綱吉に向けた同情と同じものを覚えた。恐らく彼も巻き込まれてなし崩し的にマフィアになったのだろうと推測して、少し可哀そうだと思う。軽い漫才のような口喧嘩を見るに、満更でもなさそうなのでそれ以上の感情は龍刻は持たないことにした。

 

 それはそうと、会話の中で聞き覚えのある単語が出てきたことに注目する。以前獄寺の言っていたボンゴレのメカニック。二つの組織から重宝されてるのであろう彼ならばハッキングもやってのけるのだろうか。龍刻はそれについて聞こうと正一に向き直る。

 

「前に獄寺が言っていたハッカーのメカニックって君か?」

「え? 獄寺さん……あー! あの時のか。そっか竹中組……ああうんメカニックだっけ、僕だよ。勝手にハッキングしてごめんね」

「いや、ハックされるこちらのセキュリティの問題だから別にいい。しかしメカニックだろ? ハッキングもできるなんてのはすごいな」

「……でしょう! だよね! 普通はできないよね! 当たり前のように押し付けられるから最近錯覚し始めてたけど、やっぱり可笑しいよね!」

「えーと……お疲れさん。専門的なことを二つも極めるなんてすごいと思うぜ」

「ありがとう!」

 

 やっと苦労が報われたと言わんばかりに涙ちょちょぎらせながら喜ぶ正一に、龍刻はそれ以上のことが言えなくなっていた。今までの生活がどこか想像できてしまってもの悲しさを覚えると同時に、その優秀さに度肝を抜かれる。メカニック、つまり機械弄りをメインとした職業だが、それに加え相手のセキュリティを突破するハッカーとしての能力。通常であればこの二つを並行して極めることは中々に難しいだろうということは容易に想像ができる。それをこの男は平然とやってのけたのだろう。……やはり、マフィアとは頭がおかしい団体だ。龍刻はマフィアについての認識を再三改める。

 

 正一と白蘭の漫才がヒートアップしてきたところで龍刻の携帯に連絡が入る。相手は龍刻が唯一心から信頼できる相手、藤岡右柳からだった。ただし彼から電話がかかってくるということは確実に身内の話になるためこの場には相応しくない。龍刻は少し駆け足気味に綱吉に断って沢田家を後にし、物陰に隠れるように切れてしまった電話を掛けなおす。

 

 どうやらもう家に帰らなければならないらしい。名残惜しくも、龍刻は帰路へついた。

 

 

 ああ、そういえばお茶は結局飲まずじまいだった。せっかく淹れてもらったのにな。飲んでくれば、良かったなぁ……。

 

 

 

 

 

 

おまけの沢田家

 

「あ~あ、龍刻クンお茶飲まずに行っちゃったね。ってことで勿体ないしこれはボクがもらうね」

「うん、別にいいけど……って何入れてんの!?」

「マシマロ♪ 緑茶マシマロ美味しいよ。綱吉クンも入れる?」

「いや、俺はいいよ……」

「白蘭さん、いつか糖尿病になりますよ」

「へーきへーき、現に10年は平気だったし健康診断だって一度も引っかかったことないんだよ!」

「……並行世界の技術で、ですよね」

「そんなことに能力使ってたの――――!?」

「使えるものは使わないと損だからね♪」

「だからって使い方がおかしすぎますよ! まだこちらの世界で発見されてないマシュマロの食べ方だとか、並行世界一大きいマシュマロケーキだとか……!!」

「あの頃はボクも若かったからさ♪」

「規模が大きすぎてそろそろ俺にはついていけないよ……」

「綱吉くんも相当だけどね……」

「え、俺?」

「だって、縦の時間軸だからって、指輪に眠っていた過去のボンゴレボスとその筆頭プリーモの思念体を呼び起こし投影したんだよ。仲間のためって言っておしゃぶりの代わりになるものを提案するし……発想の規模だけで言えば白蘭さんとタメ張れるんじゃない?」

「そんなことでタメ張りたくないよ!!」

「ユニチャンの、ボクらが似てる発言の信憑性が出てきたんじゃない♪」

「嘘だ……俺と白蘭が似てるなんて嘘だ―――!!」

 

 龍刻が帰った後の沢田家の場面である。


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