とある女ユンカーの抗争記   作:ラディカルリベラリスト

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皆様ごきげんよう、そして糞喰らえ。エミーリア・シャルロット・ラ・ペリエール=ケラーマン...帝国陸軍魔導中尉であります。ああ長ったらしい名前が恨めしい、毎度の事ながら言いきるのに一苦労。前世の名前で通したいのですが思い出せないのは呪いか何かかどうか。

 

失礼しました。お話の続きをばさせて頂きますゆえお付き合いください。

突然の品性に欠けるご挨拶は如何ながら謝意を表明するとともに、その意図についてご説明申し上げます。

ボリュームにいささか欠ける我が胸中を覗き見られる諸兄各位には親しみを込めてご挨拶するともに!

超常なる幽玄の非人どもの見下した目線にシャイセと贈らせて頂きます。

 

そして私の不満と言いますか、現状をまずはお目通しくださいませ。

私の日常、ラインの日常を。

 

 

 

 

 

 

「ラインコントロール!ラインコントロール!こちらツュプレッセ02、01の魔導反応ロスト!繰り返すツュプレッセ01の反応ロスト!」

 

そうラインの日常。上官が、先任が、先を往くものがことごとく落ちていく。我が206魔導中隊中隊長も例外ではない、否応なしに落ちていく。指揮官先頭は大変よろしいが、士官が欠乏するとは考えないものか。かといって引きこもりの尉官なんぞ誤射してしまいたいのが野戦将校の悲しい性ではありますが。

眼下を見下ろせば味方歩兵が見えた。そこに落ちてくれればまだ...

なんて希望の儚さにはいっそ笑えてきますねぇ。あの高度で片腕と意識を手放したらむべなるかなと独り言ちたくなりもする。

 

「ラインコントロールより、ツュプレッセ02。貴官が以後の指揮を取れ、敵魔導中隊の要撃は続行されたし」

 

シャイセ!

敵魔導中隊規模の相次ぐ強行偵察に対抗して網を張る。なんて半分哨戒任務染みた下知の結果がこれでございますわよ、来るか来ないか半々ってとこだったんですがね。

あーあー、見れば下士官連中がてんでばらばらに崩れてる。助けてやらないと。

 

「...ツュプレッセ02了解!中隊各員聞いたな!まずベック曹長、アイザック伍長を連れて敵の頭上を取れ!キュヒラー少尉は私の後ろにつけ!」

 

「中尉了解です!アイザック上がるぞ、ついてこい」

 

おっさんが野太い声出してまぁ...とか思うけども、使える下士官代表の曹長は馬鹿にしてはいけません。空中管制には反吐が出るが、有能な下士官には生唾が出るものです。そんな曹長閣下に補充の伍長ちゃんを預けて空中退避含みの命令をだす。必要な時に必要な援護をくれれば及第点だぞ、曹長。それまでおむつ替えよろしく。

ほんと着任以来お世話になりっぱなしの先任下士官だなぁ、キスぐらいはしてやってもなんて気持ちに、ならない。うん。

 

「ケラーマン中尉、了解です。小隊!中尉を先頭に突撃隊形に」

 

そしてすぐ横にいた、統制射撃による援護を図っていたキュヒラー少尉の小隊を吸収。涼しい声に似合わず厳めしい表情なキュヒラー少尉。士官なら余裕が欲しいな。甘いマスクに涼しいアルト声、面食いには人気だろうが戦場系女子にはノーサンキュー。

それと大丈夫だって。

 

私の後ろは落ちない。

落ちるのは前だけだからさ。

 

状況を整理しましょうか。

糞暑い中、太陽を背にする敵魔導中隊を空中管制の指示の元に無事発見した我が206魔導中隊はまず2個小隊を持って一当たり。そのまま分派した2個小隊が敵を拘束しつつ、次席指揮官の私ケラーマン中尉直卒の残り2個小隊がトドメを刺す。

ハズだったんですよ、ええ。

まず先任中尉たる敬愛すべき中隊長殿はバカたれですね、キュヒラーの小隊も連れてけって言い含めたのに黙殺とは。大方、私にスコア抜かれたのと階級追いつかれたのとを気にして自分で落としたかったんでしょう。戦意旺盛なれど、自己肥大の気ありと認む。付き合わされた2個小隊が可哀想でもう、まぁ自分じゃないしって思わなくもないが。

ともあれ死人に鞭打つのは止めにしてですね。

残ったのは欠員1名の我が小隊とキュヒラー隊、あとは統制の崩れた2個小隊だったなにか。

 

「中隊長を拾います!くっそ、小隊長!援護を、ぁあっ...」

 

「...シャイセっ!中隊長に伍長は諦めろ!歩兵連中に期待しとけ!」

 

「ああっそちら見てる余裕なんかないですよ!最初から!」

 

前方の友軍の泣き言が煩いなぁ。2個小隊の友軍と敵魔導中隊の巴戦、手厳しい展開なのは理解します。

だがこの状況だし泣き続けてもらうしかない。

 

「キュヒラー少尉!敵中隊と我々は同高度だがなるだけ優速を保ち、一撃離脱を繰り返して敵に消耗を強いる。後にお守りのベック曹長の援護下の元に巴戦!」

 

「了解!ですが一撃離脱くらいなら小官だけでも仕切って見せますがいかがですか!」

 

意外に威勢のいい返事をする、殻が取りきれてないであろうキュヒラー少尉。こっちもこっちでお守りがいるかと思ったけども任せて良いのか否か。

 

「やってみせろ少尉!D小隊、少尉を死なせるなよ!」

 

「了解!」

 

「ケラーマン中尉吶喊す。続け兵隊アリども!」

 

よし、こんなもので良いでしょう。巴戦、私の得意科目で戦果を稼ぐとしましょう。

 

 

 

 

 

太陽の光がさんさんと降り注ぐ。忌まわしい、分派した2個小隊が敵に包囲されてるのが良く確認できる。雲量の少なさがより絶望感に現実味を持たせてきやがる。

 

「アイザック!着いてきてるな!現在高度6000、ここから上は上がらんからきっちり後ろにつけてみせろ」

 

「...了解」

 

若干へばり気味だが責めてばかりはいられない、自分だって全速は出しきれない。出せるのはうちのケラーマン中尉殿くらいか?知っている奴だと。

 

「そうへばってねぇで前みろ!中尉の戦闘機動を見るんだよ、あれができりゃぁお前の好きな英雄様の仲間入りだよ」

 

「かはっ...見えてます、見えてます」

 

一瞬怒鳴ろうかと思ったが、中尉もお守りのつもりで新品伍長を俺に付けたんだろうと思うと我慢するしかない。我々魔導部隊の限界高度6000、それぐらい飛べなきゃ中尉の僚機に付けるのもままならない訳だしな。

そう実地訓練みたいなもんだ、だが訓練のための訓練になりつつあるが。

 

「そら、ブービー!始まった!」

 

「それはやめてくださいって何度も...すげぇ」

 

中隊長組の2個小隊には申し訳ないが、囮にして一撃離脱による漸減。これで行くかと思ったらこれだ。

崩れたA小隊とC小隊にまとわりついた奴に片っ端から見こし射撃をぶち当てやがる、それも爆裂術式でだ。命中するだけ凄まじいが、当てれば当てるほどに爆風で視界が狭まる。その中で巴戦だ、当て続ける中尉のシックスセンスには毎度ながら驚くな。

 

「ほら、煙幕炊いてやったんだ離脱しろ我が中隊諸君!上に離脱だ、上におっかないベック曹長が待ってる。援護してもらえ!」

 

「了解!助かるぞみんな、上だ!上!」

 

敵中隊も半分落ちたかどうか。これじゃ中尉殿も早晩ネームドの仲間入りだな、もう共和国は名付けたかも知れんが。

おっと離脱するC小隊に追っ手が来たな、蹴落としてやる。煙幕抜けたら丁度俺らの真下だ、敵ながら別動隊に気づかない愚鈍さに同情するよ。

 

「よし、次のキュヒラー少尉の突撃に合わせてこっちもぶっぱなすぞ!アイザック、狙撃術式だ!」

 

「どれ狙いますか!?」

 

「お前は一番右だ!あれが一番近いからな、さっさと戦争処女は捨てちまえ!」

 

「戦果上げて見せますよぉ!」

 

アイザックでも視認してるというのに奴さん気づかんか。余程猟犬に追い立てられているとみえる。

戦争は複雑なのか単純なのか分からんな、高度の優越は重要という普遍的な事実の単純明快さが嫌に染みてくる。

 

「撃ったら全力で降下して離脱!キュヒラー少尉に合流だ!アイザック分かったな」

 

「...了解!」

 

よしよし物分かりが良い子は生き残るぞ。不思議そうな顔してるがちゃんと動いてくれれば死なんからな、高度の優越ってのは仕切り直す権利なんだ。実戦で学んでくれ給えよぴかぴか伍長どの。

 

っと、煙から出てきた友軍だ。邪魔だ退け、助けてやる。

 

「ブレイク!ブレイク!」

 

「後ろは任せた!曹長!」

 

「アイザック今だ!てぇ!」

 

当たった、手ごたえあり!共和国のカエルども煙吹いて落ちていけ。それに伍長も当ててるじゃないか、どうしてなかなか。とまぁこんなもんか、欲目は捨てなければ。

 

「アイザック!高度3000まで降下、7時方向にキュヒラー少尉が抜けていくから追従だ、着いて来い」

 

「曹長の後ろにかじりつきます」

 

よしよし、下手っぴの戦い方なんてこんなもんだ。中隊長はそれを分からんから落ちるんだ、ドッグファイトなんて一部のエースにだけやらせればいい。それこそうちのケラーマン中尉みたいな人外にな。

 

「伍長、後ろ見てみな。もう終わるぞ」

 

突き上げられた敵魔導中隊は高度6000を超えて溺れた、良い鴨だ。中尉はもの見事に貫通術式で仕留めてる、ターキーショットだ。ドックファイトの天才でありながらも戦術判断の元にしか選択しない、つまり個人の戦果に執着しない。今回のドックファイトだって、アイザックに処女切らせるくらいの余裕があった訳だ。魔導士官かくあるべしを遂行する良い上官だよ。本当に。

 

「中尉殿には何が見えているんですかね...自分にはさっぱりです」

 

「ははっ、さっぱりでいいさ!ただ次の出撃では中尉の小隊らしく突っ込ませてやるからな、そう進言しておく。それと今回の伍長の戦果は撃墜不確実だ」

 

「...精進します」

 

 

 

 

 

 

先行した2個小隊を上に逃がしたら、共和国のカエルどもも着いていったのにはやや面食らいました。

追撃しつつの離脱を図ったんでしょうか。確かに高度を取れれば、降下で速度を稼げる。位置エネルギーと運動エネルギーの簡単な物理で逃げをうつ、さもしい言い訳になりそうな微細な戦果とともに。

 

なんて最悪の選択でしょうかね。後ろから爆裂術式を撃たれる程度で高度が分からなくなる、その程度の技量では最悪と言うしかない。

あげく空に溺れるとは、共和国の魔導部隊は戦争向きにみえない。この程度で我がライヒに挑むというのでしょうか。

 

ただ考えに耽るほどの時間は無く、文句よりも仕事が優先。

敵の魔導士が1小隊ほど逃げてますけども、まぁこっちも損害あるので帰投しましょう。

 

「中隊の各小隊はダメージレポート!」

 

「A小隊、脱落2」

 

「ツェーザー、脱落1と負傷2」

 

中隊長のヴァルハラ行きのお供に3人連れてかれたんですか。といってもあの程度捌けないのも帝国魔導士としてどうかと言いたいですが、それより今日から中隊長か。手紙やだな、なるだけ勇ましく書くか。

 

「D小隊は軽微」

 

よしよし、キュヒラー少尉の小隊は使えるようになってきた。揺さぶりかける程度には頼めるね。

ついでに私のベルタ小隊もそろそろ戦技仕込んで行こうかな、曹長も腕は良いがお守り歴が長すぎて錆落としが要るってぼやきそうだし。

 

「こちら、ツュプレッセ02、ラインコントロール応答求む」

 

「こちらラインコントロール、どうぞツュプレッセ02」

 

「敵魔導中隊撃破を認む。なれど我が206魔導中隊、損害あり。任務達成につきRTBの許可を求める」

 

「了解、206。帰投の許可をだす、ご苦労」

 

「了解、では206魔導中隊RTB」

 

すんなり帰してくれますか。偵察に魔導中隊がなんども出てくるのは、攻勢作戦の前触れ。敵も準備に忙しいか、ちゃっちゃと休息とろう。うん。

 

「中隊各員、帰投するぞ」

 

「了解」

 

これがラインの日常。なぜかは知らないが中隊長が死ぬのは2度目だし、その他もなんだかんだ私の前を飛ぶ奴は死んでいく。

でも不思議と僚機は落ちてない。なぜなのか。

この体は魔力量に恵まれている。空戦の才能も黄色の13ばりにあることでしょう。なぜ。

 

頼んでないのにこの世界に来て、頼んでないのに軍人の才能を貰った。何のためか。

過去を思い出せれば分かる気がするけれど、名前は思い出せない。

思い出せるのは多少の軍事知識だけ。

ただ祖国を、ライヒをドイツにしたくない。

 

 

 

 

 




9/18
誤字報告ありがとうございます!!!
こんな仕組みなんか、楽ちんやんけ。
深く謝するとともに、再発防止に努めます...
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